019 俺、捕まったの?
◇
ここ数日、町は騒がしい。盗賊が頻繁に現れるからだ。町に食糧を運んでくる農民は品物の一部を盗賊に取られると物品が少なくなるので値を上げる。町に出入りする商人は護衛を雇い対処するが、それは物品の値上がりになる。
ついには商人、市民、近隣農民から市議会に苦情が殺到することになり、市議会は即座に盗賊討伐を3日後と決定したのだった。
しかし、一部の商人たちは不思議なことに気が付いた、午後のある時間帯だけは盗賊たちが襲ってこないことに。気が付いた商人たちは、盗賊たちも休憩するのだろうと、その時間帯を狙って荷を動かすのであった。
◇
「サブロー兄さん、何か大事になってきてるけど、大丈夫かな?」
「ああ、なんでこうなったのかはわからないが、盗賊は俺たちも狙ってるようだ」
「なんでわかるの?」
「いつも決まった時間に南への道に集まっているんだ、単に休憩かもしれないけど、ここ毎日だからな」
いつもの宿屋で4人は頭を付き合わせて相談している。4人ともお金が出来たせいなのか着ている服が良い仕立てのものに変わっている。しかも新品である、新品は金貨での支払いとなるくらい高いのに。お金持ちになったものだ。
「サブロー、場所わかったんだ?」
「おう、ばっちりだぜ、いつも同じ場所だからな」
「でも、町の兵隊さんが明日にでも、盗賊たちを捕らえに行くって噂でもちきりだよ」
「そうか、あの小山から居なくなってくれれば、どっちでもいいんじゃね」
「えー、私たちが捕らえたほうが儲かるじゃない!」
儲けたお金で、また服とか食い物とか贅沢したいだけだよね、ナビさん!
「ラズリもバレンナもそう思うよね!」
ふたりを巻き込むんじゃありません。そして、ふたりともうんうんと頷かない。美味しい物目当てがバレバレだよ。
「俺も儲かったほうがいいけど、町の兵隊たちとどっちが早いか競争だな、こればっかりは俺にもいい考えないよ、盗賊がどうするか次第だね、取りあえず明日の早朝に予定現場にいって落とし穴作ってくるよ」
「えー、そんなー、私の服と美味しい物が……」
ナビさん、心の声が駄々漏れだね。バレンナもラズリもあからさまに残念な顔をしない。3人ともろくな食べ物取ってないみたいに思われるでしょう。最近はかなり良い物食べてるよ君達は。ナビはともかくバレンナとラズリは気のせいか顔がふっくらとしたかな?ラズリ期待してるぞ、あっヤバイ、ラズリと目があった。
「どうせ、明日で決着つきそうだし、今夜も美味しい物食べて明日に備えるか」
「それが良いよ、サブロー」
うんうんとバレンナとラズリ。
◇
早朝に町をでた俺は、襲撃予想地点で深さ3mぐらいでかなり広い範囲の落とし穴を作った。そして半分の深さまで泥沼にして落ちてもすぐには身動きできないようにした。さらに一見して分からないように10cmぐらいの厚さで表層をこしらえた。表層は魔石に込められた魔力で支えられている。
「こんなもんでどうかな、ぜはぜは」
魔力の使いすぎて辛いが落とし穴のディテールは完璧だ。どこが落とし穴かはわからない。落とし穴の範囲の端には大人ひとりじゃ動かせないくらいの大石を置いた。
拳大の石を人に見立てて、落としのテストをしてみる、石を置いてある場所だけ魔力を抜いてみる。すると石はストンと地面ごと落ちていった。
「完璧だ! ひょっとして俺って天才? ぜはぜは」
自画自賛しながら、いま落ちてった地面を修復して俺は気絶した。
修復したときの魔力で魔力切れだったらしい。
◇
これぞ盗賊という風体の男がサブローの服の物入れをまさぐっている。
「兄貴、こいつカネ持ってないですぜ」
「なんだと! ちゃんと調べたのか」
兄貴と呼ばれた男が怒声で返す。
うるさいな! 静かにしろよ! 俺は眠いんだよ。
「おーい、ちゃんと調べろよ」
兄貴と呼ばれた男の横に侍っている男が金を探している男を冷やかす。
「ねえもんはねえんだ、てめえがやれ」
冷やかされた男は金を探すことを止め、立ち上がり言い返す。男たちは睨み合いになった。
「なんだと! やるかこらぁ」
「おう、こっちの台詞だぜ」
取っ組み合いになる間際、兄貴と呼ばれた男がふたりを一喝した。
「いい加減にしねえか! てめえら! そこの娘っ子に聞けばいいだろ」
「「おお、さすが兄貴」」
周りにいる男だちもパチパチと手を叩いて盛り上げる。兄貴と呼ばれた男は胸を張り鼻を天に向けている。まんざらでもない様子だ。
娘っ子と呼ばれた娘は、ナビ、バレンナ、ラズリである。ナビは木の棒を持って振り回し、バレンナは小さな料理用ナイフを両手で持って盗賊たちに突き付けている。そしてラズリはふたりの間に挟まれていた。
「近くに来ないでよ、臭いでしょう」
「……」
「来ないでー、こっち来ないでー」
三人三葉で抵抗しているが、盗賊たちはそれが面白いらしく周りを囲み、剣や短槍で嚇しながらキャーキャー言わせている。
盗賊たちはナビに臭いと言われ、自分の臭いを嗅ぎ、俺たち臭いってよ、おめえが臭いんだ、いやおめえの方だと、ガハハハ、ギャヒヒヒと笑い合う。
「サブロー、お、き、ろー」
すまん、ナビ、俺眠いんだ、もうちょっとだけ寝させてくれ。
「起きないと、もうお兄ちゃんって呼んであげないよ!」
いや、それは困る、すぐ起きますって。
「「サブロー」」
ん、いまのはバレンナとラズリ、お兄ちゃんは卒業なのか、そんなことお兄ちゃんがゆるしません。俺は起きるぞー、せいっ。
俺、起きれません。目は覚めました。けれど動けないんです……なんじゃこりゃー!
俺は縄で縛られぐるぐる巻きにされていた。目隠しや猿轡はされていないので周囲を見ることも、周囲と話すこともできる。
周りには南端の村の道で出会った盗賊と同じような服装と武器防具を身に付けた男たちがいた。
こいつら盗賊だわ、どうしてこうなった? そう言えば3人の声がしたような? 夢かな。
「サブロー! 起きた? こっち、こっち」
「「サブロー」」
芋虫状態であるが首は動かせる。声がした方向に首を動かして見ると3人が涙目になって俺を見ていた。なんで3人が盗賊たちに囲まれているのか疑問だが後回しにしよう。
「3人とも大丈夫か?」
「大丈夫じゃないわよ、なんとかしなさいよ」
ナビたち3人は少しでも俺に近づこうとしているが盗賊たちが邪魔して近づくことができない。
新しいおもちゃを見つけた盗賊たちは、お兄ちゃん頑張んねえとお兄ちゃんクビだぞお、お兄ちゃん芋虫だからダメだろ、俺もお兄ちゃんって呼ばれてえぞ、などと更に騒ぎたてている。
俺は尺取り虫よろしく頭と腰と足で進もうとするが顔を擦るばかりで前には全然進まない。盗賊たちはそれをみて、お兄ちゃん頑張んばれー、全然進まねえぞと囃し立てる。
ダメだこりゃ! 移動は諦めた。盗賊たちが飽きる前に現状把握せねば。
俺の見える範囲にいるのは盗賊が15人とナビたち3人だ。盗賊たちは多分15人で全員だろう、レーダーを使っても視線の範囲内でしか機能しないのでこれだけ近いと見た目とおなじだ。そして俺たちや盗賊たち、ほぼ全員が落とし穴の目印石の範囲内にいるのだが、兄貴と呼ばれた男だけ目印石に腰掛けている。
あれじゃ、落とし穴に落ちない、どうしようか?
「あのぉ、兄貴さん、金貨…………ですか?」
「金貨が何だって? おい、お前ら静かにしねえか、聞こえねえだろ! なんだって兄ちゃんもう一回言ってみな」
「金貨…………ですか?」
俺は地べたに顔を着け上手く喋れないふうを装い、あえて聞こえないように言って兄貴と呼ばれる男がこっちに来ないかと期待するが、男は大石に腰掛けたままだ。
「おまえ、あいつを連れて来い」
兄貴と呼ばれる男は手下に命令する。
ヤバイ、失敗したよ、どうする俺? 兄貴と呼ばれる男は諦めるか?
サブロー、捕まってしまいました。
ナビ、バレンナ、ラズリは取り囲まれピンチです。
次回、えっ、3人も捕まったのか?




