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002 砂漠の神殿

 ◇


 今は、岩と砂の砂漠をひとり歩いている。

 どうしてこうなった。

 何も考えず押入れからこの世界に来てしまった自分が不注意だったけれど。まさか帰れなくなるとは。

 神様、俺にチートください。お願いします。


 夕陽を体に受け砂漠を歩く。影も長い。下を向いて歩いていると、にこにこ笑顔の母親とのやり取りを思い出す。


 ◇


 母さんに買い物の荷物持ちをしろと連れ出されていっしょに歩いている。

「だめよ、下を向いて歩いたら、顔を上げて歩かないと襲われちゃうわよ」

「何の話だよ」

「旅先の話よ、下を向くと視野が狭くなるから襲われ易くなるのよ」

「初めて聞いたよ、そんな話」

「お父さんが言ってたの、本当よ」

 何が本当なのかが分からないが、顔を上げ背筋を伸ばして歩く。


「そうそう、本当に見送りしなくていいの」

「見送りはいらないから、大丈夫だから、それに空港まで遠いし」

「えー、でも」

 残念そうな母さん顔を見ると、見送り来てもたっら方が良いかと考えていると。


「やってみたかったな」

「ん、なにを?」

「あのね、空港でハンカチで涙拭きながら大きく手を振って、行ってらっしゃい、気をつけてって泣き笑いでのお見送り」

「そんな、大げさな」

「えー、今どきのお客さんはそういうのを求めるのよ」

「お客さんって?」

「見送りのときに、周りに居る人達よ、私の演技に酔いしれるのよ」

「………」

(おいおい、空港利用者を観客にしちゃったよこの人、そして演技だし、自分に酔うよ、きっと) 


「やりたいなぁ(チラ)」

「いやいや、やらなくていいから。来なくていいから!」

「そう、残念」

 楽しそうな母さんだった。


 ◇


 ザクザク

 砂利の大地を歩く。日もあと1時間ぐらいで地平線の向こうに沈みそうだ。

 歩いている先には崩れかけた石柱や建物の基礎部分の石がごろごろしている。まるで写真で見たパルミラの遺跡のようだ。もしかしたら、押入れは中東のどこかに繋がったのだろうか?


 街の大通りと思われる場所は、石畳が敷き詰められ舗装されている。大通りの先は小高くなっており、崩れかけの神殿らしき建物がある。

 喉もカラカラで水がないか探しながら進むと神殿横に池があるようだ。池に近づき観察すると池の水はとても澄んでいて、池の底では砂が湧きあがっている。どうやら湧水のようだ。


「助かった!」

 俺はしゃがみこみ手を合わせて水を汲み口をつけてゴクゴク飲んむことを何度も繰り返した。喉が潤って一段落つくと、ここまであまり意識しなかったが、人や動物の気配が一切ないことに気がついた。また遺跡のほかに文明の痕跡も一切ない。空のペットボトルとか捨ててあれば安心するのだけれど。

 水を飲んだせいなのか、お腹がグーグーと鳴った。


「腹減ったな、何か食べるものでもないかな」

 食べ物はないかと神殿の周りを見渡すものの、すでに陽も落ち辺りは薄暗くなっている。暗がりを歩き回るのは危険と思い、食べ物を探すのを諦めて神殿の中に行くことにした。

 

「仕方ない、今日はこの神殿で休むか」

 神殿に入るとオリエント様式の石柱が何本も立っており、一番奥には祭壇なのか大きな四角い石が置かれている。


「冒険映画だと、こういった祭壇をスライドさせてたら地下に続く階段が出てくるんだよな」

 試しに押してみたが動かない。


 力いっぱい押してみた。

「う、ご、けぇ」


 顔が真っ赤になるくらい押してみたが祭壇は動かなかった。

 お約束が無くて残念だ。チートモードの異世界が良かったのに。

 魔法とか使えないかな?


 ゆっくりと屈み、両手を胸の前でかるく交わらせ目を瞑る。徐々に知覚を広げ、周囲の魔素を呼び体の芯に集める。集まった力は心臓の鼓動に合わせ脈打つ。いつ爆発するかわからない力を右手のひらにゆっくりと移動させ。呪文を紡ぎだす。

 

「闇に染みる魔素よ、その姿を光に変えて、世界を明らかにせよ」


 体全体を使って、右手の力を天向って解き放つ。 


「ライト!」



「……」

 ん、何もおきない。

 

「魔法はなしと」

 もう、腹も減ったし無駄な体力を使うのは止めて寝よう。俺は神殿の壁に近づきそこに寝転がった。天井がないので星が良く見える。満天の星を眺めていたら。 


「あれなんかカシオペアに似てるなー、おっ! あっちは北斗七星に似て……ってか地球かよ!」

 星の配置は、確かに似ていると思う。自信は無いけど。

 そんなに星座に詳しくないし住んでいた所では、こんなに沢山の星が綺麗に見えなかった。いまいち確信が持てないが、地球の可能性が高いと思った。


「仮に地球としても、すぐ家に帰れそうもないし寝るか」

 昨日もあまり寝ていなかった所為か、眼を閉じるとすぐに眠ってしまった。


 ◇


 寒くて目が覚めた。たぶん東と思う方角が明るくなっている。日の出も近いようだ。

「んんー」

 背伸びをした。ぐっすりと寝たようだが、石床に直接寝た為か体のあちこちが痛い。一晩寝た所を改めて見回した。どうしてこの場所を神殿と思ったのだろうか。小高い丘に建っているからか、石柱が多いからか、祭壇っぽいものがあるからか? 寝ぼけた思考が結論のでない検討を始めたときお腹がなった。

 

「腹減った」 

 もう少し明るくなったら食べ物を探すことにしよう。とりあえず、水分補給と顔洗いのために池に方に歩き出した。




俺、神殿に到着しました。


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