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118 我がヨーマイン軍旗の下に

 ◇


 広いテーブルを囲んで4人の男女が座り、菓子をお供にお茶を飲んでいた。座る者たちの後ろにはそれぞれの従者やメイドを従えて。


 向かいには、笑顔のヨーマイン太守夫妻が座っている。奥様が私を見て微笑んでくれる。


「ようこそ、いらっしゃい、バレンナさん。この度の遠征はご苦労様ですね。何か困り事があったら私に言ってね。無理を言うのはきっとモシャバ様でしょうから」


「おお、サクレ。俺は悪者かい」

「そうですわよ、殿方はいつも乙女の敵ですもの」


 私は、特に困ってませんよと奥様に言いたかったが、ヨーマイン太守夫婦が楽しげに言葉を交わしてじゃれあっているのを邪魔しないよう黙っている。


「ところで、バレンナ殿、隣のお嬢様はどなたかな。私たちに紹介してもらえないだろうか」

「はい、紹介しますね。ここにいるのは、サーナバラ領主サブロー・サーナバラの3番目の妹、ラズリ・サーナバラです。私の妹で術者なんです。よろしくお願いします」


「私、ラズリ、よろしくお願いします」

 ラズリは、ペコリと少しだけ頷くようなお辞儀をした。


「ラズリさん、よろしくね。畏まらなくても大丈夫よ。話はバレンナさんから聞いていますから。私はサクレ・ヨーマイン。隣にいる素敵な人が私の旦那様で、モシャバ・ヨーマイン、この町の太守よ。ようこそヨーマインへ歓迎するわ」


 ラズリは言葉を発せず、またペコリとした。ラズリが緊張しているのがわかる。


「サブロー殿は、可愛い妹が3人もいて羨ましいものだ。さぞかし嫁に出すときは悔しがるに違いない。そんな時はヨーマインに遊びに来いと伝えておいてくれ」

「モシャバ様、サブロー様はそんな悔しがるような方ではありませんわよ。心から祝福して妹たちを送り出してくれるわよね、バレンナさん」


「ええ、たぶん」

 私は硬い笑顔で奥様に返事する。


 私には笑顔で送り出してくれるサブロー兄さんの情景が思い付かない。泣き崩れて行かないでと手を伸ばすサブロー兄さんの姿しか想像できない。フフフフ。


 私の硬い笑顔が本当の笑顔に変わったのを感じたのか、奥様が優しい声で言った。


「バレンナさんは本当にお兄様の事がお好きなのね。ラズリさんもかしら」

「いや、私は、いや、そうじゃなくて、サブロー兄さんの事は」

「ん、好き。バレンナもサブロー兄が好き」

「ラズリぃ」


 私は、たぶん真っ赤になっている事だろう。もう、ラズリ。


「さて、紹介もすんだ事だし本題に入ろうか」

 モシャバが私にウィンクしてくる。


 助かった。モシャバさんありがとう。


「これだから、殿方は乙女の敵なのよ。ねえ、モシャバ様」

 奥様が微笑みながらモシャバを嗜めた。


「さて、本題に入る。約束通りサーナバラ軍には南地方の貴族たちの相手をしてもらいたい。なに、のらりくらりと相手をしてくれれば良い。それと補給だが、ヨーマインの商人組合にはサーナバラ軍相手にあまり利益を出すなと良く言っておいた。せっかくヨーマインまで来てもらったが南に行ってもらう。よろしいかな」


 パオースの町からヨーマインの町へは、ほぼ北西への道となる。そして、ヨーマインの町から南地方への街道は南西への道。パオースから南地方へは真っ直ぐ西へ行った方が近いのだが道がない。いや、ずいぶんと古くに破棄された古道があるようだ。その道には大きな町がなかったのと魔獣や盗賊の跋扈(ばっこ)により人が通らなくなったため破棄されたと聞いた。すでにどのような道となっているか想像もつかないと。だから大回りでもヨーマイン経由で南地方に進軍することになったのだ。


 私は、後ろに控えているオドンとソルに視線を投げる。ふたりとも頷いた。


「はい、問題ありません。ヨーマイン軍は明日の午前から南地方に進軍させてもらいます」

「申し訳ないが、午後からの出発にしてもらえないだろうか」


 はてな。どうしてだろう。


 私が不思議そうな顔をしていたのだろう、モシャバがその疑問を解決してくれた。


「ソル殿を貸して欲しいのだ、明日の午前に。我が軍の騎士どもがどうしても手合わせさせてもらいたいと、どうだろうか?」


 私はソルを見た。


「問題ない」


 ソルがいつものように短く答えた。いつものメイド姿の腰に刀の一本差して。もう一本はサブロー兄さんに預けて来たらしいけど。


「そうか、そうか、バレンナ殿、ソル殿悪いな」


 モシャバは部下たちの願いが叶ったので、とても嬉しそうだ。


「旦那様は本当にもう。だから言ったでしょう。殿方は乙女の敵だって。バレンナさんも、ラズリさんも、ソル殿も気を付けるのよ殿方には」


 そう言った奥様もとても嬉しそうな笑顔だ。夫が嬉しそうにしているのが良いのだろう。


 その後、モシャバは用事があるからと席を外し女性だけで戦いではない話に花を咲かせた。


 ◇


 翌日、ヨーマインの町の郊外にサーナバラ軍とヨーマイン太守配下の騎士たちが集結していた。そして、中央を大きく空けて円陣を組んでいた。中央が大きく空いているのは、ソルとの戦闘訓練の戦う場のためと、誰もがその戦いを見られるようにだ。私は、奥様たちと天幕の中の椅子に座って観戦だ。


 中央の空き地にはヨーマイン太守が立ち、声を上げている。


「みなの者、我らヨーマイン騎士のためにソル殿が手合わせをしてくれる。思う存分、鍛えてもらうが良い」

「「「おうっ」」」


 ヨーマイン太守自らが戦闘訓練の音頭を取って盛り上げている。円陣の中から中央の空き地にメイド姿のソルが現れると歓声が上がった。サーナバラ軍、そしてヨーマイン太守の館の戦いでソルの戦いを見ていた者たちの歓声だ。


「手合わせを望む騎士は、我がヨーマイン軍旗の下に集まるが良い」


 すると、ぞろぞろと旗の下に騎士が集まった。ヨーマイン太守の館の戦いでは見なかった騎士たちだ。ソルの強さを話でしか知らない者たち、話で語られるソルの強さに懐疑的な者たち。


「ソル殿、始めて良いかな」

 ヨーマイン太守がソルに聞く。


「問題ない」


「よし、始めろ」

 ヨーマイン太守が旗の下の騎士たちに号令した。そして、騎士のひとりが中央の空き地に進み出て木剣を構えた。それに合わせてソルも反りの入った片刃の刀に似せた木剣、木刀を構えた。お互いに魔力強化したのが感じられる。


 ソルは自然体で木刀を下ろして待ち構えている。ソルが動かないことに痺れた騎士が、ソルに斬りかかった。


 キンキン


 騎士の木剣をソルは木刀で受ける。魔力強化特有の音が響く。そして、ソルと騎士が交差したと思ったら、騎士の体が空中に投げ出されぐるりと一回転して地に叩きつけられた。


 どよめきが起きた。


 地に倒れた騎士は痛みをこらえて立ち上がったが、何が起きたのかわからない顔だ。


 あれは、ソルと戦った誰もが一度は通る道。サブロー兄さんがソルに教えた、相手の力で相手を投げるという技だ。もう、サブロー兄さんがどんどん変な技をソルに教えるものだから手がつけられないよ。


 次々と戦いを挑む騎士たちは投げられていった。その度に空き地を囲む者たちの歓声が上がる。戦いに興奮する者たちだ。しかし、歓声を上げない者たちがいる。旗の下の集まっている騎士たちだ。ソルの技を見極めようと静かに戦いを見守っていた。


 そして、騎士ナルベルトが木の短槍を持って現れた。




バレンナとラズリはヨーマインに寄り、太守夫妻に挨拶して南地方へと行きます。太守からの頼みは断れませんでした。


次回、騎士ナルベルト


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