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022 盗賊討伐

 ◇


 西門には門番以外に武装した人間が20数人いて、2つのグループに別れて集まっている。俺はそのひとつのグループの中にコネロドを見つけた。


「コネロドさんに挨拶してくるよ、並んで待っててくれるかな」

 返事も待たず、妹たちから離れコネロドがいるグループに近づく。背中からナビの了解の声が聞こえた。今日は武装した人間が大勢いるせいか、門番がいつもの入街チェックより時間をかけているようで、いつもより長い行列が出来ている。


 俺はコネロドに近づき声をかけた。

「こんにちは、コネロドさん、これから盗賊討伐ですか?」

「こんにちは、サブロー君、商売からの戻りですかな、若いのに感心なことです」

 ちぇっ、さすが東商人筆頭のコネロドだ、討伐のことはもう町の周知の事実なのだが認めない。


「実は朝から仕入に行ってきまして、コネロドさんに買って頂きたいとお願いに来ました」

「サブロー君、申し訳ないが今は見ての通りの状況だ、後日あらためて店に来て貰えないだろうか?」


 コネロドは怒りもせず、かといって呆れもせず俺の状況を読まない申し出に答えてくれる。

 俺はコネロド本人、コネロドの武装グループ、ナビたち、入街のため門に並ぶに人々、門番、もうひとつの武装グループの順に見回した。

 ナビがどうしたの?という顔でこちらを見ている。


「いえ、今、お願いしたいのですが」

「……何か訳ありですかな?」

 コネロドは左の眉を上げ表情が変わった、興味を持ってくれたようだ。


「はい、出来れば」

 俺たちの計画が実現するまでは、話を知っている人間は少ないほうがよいだろう、失敗したらナビが恐いし。

 俺はコネロドの隣にいる護衛の男たちを見て、再びコネロドに視線をもどした。コネロドは俺の視線の意図に気付いてくれ、部下たちと視線を合わせ頷き、部下たちを下がらせた。

「これで良いかな?」

「ありがとうございます」


「さて、サブロー君、私に買ってほしい商品とは何かね?」

「はい、先ほど捕まえた盗賊を15人ほど」

 どうだ、コネロドは興味を持ってくれたかな。興味を持ってくれないと困るんだよな。おっ! また眉が動いた興味が出てきたか?


「……何が欲しいのだね、お金ではないのだろう?」

 さすがに商人であり施政者であるコネロドだ。お金が欲しがったら捕まえた盗賊を町に突き出せばいいだけだからな。何らかの交渉ごとと考えたのだろう。

 ここからが話の本番だ、気合い入れていくぞ! おし、交渉スタートだ。


「率直に言います、盗賊が拠点としている小山の所有を町に認めて貰いたいです、コネロドさんに協力頂いて……」

「盗賊の拠点をかね?」

「そうです、もちろん討伐後に盗賊たちが溜め込んだ宝があったら、町が持っていって構いません、俺が欲しいのは土地その物ですから」


「……」

 コネロドは目を瞑り考え込んでしまった、施政者、商人、個人として多面からこの話のことを評価しているのだろう。おもむろに目を明け俺に問う。決定するだけの情報が足りないのだろう。

「宝でなく、小山には何があるのかね、是非教えてもらいたいのだが?」


「そうですね、俺たちの夢があるってのはダメですよね、んー……説明が難しいですね、ふつうの商品のように動かせるものではありません、でも老若男女、富める者も貧しき者も、みんなを笑顔に出来る可能性のあるものとしか話せません」

「動かせず、万人を笑顔に……」

 コネロドはそれを考えているが想像出来ないだろう。バレンナやラズリに説明してもピンときていなかったのだから。


 コネロドは考えることを止め降参した様子で聞いてきた。

「それでは、私も笑顔になれるのかね?」

「もちろん、びっくりすること請け合いです、俺の国では老人ほどそれが好きです、って申し訳ありません、コネロドさんを老人扱いして」

「フォッフォッフォ、構わんよ、実際もう良い歳なのだから、では私も笑顔にさせてもらおう」

 いつもは無表情のコネロドが笑っている。離れてこちらの様子を伺っていた護衛の男たちもびっくりした顔をしている。余程日頃から笑顔が稀なのだろう。


「では、協力頂けるんですね!」

「ああ、約束は出来んが協力はしよう、サブロー君は良い取引相手でもあるしの、これからも良い関係でもありたい」

 コネロドが商人の顔で言う。いろいろな足算と引算の結果、俺に乗ることを選んだようだ。

 やったよ俺! やれば出来る子だったよ! 妹たちよ、俺の出来る姿見ててくれたかなって……こっちなんか見てねえし。


 ナビたち3人はもう少しで入街というところまで列を進んでいて、楽しそうに談笑していて周りのことは気にもしてないようだ。なんかさぁ、もうやる気が……ええい、もうこうなったら。


「ありがとうございます、ついでにもうひとつお願いがあります」

「サブロー君、それが商人というものだ、遠慮なく言いなさい、受けるか否かはこちらの決め事なのだから」

 コネロドは若手の商人を指導するように言ってくれた。

「俺を盗賊討伐に連れていって貰えないでしょうか、捕まえた盗賊の引渡と少し気になることがあるので」


「小山の事であれは盗賊の引渡で十分だが……サブロー君は戦いの経験は?」

「全く無いです、ですが、いざとなったら申し訳ないですがコネロドさんや討伐隊のみなさんを置いて逃げますから」

 コネロドは俺の話を聞いて迷ってるようだ。戦いの素人を連れていっても足手まといになるだけだから。

「そうですか……市民を討伐に参加させることは出来ないのです。ましてや市民でさえない君を参加させるなどもってのほか」

 やっぱり素人を連れていくことは無理か、だったら気になることの忠告でもと思ったがコネロドの話には続きがあった。

「……しかし、私が雇った臨時の傭兵と言う事であれば、それでどうだろうか?」


「もちろん、それで構いません」

 これで少しは……。


 もうひとつの武装グループに門の内側から男が駆け寄りなにかを告げ、コネロドのクループの方にもやって来た。その男はコネロドに近づき東側の準備ができて出発する旨を告げて、また門の内側へ戻っていった。


「サブロー君そろそろ出発だ、妹さんたちにはまだ伝えてないのだろう、伝えてきなさい、心配をかけてはいけないよ」

「ありがとうございます、妹たちに伝えて来ます」


 俺は討伐参加のことを伝えるためナビたちのもとへ行こうとするとコネロドから声が掛けられた。

「聞いて良いかな、この話をなぜ私に持ってきたのかね」


「それは、コネロドさんが町の実力者だからですよ、それに」

「それに?」


「俺たち、兄妹の恩人ですから」

 俺はナビたちに向かって歩き出した。コネロドの顔は見なかったが、周りの男たちの顔を見てどんな表情をしているのかがわかった。



サブロー、残りの盗賊の討伐に参加することになりました。

コロネドさん笑顔でした。


次回、おかしな動き

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