117 この状況の敗因
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俺の名前はサブロー。これから、ナビに結婚を申し込む。
「ナビ。俺はナビが好きなんだ。結婚してくれ」
俺は、片膝を床に着けナビに花束を差し出して言った。しかし、ナビは首を傾げて俺に言葉を返す。
「うーん、ダメかな」
俺はがっくりと項垂れた。しかし、俺はめげない男だ。再び、片膝を床に着けたままナビに花束を差し出し告白する。
「ナビ。ふたりで幸せになろう。結婚して幸せになろう」
「うーん、何かいまいちなんだよね」
ぐぬぬぬ
この路線では響かないのだろうか。少し派手さを入れてみるか。俺は立ち上がりミージカルのように身振り手振りで告白を始めた。
「おお、麗しのナビ。君はどうしてそんなに美しいんだ。雨上がりの新緑のようにキラキラと輝く瞳。青空に浮かぶ雲のように白い肌。そして君の暖かい心が滲み出ている銀桃色の髪。まるで、この世に舞い降りた天使だ。そんな君を独り占めにするのは罪かも知れない。しかし、俺は君に恋をしたんだ。ナビ、結婚してほしい。どうか俺の愛を受け取ってほしい」
告白の最後に合わせ両方の膝で床に立ち、ナビを見上げて花束を差し出した。
「うん、なかなか良いじゃない。もう少しかな」
なるほど、ナビの嬉しがるポイントがわかってきたぞ。俺は片膝だけ床につけ花束を差し出して告白をやり直した。
「ナビ、俺と結婚してくれ。ナビは毎日美味しい物を食べて温泉でのんびりと過ごしてくれれば良い。俺が稼ぐ」
これならどうだ。
「そうお、仕方ないなあ。そこまで言うんだったらサブローと結婚してあげるよ。美味しい物と温泉はよろしくね」
ナビはそう言うと俺の差し出した花束を受け取ってくれた。
「うおおぉぉ、よし、やったああぁぁ」
俺は立ち上がり両手を天に突き上げ、喜びの咆哮を上げた。
ところが、俺の告白を見ていた者たちから批判が出た。
「格式と伝統が感じられないのである。この地で庭師となったとはいえ、我輩ももと貴族。重厚さがほしいのである」
「恋愛要素が足りていないのではないかしら。初々しい恋心や切ないほどの愛を感じられませんわ。もっともっと、恋心や愛を入れなくては」
「サブロー様、ナビ様、最後のは一番酷い出来かと。確かに結婚後の生活についてあらかじめ約束するのは良いと思いますが、結婚を物で釣るのは如何なものかと。また、その告白でお受けするのも如何なものかと思いますよ」
もと南地方の王国軍将軍のガウス・ベイザー、同じくもと参謀のパーク・バングリン、そして彼の奥さんのリッテア・バングリン 。その3人からの批判だ。
「えぇ、私もダメなの。サブローのせいで私もダメ出しされちゃったよ」
こらナビ、ちょっと待て。俺が悪いのか? いやいや、そんな話じゃあなかったよね。
事の始まりは、ガウスがシスターマリアンに母の面影を感じて一目惚れ。これからの人生をいっしょに生きていきたいと思い、俺たちに相談した。結婚を申し込みたいがどうしたら良いかと。なぜかというと、貴族では家の者たちが結婚を手配してしまうので、庶民がどのように告白をするのか良くわからないと、俺とナビにお鉢が回ってきた。だが、このダメ出しだ。
そうそう、シスターの名前はマリアンと言った。俺も知らなかったのだがガウスが聞き出したらしい。シスターもガウスの事はまんざらでない様子と子供たちから聞いている。
シスターも男の人には初で正直騙されないか不安な処がある。しかし、ガウスは変わってはいるが悪い人ではなさそうなので応援したいと思っている。
「俺たち庶民は、ストレートに告白するんです。俺と結婚してほしいって。告白の相手役がナビだったので少し捻りましたけど。一般的じゃないですよ、もちろん」
「でもさ、サブロー。恋する乙女としては劇的な告白を期待するわけでしょ。後で思い出してもうっとりするような。ああ、私って愛されてるみたいな」
誰が恋する乙女だよ。食い物で釣れたじゃねえか、ナビは。
「ナビ様の言うとおりですわ。結婚の告白は舞台。恋する乙女はお姫様。そのお姫様に恋して告白する殿方は王子様。最高の舞台、最高の時間、そして最高の告白。それが結婚の告白なのではないかしら」
おいおい、リッテアが難易度上げるよ。ガウスの顔色が悪くなってきたじゃないか。この責任は旦那であるパークに取ってもらおう。さっきの俺へのダメ出しもあるし、ずっと関係ないですよ俺はのような顔をしているしな。
「パークさんは奥さんに感動するような結婚の申し込みをしたんですか」
「いえ、私とリッテアはお見合いで何度か会って話しをして、お互いに気に入ったので家を通しての申し込みで結婚しました。特に本人に申し込みをしたわけではありませんでしたよ」
かかったな。参謀たる者、味方にも油断しゃダメだぞ。
「それは良かった。今からでも奥さんに申し込んではどうですか」
「えっ?」
パークがしまったという顔をして固まった。そんな旦那の事はお構いなしにリッテアが嬉しそうに言った。
「サブロー様、それは良いアイデアですわ。旦那様、今からでも遅くはありませんわ。どうぞ言ってくださいまし」
パークの額にたらりと汗が。
パーク頑張れ。俺は応援する。
「我輩はシスターマリアンに何と申し込んだら良いのであるか。サブロー様、お力を」
「ガウスさん、素直に好きです、愛してます、結婚してくださいでどうでしょう」
「サブロー、それじゃあ捻りも何もないじゃない。つまらないよ」
「そうですわよ、乙女のハレの舞台ですのよ。もっと夢をですわ」
「ムムムム」
ガウスが困った顔で唸る。
「サブロー様、私は何とリッテアに言ったら夢を叶えて上げられるでしょうか。お力を」
「パークさん、男はストレートに愛している、結婚しようでどうでしょう」
「もう結婚しているよ、それはないんじゃないの、サブロー。もっとドラマチックに」
「旦那様、期待していますわ」
リッテアが期待した目でパークを見詰める。
「ムムムム」
パークが困った顔で唸った。
「サブローもちゃんと考えてあげなさいよ。将来困るわよ」
「そうですわね、未来のお嫁さんが期待していますわよ。でもサブロー様は思いの外、文才がないのかしら」
ふたりとも俺の事は放っといてくれ。
「ムムムム」
俺は困った顔で唸る。
俺たち男3人が困った顔で唸る。この状況の敗因は男たちだけで相談しなかった事だっだ。
男の悩みは、男同士で相談するに限ります。
次回、我がヨーマイン軍旗の下に




