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◇
「お父さん、いい加減にしなさいよ。若い娘さんを捕まえてする話じゃないでしょ。この間勉強していたアイドルの話をするんじゃなかったの?」
母さん、それは言わない約束じゃったろ。なびさんが困った顔しているじゃないか。わしも照れくさいし、今さらアイドルの話もなかろうて。
「すまんな、なびさん。つまらん話じゃったか」
「んんん、とっても面白いよ。それにアイドルって言われても私も良く知らないし、お父さんの話の方が楽しいよ」
なんて優しい娘だ。わしを立ててくれるなんて。
「なびちゃん、面白くなかったら面白くないって言って良いのよ。お父さんが調子に乗ってよく分からない話しをするから。そうそう、大福買ってあるんだった。食べるでしょう、なびちゃん」
「うん、食べるよ」
「じゃあお茶を入れるわ」
母さんが台所に行きお湯を沸かし始めた。カチャカチャとお茶の準備をしている。
この辺が潮時じゃろか、母さんにも釘を刺されたしまあ良いか。
「ねえねえ、お父さん、ピラミッドの話だったよね。ピラミッドは神殿でもないし、かといって墓でもないって」
「良いのか。話を続けて母さんに怒られるぞ」
小声で言ったつもりが、母さんに聞こえたらしい。
「お父さん、別に怒っているわけじゃありませんよ。なびちゃんが楽しいんだったら」
「いや、すまん」
「お母さん、私本当に楽しいよ。ありがとう」
「じゃあ、お父さん。その話を許可します」
「……」
わしもなびさんも苦笑いだ。
「それじゃあ続けるか。そうだ、ピラミッドは神殿や墳墓じゃない。では何か、わしは装置だと思っている」
「何でピラミッドは神殿や墓じゃないの」
「ピラミッドが作られた時代から下った時代に作られた神殿や墳墓は数々の装飾品に彩どられているんだよ」
「知ってるよ、カルナック神殿やルクソール神殿に壁一面に掘られているヒエログリフとか、王家の谷の墳墓にある壁画でしょ」
「しかし、ピラミッドは違う。有名なギザのピラミッドは全く装飾されていない。思うに装飾する必要がなかったか、または、ピラミッドの使用者が装飾を嫌ったか。いずれにせよ実用的な建築物だったと思う」
「でも、ピラミッド中には装飾されているものがあるって」
「それは、実用の役目を終えたピラミッドを墳墓として利用したし、小型のピラミッドについてはピラミッドの神聖さから形を真似たのかと考えるがな」
「どうやってあんな大きな物を造ったんだろ」
「良い質問だ。今の学問では人の手でどうやって造ったかを研究しているが、わしは魔法で造ったと思っている。可笑しいと思うかな」
「面白いって思った。でも魔法?」
「魔法は面白く言っただけで、超能力または特殊技能と言っても良い。巨大な石を自立移動させたか、軽々と持ち上げたといったところかな」
「大昔はそういった魔法や能力が使えたのかな」
「そうじゃ、シュメール人が都市を造り始めた頃は普通に魔法が使えたのではと思っておる。だから巨大な建造物が古代にもかかわらず造る事が出来た」
「バベルの塔、ピラミッド、ストーンヘッジとかね」
「そうだ。古代にはそういった力を使える仕掛けがあったのではと考える。では、なぜ現代では使えないのか?」
「力が使えるための何かが無くなった?」
「その通り。自動車を動かすガソリンが無くなったら自動車が動かなくなるように、人が魔法のような力を使うための何かが無くなったんだ。いや、使い切ってしまったんだろう」
「お父さん、なびちゃん、そんな力があったら良いわね。はい、大福とお茶。お煎餅もあるからね。食べて、食べて」
母さんがお茶といっしょに大福や煎餅を出してくれる。
「ありがとう……美味しい、やっぱりこの店の大福は一味違って美味しいよ」
「ん、どれどれ、わしもひとつ」
3人でお茶と大福を味わう。すると、なびさんが気付いたようだ。
「わかった。魔法のもとを造る装置がピラミッドなのね」
わしの考えた通り、なびさんは気づいてくれた。とても嬉しい、そして楽しい。
「でも、どうピラミッドを使って魔法のもとを造ったんだろ」
「どう造ったかはわからんが、誰が関わったかには考えがあるんだ」
「誰が関わったの」
「ドラゴンたちさ」
「……」
「びっくりしたかな。ドラゴンは言い過ぎかもしれん。この前に話していた現生人類を導いた神々たちには、神々を補佐する従者たちがいたと思っている。アダムとイブが楽園を出る事になった原因を作った蛇のように」
「お父さん、蛇って悪者じゃないの」
「母さんの知っている、アダムとイブの物語ってどんなもの?」
なびさんがわしの代わりに母さんに話を振ってくれた。
「ええぇと、アダムとイブが楽園にいて楽しく暮らしていたんだけど、ある日、蛇に騙されてリンゴを食べて知恵を身に着けるの。それに怒った神様にアダムとイブが楽園を追い出されて苦労する話かな」
「整理すると、アダムとイブはどこかの楽園にいた。アダムとイブは知恵を身に着けた。アダムとイブは楽園から旅立ったって処かな」
「なびさん、ありがとう。母さん。アダムとイブの失楽園の物語は反対の意味と思うんだ。神と蛇はアダムとイブに知恵を授け新たな地へ旅立たせる。それは、楽園という故郷から新天地への旅立ち」
「ええぇ、楽園にいた方が楽でいいのに」
「それは多分、神と従者が考えたアダムとイブへのプレゼント、現生人類を発展させるための贈り物。アダムとイブの失楽園とは、神々と従者たちに率いられた人類の大移動を意味しているんだ。だから蛇っていうのは神の従者なんだ」
一拍置いてお茶を飲む。
「それに古代世界では神なんだよ蛇も、日本でもエジプトでもマヤでも。エジプトやマヤでは翼のある蛇だ。神々が現世人類と交わりいなくなったあとでも従者である彼らは、人類を導びいたのさ」
「日本の蛇は翼もないし、空も飛ばないわよ」
母さんは首を傾げている。空を飛んでいる蛇を想像しているのだろう。
なびさんが微笑みながら母さんの疑問に答えてくれた。
「お母さん、お母さん、古代中国も古代日本も龍は空を飛ぶよ。それに蛇が龍になるという説があるんだよ」
「へえ、そうなのね」
母さんが納得したのを見届けたなびさんが疑問を口にする。
「その蛇たちも人類を導いたので神と呼ばれるようになったってことだね。でも蛇がドラゴンって」
「蛇は変化する者、知恵者の象徴。そして、ドラゴンの語源は、古代ギリシャ語で見る者の意味だ。見る者とは全てを見透せる者の意味で知恵者、導く者に繋がる。つまり蛇とはドラゴンであり、知恵者であり、導く者たちであり、神となった者たちだったんだ」
「じゃあ、ドラゴンたちは全てを見透すために、たくさんの目を持っていたのかも」
むむ、さすが、なびさん。そこまでは思いつかなかった。なびさんは、何かを思い浮かべたのか笑顔になっている。
「そうだな、ドラゴンたちは神々が消えた後も人類に知恵を授け魔法のもとを作り出した。だがそのドラゴンたちも次第に姿を消す。彼らはどこに消えたのか?」
「お父さん、その人たちは故郷に帰ったんじゃないの。役目が終わったから」
「母さんの言う通りかもしれん。きっと故郷に帰ったんだろう。人類が成長したから」
「それで、魔法のもとを使い果たし人類は魔法が使えなくなったのね」
「そうだ。もともと人類は魔法が使えるんだ。巨石建造物、古代中国やインドの超能力戦争、古代の魔術師たちなど、ちょっと前までは魔法が使えたのかもしれんな」
「私も魔法が使えたら、もっと家事が楽になるのに」
「ハハハハハ、母さん、諦めるにはまだ早いかも知れないぞ。まだ使えるかもしれないぞ。人類にも、その事を覚えている人々がいそうだからな」
なびさんは、煎餅をバリバリと食べ始めた。まるでその先はわかっているよと言っているようだ。脱帽だ、なびさん。きっと君は最初から全てをお見通しなのだろう、ドラゴンたちと同じで。
仕方ない、母さんに説明することにしよう。
「母さん、これを見てごらん」
わしは財布からあるものを取り出し母さんに渡す。
「なに、これは1ドル紙幣?」
「そうだ。ここを見てごらん。これをデザインした人たちは、人類が魔法を使えた事を知っていたのさ」
わしは1ドル紙幣に描かれているピラミッドと目を指し示した。
そんなやり取りをするわしらを、なびさんはとても優しい顔で見守っていてくれた。
お父さんの趣味回でした。
次回、頼みがあってきた
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