133 皿洗い
◇
「おい、若いの、これもお願いだ」
「はいっ、よろこんでっ」
俺は積み上げられた皿を洗う。桶に入った水で洗い、別の桶の水ですすいでひとつの洗い物が終わる。俺は朝から皿などの食器をずっと洗っていた。
そうだ、ナビだ。ナビはどこ行った。
「お嬢ちゃんなら、広場の屋台に行ったぞ。何でもまだ食べてない串焼きがあるとかで」
なっ、なんだと。
朝になって起きた俺を、ナビが1階の食堂に連れてきてくれた。朝飯かと思っていたらナビは、食堂を抜けて厨房に俺を引っ張っていき、厨房の親方に挨拶させた。そして、気がついたら俺は皿洗いをしていた。まだ、朝飯も食ってない。
なんで俺だけ皿洗いなんだ。ナビはどうした。
「まあ、お嬢ちゃんは宿代は払っているからな」
はあ、俺の分は?
「二人分の宿代には足りないけど、足りない分は体で払うから泊めてくれってな。お嬢ちゃんに頼まれたもんで断り切れなかったんだよ。まあ、ここんとこ忙しがったからな、まあ良いかと思ってな」
体って俺の体の事かよ。ん、そういえば、昨日の夜にナビが言っていた、頑張ってもらわないとってこの事かよ。
「若いの、これも洗ってくれ」
「はいっ、よろこんでっ」
俺の前に汚れた皿が追加された。
はっ、ナビは串焼き食いに行っているって、まだ金あるじゃねえか。
「可愛いじゃねえか。ちょっとお茶目でさ」
全然可愛くねえよ。それに、なんで俺の心の声が親方にわかるんだよ。
「そりゃ、若いの、宿屋の商売ってのはそういうもんなんだ。それに、若いの。お前さんの顔は読みやすいんだ」
だああ、おりゃ、おりゃ。
俺は一心不乱に皿を洗い続けた。
◇
日中は皿洗いをして、夜は用心棒を兼ねて厨房で寝る。そして、早朝に起きると下働きと皿洗いを手伝う。まかない飯は出た、旨い。ナビも差し入れに串焼きを買ってきてくれた、これも旨い。ナビ、ありがとう、俺がヘマしたばかりに。ナビは昨晩も金を払ってこの宿屋に泊まったそうだ。
ん、ちょっと待て。ナビ、お前金持っているじゃねえかよ。俺の分も宿代払えたんじゃないのか?
罰なのか、俺がヘマした罰なんだな。厳しいな。
三日目の朝になって俺は解放された。親方にはこのまま、ここで働かないかと誘われたが俺には仕事があるからと断った。親方に仕事にあぶれて行くところがなかったら雇ってやるからここに来いと言われたときは思わず涙が出た。親方、ありがとう、俺はどこに行っても頑張るぜ。
「サブロー、行くよー。こんなところで涙流してないで早く行かないと。バレンナとラズリが待っているよ」
おっ、そうだった。感傷にひたっているわけにはいかない。俺は、待たせている男だ。
「良し、行こう。バレンナとラズリのもとに」
と俺は西の空を指差す。町の広場にいる人々が俺を避けて通る。ナビも俺から距離をとり他人の振り。
こらー、俺をひとりにするんじゃない。
とはいえ、すぐに町を出るわけにはいかない。町を出る前に俺を襲った奴らを捕まえないと。俺は町の警ら隊を引き連れ、若い男がいた飯屋に行った。すると飯屋の店主が出て来て俺たちに言った。
「あいつなら、数日前に店を辞めたよ。なんでもまとまった金が出来たんで、王都に行って一旗あげるんだとよ。俺は止めとけ、真面目に働けば店が持てるぞって言ったんだが。こんな湿気た町にいつまでもいられるか、俺は王都にいくんだって言って出ていったんだ」
店主は、まったく今の若い奴はと静かに怒っていた。
俺たちはこれ以上追うことも出来ず、若い男たちを捕まえることは諦めた。俺たちが捕まえて罰を与えることは出来なかったがお天道様は見ている。きっと相応しい罰を与えてくれるだろう。
そして、俺とナビは町を外に出た。町の門をくぐり少し歩いた所で、ナビが指をくわえ口笛を吹くと馬が二頭現れた。俺たちの馬だ。馬たちは器用に鐙をくわえて現れた。ナビのいい聞かせの賜物だ。
俺たちは、馬に鐙を取り付けて乗り砦を目指した。
ナビはダチョウ型ゴーレムに乗りたがったが、悪目立ちしそうなので止めてもらった。まだ俺の馬乗りは下手だがなんとかなるからな。
◇
砦への途中で、盗賊たちを追い回しているサーナバラの中隊に出会い、ガウスとパークの治安対策チームが活動を始めた事を伝えた。すると、本隊に戻れる事を喜んでいた。自分たちが前線にいないので後ろめたかったようだ。
中隊がこの先ガウスたちに出会ったら、ガウスたちの活動次第で中隊は本隊に移動する事とした。そして、俺たちは中隊と別れ再び砦に移動する。
数日後、砦に着くとみんな歓迎してくれた。彼らも前線にいない事を気にしていた。俺は、バレンナやオドンはお前たちを信頼して役割を任せているんだから気にするなと上から目線で言わせてもらった。そう、それが俺の役割。領主たる俺の役割だ。みんなが自信を持って働ける環境作りがだ、たぶん。
砦のサーナバラ軍にも、ガウスとパークが治安対策で活動している事を伝え、いずれふたりはここに来るから、そしたら交代して前線に駆けつけてくれれば良いとした。
俺たちは砦に一泊して、翌朝に前線に出発することにしていた。しかし、出発は出来なかった。人が訪ねて来たのだ。正確にはバレンナを訪ねて来たらしい。
俺とナビは、砦の一室に訪ねて来た者たちを向かい入れる。門番によって部屋に連れられてきたのは褐色の焼けた肌の女たちだった。
女たちは布を体に巻き付けた貫頭衣を着ている。腰の位置で紐を結んでいるのだが、布を重ねた隙間からチラチラ見える肌にどうしても目がいってしまう。長い髪は頭の後ろで結わえて、うなじが見えるのも良くない。
俺が何も言わず、ただ女たちを見ていたので、ナビが俺の耳を掴んで自分の方に引いた。
痛い、痛い。こらっ、ナビ痛い。
「サブロー、目がいやらしい。見た目に騙されちゃダメだよ。痛い目にあったばっかりでしよ。もおー」
ナビに謝り見逃してもらう。確かに女たちを良く見てみると、幅広の長い両手剣を直に手に持っている。
ダメだ、ダメだ。見た目に騙されたらダメだ。
だが、俺の目は勝手に布と布の隙間を求めてさ迷うのだった。
サブローは皿洗いの刑を受け、無事砦までたどり着きました。すると訪問者が来ました。
なお、前話の三番目の条件とは、宿屋までサブローを運ぶことでした。
次回、使い道はありそうだ




