136 条件を話す前に
◇
「ですが、ツマナ様。この者は我らの秘密を」
「良いのです。共闘の話は我らから持ちかけた事なのですから。先程はからかい過ぎてごめんなさいね」
ツマナという女が俺にウィンクをしてくる。
くっ、これはこれで。
健康的な褐色の肌、強い目力、長い髪は頭の後ろで結わえてポニーテール、身長はあるがスレンダー、そして出るところは出ている、ツマナとはそんな外見の娘だった。
ルロハがツマナを様付けで呼ぶと言う事は、南の部族の有力者か、その身内なのだろう。
なるほど、だから南の部族の代表と言うことか。
「あなたはなぜ、我らの力の源泉が塩だと思ったの」
ツマナは俺から情報を引き出そうと尋ねてきた。
「そうですね。これは想像ですが、あなた方の本拠地は山岳地帯。しかし、山岳地帯をさらに南に下ると砂漠地帯になる。そして、その砂漠地帯に塩が取れる場所があるのではとね」
ツマナが目を細めて俺を睨んだ。
「そこまで、知っている貴方は何者」
「いえ、昔に商売で知り合った老人が似たような話をしていたのを思い出しただけですよ」
はい、嘘です。ごめんなさい。俺が現れた塩でできた小山といっしょかと思っただけです。はい。
俺は嘘だと顔に表れないように答えた。
「人に教えてもらったと言うのね」
ツマナは俺の言ったことを信じてないような顔で俺に言う。
もう、この話題から離れたい俺は強引に話を変えた。
「俺もひとつ疑問があります。あなた方の塩は誰が買っていたのでしょう。俺の考えですが、王国南地方の商人が買っていたのではありませんか」
「我らの志しを理解する商人もいるのだ」
ルロハがどうだと言わんばかりに胸をはる。俺がその胸に釘付けになっているとツマナがルロハには同調せず俺に聞く。
「なぜ、そう思うの」
「それは、あなた方が王国貴族を川以南の土地から追い出していないからです」
「だからどうだと言うのだ。我らを支援する商人には関係ない」
ルロハの鼻息が荒くなった。
「こんな事はありませんでしたか。あなた方が王国貴族に優勢で戦っていたとき、商人から塩の値段が下がったから今回は少ない武器と食糧しか渡せなく申し訳ないと言われ優勢を維持できなかったり、逆にあなた方が王国貴族に押されていたとき商人は塩の値段が上がったからと多くの武器と食糧を提供してくれて王国貴族を押し返したなんて事が」
「「……」」
ふたりが無言だ。心当たりがあるようだ。
「あなた方はコントロールされていたんですよ。強すぎず、弱すぎず、国境を接する貴族と戦える程度の力に」
「誰がそんな事をすると言うのだ」
ルロハが俺に叫ぶ。
「たぶん、国境を接する貴族と敵対している貴族でしようね。商人を使って敵の敵を作ったんですよ。敵の敵は味方ですからね。あなた方からすると王国の貴族はみんな敵でしょうが」
ルロハはお前は何を言っているのだと呆然とした顔をしている。しかし、ツマナは前から思っていたことを言われたという顔をして俺を見る。
「その王国貴族に心当たりがあるような言い方をするのね」
「もちろん、こういった話では、一番儲けた奴が犯人なんですよ。王国南地方で一番勢力を拡げた貴族で、あなた方とは接していなく争ってもない貴族が犯人ですよ。あなた方も見当がつくのでは」
「ベイザー家ね」
ツマナが言うとルロハも頷いた。南の蛮族と言っても情報収集はしているようだ。
やっぱり、犯人はガウスの叔父さんか。きっと敵対貴族の目を南の国境に向けさせておいて、その間に東地方を飲み込もうとしたんだな。発想は良かったが俺たちが邪魔したと言うところか。やっと南地方の状況が飲み込めてきたよ。
部屋に戻ってからずっと静かにしている隣のナビを見る。ナビは俯いていた。
こ、こいつ寝てやがる。たまには、俺の灰色の脳みその活躍を見ろよ。
「それでは、共闘の話に戻しましょう。我々サーナバラからの条件の話に」
「その条件とやらを聞きましょう」
「条件は3つあります」
「3つもだと。我らの足元を見ての条件とは良い度胸じゃないか」
ルロハが横に置いた両手剣に手をかける。
「止めなさい、ルロハ。話してください」
ツマナがルロハを制止すると、仕方なさそうにルロハは両手剣から手を離した。
「条件を話す前に、俺のやりたい事を伝えます。その話を聞いた上で条件を呑むかを決めてください」
「わかったわ」
俺は地図を指差しながら説明した。川が東向きから西向きへと大きく方向を変えている場所だ。
「俺はこの場所に町を造ろうと思ってます。この地図でも分かる通り、東のサーナバラ、北のヨーマイン、西のベイザムから等距離の位置になります。この町を拠点に南地方の経営を行います。まだ町はありませんし道もありません。魔物を狩り、盗賊を駆逐して全てを作ります」
「ふん、そんな夢みたいな事が出来るものか」
ルロハは鼻で笑う。その言葉を聞いてツマナは苦笑いする。
「そうですね。夢みたいな話かもしれません。ですが、それが出来なければ南地方を治める事など夢のまた夢でしょう。ちなみに、サーナバラはどのぐらいの大きさで、どれだけの古さかわかりますか」
「「……」」
ルロハとツマナは顔を見合うが、お互いに首を振る。
「サーナバラは出来て1年ほどの村で、人も1000もいません。きっとあなた方の人数が何倍も何十倍も多いでしょう」
「サーナバラは村だと……」
「1000もいない……」
「そんな馬鹿な話があるものか。そんな村程度の連中が王国の南地方を制圧など出来るものか」
ルロハは立ち上がり俺に怒鳴る。
「ですが、現実はどうでしょう。我々サーナバラはこの地を制圧しつつあります。そして、あなた方からの共闘の話を聞いて決めました。王国南地方は我々サーナバラが制圧して領地として治めると」
「なっ」
ルロハは言葉を失ったようだ。そして、ツマナに腕を引かれて座った。
気づくと隣で寝ていたナビが、目を覚ましていて俺の話を聞いていた。俺と目が合うとニヤニヤとする。そして、声を出さずに口の形だけで頑張れと言ってくれた。
くっ、こっぱずかしいぜ。耳が熱くなる。
「新しい町は物が集まるようにします。東からはコメカリ、ガラス製品を集め王国や皆さんに売ります。西からは南地方の特産物を集め東へ沿海州へ売ります。そして、南の皆さんからは塩を買いましょう」
みんなが黙って俺の話を聞いてくれる。ナビはニコニコと、ルロハは憮然と、ツマナは目を輝かして。
「そして、皆さんといっしょにこれを作りたいと思います」
俺はテーブルに小さく白い物を出した。
「それは、何ですか」
ツマナが真っ先に反応した。
サブローは王国南地方はサーナバラの領地として治めると決意しました。
次回、6番目だからね