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119 騎士ナルベルト

 ◇


「ソル殿、ひさしぶりだ。次は俺が相手をさせてもらおう」

 ナルベルトはそう言うと、ブンブンと木の短槍を音が鳴るぐらい振り回した。


「……」


「館の戦いでのソル殿の戦いを見ていたが、あれは血が騒ぐ戦いであった。あの時の戦いを見せてくれ」


「……」


 あれっ、ソルに反応がない。ひょっとしたらナルベルトを覚えていないのかも。そうだ、きっと、ナルベルトと話したこともないに違いない。


 言うなればパオースの町の市議会の人と同じだ。相手は有名人だからこちらは良く知っているけど、こちらは相手の有名人から見たら一村人に過ぎないので良く知らない。それと同じで、ナルベルトからするとソルは良く知っている人だけど、ソルはナルベルトのことは良く知らない人だ。


 ナルベルトさん、頑張れ。私も良くは知らない人だけどね。


「次は、ナルベルトか。これは期待できるか」

「御屋形様、ご期待あれ」


 ナルベルトが木の短槍を構えてソルを見る。じっくりと隙を探っているようだ。ナルベルトは焦らず、じりじりと間合いを少しづつ詰め始めた。


 これまで戦った騎士たちが間合いを詰められ、謎の手技で投げ飛ばされている。あまり近づかないよう、だが短槍の間合いで戦えるように計っている。


 短槍の間合いに入った途端、ナルベルトは短槍で突き始めた。


「フンッ、フンッ、フンッ」


 吐く息に合わせて短槍が突き出される。


 キン、キン、キン


 ソルは木刀で短槍を弾く。


 さすが、ナルベルトさん速い。それを凌ぐソルも凄いけど。


 ナルベルトは、大男の癖に動きに無駄がなく動作が速い。ナルベルトの短槍は急所だけでなく、手、腕、足先も狙って突き出される。さらにソルの木刀を弾こうとする動きも見せた。


 凄い。強いよナルベルトさん。


 ナルベルトが突く。


 キン


 ソルが木刀でその突きを弾き、前に踏み込んで消えた。そして、すぐにもとの位置に現れた。


 何?


 ソルとナルベルトの間合いが広がっている。


「なんと、恐れ入った。ソル殿は縮地も使われるのか」


 なるほど、ソルが消えたのは縮地でナルベルトの懐に入ったんだ。でも、それに気づいたナルベルトが咄嗟に後ろに下がった。だから、ソルがもとの位置に戻ったってことで合っているかな。


「面白い、面白いぞ、ソル殿」


 ナルベルトは構えを変えて、ソルに向かって間合いを詰める。


 ナルベルトの持つ短槍が揺れた。ソルの頭に向かって短槍が突き出される。


 キン


 だが、ソルの木刀は足下の短槍を弾いた。


 もう、何?


 そして、ソルの右側を狙った短槍が、ソルの左側で弾かれる。


 わかった。フェイントだ。だけど判っただけでかわせないよ。あんなフェイント。絶対引っかかる自身があるよ。


「なんと、これも通用せぬのか。強い、強いぞ、ソル殿」


 フェイントが通用しないと見たナルベルトは、力任せの技に出た。短槍の柄の端を持ち短槍を振り回して力任せに叩きつける。


 ギキン、ギキン


 一撃一撃が重いのだろう、今までの木刀で凌ぐ音とは違っている。


 ソルが縮地の構えを見せるとナルベルトは間合い取る。そして、近づいて重い一撃を振るってくる。お互いに決め手をかいていた。いや、まだふたりとも全ては見せていない。


 ソルがまた縮地を見せるとナルベルトとの間合いが広がった。ソルは首を傾げて考えている。そして、端から見ていても何かに気づいたのがわかった。少し笑ったからだ。


 ソルは木刀を腰に戻した。しかし、木刀には手を添えている。


「ん、ソルの魔素が多くなった」

「えっ」


 ラズリが言った事が良くわからない。


 ソルとナルベルトの動きが止まった。戦いを見ている者たちも次に何が起こるのかと固唾を飲んでいる。戦いの場が静まり返っていた。


 ナルベルトはその構えを警戒したが、何も攻撃される事がないとわかると、短槍の間合いから重い一撃を加えようとソルの頭の上から短槍を振り下ろした。


 キーン


 ナルベルトは、振るった短槍が凌がれたので、もう一度振るおうとして止めた。


「なんと」


 ナルベルトは自分の短槍を見ている。


「ナルベルト、お前の敗けだ」

 ヨーマイン太守がナルベルトに告げる。


「ソル殿、見事だ。俺の敗けだ」

 ナルベルトが敗けを認め、ナルベルトとの手合わせは終わった。その途端、観衆が爆発した。戦いの凄さを感じていた者たちがふたりを褒め称える。声だけではなく拍手も贈る。


 私もびっくりした。ソルが降り下ろされた木の短槍を、腰に構えた木刀を振り抜いて切ったのだ。只の木の短槍だったらあり得るかも知れない。しかし、この戦いでは魔力強化で切れるような木の短槍ではないはずだ。想像も出来ないぐらいの魔力強化された木刀で魔力強化そのものを切ったのだろう。ラズリが途中でソルの魔素が多くなったと言った事に関係するのかな。


 ふたりとも凄すぎるよ。もう。


 奥様と私とラズリも立ち上がり、ふたりに拍手を贈る。


「最後は、俺がソル殿に手合わせしてもらうかと思っていたが止めておこう。ナルベルトほどの戦いを皆に見せることは出来ないからな。みなの者、これにて手合わせは終わりだ。どうだヨーマインの騎士たちよ、強者とはどのような者を言うのか。ヨーマインの騎士たちよ、強者を目指し精進せよ」


「「「おうっ」」」


 ヨーマイン太守が部下の騎士たちに熱く語りかけた。そして、騎士たちも応えようと声を上げてた。


 ソルが私たちのもとに帰って来た。私はソルに声をかける。


「ソル、ご苦労様。最後は凄かったね。あれも技なの」

「そうだ。(あるじ)から教えてもらった、居合と言う技だ」


 やっぱり、サブロー兄さんの教えだよ。ソルの強さの原因は絶対、サブロー兄さんだよね。


 ◇


 盛り上がったソルとの手合わせは終わり、簡単な昼を取ってから私たちサーナバラ軍は隊列を作って南地方と東地方の境を目指して出発した。


 私が馬に乗ろうとすると、見送りに来た奥様から声がかかった。


「バレンナさん、ラズリさん、無理はしないのよ。ソル殿もよ。そして必ず無事に戻ってくるのよ」

「はい、奥様。お世話になりました」

「帰りも必ずヨーマインに寄ってね」

「はい。では、行ってきます」


 そう言って私とラズリとソルは馬に跨がった。奥様に手を振ってから、みんなに遅れないように馬を走らせた。


 私たちサーナバラ軍は南地方に向かって進んだ。




ヨーマインを後にして南地方にサーナラバ軍が進軍します。ソルはナルベルトと会話した事がなかったようです。


次回、(王国)姫様を守るんです

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