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渡り猫のタマ  作者: catcore
タマと世界樹の種
6/8

タマの受難

 二匹と一人で急いで艦橋に向かう。

 途中、艦長室の前を通ると、丁度扉が開いて艦長がでてきた。

 虎毛の人型でちょいケモメン、とか言われてそうな毛深さだ。


「お前ら遅いぞ、急げ!」

 艦長には言われたくないな。

「艦長、タマさんです。」

 走りながら猫耳が紹介する。

「おお、猫神様から聞いているよ、後で話を聞こう。」

 艦橋につくと各々席についた。

 自分達は予備の席に座る。


「状況報告!」

「はっ! 前方二十万キロに三隻の小型艦、左からマキナ1、2、3で識別、現在回避行動中です。」

 副艦長だろう、艦長の代わりに指揮をとっていた様だ。

 艦長が指示を出す。


「進路敵中央、最大戦速、前方障壁最大! 突撃!」

「進路まるろくよん、トリムまるふたひと。 さいだいせんそーく。」


 つまり自艦から見て右に六四度、上に二一度回頭するって意味だ。

 操縦士が艦を中央の敵艦に向け回頭させ、艦を加速させる。

 

 世界樹の種からエンジンに供給された魔力は、変換術式で火属性の爆裂魔法に変換され、連続で爆発させながら推力を得ている。

 エンジンと言っても術式の刻まれた丈夫な筒で、推力偏向ノズルが付いているくらいだ。


「主砲三式弾、準備できしたい撃て、次弾徹甲弾用意!」

 駆逐艦以下の艦船の主砲は一門しかついていない、敵の装甲を貫通させるために大型化しているため、船体下部に一門付けると、他に付ける場所がないのだ。

 物理障壁や光学障壁を含め、装甲貫通させるとなると、どうしても一撃の威力を高めるしか無かった、それは光子魚雷もミサイル系統も同じで大型化している。


「三式弾発射、炸裂まで十二秒。」

 三式弾は小型戦闘艇や、戦闘機向けの対空弾だがめくらましなどにも使える。

 弾が指定距離で分散し、数千の欠片が広がり爆発して視界を数秒間潰せる。


 観測士が敵艦までの距離と速度を報告する。

「相対速度五千、距離十五万!」

「このまま加速しつつ抜けるぞ!」

 艦長は突撃好きなのだろうか。


 観測士が敵の主砲から発射された事を知らせる。

「マキナ2発砲、弾着まで九秒!」

「進路そのまま、主砲は真ん中狙え! 左右雷撃戦用意!」


 駆逐艦は左右に十六門ずつ、後部に八門の魚雷発射管を備えているはずだ。

 敵の真ん中を突っ切って雷撃を行うのだろう。

 三式弾がはじけ、艦の前方を映したスクリーンを白く染める。

 敵の弾丸はこっちの障壁を貫通し、右舷前方の装甲板により跳弾した。

 結構な衝撃が伝わってくる、キキが椅子から落ちてどこかに転がっていった。


「主砲撃ち方はじめ!」

 砲術士は引き金を引く。

「主砲発射! 弾着まで五秒!」

 電磁投射により徹甲弾が発射される。


「マキナ1、3発砲! 命中コース!」

「取舵! すぐもどせ!」

 相手の弾丸の狙いをずらすため船体をずらす様だ。

 相手も撃ってきていた弾丸は、一発は船体下部の主砲に直撃し、もうひとつは右舷魚雷発射管の表面を舐めたため、右舷の魚雷は発射できなくなった。

「今だ!」

 艦長が指示を出し、左舷から光子魚雷合計十六発が、斜めに交差した形で後方から順に扇状に電磁投射された。


 観測士が被害を報告している。

「主砲大破、右舷魚雷発射管中破。」

「主砲切り離せ!」


 誘爆を防ぐため大破した主砲を切り離す。

 三式弾の爆炎を抜ける時敵艦とすれ違う、真ん中に大穴が開いていた。

 徹甲弾が貫通して抜けたようだ。

「魚雷三発命中! 敵艦爆散!」


 魚雷も命中したようだが、こちらも被害が大きいからな。

 五月雨はそのまま加速し敵艦を振りきったようだ。

 二隻排除したがほぼ無傷がもう一隻いることになるから妥当だろう。


 副艦長が艦長に進言している。

「艦長! 戦闘継続は困難です。」

「そうか、このまま逃げるぞ!」

 艦長はマタタビ棒をとりだし咥えるとこっちを見た。


「タマだったな、もう一度惑星に近づいた時転移させる。」

「にゃ、ちょっとまつにゃ!」

「心配するな、必ず助けに来る!」

 そっちの心配じゃない。

 てかおいていくなし。

「惑星近づきます!」

「かんばれよタマ!」



 ふぁ! どこだここは!

 転移していた。

 これだよ、にゃー艦隊が恐れられている理由は。

 一体どこに転移させられたんだか、そういえばキキはどこだろうと見回すと地面に転がっていた。


「キキ! キキ! しっかりするにゃ。」

 どうも放心しているようだ。

 戦闘自体数分でおわっているのだが刺激が強かったのだろう。


「全く困ったものです。」

「にゃあ、同感だにゃ。」

 観測器を取り出し、周りの地形を元に地図と照合させると、それまでいた大陸の真反対だった。


「なんにゃこれ、嫌がらせかにゃ?」

 猫耳が隣から覗き込みうなずく。

「反対側ですね、どうしますかタマさん。」


 どうしたものか、取り敢えず街をさがして情報収集しつつ、海を渡らねばならないだろう。

 艦隊が来ても先に制宙権を取らないと、地上の援護などしようもない。

 時間がかかると世界樹に何が起こるかわからないのだ。

 機械神側の艦隊も、あの三隻だけと言うわけでもないだろう。

 観測器の地図で近くの街を探すと、三日ほどの距離で大きな都市を見つけた。


「とにかく街に行くにゃ。」

「わかりました。」


 キキを拾って袋に入れて歩き出す。

 ここらは森林が多いようだ。


 お、これは鳩麦じゃないか、あとで食用に育てようと実をつんで袋に入れた。

 たまに草食べて毛玉をはかないといけないのだ。

 極稀に生きた毛玉がでてきたりするから怖い。


 そういえばマタタビの鉢植えに水やってなかったなとおもい袋から出して並べ、水をやる。

 これなくして生きては行けぬ!

 森の土と鉢植えの土を半分ずつ混ぜもう一つ鉢を作り鳩麦を植える鉢を用意しておく。

 心なしかマタタビも日にあたり嬉しそうだ、日向ぼっこしつつマタタビを楽しんだ。


「あのぅ、タマさん?」

「なんにゃ?」

「街に行くって言って全く進んでいません、もう夕方です。」


 はっ! しまったマタタビとガーデニングに夢中になってしまった。

 今日はここで野営だな。

 枯れ木を集め火をおこし、袋からキキと出来合いの食事をならべる。


 猫耳がなにか気付いたように手を上げて何か言っている。

「はいはい」

「はい、猫耳さん言いたいことアレばどうぞにゃ。」

「私の分のご飯がありません。」

「ふむふむ、何故いるのですかにゃ?」

「はらぺこだからです。」


「いえいえ、何故、ここに、居るの、ですかにゃ?」

「転移させる時手が滑って一緒に飛んだからです。」

「猫耳と話してると頭痛くなってくるにゃ。」

「猫耳じゃありません、ターニャって名前があるのです。」

「え、なんでそんなかっこいい名前してるにゃ。」

「それは私が格好良いからです。」


 うんうんと頷くターニャ、もはやため息しか出ない。

 ターニャはロシアンブルーのような、毛先の白い濃い目の灰色の髪の毛に青い目をしている。

 艦長みたく毛深くなくて人間に近い感じだ。

 艦隊の制服もあいまって、すこし目立つかもしれない。


 人界に送られるのに獣型が多いのは、貨幣などが必要ないことがあげられる。

 人型だと貨幣が必要になったり、揉め事に巻き込まれることが多々あったからだ。

「ところでターニャはどんな能力もってるにゃ?」

「今使えるのは金術ゴンジュツと物質変形くらいです。」

「修理士だったのにゃ。」

「はい、転移器なんて初めて扱いました。」

「あの艦長ぜつゆるにゃ。」


 さすがにゃー艦隊、人不足なのか知らないが無茶な人員配置をし、おかげでこのざまだ。

 でも金術と変形があればすごく便利だ。

 金属関連なら抽出から成形ができる、変形で加工すれば鍵でも金貨でも船でも作れる。


 仕方ないのでターニャにもご飯を出す。

「タマさんおかわり!」

 キキはいつのまにか復活していた。


 次の日から金属集めしつつ都市に向かう。

 朽ちた馬車からやちょっとした洞窟の奥から抽出していった。

 都市まで一日半くらいの所で幸運にも盗賊らしき集団のねぐらを見つける。

 食事中らしく騒がしい。


「運がいいにゃ、ターニャ。」

「なんでですかタマさん?」

「お金持ってるはずにゃ、奇襲をかけて制圧するにゃ。」

「え? 私あまり戦えませんよ?」

「大丈夫にゃ、キキがいれば簡単にゃ。」

「合図したらキキを、あの窓から投げ入れるにゃ。」


 袋から寝ているキキをだしてターニャに渡す。

 足音を立てずに窓の下に生き合図を送る。

 ターニャがキキを投げると、弧を描いてうまいこと窓から飛び込んだ。

 テーブルにでも落ちたのか金属のぶつかり合う音がきこえ、怒号が聞こえてきた。


『なんだ!』

『敵襲か?』

『おい、なんかちっこいのがとんできたぞ!』

「いたた、ひぇっ!」


 キキの声が聞こえ、窓から激しい光が溢れる。


『うわ、目がァァ!』

『いてぇ! どうなってる!』

 さっと窓を乗り越え中に入ると。六人の盗賊ぽい人間が顔を抑えて呻いていた。

 素早く一人一人気絶させていく。


「タマさん?」

「キキ、よくやったにゃ、ターニャ! ターニャ!」

 出入り口の扉を開け、おそるおそるターニャがはいってきた。

「タマさーん、終わったのです?」

「もう大丈夫にゃ、ちゃっちゃと剥ぎとるにゃ。」


 ターニャは盗賊から裝備や持ち物を剥ぎとっていった。


「ねぇ、タマさんタマさんなにがあったの?」

 寝ている所投げ込まれて怒っているのかキキがからんでくる。

「ねぇねぇ!」

 キキが毛を掴んでゆすってくる、ちょっと目が怖い。


「わかった! わかったにゃ、好きなもの食べていいから落ち着くにゃ!」

 キキは一瞬考えあれにするかこれにするか悩みだした。

 少し安心した、ちょろい。

「タマさん回収おわりました。」

「よし、ずらかるにゃ。」


 盗賊のねぐらから離れて戦利品を確認する。

 剣二本に斧三本に短剣四本、弓一張と矢が一六本、杖一本と軽鎧が五領にローブが一着、銀貨が六四枚に銅貨が八八枚、あとは微妙なものが多い。

 材質は鉄ばかりなので、短剣一本残して武器と鎧はインゴットに変えておく。

 この銀貨で船に乗れればいいけど。

 猫だけならただで乗れるだろうけど、ターニャがいるとそうもいかない。


 弓は変形させて、猫でも使える猫弓にかえてもらった。

 ボーガンに似ていて仰向けに寝転がって、後ろ足で弓を持ち前足で弦を引っ張るタイプだ。

 威力はさほどないものの、猫唱拳で物を投げると詠唱の声が出てしまうため相手に位置がバレる可能性があるからだ。


 ローブはターニャにかぶらせるが、くちゃいといって着ないので洗濯した。

 これでようやく準備出来たって感じだ。

 道中ターニャとキキは仲良くなったみたいで、色々技術的な事をキキに教えているようだ。


 そんなこんなで、都市につくまで一周間もかかってしまった。

 岩場から街を観測器で覗く。

 街はほぼ白で、中心部には大きな教会ぽいものが建っていた。


「なんか白くて宗教的なかんじにゃ。」

「そうですね、あ、あれエルフじゃないですか?」

「エルフ? ほんとだ、人間と共存してるのかにぇ。」

「なんか眩しい街だね。」

「まぁ普通にいってみるかにゃ。」

 ターニャの肩に跨る、ここ最近の移動は楽だ。


「タマさん結構重いんですから歩いてくださいよ。」

「ありえないにゃ、いいから行くにゃ。」

「キキ、袋に入っておくにゃ。」

「あいさー。」

 視点が高いのはよく見渡せて安心する。


 街に近づくと門番がいるが、出入りは自由なようだ。

 まぁ中に入ってみると、とにかく白い建物ばかりだ。

 綺麗ではあるが、夜動くのも難しいかもしれない。


「とりあえず酒場に行くにゃ。」

「どこにあるんでしょうね。」


 ふらふらしてると市場のようなとこに出た、カラフルな果実が売っている。

 人も多くかなり栄えているようだ。

 酒場らしきところを見つけて中に入ると、王都の冒険者ギルドに似ていた。


「ここたぶん冒険者ギルドにゃ。」

「おお、これが冒険者ギルドですか、ということは絡まれるんですかね?」

「え? そう言う所じゃないにゃ。」

「ざんねんです。」

「絡まれて戦えないのに何言ってるにゃ。」

「それもそうでした。」

「そこの受付で、リセなんとか王国にいくにはどうすればいいかきくにゃ。」


 ターニャが受付嬢にはなしかける。


『あのぅ、リセなんとか王国にいくにはどうすればいいですか?』

『リセクトル王国ですか?』

『はい、たぶん』

『たぶん? えっとリセクトル王国に行こうと思ったら、ここルミナス神聖国から――』


 この国はルミナス神聖国で、ここから東に行くと港町リーニクス、船に乗ってポルクス共和国、陸路で砂漠を超えてサンドラ王国からトラバニア帝国、また船でアルミラ都市国家までいかないといけないらしい。

 そこから山脈こえると、リセクトルだそうだ。

 費用は金貨三十枚くらいは最低でもいるだろうと言うことだ。


『最近は魔王のせいで、トラバニアから船が出ているか分かりませんよ?』

『そうなのですか、ありがとうございました。』

 銀貨を一枚カウンターに置き空いたテーブルに座る。

「なんというか遠いですね。」

「まぁにゃ、二万三千キロくらいあるもんにゃ。」

「お金もたりませんね。」


 五月雨の艦長め、次あったら仕返ししてやろう。


『おっと、すまねぇ。』

 冒険者がターニャのローブに裝備を引っ掛けて謝ってきた。

 ターニャを見て冒険者は目を丸くしている、どうしたのだろう。


『あ、悪魔憑きだ!』

『けっ、けものの耳が!』

 冒険者ギルド内がざわつく。


 ターニャの方を見るとフードが外れ、ターニャの猫耳が天にむかってそそり立っていた。


 次回予告


 けっ、けものの耳だ! 誰かが叫んだ。

 かつて多くの人間たちを屠ったけものの耳。

 鋼の心を持った人間ですら致命的な一撃となる伝説の耳。

 一日千里飛び

 一瞬で百の人間を粉砕する

 けものの耳を恐れた人間たちは異例の団結をし封印した。


 そしていま封印が解かれたのだ。

 けものの耳の伝承者の長い旅が始まる!

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