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139 俺の王国

 ◇


 門が開かれ砦には多くの人が集まっている。南の部族の兵士たち、王国南地方の貴族と従者の軍団、そしてサーナバラ軍。それらは、混じり合わず個々に集まっている。


 王国の貴族たちは、南の部族の兵士たちがいることに驚き北門の近くで戦闘体制を崩さない。また、南の部族の兵士たちもそれを警戒して南門の近くを陣取っている。


 俺はひとり、急ごしらえの演説用の舞台に立った。古参の中隊長やパークが心配して後ろに立ってくれると申し出てくれたが断った。


「ダメだよ、みんな。サブローの事が心配でも、これくらはサブローひとりで対処できなきゃだよ。でないと、これからもっともっといろんな事が起こったときに、サブローも困るし、みんなも困るよ。だから、これはサブローの練習だよ。うまく出来なくても良いんだよ」


 ナビが、俺とみんなに心配しすぎだ、ヘマをしたって良いんだと言った。


 そうだ、ナビの言う通り。これは、俺の戦いだ。ナビは俺が緊張しないように励ましてくれたんだよな。串焼きを持ってたのは見逃すよ。


 よし、俺の戦いの始まりだ。


 俺は舞台に立ち、サーナバラ軍の兵士たち、南の部族の兵士たち、王国の貴族たちと順番に見回す。ざわつきが徐々に収まる。そして、静かになりみんなの注目が俺に集まった。


 俺は、話始めた。


「俺は、サーナバラの領主のサブローだ。俺の事を知らない奴がほとんどだろう。だから俺は、俺の事を、俺のやりたいことをみんなに伝えたい」


「俺には3人の妹たちがいる。大食いだけどいつも考えろと励ましてくれる妹だ。涙もろいけどいつも心配してくれる妹だ。言葉は少ないけどいつも先回りしてくれる妹だ。俺は、妹たちがとても大切でとても好きだ」


「お前たちはどうだ。親に兄弟、伴侶に子供たち、飲み友達に、話友達に、戦友たち。世話になった人。とても大切でとても好きな人たちがいるんじゃないか」


「その大切な人たちは、今どんな顔をしている。悲しいか顔か、怒った顔か。大切な人たちのその顔は誰がそうさせている。誰のせいでそんな顔をしている」


「そうだよ、俺だよ。そうだよ。お前たちだよ。そうだよ、俺たちが大切な人に、悲しいか顔や、怒った顔をさせているんだよ」


「何でだよ。大切な人にそんな顔させんじゃねえよ。心配かけんなよ……」


「でも、俺はお前たちを誇りに思うよ。だってよ、俺はその訳は知ってるからだよ。ああ、知ってるよ。それは俺が命令しているからだよ。戦えって俺が命令しているからだよ」


「悪いなお前たち、お前たちの大切な人にお前たちを心配させて。だけど、俺は命令するよ。お前たちに命令するよ。戦えってな」


「それが、俺の大切な人たちを、お前たちの大切な人たちを、笑顔にする一番の近道だと思っているからだよ」


「俺は見てきたよ、この世界を。人を陥れ殺めてその財産を我が物にしようとする奴がいる。自分が一番で自分の言うことを聞かない奴を貶めようとする奴がいる。自分はリスクを取らず人にやらせて結果だけ持っていく奴がいる」


「世界は俺が思う以上に悪意に満ちているんだ。俺は、そんな悪意ある連中がのさばる世界に身を委ねて、いつかは平和がやって来るなんて思えない」


「今の俺には力があるんだ。そんな悪意ある連中を排除して、俺の大切な人たちを笑顔にする世界を作る。俺が作る世界はお前たちの大切な人たちが笑顔になれない世界かもしれない。だから俺の話を聞いて判断してくれ」


「俺は、俺の王国を作る。敵は倒す。味方の頑張った奴には褒美を出す。サーナバラとベイザムを繋ぐ道を造る。中間に新しい町を造る。そして、ヨーマインとも結ぶ。産物を創る。綿花を栽培して糸にして染色して布に作る。さらに服を作ってみんなに着てもらうよ」


「仕事はいっぱい用意する。何も兵士だけが、俺の王国で必要な人じゃない。サーナバラに何がある。温泉がある。植物園がある。図書館がある。そして、誰もが学べる学校がある」


「俺の王国は、戦うだけじやない。戦って土地を奪うだけじゃない。俺は、住んでいる人が笑顔になる国を作る。俺の王国をそんなところにしたい」


「俺の王国を目指して、俺は、お前たちに命令する。戦えって」


「戦う事が良いことだとは思わないよ。だけど、俺たちが戦わないと、大切な人たちの笑顔がいつまでたっても見られないんだよ。そうだろ、いつかは笑顔になるかもしれない。でも、いつかじゃダメなんだ。俺は、今の世代で実現したいんだ」


「最後に言うよ。これは強制じゃない。だが協力してほしい。強制じゃ笑顔になれないけど。協力だったら笑顔になれるだろ。以上だ」


 俺は、言いたいことを言った。支離滅裂だった。でも、すっきした。話ながら感じたが、俺ってこんなこと思っていたんだと思った。みんなは唖然としているだろう訳のわからない話を聞いて。


 舞台の前にいる古参の中隊長たちが笑っている。そして、俺に声をかけてくれる。


「心配しないでくれ。俺たちはわかっている。お前がどんなにおれたち南端の村人に力を貸してくれたか知っている。俺は、ついていくよ」

「ああ、俺もだ。嫁さんとも話してある。気にせず命令してくれ」


 ひとりの中隊長は振り返りサーナバラ軍全員に呼び掛けた。

「みんなもそうだろぉぉ」


「「「おおおおっ」」」


 大声を上げるサーナバラ軍の兵士たち。


「だそうだ」

 そう言って、中隊長のひとりが片膝を地に着け右手を胸につけた。そして、俺を見て大声を出した。


「サーナバラ領主サブロー様に変わらぬ忠誠を」


 すると、他の中隊長をはじめ次々と片膝を地に着き、俺に忠誠を捧げるサーナバラ軍。


「ありがとう、サーナバラ軍のみんな」


 ツマナが隣の叔父に振り向いた。叔父は腕組みをしてサブローを見上げている。

「叔父上」

「ツマナ、あの男は妹ばかり可愛がる男かも知れんぞ」


「叔父上」

「そうだな、身内を大切にする男なのだろう……良いだろう。ツマナ、大切にしてもらうのだぞ」


 ツマナの叔父は、一歩前に出て俺に向かって大声で問いかけた。


「サーナバラの領主サブローよ。貴様は我らを南の蛮族とさげすまないのか」


「なぜ、あなた方を蔑む必要がある。あなた方から見たら、俺の方こそどこの馬の骨ともわからない出所不明の男だ。あなた方を蔑まないと言う怪しい俺の言葉を信じられるのか」


「ふんっ、まあよかろう」


 ツマナの叔父は振り返り、短槍を突き上げ自分の部族に向かって言った。


「我が部族の戦士たちよ、ツマナはサーナバラ領主に嫁ぎ、我らは新しい王国の身内となる。我らは国を持つのだ。我らの念願であった古き国の再興だ」


「「「おおおおっ」」」

 南の部族たちが、短槍を地に着きだんだんと鳴らしてツマナの叔父に応えた。ツマナの叔父は再び俺を見る。そして、片膝を着き右手を胸にあて王国風に忠誠を示した。


「サーナバラの王、サブローよ。我らの南の部族は王の血族となりて王国に従おう。王の血が絶えぬよう我らが守らん」


「「「おおおおっ」」」


 続々と南の部族の戦士たちは地に膝を着け、俺に忠誠を示す。


「ありがとう、南の戦士たち。あなた方には新しい町を、新しい産物を、新しい世界を与えてみせるよ」


 俺は頷く。涙が出そうだ。


「いかがですか。祖父殿」

 パークがいっしょにいる年老いた王国貴族に聞いた。この年老いた貴族はパオース戦役のおり、王国の南地方貴族の意地を見せると言って突撃を敢行しようとした貴族であり、パークの妻であるリッテアの祖父に当たる人物だった。そして、バングリン一門を統べる男だった。


「サーナバラの領主が、新しい王国を立てるだと。ふんっ、青い、青い。まだまだ青いのぉ。ひよっこではないか」


 この老貴族の周りを固める老貴族たちも、また同じ一門の人間でありパオース戦役のおり突撃に従った男たちだった。


「じゃが、道を、町を造り、新しい産物を作るとな。戦いは二の次で面白い事を考える男じゃ」

「そうじゃな、わしらが若かった時は、若い女子おなごの尻ばかり追いかけていたからの。女子を大切にする男は良い男じゃ」

「もしかしたら、パークやガウス坊よりはましかもしれんな。ふたりとも夢がたりんからのぉ」


 付き従う老貴族たちは好き勝手に呟き、それを聞くパークは苦笑いをする。


「我が一門の老いぼれたちには、異論はないようじゃな。それに、ベイザーの老いぼれに従うよりはましじゃ」


 そう言うと一門の長である老貴族が剣を抜き、サブローに対して横に突き出し片膝を着いた。すると、従っていたパークや老貴族たちも同じように剣を抜き膝をついた。それを見習うかのように続々と波が伝わるように南地方の貴族軍団は膝を着き、剣を抜く代わりに右手を胸にあてた。


 貴族一門の長は年に合わない大きな声を出した。


「新しき国の王、サブロー王よ。我がバングリン一門に名に懸けて。新しき国の剣となり盾となることを誓おう。新しい王国が栄えんことを」


「「「おおおおっ」」」


 貴族軍団から地が震えるような声が沸き上がった。それにつられ、サーナバラ軍からも南の部族の戦士からも唸るような声が沸き上がる。


「「「おおおおっ」」」

「「「おおおおっ」」」


 ナビが舞台の下から手を振っている。声に出さずに口の形だけ変えて俺に伝えてくる。


 サブロー、頑張ったね。それじゃ、バレンナとラズリを迎えにいかないと。


 俺はナビに頷いた。


 俺は右手を上げてみんなの声が静まるのを待つ。そして、静まったのを見計らって俺は彼らに命令した。


「新王国の全軍に命令する。軍を再編後、直ちに西に向かって出立する。俺たちの姫たちを助けるために!」


 俺は、右手で拳を作り天に向けて突き上げた。


「「「おおおおっ」」」

 再び、地を揺るがすように声が砦の中に響き渡った。





サブローの王国宣言でした。


次回、お前たちの世界を作るがよい


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(感謝と宣伝)

「世界はかれらの手によって作られました。」は次回を持ちまして最終話となります。

ご愛読ありがとうございました。ここまで投稿できたのは皆様が読んでくれたからです。

この作品とは投稿前の企画を含めると9ヶ月間の付き合いとなります。

当初考えていた話とはかなり違った方向に行ってしまいましたが、書くことの楽しさや苦しみを知ることのできた作品となりました。一旦この作品は完成としますが、話の先を整理して続編という形でいつか「王国編」を書きたいと思っています。それまでの間は次作を楽しんでいただければ幸いです。


次回作品「サイコロ異世界」 4月27日(木)投稿予定です。




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