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026 承知の書

 ◇


 盗賊討伐後、コネロドは約束通り、俺の小山所有の承知を市議会から取り付けてくれた。コネロドに呼ばれナビといっしょに訪問すると、動物の皮なのか、紙なのかよくわからない丸まった代物を手渡され説明を受けた。

 仮に紙として、それを広げると文字が書いてあり、そこには、俺、サブローが小山を所有する事を承知するっていう文面と町と代表者の名前などが書いてあるとナビが言った。


 もともと、町の東西街道より南の地域に所有者は、いなかったため承認ではなく承知となったらしい。


 で文面の続きだが、小山の所有のほかに東西街道より南の湿地帯の所有、そして南端の村と南街道以外の湿地帯より南地域の開発優先権が承知されたと書いてあるそうだ。


 簡単に言えば、これまで町の南部地域は盗賊団がいたため、開発が進まなかったので南部地域開発よろしくってことらしい。コネロド何てことしちゃってんのサービス良すぎるよ。

 いやいや商人たちを信じちゃいけない。裏読みするとたぶん、誰も管理しないとまた盗賊のたまり場になるから、あいつに管理させようってことなんだろうな。


 俺は会話は出来るけど、文字はわからないことにがっかりした。サービス悪いぞ、ナビ! いつか覚えないと。


「コネロドさん、良く他の方々が承知してくれましたね、もっとごねられるかと思ってました」

「サブロー君自身の討伐での活躍実績があったからの承知なのだが、正直みな、それ処ではないのだよ、本来真剣に検討しなければいけない議案なのだが」


 最近、コネロドは俺たちに優しくなったような気がする。好感度が上がったってことかな?


「それ処ではないとは、何か別の問題でも?」

「私の店に来る間に、気が付いたことはなかったかね?」


「そうですね……町に活気がありましたね、ざわざわ、そわそわした感じがしました、それが何か?」

「うむ、今回の盗賊討伐では盗賊たち以外にも、盗賊と協力した西商人筆頭本人や彼の側近、彼の部隊、そして、彼に協力した他の商人たちが軒並み処刑や追放となる」


「はい、それが小山領有の承知に関係するんですか?」

 隣でナビが、サブローわかってないな、と人差し指だけ立てて左右に降っている。

 チッチッチって、お前はどこの怪傑屋さんだ。


「サブロー問題があります」

「なんだよ急に」

 ナビが口を挟むが、コネロドは興味深げにしている。


「リンゴが7個あって7人居ます。さて、ひとり何個もらえるでしょうか。ただし、リンゴを割ってはいけません。はい答えて」

「1個だろ」


「はい正解、次の問題です。リンゴが7個あって7人居たのに3人居なくなりました。さてひとり何個もらえるでしょうか。ただしリンゴを割ってはいけません。はい答えて」

「えっ? ええと4人になったから……」


「はい残念。サブローはわかってないなぁ、残った4人は今まで通り1個はもらえそうだよね。残りのリンゴ3個は誰がもらえるのかな? 4人の内の3人が1個づつもらえるかもしれない、1人が3個全てを独占するかもしれない。ねっ、コネロドさん」

 コネロドは笑みを浮かべるが、首を振って否定する。


「外野のだれかが、俺にも寄越せと参加してくるかもしれない、今、町はこんな状態なんだよ」

「なるほど、で」

「そんなときに、子どもがこの砂場で遊んでいいって聞いてきたら、リンゴを狙ってる人たちはどう答える?」


「俺たちは忙しいんだ、好きにしろ、かな」

「大正解、という訳でサブローは小山所有を承知されたんだよ」

 なるほど、今回は良くわかったぞ。


 コネロドはナビを見て、出来の良い孫娘を見るかのように目を細めた笑顔になっているじゃないか! 俺って意外とおバカ?


「ナビさん、新作のお菓子を食べていくかね?」

 コネロドがお菓子でナビを餌付けしようとしてるよ。ナビよ、そんなんで餌付けされんなよって、両手を上げて歓迎してるし。


 ◇


 ということがあった。


 コネロドから承知の書をもらったあと、俺たちは小山開発を開始した。西街道と南街道の間に石切場を見つけ、俺が魔力で石を切り出しゴーレムで小山の麓まで運ぼうとしたのだ。しかし、ゴーレムでも湿地帯を越えるのは困難だったため、南街道から小山の麓まで石道や石橋を作っていたのだ。


 酒場の客たちの噂話は、俺たちのことに違いない。


 最初の若い男の話はこうだ。

 俺が石の切り出しに熱中しすぎて気を失ってしまった。朝方まで帰えらない俺をナビが迎えに来てくれた。ゴーレムが運ぶ切った石材の上に乗っていたナビは暗がりの中で人影を見つけ俺を呼んだ。サブロー、サブローと。

 たぶん、怖くなっていた若い男には「サムイヨー、サムイヨー」と聞こえたのかもしれない。


 次の若い娘さんの話はこうだ。

 俺の石の切り出しが予定より遅れていたので少し遅くなっても頑張ることにした。そして帰りが遅くなったのでバレンナが迎えに来てくれた。ゴーレムが運ぶ切った石材の上に乗っていた俺たちは、途中ゴーレムがよろめいて俺たちは湿地に落ちドロまみれになってしまった。お気に入りの服がドロまみれになったバレンナは帰りの間ずっとしくしくと悲しんでいた。

 たぶん、怖くなっていた若い娘さんが聞いたのはバレンナの悲しんだ声だったのだろう。


 最後の中年の商人の話はこうだ。

 俺は石の切り出しに疲れ休憩のつもりが寝てしまい。帰りが遅くなったのでラズリが迎えに来てくれた。俺たちはゴーレムが運ぶ切った石材の上に乗っていた。ラズリは、バレンナが途中ゴーレムから落ちドロまみれになった話を知っていたので落ちないように仁王立ちしていた。

 たぶん、中年の商人が見たのは仁王立ちしたラズリなのだろう。


 俺は真実はひとつかもしれないが、見る方向によって全然別物になってしまうことがあると学んだ。

 そして、もうひとつ学んだことがある。


 ◇


「サブロー、明日、西商人筆頭と盗賊たちが処刑されるんだって知ってた?」

 ナビが明日の天気の話でもするかのように聞いてきた。

「ああ、聞いたよ」

「じゃあ、サブローも一緒に見に行く? バレンナとラズリは行くって」

「俺は……」


 ◇


 俺は結局、見に行かなかった。いや恐くて行けなかったのだ。

 この世界の住民が刑の執行を見に行くのは娯楽で見に行くわけではない。確かめに行くのだ。自分たちを苦しめた罪人が、確かに罰を受けることを。

 バレンナもラズリも盗賊たちには苦しめられた。ナビはなぜ見に行くのだろう、人が人をどのように裁くのか見るためだろうか?


 俺もいつかは慣れるのだろうか?


 今、気づいた。俺は刑の執行を見に行くことが恐かったわけではない。自分が変わっていくことが恐かったのだ。


 そして、俺は学んだ。

 恐れは自分の中にある。しかし、今の自分が解決出来なくても良いのだと。数ヶ月後、数年後の自分が解決してくれるのだから。


 一緒に頑張ろう未来の俺。



ナビ  「でもさ、解決できるんだったら、すぐ解決しようよ、うじうじ悩んでも仕方ないんだから」

ラズリ 「そうそう、直感、大正解」

??  「よく見て、よく聞くと道が見える」

バレンナ「みんな、そんなに上手くいかないよ」


次回、美女+ゴーレム

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