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109 3人とも可愛いなあ

 ◇


 ヨーマイン太守に協力して軍を出す話し合いには、ホスバといっしょに望んだ。


 ホスバは、サーナバラの現状を訴え、軍を出させるならば戦費を全額負担しろとヨーマイン太守に迫り、ヨーマイン太守はそんな話は聞いたことがないと切り返す。すると、戦費は5分の4で良いから、ヨーマインの町での直接物販権を寄越せとまた迫る。それとこれとは別だとヨーマイン太守はにべもない。


 むむむ、むむむ、とお互い頭を付き合わせホスバとヨーマイン太守は妥協点を探している。すぐに決着の着きそうもないふたりの姿を見ている内に、俺はうとうとと眠りに落ちていった。


 ◇


 これは、どこかで見た光景だ。俺のいる場所は小高い丘になっていて一面みどりの絨毯になっている。丘の頂きに枝振りの良い大木が一本だけ。俺はその木の根本に座り幹に寄りかかって前を眺めている。


 眼下には湖が拡がっていて、風がそよそよと吹いているのだろう、湖面が日の光でキラキラと輝いている。

 雲のない青い空が拡がり、ぽっかりと大きな白い月が出ていた。

 爽やかな風が俺を優しく撫でて行く。


 ああ、なんて良い日なんだ。みんなと来れば良かった。


 ぼんやりと湖面を見ていると、丘の中腹に花畑があり、そこにナビとバレンナとラズリがいる事に気がついた。3人は薄い色のワンピースを着て、花畑に座り込んで楽しそうに笑い合っている。彼女たちの声は聞こえないが、とても楽しそうだ。


 ナビが白い花で作った冠をバレンナとラズリにかぶせてあげる。ふたりとも、とても嬉しいそうに笑っている。すると、こんどはバレンナとラズリが色とりどりの花で作った2つの冠をナビにかぶせてあげた。ナビは立ち上がると手を腰にあて自慢げに胸を張って、どうよと言わんばかりにのけぞった。


 なにやってんだ、ナビ。でも3人とも可愛いなあ。俺の妹になってくれて、ありがとう。俺に優しくしてくれて、ありがとう。とにかく、ありがとう。


 何かが視界に入った。空を見ると大きな鳥が一羽飛んでいる。そして、視線を花畑に戻すと妹たちがいない。


 あれ、みんなは、どこに行った?


 妹たちを目で探していると、上から小粒の木の実が落ちてきて俺の足に当たった。なんだろうと今度は木を見上げる。すると、木の枝に猿がいた。


 その猿は木の枝から俺の隣に飛び降り、俺に何かを言いながら俺の足を叩く。


「……て……」

「おき…く……」


 良く聞こえないよ、お猿さん。


 仕方ないので起き上がろうと手を地面につけて力を込めたら、地面が抜けて俺は奈落に落ちていった。


 ◇


 ガタン、ドサッ


「おっ」

 俺は、椅子から滑り落ちて目を覚ました。


「サブロー様、目を覚されましたか?」

 ホスバが俺を心配そうな顔で見る。


「だ、大丈夫だ。すまない、寝てた。ヨーマイン太守、申し訳ありません」

「良い良い、どうせサブロー殿では話にならなかったのだ。名をホスバと言ったな、サブロー殿を見限ったら俺の所に来い。雇ってやる。ではなサブロー殿、俺は明日ヨーマインに帰る。期待しているぞ」


 そう一方的に言うと俺が挨拶する間もなく、ヨーマイン太守は部下を引き連れ天幕から出ていった。天幕には俺とホスバが残された。


「サブロー様、決まりました」

「そう、ご苦労様。ところで内容は?」


「はい、まず今回の取り決めは今回の出兵に限る話となりました。次にヨーマイン太守から出兵の要請があったら別の交渉となります」


「やっぱり軍を出さないとダメなのかあ」

「仕方ないかもしれません。ヨーマイン太守は早く中央のジーベニに行きたいようです。南地方には構ってられないと」

「そうか、続けてくれ」


「今回は勝ち戦でしたが、南地方の勢力が弱体化したわけではありません。このまま放置してはまた、東征してくるだろうと言うのがヨーマイン太守の読みでした」


「うん、わかる。だから軍を出して南が出張ってきたら押さえろって事だろ」

「そうです。そこで今回の出兵の条件となります」

「どうなった」


「まず、費用は全額サーナバラ持ち」

「ええぇぇ」


「ですが、東地方での物販権を貰いました。関税なしです」

「おおぉぉ」


「そして、東地域の敵対貴族の領地を占領したら、ヨーマインに明け渡す」

「ええぇぇ」


「しかし、それ以外は好きにしろと」

「おおぉぉ」


 ヨーマイン太守としては、かなり譲歩してくれたのだろう。


 交渉が終わったので、もうここに用はない。俺とホスバは天幕を後にした。


 ◇


 その日の夜。昼寝をしたせいか一向に眠くならない俺は、小腹が減ったので調理場で何か食べる物はないかとごそごそと探していた。


(あるじ)、頼みがある」


 急にかけられたソルの声に驚いて俺は、振り向いた。


「なっ」


 ソルは、手にほのかに光る魔石を持ち、ベビードールのような薄い服を着ていた。俺は、ソルから目が離せない。


 ナビの仕業だな。ナビ、お前って奴は。神か。


「頼みってなんだ、ソル」

「あの女が言っていた。我は魔素を生めると」

「あの女か……」


 ソルは俺に近づいてくる。ほのかに光る明かりのせいか、ソルの肌が白く見え二の腕や胸元が艶かしい。


「主よ教えてほしい。さすれば主は魔力を注ぐ必要がなくなり、我は自分で魔素を生むことができる」


 ソルの薄い紫色の瞳に見つめられて、俺は目を離す事が出来ない。


「わかった。ソルが望むなら俺も協力しよう。心当たりがある、気功って言うんだけどな」


「今夜、お願い出来るか。いつも主は忙しいから」

「良し、今夜はあまり眠くないから、出来るまで頑張るか」

「望むところだ」


「それにしても、凄く魅力的だぞ、ソル。頑張っているじゃないか」

「ナビから聞いた。主はこういうのが好きだと」

 と言うと恥ずかしいのか、ソルは俺から目を離し暗がりに顔を向けた。


 良くやった、ナビ。お前は俺の女神だ。


「ここじゃあなんだから、俺の部屋でやろう。出来るまで頑張ろうな、ソル」

「承知」


 俺はソルを連れて自室に戻った。





王国への出兵が決まりました。その夜、ソルがやって来て……


次回、(訪問者)私の日常

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