013 バレンナの気持ち
◇
トニーに乗って村の入口までやって来た。
門番がびっくりした呆け顔でこちらを見ている。ナビといっしょにトニーから降り村に入れてもらった。入れ違いに門番は村の門の外にでてトニーを観察し初めた。珍しいのだろうか?
広場まで来るとすでに、オドン、バレンナ、ラズリが待っていた。
「遅くなってすみません」
謝るものの三人の反応は薄く、視線がナビのほうに向かっている。そうか! ナビは初対面だった。脳内会話のおかげですっかり既知だと思ったよ。
「紹介します、隣にいるのは妹のナビです、いっしょに旅してます……商売の」
ヤバイ、俺は商人だったと思っているとナビが引き継いでくれた。
「ナビです。お兄ちゃんは見た目の通りちょっと抜けてるので困りもんですが、根はいい人なので心配しないでください」
俺誉められてんだよね?
ナビはオドンに話しかけバレンナ、ラズリに続ける。
「二人のことはお兄ちゃんから聞いたよ。お兄ちゃんの好きにはさせないから安心してね。三人で楽しい商売していこうね。バレンナちゃん、ラズリちゃん、これからよろしくね」
ひどい紹介だがナビの話でバレンナの表情が柔らかくなったので良しとしよう。
オドンが近づき小声で耳打つ。
「おまえたち兄妹あんまり似とらんな?」
どきっ!?
「兄はともかく、妹のナビちゃんはしかっりしてるな、正直二人を預けるのが心配だったがこれで安心だ」
性格かよ、それにぶっちゃけすぎだよ。
「まあ、妹が居なかったら断ってました。俺だけだったら不安で不安で妹様々です」
「サブローおまえ、妹の尻に敷かれてるな。おまえの気持ち良くわかるぞ、俺も嫁に頭が……」
オドンが俺の肩に手を置きしみじみと語る。
「ですよね、勝てませんから……」
「……」
男同士しみじみと語ってる横で少女達も語り合っていた。バレンナは笑顔でラズリも心なしか笑っているようなに感じられた、ナビ様々だな本当に。
◇
バレンナとラズリの布に包まれた荷物をトニーのお腹に入れ町に向かって出発した。
オドンや門番ら村人たちに見送られ俺たちが乗ったトニーは村を離れて行く。バレンナはトニーの座席から振り返って手を大きく振っている。村人の何人かも手を振っているので仲が良かった人たちなのだろう、涙を堪えている。
ラズリも振り返ってはいるが村を見つめるだけだ。何を思って見つめているのだろう?
ナビが私たちは商人なんだから、また村に来るよと慰めの言葉をかけていた。
もう村は見えなくなった。
そういえばオドンたちがトニーを見たときに、サブローおまえ、術者だったのか? とオドンにびっくりされた。村には術者はいないのかと聞いたら村にもいるがとお茶を濁された。見た目なのか? 見た目なんたろ! 怒。
後でナビに術者って何者と聞いたら魔法を使える人と教えてくれた。うん、まんまだね。
◇
その夜、ラズリが火を起こしバレンナが食事の用意をした。と言っても俺もナビも何も出来なかったからだ、ナビ女子力低く! ラズリは火起こしが上手らしく、残るバレンナが食事当番となった。食事は焚き火に芋のようなものを放り込み焼き蒸したものと干し肉だ。
「バレンナ、今日の料理は最高だよ。この塩加減がなんとも言えないぐらい美味しいよ。俺もナビも料理できないから、ずっと木の実とか干しものだったから温かい料理最高だよ」
とはしゃぐ俺に返る言葉はないが、バレンナが若干嬉しそうなことが仕草からわかる。尾があったら左右に大きく振っていることだろう。
「ラズリもいっぱい食べるんだぞ」
「ん」
えっ、今返事した! それに頷いたよ、俺感動。たぶんナビが心開いたのかな、ナビ感謝。
食事が終わり焚き火を見ている二人に話しかけた。
「バレンナもラズリも聞いてくれ、旅の間に守ってもらいたいことを話すけどいいかな?」
「……」
ふたりはなんだろうという顔をしてこちらを見る、ナビは変なこと言わないわよねと視線を送ってくる。俺は大丈夫だと頷いた。
「ふたりとも旅の間に、危険が迫ったらトニーのお腹の中に隠れるんだ、トニーに触って願えばトニーのお腹のドアが開いたり閉じたりするから」
バレンナもラズリも頷ずくのを見て続けた。
「隠れてる間に、俺とナビに何かあったら、トニーには村に戻るように命令してある。もし村につく前に魔石の魔力が切れそうなるとトニーが腹から出してくれるから自力で村まで戻るんだ。これは大切な約束だぞ。守れるか」
「ん」
とラズリ。バレンナは俯いて返事がない。
「どうした?」
「また、置いてくの」
「えっ?」
「また、置いてくの。いつもそう、バレンナは邪魔だから置いてくの? いつも、いつもそう、邪魔なの」
バレンナは叫び涙目で俺を睨んでくる。しかし、その瞳の奥には助けを求めているように思われた。
「バレンナ、おまえと俺は兄妹だ、兄妹といえば家族だ、家族だから邪魔だなんて思わない」
「でも、お父さんとお兄ちゃんはバレンナを置いて行って帰ってこないじゃない」
バレンナの赤く腫らした目から涙が落ちた。
「俺はバレンナが困っていれば助けるし、俺が困っているときはバレンナとナビとラズリに助けてほしいと思っている」
「……」
「バレンナは、俺とナビに何かあったとき自分だけ蚊帳の外なのがいやなのか」
「うん」
バレンナの瞳が置いていかないでと訴えているように感じた。
「わかった、危険が迫ったらみんなでトニーの中に隠れよう、危ない時も楽しい時もいっしょだ」
「うん、いっしょがいい」
バレンナの目から次から次へと涙が落ちるのを見て、ナビがバレンナの頭を胸に抱きしめ髪をやさしく撫でる。ラズリも泣きそうな顔をしてバレンナの手と腕にかるく手を添えている。
「ラズリもいっしょでいいか?」
「ん、いっしょ」
いままでラズリが何を考えているのかわからなかったが青い片目に力を感じた。
しんみりとした場を盛り上げようと俺は言ってしまった。
「トニーの腹の中は狭いから4人で隠れたらお兄ちゃん、バレンナやラズリのいろいろな所を触っちゃうかもしれんけど、ごめんな。でも、揉んだり撫でたりしないから大丈夫だぞ」
「「……」」
ナビがバレンナから離れゆっくり拳を固めながら俺に近づいてくる。笑顔は可愛いが目が笑っていない。
「サブロー、最低なお兄ちゃんだよ」
げぶっ! 何かが俺にボデーに炸裂した。
薄れゆく意識の中で「兄さんのバカ」とバレンナの照れたつぶやきが聞こえたような気がした。
◇
その晩バレンナはナビに身の上を話したらしい。後にナビに聞いた話だ。
バレンナの母親は物心つく前に流行病で亡くなっていて、バレンナは父親と兄の3人で生活していた。ある日、父親と兄が狩りに出かけようとしたとき、バレンナも連れてってほしいと願ったらしい。しかし、まだ小さかったバレンナは足手まといとなるのでダメだ、留守番していろと言われたのだが、しつこく連れてってとごねた。兄から邪魔だから来るなというような言われ方をしたそうだ。
その日、父親と兄は帰って来なかった。いっしょに狩りにいった村人の話しでは、魔獣が出てバレンナの兄が襲われ、助けようとした父親も魔獣に襲われたらしい。
狩りに参加した約半数だけが怪我を負いながらも村に戻ることが出来たそうだ。すぐに村人総出で襲われた現場に行ったが戦った痕跡は残っているもののだれひとり見つからなかったそうだ。
バレンナは邪魔だから置いていかれる、邪魔だから村から出される、と思っていたそうだ。
だから、トニーに隠れて村に戻るのも、邪魔だからまた追い出されるのだと感じたらしい。
なんだよナビ、俺、正解じゃん! バレンナは揉まれたり撫でられたりされても一緒がいいんだよ。
……
ん?
……
すいませんナビさん、調子に乗りました。この通り土下座しますので堪忍してください。
……
はい? 立ってて。はい、すぐ立ちます。
……
げぶっ!
バレンナ、ラズリが妹になりました。4人で町に行きます。
トニーは4人乗り、ずんぐりとしたトカゲです。
次回、頭の上にあるものといえば
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2016/12/16 魔物→魔獣に変更




