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125 帰ってもらえ

 ◇


 俺はナビを探した。行き先は見当がつく、食べ物屋だ。串焼き屋でなければ、コネロド商会に入り浸るのがナビの定番。番頭がナビの事には触れていなかったので、ナビは串焼き屋にいるはず。冴え渡る俺の灰色の脳ミソ、今日もきっと旨いはずだ。


 俺は串焼き屋に行った。しかし、ナビは串焼き屋にいない。


 あれ、どこに行った。あいつは食い物の次も食い物のはずだ。あと、何かやってたか……。


 俺は空を見上げ思い浮かべる。ナビの興味のある事を。


 服か、ファッションだな。ということは服屋か。俺はナビの馴染みの店なんて知らないぞ。


 俺は手当たり次第、服屋に入りナビが来ていないかを聞いた。そして数件目の店でナビを見つけた。俺が息を切らしながら近づくと、ナビが俺に気付き声をかけてくれる。


「サブロー、どうしたの、青い顔して。お腹でも壊した。どうせ変な物でも食べたんでしょ」


 ナビ、お前じゃあないから、俺は、変な物は食べないぞ。


「ナビちゃん、これは、売れないと思うな、おじさん。さすがに、これは早いよ。王国で流行っているのかもしれないけど。うん、これは早い」

 店主のおじさんから声をかけられ、俺に興味を無くしたナビは、店主のおじさんと話を再開した。


「そうかな、次はこれが来ると思うんだけど。じゃあこっちは」


 店主のおじさんが、服のサンプルを持ち上げる。持ち上げられたその服は、生地の少ない下半身用の服だった。


 あっ、それはないわ。ナビ、早いよ。早すぎるよ。ミニスカート。まあ、膝上じゃあなさそうだけど。


「ナビちゃん。おじさんはこれも難しいと思うぞ。男は食いつくかも知れんが、売り物となるとな」

 おじさんは難しい顔をしてナビに言う。


「そうか、まだまだ早いのか。わかったよ、おじさん。前回と同じような服で良いのかな」

「そうしてくれ」

「毎度あり、じゃあ出来上がったら持ってくるね」

「よろしく。とりあえず、それらはサンプルで飾ってはおくよ、ナビちゃん」

「ありがとう、おじさん」


 ナビと服屋の商談が終わったようだ。俺は、服屋から外に出たナビを捕まえ周りに人がいない事を確認して声をかけた。


「ナビ、ドラゴンが出てパオースの方に向かっているみたいだ。滝のドラゴンかもしれない」

「えっ、ドラちゃんが、なんで?」


 いやいや、俺に首を傾げられても、俺も知らんがな。


「わからん、パオースの町の兵士たちが牽制のため出たみたいなんだ。なんでドラゴンがパオースの町に向かっているかだが」


 心当たりはある。滝でナビと別れるとき、あのドラゴンは別れがたそうにしていたからだ。ナビに頼まれた事を終えて追いかけてきているんじゃないのか。


「ナビを追いかけてきているんじゃないのか」

「あっ」

 ナビが何かわかったように叫んだ。


 あっ、て何だよ。あっ、て。心当たりがあるんだな。


 ナビが上目遣いで俺を見詰める。


 ダメだぞ。可愛いからといって、俺には通用しないからな。たぶん。


「ドラちゃんが、滝周辺の魔素をもとの状態に戻したらお供するとか、しないとか言った時にうんと言ったような、言わなかったような」


 どっちやねん。


「それだ、きっとそれだ。滝周辺の魔素を元通りにしたんだよ。それでパオースに向かって来ているんじゃないか」

「どうしよう。どうしようか、サブロー」


「帰ってもらえ。棲みかに帰ってもらえ。こんなところにドラゴンがいたら騒ぎになるだろう。てか、もう騒ぎになっているし。ナビのせいだってわかったら、もっと大きな騒ぎになるぞ。大好きな串焼きを食っている暇がなくなるぐらい」


「なんでよう。私、悪くないよ。ワルいのはドラちゃんだもん」

 ナビがアヒル口になり俺に抗議する。


 確かにナビは悪くない。当事者はそれで良いのだが、世間は違う。世間とはかくも恐ろしいのだ。話が独り歩きした上に、背びれ尾ひれが勝手に付くものなのだ。このままだと、ナビはドラゴン使いにされてしまうだろう。王国の内戦に連れ出される事が、容易に想像がつく。


「そうだ。ナビは悪くない。そして、ドラゴンも悪くない。悪いのは世の中だ。世間の奴等だ。世間の悪い奴等が、お前とドラゴンを利用しようと集まって来るぞ。それこそ、内戦真っ最中の王国から、うじゃうじゃと鬱陶しいぐらいに」


「そんなあ、私の串焼きが。王国に海鮮焼きはあるの?」


 王国が海に面しているか、俺は知らない。ここは嘘も方便。


「たぶん、ない。それに食べている暇もないぐらい。王国連中は、働け働けと鞭打ってくるぞ。サーナバラのブラックな仕事なんか優しく思えるほどに」


 ナビの顔が引き締まり俺に言った。

「うん、わかった。ドラちゃんには帰ってもらう。うん、それが良いよ」


 俺もナビに合わせ、そうだ、そうだ、それが良いと頭を縦に振る。良し、そうと決まれば急ごう。町の兵士たちと一戦が始まってなければ良いのだが。


「ナビ、パオースの東門に馬を用意している。急ごう」

「うん、それは良いんだけど。どうやって誤魔化そう」


 俺たちは東門に向かって歩きながら話をする。


「そうだな、実はドラゴンじゃありませんでしたってのが、一番良いだけどね」


「はっ、良いこと思い付いちゃった。サブロー、東門まで急ごう」

 ナビが何か閃いて顔が明るくなった。


 俺たちがパオースの東門に着くと何故か、馬が5頭とガウスがいた。ナビは待っていた人たちに挨拶だけして馬に乗ると、ちょっと待っててと言い残しサーナバラの方に駆けて行った。


 どこ行くんだよ、ナビ。何でも良いから早く戻ってこいよ。


「ガウスさんも付いてくるんですか」

「我輩も行くのである。ここはシスター・マリアンと子供たちの家なのである。かけがえのない家なのである。我輩はその家を守るのが使命。いや運命なのである」


 ガウス、そんなに拳を振らなくても良いよ。俺はもう諦めているから。パーク、リッテア夫妻といい、ガウスといい、もと南地方の貴族なのに、そんなに熱いのはなぜだろう。


 暑い土地の生まれだから熱いのか、なんちゃって……俺、疲れているのかな。


「いざというときは、皆さん逃げてくださいね」


 俺が3人に言うと、パークとリッテアはここに残りなさい、いえ、いつもいっしょよとイチャイチャしだし、ガウスは拳を握り、運命が、使命がと呟いている。


 たぶん、これが疲れる原因なんだと思う。ナビ、早く戻って来てくれ。


 俺の願いが通じたのか、ナビは大きな鞄を馬に括り着けて戻って来た。


「お待たせ、サブロー、みんな」

「良し、みんな準備はいいな。ドラゴンの所まで行くぞ」


 俺が号令をかけると、みんな馬に乗りパオースの東門から出ていった。俺を置いて。


 ああ、まだ俺は馬に上手く乗れないよ。


 パカパカと俺の乗る馬は、みんなを追いかけた。




サブローとナビは、ドラゴンに滝の神殿まで帰ってもらうことにしました。


次回、ドラゴンじゃない

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