127 バレンナとラズリから
◇
俺とナビが無事ドラゴンを棲みかに帰した、もとい知り合いの人を助けた日から数日たった。俺のサーナバラでの仕事もほぼ終わり、ホスバもベリーグから戻った。
板ガラスは、事前に連絡しておいたロゼナ商会に卸し大商いとなった。ただ、やはりガラス製品、運送中に破損した物もあった。ガラス製品の破損については、陸運ではしかたないだろう。しかし、破損したガラスも使い道があるからとロゼナ商会が買ったそうだ。
うーん、水運も考えないとダメかな。すると問題は滝か。迂回の運河を造って閘門式の水のエレベーターも造らないとダメだな。運河とエレベーター造りは、さすがに俺の仕事になりそうだ。
温泉に浸かりながら、俺はそんな事を考えながら過ごしていたら、遠征中のバレンナとラズリから手紙が来た。宛名が俺とナビだったので、領主館でいっしょに読むことにした。俺はバレンナの手紙から、ナビはラズリの手紙から読み始めた。
どれどれ、バレンナの手紙は。
◇
サブロー兄さん、ナビ姉へ
サブロー兄さん、ナビ姉、お元気ですか。バレンナは元気です。ラズリも元気です。
こちらの気候や水は、あまりサーナバラと変わりません。サーナバラ軍のみんなも元気にやっています。
さて、サブロー兄さんの作戦のお蔭で、王国南地方の貴族たちとの戦いにも勝つ事が出来ました。作戦をありがとう。
そのあとも、迷ったときの解決方法で南地方を占領しながら西にどんどん進んでいます。
南地方の貴族たちが挨拶に来たり、南の蛮族から使者が来たり、捕虜が増えたり、占領した町や村や砦が増えたり、とにかくいろいろな事が増えています。
人手が足りません、サブロー兄さん、ナビ姉、助けて
バレンナより
◇
バレンナ、ラズリ、ふたりとも元気でやっているようで良かったよ。でも、南地方を占領しながら進んでいるってどういうこと?
南地方と東地方の境で、戦わないようにするはずじゃあなかったのか。それに、迷ったときの解決方法ってなんのことだろう。なんだったか覚えてない。
ラズリの手紙を読み終えたナビが、俺を待っていたので早速、手紙を交換した。
次の一通、ラズリの手紙だ。
◇
サブロー兄、ナビ姉へ
バレンナ、ラズリ、元気。サブロー兄、ナビ姉、元気?
人不足、治安悪化。人送れ
ラズリ
◇
短かっ、短過ぎだよ、ラズリ。電報か。
でも、内容はわかった。ナビもバレンナの手紙を読み終えたみたいで俺を見る。
「良かったね、ふたりとも元気みたいで。でも、困っているみたいだね」
「そうだな。良くわからないけど、どんどん南地方を攻めてってるみたいだな。みんなどうしたんだろ。そんなに領地か欲しかったのかな。たくさん領地があっても大変なだけなんだけどな」
「本当にサブローは残念さんだよ。偉い人は働かないんだよ、扇子を扇がせて部下に働けって命令するだけで。このままバレンナとラズリが頑張ったら、サブローが王様だよ。ハーレムだよ」
「いやいや、そんな人は偉くないから。偉いと単なる役割とは違うから。王様とか貴族は偉くないと思うぞ、彼らは単なる役割だから」
「でも、人に命令するよ」
「人に命令できるからって自分は偉いと思う奴等っているんだよな。それ違うから、偉いってのは尊敬される事だから、命令していても尊敬されてなければ偉くないから」
「じゃあ、サブロー全然偉くないじゃない。村のみんなから便利屋のように使われて、でもあま、みんなから慕われてはいるよね」
「ああ、俺はそれで良いんだよ。俺が偉かったりしたら、次の領主が困るだろ、先代は偉かったのにって。だから俺は抜けているぐらいがちょうど良いんだよ」
「全く、サブローはダメダメだよ」
とナビは俺にダメと言う割には笑顔だ。その笑顔だけでも、俺のやっている事は間違ってないと思えた。ありがとよ、ナビ。
さて、王国の南地方の件、どうしようか。単純に人手が足りない訳じゃない、問題は増やした人手で何をやりたいかだ。たぶん、ヒントはラズリの手紙。
ナビに鍛えられた推理力を使え俺。
俺の推理はこうだ。
南地方の貴族たちは、サーナバラ軍と戦い敗れた。亡くなるか、捕虜になるか、逃げ帰って閉じ籠るか、とにかく自分の領地の治安活動が出来なくなる事態になっているはずだ。それに、仮に身代金を払って解放されても資金がなくて治安維持どころでもないだろう。
では、何が問題か。町であれば有力者が金を出し治安維持のために人を雇うことも出来るだろう。だが、農村はそうもいかない、自衛するのみ。
南地方の貴族たちに雇われた傭兵たちは、彼らからはお金がもらえず野盗化。野盗となった傭兵たちに襲われて食えなくなった村人たちも野盗化といった悪循環になっているのではないだろうか。
手紙の依頼内容の結論だ。目的は王国南地方の治安維持。それに人を出せだ。
「どうだ、ナビ。俺の推理は」
「まあまあね」
何がまあまあね、なんだよ、俺の灰色の脳ミソが活躍したのに。
「サブロー、まあまあの理由がわかったかしら」
リッテアさんの真似するな。何が足りない。足りないものはなんだ。唸れ、俺の灰色の脳ミソ。
ムムムム
「わからん」
「サブロー、まだまだだね。仕方ないから教えてあげるよ」
ムムムム、俺は、まあまあで、まだまだの男らしい。
「バレンナとラズリは優しい娘なんだよ」
もちろん、知っている。だって俺の自慢の妹たちだ。ナビ、お前もだぞ。
「あの娘たちは、農村が荒れていくのが哀しかったのよ。だから、サブローに助けを求めたの」
「……」
「まるで自分の村や村人たちが困っているように感じるのよ。そして、その原因も自分たちなんだってわかっている。でも、自分たちでなんとか出来ないから助けてなんだよ。サブローは、どうするのかしら」
「ああ、もちろん、行くさ。バレンナとラズリのもとに、俺はお兄ちゃんだからな。妹たちのサインを見逃すわけにはいかないよ」
ナビが微笑んで俺を見る。そして、悪巧みの顔になり俺に言った。
「じゃあ、いろいろ準備しなきゃね」
俺はニヤリとしてナビに答える。
「おうよ、ナビ。今夜は寝せないぞ」
「フフフフ、望むところよ」
「出来るまでやるからな」
「いいわよ」
あの、そこでこっそり聞いているフィナちゃん。これは、変な話じゃないからね。勘違いしないように。
バレンナとラズリからの手紙でした。サブローとナビは南地方へと行くことにしました。
次回、貴女に忠誠を