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029 穴を掘れ

 ◇


 小山の南側から南端の村に至る道までの湿地帯の上を、馬車一台分の幅を持つ真新しい石の道が通っていた。石の道は所々に湿地の水を下流に流すための短い橋となっている。

 石の道の終わるところ、小山の麓には石作りのこじんまりとした家が建っている。家の大きさは、リビング兼キッチン兼ダイニングで一部屋、寝室で一部屋といったところか。


 そして、小山の南側の麓と山頂には大量の石材が置かれていた。


「さて、みんな始めるか、準備はいいかー?」

「「「おー!」」」

「後悔はないかー?」

「「「ないー!」」」

「温泉に入りたいかー?」

「「「入りたいー!」」」

 そう、今日は温泉を堀当てるのだ。


 俺は、これまでにかなり地温が高くなったところまで掘っていた。やり方は土に手を当て直径1m長さ5mぐらいの円柱を土から切り離す。そして、切り離した土の表面に細かい触手を作り魔石を埋め込み命令する、上に登れと。

 上に登った土はナビが空き地に移動させ魔石を回収して土くれに戻す。俺は次のために掘った穴に退避用の横穴を掘る。その繰り返しでかなりの深さの穴を掘っていた。ちなみに穴の登り降りは薄い幅の土で同じ原理で簡単なエレベーターで行った。

 今日は最終段階だ。


「行ってくる」

 と言って俺は簡易エレベーターに乗り最深部まで降りて、また穴を掘り出した。

 穴の中には地上の光は届かず、光の魔石により照らされている。変なガスが出ないか心配していたのだが、それは大丈夫と言うナビのなぞの断言で、空気を心配するのを止めた。

 何度目かの掘削をしたとき、土の塊の切れ目から湯気をともなった水が染み出してきた。


 よし、出た! これで俺はヒーローになれる。

 出なかったらゲシゲシとみんなに踏みつけられるからな。でも、それはそれで……


 急速にお湯が噴き出して来たので慌てて魔力を込め土を固めた。さらに下層の土を周りから切り離して穴を深くし、側面に手を当て直し魔力で穴の下部全体の土を硬め、お湯の流入を止めた。そして魔石を埋め込んで固定した。


 待避用の横穴から手を出して噴き出して溜まったお湯に触ってみる。

 熱い! 直ぐに手を引っ込めた。

 

 お湯が土の塊に染み込むのを待ち、最後の土の塊をエレベーターに地上に戻った。

「みんな、出たぞ!」

「やったね、サブロー、これで温泉に入れるね」

 ナビは両手上げて喜んでいる。バレンナ、ラズリもナビにつられて喜んでいるが、何がそんなに嬉しいのかはピンときてないように見える。


「あと、この土管を埋めれば完成だぞ」

「やったー!」

 俺は小山の頂上に並んだ土管に手を掛けながら言った。

 土管と言っても円柱の石材の真ん中をくり貫いたようなものだ。土管同士は結合できるように土管の端は凸凹構造にしてある。ナビは細かいわねと呆れとも褒めともわからない言い方だったが、俺としては譲れないちょっとしたこだわりだ。


 その土管に穴との溝を埋めるだけの土を魔力で纏わせ触手にして穴を下らせる。穴を掘ったときと逆のやり方だ。もちろん最初の数本の土管の側面には取水用の穴を開けておいた。

 俺は待避用の横穴も土で埋めつつ、どんどん土管を埋めていった。

 穴を土管で埋めつくし地上の石の配水施設を造ったところで立って居られずその場で大の字に寝転んだ。


「もう、動けない、魔力尽きたぞ」

「サブロー、今日はもう休んでいいわよ、どうせ明日の夜か、明後日にならないとお湯は出ないでしょ」

「ああ、今日はもうこのままここで寝るよ」

「私たちは家に帰るけど、番犬替わりにトニーをここにってもう寝てるし……サブローおやすみ、今日はご苦労様」


 ほっぺにナビのキスをもらった夢を見た。あれはナビでなくロバだったろうか?


 ◇


 早朝、目が覚めると横にトニーがいて、魔石の目がサブロー頑張ったなと誉めているような気がした。昨日の夕方にでも持って来てくれたのだろう木の器に焼き蒸した芋と果物が入れられお供え物のように置かれていた。


 穴の最深部の湯が湧き出しているところは、魔石で土が固められているため、お湯は土管を登って来られない。魔石の魔力が尽きたら固めた土は普通の状態な戻り、土は湯を通し温泉が地上に湧き出る。

 俺は朝食に焼き蒸した芋を食べながら、湯船の位置や配水路ついて考えた。

 温泉といえは景色だ。湯船からの眺めを考え、トニーに小山の南斜面の木を押し倒してもらい、倒した木は頂上の一ヶ所に集めてもらった。


 日が高くなる頃には、簡単な湯冷まし水路、湯船、洗い場、排水路などが出来ていた。

 湯なしの湯船の中に座り、果物をかじりながら景色を見ていると南斜面を妹たちが登って来たようで下からナビの声が聞こえた。


「おはよーサブロー、もうお湯でたのー?」

「まだだぞー、でも湯船は完成だぞー」

 手を振って答えたら下の方からもみんな手を振ってくれる。あっ? ナビが滑って転んでラズリも巻き込まれて転んだ。


「ナビー、ラズリー怪我ないかー、きーつけろよ!」

 下の方ではラズリはソルに助け起こされナビに謝られていた。

 道も良くしなきゃなあと湯船に寄りかかり、ぼんやりと次の造成に思いを馳せた。




小山は温泉が湧き出す土地でした。


次回、みんなで温泉

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