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108 軍を出してほしい

 ◇


 甲冑を着こんだ男が、ヨーマイン太守の前で片膝を地に着け、剣の鞘を持ち太守に向けている。

「我が家名をかけてヨーマイン太守に忠誠を誓い、ともに戦う事を約束しよう」


 ヨーマイン太守は、男から剣を受け取った。そして、同じように剣の鞘を持ち男に向ける。

「貴公の忠誠を受け入れよう。我が剣となって戦ってほしい」


 男が剣を受け取り、ヨーマイン太守に応えた。

「ハッ、命じるがままに」


 ヨーマイン太守が椅子に座ると、男はヨーマイン太守に向かって、胸に右腕を添えて浅く礼をした。そして、立ち上がりヨーマイン太守の部下に誘導されて天幕から出ていった。


 男が天幕から出ていくのを見届けたヨーマイン太守は立ち上がり、天幕の椅子に座っている者たちに語りかけた。


「パオースとサーナバラの友好者たちよ。我がヨーマインのための協力、かたじけない。今後とも協力し合い、ともに発展していこうではないか」


「ともに発展のあらんことを」


 天幕にいたパオースの市議会の2人が椅子から立ち上がり、ヨーマイン太守にそう言い返した。そして、そのままヨーマイン太守の部下に誘導されて天幕から出ていった。


 天幕の中には、俺、バレンナ、ヨーマイン太守とその部下だけになった。


 俺とバレンナも椅子から立ち上がり、パオースの者たちと同じ返答をしてサーナバラに帰ろうとしたら、再びヨーマイン太守から声がかけられた。


「サブロー殿、立ち会いご苦労だった。あらためて礼を言う。これで東地方の半数以上の貴族たちが俺に忠誠を誓った。軍の再編成後に中央に進もうと思う」


「あの、聞いて良いですか」

「何でも聞いてくれ、我が盟友よ」


 ヨーマイン太守の笑顔と言葉尻が恐い。


「彼らはまた裏切らないのでしょうか。言葉だけで大丈夫なのですか」

「なんだ、そんな事か。確かに俺は裏切られて手痛い敗北を喫した。だが、あの時は誓いがない盟主だったのだよ。今回は貴族の家名にかけての誓いだ。おいそれとは裏切れないさ。家名を失うかも知れんからな」


「はあ、そんなものなんですかね」

「失礼な話だが、サブロー殿は商人の出と聞いている。商人とは違い貴族の家名とは命より重要なのだよ。それに」


「それに?」


 俺が質問すると、ヨーマイン太守は俺たちに椅子に座れと手で示す。


 椅子に座ったら長くなりそうな予感がするが、ヨーマイン太守の笑顔を見て逃げられない事を悟り、バレンナに合図して椅子に座ることにした。俺たちが座った後、ヨーマイン太守も椅子に座って話を続ける。


「俺に忠誠を誓った貴族たちの顔を見ただろ。俺が忠誠を受けると言った時の彼らの顔を覚えているか」


「ほっとした顔をしていましたね」

「そうだ、彼らはどちらでも良いのさ。ヨーマインに(くみ)しても、反ヨーマインに与しても、大切なのは自家を守ることなのだよ。隣に強力な領主がいれば従うし、利益をもたらす領主がいれば従うのさ。だから、俺が彼らを庇護することで彼らは満足なのだよ」


「だから、南地方の貴族たちに従いこの地まで来たと?」

「庇護されるとは言うものの、従軍は拒否できないさ。拒否したら見せしめに滅ぼされるからな」


「ヨーマイン太守も同じなのでしょうか」

「ハハハハ、面白い事を聞くな。良くも悪くも商人の出ということか。いや失礼、サブロー殿を馬鹿にしている訳ではないのだ。貴族の発想ではないと思ってな。質問に答えよう。もちろん拒否したら滅ぼす」


「……」


「怖いか俺が?」

「いえ、なんとなく理解できます。でも俺だったらと思うと同じように出来るかはわかりません」


「ハハハハ、正直なのだな。無理に出来ないことをやらなくても良いのではないか。別の方法を考えれば良いのだ。サブロー殿だったら出来るのではないか。俺たちとは違う視点で考えられる。それが商人のサブロー殿の良いところ、強さなのではないのかな」


「ありがとうございます」


 ヨーマイン太守は、部下に合図してお茶を出させる。


 俺は、なかなか帰してくれないヨーマイン太守の意図が気になりお尻がもぞもぞする。バレンナも居心地が悪そうだ。


「あの、なにか他に話があるのですか?」

「ハハハハ、察しが良くなったな。少しは知恵もついたか。いやまた失礼、これではサクレに怒られてしまうな。ハハハハ」


「……」


「うむ、これまでの話の中に手掛かりは出していたつもりなのだがまだまだか。まあ良い。俺は、ヨーマイン軍の再編成がすんだら中央に出る」


「はあ、そうですか。頑張ってください?」


「なぜ、疑問なのだ」

「すみません。こんな場合、何て言ったら良いのかわかりません」


「察しの悪い奴だな、サブロー殿は。こんな奴に負けた南地方の奴らが浮かばれん」


 いやいや、南地方の貴族たちはひとりも死んでないし。それに、察しが良かったり、悪かったりどっちなんだよ。まあ、悪いほうだけどね。話があるならはっきりと言ってくれ。自慢じゃないが回りくどいのは俺には伝わらないぞ。


「はっきりと言おう。俺が中央に向かう間、南地方を牽制するために軍を出してほしい」


「はあ?」


 ◇


 俺はサーナバラの領主館で、関係者を集め会議を開いた。俺は天幕の中で告げられたヨーマイン太守の言葉をみんなに伝える。


 どうでもよさそうな、ナビ。

 心配そうな、バレンナ。

 少し眠そうな、ラズリ。

 いつもといっしょで動じない、ソル。

 お金がかかると呟く、ホスバ。

 お茶とお菓子を配る、トアとフィナ。

 どうするんだと俺を見る、オドン。


 頼もしいやら、嘆かわしいやら、なんか悩んでいる俺が馬鹿みたいだ。いやいや、バレンナだけは俺やサーナバラの事を心配しているのがわかる。


「どうするの、サブロー。返事はしてこなかったんでしょ」

 どっちでも良いよとナビが言う。


「もし、サーナバラが軍を出さなかったらどうなる」

 オドンが聞く。


「なんにも起きないと思う。ただ後々、因縁をつけられそうだけど」

 俺は答えた。実際のところ、軍を出さなかったらヨーマイン太守がどうでてくるかはわからない。


「まあ、いいか。こんどは、サーナバラが軍を出したらどうなる」

 さらに、オドンが聞く。


 いいのかよ、オドン。

 と俺が考えているとホスバが代わりに答えてくれる。


「当然、お金がかかります。遠征費用です。遠征先での宿または天幕代、食糧も現地で調達するとなると近隣の商人から足元を見られるでしょう。戦えば武器は壊れ怪我人も出るでしょう。全てにお金がかかるんです」

「わかった、わかった。俺が悪かった」

 ホスバの言葉が止まりそうもないので、オドンが観念して謝った。


「失敗だったんじゃない、東地方の貴族たちをヨーマイン太守に渡したのは」


 確かに。そうなんだよ、ナビ。


「うーん、お金がかかるのも嫌だけど、後々、因縁つけられそうなのも嫌だよな」

 と俺が言うと、ホスバが何やら閃いた顔をして言った。


「では、こうしましよう。サーナバラはお金がない、ヨーマインが戦費を前払いしてくれたら軍を出すと」


 おっ、良いアイデアじゃないか。みんなに反対はなさそうだ。


「良し、それでいこう」





軍を出してんだから金よこせですね。どこの世界でも良くあることです。良くわかります。


次回、3人とも可愛いなあ

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