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渡り猫のタマ  作者: catcore
タマと世界樹の種
2/8

タマ降臨ス

 門をくぐると草原だった。

「まったくひどい目にあったにゃ」


 朱雀につつかれたところが痛い。

 あれでもかなりの力を持った神獣だから結構強いのだ。


 とりあえず世界樹と、賢者の石がどこにあるか調べないといけない。

 見渡す限り世界樹はないのでそこそこ離れたところに出たはずだ。

 まずは街をさがさねばと、街道をさがすことにした。

 三時間ほど歩くと街道らしきところを見つけ、さてどっちに行くか迷っていると一頭立ての小型馬車がこちらに向かってきていた。

 馬車に乗っているのは行商人のようで、積み荷は塩と魚の干物のようなにおいがした。


 ということは、馬車が来たほうに海があるのだろうか、それならこの馬車にのれば街にいくだろうと思い飛び乗る。

『うわっ、何だ猫か…… こら乗ってくるんじゃない』

 横腹を押されて落とされそうになる。

「なうー(ケチくさいにゃ)」

『乗りたきゃ乗車賃をはらえ』

 首根っこを摘まれ捨てられた。

 なかなか世知辛い世の中である、と思ったら馬車が止まった。


『ねこちゅわ~んおいで~美味しい干し肉だよ~』

 ふっ、ふん干し肉なんて欲しくないんだからね!

『ほらほら~おいちいよ~』

 めちゃめちゃ怪しい笑顔で、干し肉を左右に振っている。

 なにそれキモいと思うもつい干し肉にかぶりついた。

 しまった、これは罠か!

『捕まえた! やったぜこの毛並み並のもふもふじゃねぇ、貴族様に高く売れそうだぜ!』


 首の後を摘まれかごに入れられ蓋をされた。

 世知辛い世の中である。

 この行商人なかなかやりおると思ったが、籠の中には貝の干物が沢山入っていた。

 暇だしくやしいので食べる、なかなか美味しい。


 長いこと馬車に揺られて辺りが薄暗くなってきた頃、街が近づいてきたようだ。

 門についたのか話し声が聞こえた。

『積み荷はなんだ?』

『塩と干物ですぜ』

『少し検めさせてもらうぞ』

 蓋が開くと兵士と目があったので”にゃぁ”と鳴いておく。

『この猫は?』

『ええ、こちらに来る途中拾いましてね! あっ、貝を全部食べてやがる!』

『ははは、同じ籠に入れるからだ、関税を払ったら入っていいぞ』

 行商人は馬車を進ませ銀貨を数枚払ったようだ。


『貝の干物全部食べるとかどこに入るんだ、こりゃ高く売らねぇとな』

 まぁ、九割はお腹の倉庫のなかだけど。

 お腹もいっぱい出し寝るか。


 翌日、籠に入れられたままなにやら大きな屋敷の前で目を覚ました。

 行商人が門番らしき人物と会話しているようだ。

『実はとても珍しい猫を手に入れましてね。

 公爵さまは猫好きと聞きますし見てはいただけないかと』

『ほう、これは毛が陽にあたって銀色にみえる、主に聞いてみるから待ってろ。』

 門番が屋敷に入りしばらくして屋敷から白髪の執事と門番が出てくると行商人を中に招いた。


『旦那様に失礼のないように』

『へい、ありがとうごぜいます』

 立派な服を着たダンディな男が十二歳くらいの娘らしき人間を連れてやってきた。

『ご苦労、珍しい猫だそうだな?』

『へい、ご覧になってください』

『お父様みても良いですか?』

『ああ、良いとも』

『わぁ、凄いもふもふの猫さんですよお父様』


 娘が籠を開け覗いてくる。

 抱き上げられると下顎を撫でてくる、喉を鳴らすと嬉しそうに娘は微笑んだ。


『たしかに珍しい猫だ、大きいし毛並みが猫とは思えん』

『へへ、どうでしょう? この毛並み大きさ、まさに猫の王、できれば公爵様にお買い上げいただきたいと思いまして』

『この猫はいくらだ?』

『あっしは猫には詳しくありませんが、なにせ猫の王、いかほどでお買い上げいただけますでしょうか?』

『ふむ…… ならば金貨一五枚払おう』


 公爵は悩んでいたようだが娘を見ると買うことにしたようだ。

 満面の笑みをうかべて行商人が頭を垂れる。

 金貨にどのくらいの価値があるかわからないが、とても高く売れたようだ。

 行商人が帰った後、娘の部屋に連れて行かれた。

『名前何にしようかな?』

 どうやら名前をつけてくれるらしい、変な名前じゃなければいいが……

『そうねぇ、銀色だしもふもふだから…… 似たようなのないかなぁ』

 しばらく考えてたが思いつかないようで、文字が書かれた木のブロックをもってきた。


『これはね、小さい時に文字を覚えるのに使ったんだ、猫さんどんな名前がいい?』

 猫に無茶振りするなと思いながらも、いくつも名前があるのも面倒なので遊ぶふりをしつつタマとブロックを揃えた。

『タマかぁ、なんか普通だね』

「にゃーん(超人気の名前ですけど)」

『わたしはアリアよ、よろしくね』

「にゃー?(ご飯まだ? )」


 アリアは色々教えてくれた、まぁ人から見ると独り言ではあるが。

 公爵の奥方は肺の病気らしく移ってはいけないと、アリアもしばらく会ってないらしい。

 猫の毛とかよくなさそうだが、大の猫好きらしく娘とも会えない中、猫のいない生活は耐えられないので、何匹か猫を飼っているらしい。

 他の猫たちと仲良くできれば良いけど。

 アリアとまったりしていると、夕食の時間になったようで待女が迎えに来た。


 抱きかかえられダイニングルームへいくと六匹の猫がいた。

 アリアが一匹ずつ名前を教えてくれた。

 黒くて大きな雄猫はブレイブ、たぶんボス猫。

 虎柄の雄猫がコトラ、チンピラぽい。

 白い雌猫がシロッコ、なんか凛々しいな。

 三毛の雌猫がミコト、一番年配のようだ。

 桃色の雌猫がサクラ、桃色ってぶっとんでるなと思った。

 最後にハチワレの雌猫がハチワレ、なんだろうまんまだし影が薄い。


『みんな仲良くするのよ?』

 猫達を一通りもふもふするとアリアは席についた。

「んにゃんにゃ(へへ、かもがきたぜ)」

「なー(おい、いらないことするなよ)」

 コトラとシロッコがなにか言っていた。

「タマですにゃ、みんなよろしくにゃ」

 猫達に挨拶して用意された皿を見ると、牛肉ぽい肉を軽く火を通した物が乗っていた。

 良いもん食べてるなぁここの猫は、と思いながら食べようとするとコトラが話しかけてきた。

「またんかい新入り!」

「にゃ? なにかにゃ?」

「新入りはボスに肉を献上するのが、ここのしきたりだ」

 雌猫たちはやれやれといった顔をした。

 たぶんコトラは似たようなことを、度々行っているのだろう。

「ボスなんて名前の猫は、いないはずにゃ」

「ボスといったら、ブレイブさんに決まっているだろ! 良いからよこせ!」

 奪おうと来たところを前足で顔を抑えた、悪気はない猫とはそういうものなのだ。

「おっと、申し訳ないにゃ」

「なにしやがる!」

 唸るコトラが飛びかかってきた。

 噛み付いてきた顔を猫パンチで往なす。

 体制を崩したコトラを猫キックで吹き飛ばす。

 いけない力込めすぎた。

 転がったコトラが給仕していたメイドにぶつかり飲み物を公爵にぶっかけた。

「てめぇ、コトラになにしやがる!」

 ボスことブレイブが躍りかかってきた。

 頭に掌底を打ち込み動きを止めたブレイブに猫パンチ連打を当て、下から蹴りで顎を上げさせ両手で掌底を繰り出す。

「風をまといて速さと成す!」

 猫唱拳の風拳で速度を上昇させる。

 もちろん人には、猫同士の威嚇や喧嘩の声にしか聞こえない。

 猫唱拳の風拳で強化された掌底が当たると、鉄砲を発砲したようなような乾いた音がしてブレイブは縦に回転しながら慌てるメイドにぶつかってメイドごと二メートル転がった。

 他のメイドや待女が駆け寄り公爵を拭いたり割れた食器を片付け始めた。

 公爵が怒りに震えて言った。

『この馬鹿猫どもが! 明日までご飯抜きだ!』

 なんてこった、まだ一口も食べてない。

『お父様! 猫のしたことです!』

『ならぬ! この惨状を見よ、猫とはいえ見逃せぬ!』

 娘が庇おうとするが流石に無理だろう。

 公爵とてもお怒りである。


 侍女やメイドが急いで片付け、喧嘩した自分と二匹はまとめて執事に捕まり檻に入れられた。

「君らのせいで、ごはんたべそこねたにゃ」

「あっ、いやほんとすいません」

 コトラは怯えて謝ってきた。

 ブレイブは気絶したままだ。

 お腹の袋からみたらし団子をだして頬張る。

 たとえ餌をもらえなくても生きていける。

 そう、このみたらし団子があればね。


「ボス! ボスだいじょうぶですかい?」

「ああ、一体何が……」

 ブレイブが気付いたようだ、コトラは安心しているようだ。

「どうやら負けたらしいな、次のボスはあんただ」

 めんどくさいなと顔をしかめて応える。

「いにゃ、その必要はないにゃボスになりたいわけじゃにゃい」

「しかし、一番強いじゃないか」

 弱肉強食の世界ではあたりまえのことだろう、だが断る。

「強さとは何かよく考えることにゃ」

 極めてめんどいし、目的もあるので意味深なことを言う。

 煙に巻いて説得し、今後喧嘩を売ってこない条件でおさめた。


 次の日、やっとのこと檻から出してもらえ、餌にありつけた。

 午後になって日の当たる窓辺で日向ぼっこしていると、桃色の猫のサクラが来た。

「ねぇ、タマさんあなた強いのね」

「そうでもないにゃ」

「そういえばメイドさん”むちうち”らしいわ」

「にゃんと、公爵はそういう趣味なのかにゃ」

「違うわよ、首をいためたのよ」

「ああ、ボスがぶつかってたにゃ」

 呆れた顔してサクラは言う。

『あなたがぶっ飛ばしたんだけどね……』


 給仕していたメイドさんは、アンナと言っておやつをたまにくれる良い人らしい。

 今日は首の怪我のためお休みで自室にいる、多少責任も感じるのでお見舞いに行くことにした。

 サクラに連れられ部屋の前に行くとサクラがドアの持ち手に器用に飛んで前足をかけ開けてくれた。


 中に入るとアンナは気付かず、苦しげな表情で寝ている。

 起こさないようにゆっくり首をまたいで座り治癒を発動する。

「にゃるる(ねぇ、そんなとこ乗ったら苦しいんじゃない?)」

「なぁう(大丈夫にゃ、もふもふで気持ちいいはずにゃ)」

 アンナはこころなしかニヤけた寝顔になって、気持ちよさそうに寝息を立てている。

 しばらく温めれば治るはずだ、眠くなってきたのでこのまま寝よう。

 サクラは胸の上で丸まっている。


 日の暮れる頃アンナが起きたようなので、治癒を止めサクラを起こす。

『んん? 重いぃぃぃ』

「にゃー(サクラ起きるにゃ)」

「ぐるる(んん…… あらアンナ起きたのね)」

『あれ、どうやって入ったんだろ? それにしても凄いもふもふだわ』


 昨日すごい勢いでブレイブが顔にぶつかって、吹っ飛びかなり首を傷めたようだがもう痛くなさそうだ。

 二匹でアンナの首とか舐めていると、くすぐったそうに身を捩った。

『ちょ! やめて、くすぐったいわ! そういえば首痛くないわね』

 アンナは不思議そうに首の運動をしている。

 どうやら完治した様なので、アンナに甘えるサクラをのこして館の探検に行く。

「にゃうにゃあ(タマさんありがとうね、アンナ良くなったみたい)」

「にゃにゃ(良いってことにゃ)」


 部屋から出ると廊下を進み玄関にいくが当然開いてなかった、そのとき声をかけられた。

「お若いの、ここから出たいかね?」

 三毛のミコトがいた。

「にゃ?」

「ついておいで」

 ミコトは踵を返し尻尾で付いて来いと誘った。

 物置部屋らしきところに入ると、奥のほうに歩いていく。

「ここはね、私たち猫の秘密の場所よ」

「いったいなにがあるにゃ?」

「ずっと昔にね、大鼠達が攻めてきたときに空いた穴よ」

 ミコトが絨毯をめくると結構大きな穴が開いていた。

「一五年位前に都で大鼠が大繁殖してね、この館にも彼らが押し寄せてきたの」

 まだミコトが二歳の頃この街で大鼠が大繁殖し餌を求めて家々に穴をあけまっくたらしい。

 ミコトの父猫がそのときこの館に来た大鼠を退治してそれから飼われるようになったそうだ。

「私の父もあなたと同じ技を使っていたわ、猫唱拳」

「にゃんと!」

「私には教えてくれなかったけどね、おなごのするもんじゃ無いとか言ってね」

 ミコトは懐かしそうにしている。

 猫唱拳の使い手が一五年前に?

 この世界では神使がいたのはずい分昔のはずだが、今もどこかで受け継がれているのかもしれない。

「行きなさい、穴の先でシロッコが待ってるわ、都の事をよく知っているわ」

「感謝するにゃ、この借りはいつか必ず返すにゃ」

「いいのよ、あなたはあなたの使命を果たしてくださいね」

 狭い穴を抜けると屋敷の壁の外側にでることができた。


「ずいぶんおそかったな、ねこみこ殿の昔話でもきかされてたかい?」

 白猫のシロッコだ。

「ねこみこってだれにゃ?」

「ミコト殿のことさ、猫の巫女なんだよ」

 ということは猫神様から神託を受けて導いてくれたのかも知れない。

「今日は猫の大集会がある、時間がないから急ぐよ」

「大集会?」

「この街、王都の有力猫と王都以外の有力猫が集まる年に一度の集まりさ。」

 ボス猫の集いなのか、大抵は近くの猫が集会をするくらいなのにここでは大規模な集会が行われるということだ。

「まぁ行けば分かる、猫巫女殿に間違いはない」

 シロッコはミコトに大集会に連れて行けと言われたそうだ。

 しばらく屋根を伝い走ると教会のような建物の裏についた。

 そこには風格ある猫たちがたむろしていた。

「いまから大集会だ、関係ないものは向こうへ行ってろ」

 額に傷のある猫がシロッコに話しかける。

「すまないが猫巫女さまの導きてこの者を此処に連れて行くよう言われている」

「猫巫女殿が? ならばよいだろう、邪魔にならないとこで頼む」

「わかった」

 シロッコが話をつけ邪魔にならないとこに二匹で座る。

 議長とおぼしき毛の長い猫は辺りを見回すと話しだした。

「これより大集会を始める」

 王都の猫達は東西南北と中央、周辺の街や集落、隣国からも来ており三十匹ほどが集まっている。

 挨拶が済み順番に報告と問題が話し合われていく。


 話を聞いていくと気になる話題が出てきた。

「では隣国ガラント帝国のカラカル殿」

「にゃふん、我が王都では今年に入って下水に怪しい物体が流れてくる事案があります、粘ついた肉のようで腐臭がしています、おそらく王城で人間が怪しげな実験を繰り返していると思われます」

「我々猫族に被害はないのか?」

「いまのとこ確認はされていません」

 猫達は猫に被害がないということで脅威度は低いとみたらしい。

 むむ、これはもしかしたら賢者の石の実験かもしれない。

 魔法生物を作ろうとして失敗している可能性がある。

「それと東の海の向こうの大陸で魔王が誕生したそうです」

 にゃわにゃわと猫たちがにゃわつく。

「なんと、大変なことになっておるな」

「隣の大陸がやられたらこっちにもくるんじゃないか?」

「にっ、逃げないと!」

「猫神様ペロペロ」

「静粛に!」


 議長が諌め、カラカルはさらに続ける。

「今は大陸の奥深く天樹の辺りまで侵攻しているときいております。人間たちが抵抗するも魔王とその眷族はとても硬い体をしており剣も矢も通らぬとの話です。」

 天樹ってくらいだからおそらく世界樹のことだ、しかし海を越えた先の大陸の奥のほうだからかなり遠いということになる。

 それに加え魔王の侵攻にも巻き込まれてるぽいから一筋縄では行かなそうだ。

 どうするか悩んでいるとシロッコが話しかけてきた。

「どうだ?知ることはできたのか?」

「そうだにゃあ、たぶん知りたいことは全部わかったにゃ」

「そうか、これからどうするのだ?」

「ガラント帝国にいくかにゃ」

「そうか、気をつけていかれよ」

「世話になったにゃ、これみんなで分けて食べてくれにゃ」

 鰹節を厚く削ったものを布に包んで渡す。

「器用なものだな。良い匂いだ、ありがたくいただく」

「それじゃみんなによろしくにゃ」

「ああ、タマ殿も元気でな」


 シロッコは屋敷に帰っていった、大集会の後宴会が行われている。

 マタタビ酒を飲んだ猫はふにゃふにゃしている。

 酒と入っても酒精はほとんど入ってないが。

 帝国に行くにも道がわからない、カラカルに連れて行ってもらおうと思い声をかけた。

「こんばんはですにゃ」

「む? あなたはたしか、巫女に導かれし者でしたかな?」

 え、なに? ちょっと恥ずかしいんですけど。

「タマですにゃ、よろしくですにゃ」

「わたしになにか御用ですかなタマ殿」

「にゃあ、実はガラントに帰る時つれていってほしいのにゃ」

「もしや下水道の案件で?」

「そうですにゃ、解決できるかもしれにゃい」

「それは助かる、猫たちが不安がっていて困ってたんだよ」

 下水道は元々くさいが最近輪をかけて臭くなって調査したらしい。

 腐肉を食べて大鼠が増えるのも悩みの種だそうだ。

 日が明けてガラント行きの馬車を探すことになりマタタビ酒を飲み交わした。


 次の日カラカルに付いて行くと酒場のような場所についた。

「ここは冒険者ギルドだ、ガラント行きがないか調べてみよう」

 商隊やらの依頼を調べるのだろう。

「見つからないように人の出入りに紛れて入るぞ」

「付いてくにゃ」

 二匹で入っていく人間の後ろにつき素早く中に入った。

 テーブルの影を渡り掲示板を覗く。

「運がいい、昼前に北門からガラント行きの商隊が出るようだ」

「人間の字がよめるにゃ?」

「ああ、ある程度はな、そうでないと遠いとこまではいけないよ」

「馬車でどれくらいかかるのかにゃ?」

「そうだな、十三の夜を越すとつくかな」

「食べ物とかはどうするにゃ?」

「意外と人間が分けてくれるからな、くれなきゃ狩りをするさ」

 逞しい者だ、馬車を見つけるため北門に移動する。

 北門前の広場は結構な数の馬車が行き来している。

「まだ時間はある、日向ぼっこでもしてよう」

 カラカルは寝そべると日を浴びて気持ちよさそうに目を細めた。

 まだ時間があるためカラカルに食事でも振る舞おう。


 もってきた猫缶を缶切りで開けると小型の魔石焜炉に魔力を与え熱に変換する。

 数分で温まり良い匂いがしてきた。

「良い臭がするな、タマ殿」

 匂いにつられてカラカルが起きてきた。

「見たことのないものだな、なんだそれは?」

「食べると分かるにゃ」

 小皿に盛ってカラカルに分け与える。

「うまい! こんなの食べたことない!」

「魚の身をほぐしたものに味をつけた食べ物にゃ」

 アウアウ言いながらカラカルは食べている。

 もう肉なんていらない砂漠のど真ん中でも生きていける。

 そう、この猫缶があればね。


 食後にマタタビの枝でうにゃっていたら馬車七両くらいの集団と冒険者らしき者の集まりが出来ていた。

「たぶんあれだろう」

「それっぽいにゃ」

 こっそり荷台に潜り込むために近づく。

「あの馬車の屋根の上にしようか?」

「良いかもにゃ、見つかりにくそうだにゃ」

 馬車の中でも幌でなく木製のしっかりした馬車の屋根にこっそり上り出発を待った。

 準備を終えた商隊は十人ほどの護衛冒険者を伴い王都をでた。


 そのころ公爵の屋敷では……


 ミコトはシロッコが持って帰ってきた鰹節を皆で一枚ずつ分けた後に残りをまた布で包んでいた。


「猫巫女殿、それをどうするので?」

「これは奥方にたべてもらうのよ」

「人間がたべるでしょうか?」

「こんなに良い匂いだものきっと口にするわ」

 奥方は二年ほど前に肺の病を患い安静にしている。

 手に入る薬では効果が薄く悪くなる一方だった。

「ちょっと持って行ってくるわね」

「私も付いて行きます」

 二匹で奥方の部屋に向かっているとハチワレがどこからとも無く現れた。

「猫巫女様、タマ殿は商隊に紛れて王都をでました」

「ご苦労様、これで私の役目も終わりね」

「猫巫女様……」

 三匹で奥方の部屋へ行く。ハチワレが器用にドアを開ける。


 中には奥方と公爵がいた。

『なんだ、お前たちか』

『あらあら、いつも器用に開けるのね』

 わらわらとベットに生き二人に纏わり付く。

『ミコトは何を咥えてるんだ?』

 公爵が受け取り包を開けると二枚の良い匂いのする物が入っていた。

『なんだこれは?』

『魚か何かを干したものみたいね』

 公爵は猫がたまにやるお土産かとおもった。

『お土産は嬉しいが流石に食べていいものかは分からんな』

『そうね、でも良い匂いね』

『さぁ、無理はいけないよ少し休みなさい』

『わかったわ、少し眠くなってきたもの』


 奥方が眠そうにあくびをした。

 ハチワレはここぞとばかりに猫パンチで公爵の手から一枚のかけらを高く飛ばした。

 シロッコはすでに飛び上がっていて渾身の力で斜め上から奥方の口に向かって叩いた。

 かけらは砕けながら口元を隠す手の先をかすめ奥方の口に飛び込んだ。

 すかさずミコトが伸び頭突きで奥方の顎を上げさせ飲み込ませた。

『ぶふっ!』

『こら!お前たち!』

 欠片を飲み込んだ奥方は咽ていたがようやく落ち着くと、口の中の残りを噛み締めた。

『まぁまぁなんて美味しいのでしょう』


 両手でハチワレとシロッコの首根っこを摘んでいる公爵はさらに驚く。

『ええ、大丈夫なのか?』

 奥方は仄かに光り出しどんどん顔色も良くなってきた。

『いったいこれは!』

 公爵が驚き二匹を手放し、口を開けたところに三匹は同じように公爵の口に欠片を突っ込んだ。

『ごふっ…… うんまい!』

 体の中から力が湧き出し全身に行き渡るのを感じた。


『なんということだ、いったい何を食べさせたのだ?』

 三匹はにゃーにゃー言いながらぐりぐりと頭を奥方に擦り付けていた。

『なんだか、病気も治った気がしてきたわ』

『ほんとうか? 医者に診てもらうか』

 公爵は執事にいつもの医者を呼びに行かせるのだった。


 数時間後。


 診察を終えた医者は驚いた顔で言った。

『調べた結果病巣が無くなっているようです』

『それはまことか!』

『ええ、信じられませんが…… それにまるで十歳は若返っているようにも見えます』

『たしかに…… 以前の美しい妻だ』

『あなた、お医者様の前で恥ずかしいですわ』

『それに公爵様も若返っているように見えます、一体何が……』

 医者は狐につままれた様な顔をしている。


 待女が結果を聞き急いで娘を連れてきた。

『お母様!』

『アリア!』

 奥方とアリアは抱きしめ合いその二人を公爵は優しく抱きしめるのだった。

 病が移るといけないのでアリアは長いこと奥方に会うことができなかったのだ。

 夜には宴が行われ使用人も含め皆で喜んだ。

 猫たちにも豪華な食事が振る舞われたのだった。

 タマがいなくなったのに人間が気付いたのは三日後の事だった。


 王都に探し猫の紙が貼られ、捕まえたものには金貨五枚を与えるというもので破格のものだった。


 次回予告


 マタタビ依存症のタマは人生に疲れていた。

 絶望しマタタビに逃げたタマに救いの手が差し伸べられる。

 ぴょんぴょん

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