表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
渡り猫のタマ  作者: catcore
タマと世界樹の種
1/8

タマと雀

初投稿です、よろしくお願いします。

※おおまかに猫の会話を「――」人の会話を『――』にしました。

※場合によって翻訳などがあるときは「『――』」になっています。

 息が苦しい、病院のベットの上でもがく。

 何故か衰弱が止まらず緊急入院、今度は息すらできなくなるなんて。


 もっ……もう我慢できない。

 体からはじき出されるように、浮いた感じがした。

 

 あ、楽になった、呼吸できますわ。

 辺りを観察すると、さっきの病室だ。

 自分で自分を見下ろして不安になる。

 これからどうなるんだろう。


 しばらくして上から妙な音がする。見てみると、掃除機の筒のようなものが伸びてきていた。

 なにげにのぞき込むと、恐ろしい吸引力で強引に吸い込まれた。


 何度か頭をぶつけながら勢いよくはきだされ、硬いものに叩きつけられた。

「ぐほっ…… いったい何が起こったんだ……」

「ん? タマおかえり、休暇は楽しかったかい?」

「だっ、だれだ?」


 あたりを見回すと和室のようで、囲炉裏を挟んだ向かいに女性がいた。

 なんというかその女性には、猫のような耳に尻尾がはえている。

 それも尻尾は複数生えているし、頬には猫のような髭が生えている。

 ふむ、人っぽい猫とでも言えば良いのか?

 猫好きとして町内でも有名な自分には、放おっておけない存在だ。

 ちょっとずつ興奮してきたぞ!

 猫耳さんは顰めっ面で眉間に手を当てていた、頭でも痛いのだろうか。


「また忘れたのかい? 毎回帰ってくるときに、何も覚えてないのはタマくらいだよ?」

 覚えてない?

 何か忘れた事でもあっただろうか、考えてはみるも心当たりはなにもない。

「いったいなんの話です?」

「もう、しょうがないにゃあ」


 猫耳さんがおいでおいでしている、これはいかねばなるまいと歩みを進める。

 そして猫耳さんに両手でがっしりと頭を掴まれた。


「えっ、なに? 爪いたいんですけど!」

 そして電撃が右から左へ流れた。

「いった、痛い痛い!」

「あはは、毎回毎回忘れるタマが悪いんだからねぇ」


 電撃を流されながらそれまでの全てを思い出すというか、書き込まれているというか不思議な感覚に戸惑っていた。

 ああ、そうだ思い出してきた。

 ここは猫神様のお屋敷の中。

 自分は猫神様の眷属であり神使だったのだ。

 簡単に言うと猫神様のパシリだ。


 前の仕事で魂に大きな傷がついたため、休暇として地球の日本という国で人間として約40年間生きていたわけだ。

 昔、猫又になって、そのうち猫神として神格化されたのも地球だった。

 たぶん今回の変死は呼び戻す時の影響だろう、強制衰弱だ。


 前回帰った時には魂も記憶も一部失い、半ば無理やり休暇になったのだけど。

 休暇なら色々特典をつけて欲しかった、休暇なのに苦労したぞ。

 特殊能力とか、猫耳娘とか、丁度いい大きさのダンボール箱とか。

 色々と思い出すたびに、中途半端に姿が戻ってるもんだから……

 うおお、猫耳はえてきた。


「休暇なら地球で、できれば人間が良いと駄々をこねたのタマでしょ?

 それに特典とか魂を癒しに行ってるのに必要ないでしょ?

 だいたい特典なんて世界の均衡を乱すものつけれるわけないでしょ?」


「にゃぁ、それはそうなんですけどにぇ」

 たぶん元々が猫なので、人間には向かなかったのではないだろうか。

 ぐうたら生きていたからなぁ。

 それに語尾に”にゃ”がつきだした。

「さて、それじゃタマには早速仕事を頼みたい。

 まぁそのまえに完全に元の姿に戻ってもらうか。」


 さらに電撃を受け元の姿に戻っていく。

「にょわわビリビリにゃゃ」

 元にもどると毛が全部逆立って、毛玉のようになっていた。

 部屋にあった鏡で見ると、見たこと無いほどのもふもふである。

「なんというもふもふ感にゃ」

 鏡に向かって色々マッスルポーズをきめてみる、うむ素晴らしい毛並みだ。

 毛のせいで筋肉見えないからね。

「ははは、毛が長いと大変だねぇ」


 自分は長毛種の猫又である。

 地球の猫でいうならノルウェージャン・フォレスト・キャットがちかいだろうか。

 あごからお腹と足先は白、他は淡い灰色で光が当たると銀色に見える。

 ふわりとした毛と、長い尻尾が自慢である。


 やっている仕事は世界を渡り、神々の依頼をこなす”渡り猫”である。

 まぁ他にも渡り狐やら渡り鳥やら、哲也さんやらがいるから。

 神使でこの仕事についている者はとても多い。


「いやまぐろの人は関係ないから……

 それで帰ってきてすぐで悪いんだけどね、世界樹が代替わりする世界があるから種を回収して欲しいんだよねぇ」

「簡単そうだにゃ、今回は成功まちがいなしにゃ!」

 自信満々に答える。

「そのセリフ毎回聞くけど? その自信もどこから来てるんだか」

 疑わしそうな目で見られる。

 出来の悪い神使でごめんにゃさい。


 世界樹は我々のような神界にいる者や精霊とか、魔力を扱える種族、生物にはかかせない力の源である魔力を生む大樹だ。

 樹ではあるものの、先端からは蔓状になり、大気圏外の先端に庭園のような箱庭を生成する。


 その星の文明が進歩すれば、宇宙港に利用されたりと、軌道エレベーターのようなものだ。

 寿命を迎えると、先端に種が六個から十個、これは他の惑星に飛んでいって根付く。

 代替わり用にも地上数キロに、三つか四つの実をつける。

 今回の仕事は地上の種の回収だ。


「ああ、あとヴァルハラさんとこからの依頼で断れなくてね。

 賢者の石らしき物が生成されそうなので回収してきてほしいんだって。

 向こうも人手不足で猫の手も借りたいそうよ?」

「わかったにゃ、がんばるにゃ」

「できるだけ早めに船を送るから、うまくいかないときは手伝ってもらって」


 猫神様や自分のいるここは高天原、ヴァルハラは別の神界でお隣さんだ。

 結構交流が有り仲の良い間柄だ。

 賢者の石は無機物の複製に適した神器で、どんなに複雑なものでも複製できてしまう優れものだ。

 もちろん材料はいるわけだが。


 また生物の生成には向いていないため、人間を数千人犠牲にしてねちょねちょしたスライム的なものができたりと危険極まりない。

 幸いまだ完成してないので早めに回収に向かわねばならないだろう。


「わかりましたにゃ、でも賢者の石関係は持って帰るの、難しいかもしれないですにゃ。」

「むむ、そうね、それじゃ次元倉庫をつけてあげましょう――ふんにゃぁ!」

 変な掛け声とともに猫神様から光が溢れ出る。

 光は帯になって自分に向かって吸い込まれるように消えていった。


「にゃにゃ、ありがとうございますにゃ」

「タマ、いま変な声とか思ったろ」

 顔をぐりぐりされる。

「言ってないにゃ、思っただけにゃ」

 体中わしゃわしゃされた。


 毛があっちこっち向いて不快感がすごい、ちょっと毛づくろいタイムだ。

 なめなめしながら、首輪型の倉庫でもつけてくれたのかと思ったが、付いてないようだ。

「猫神様、倉庫はどこですにゃ?」

「お腹を見てみなさいな」

 お腹? 見てみるがもふもふした毛でよくわからない。

「ふふ、ここよ?いーち」

 仰向けにされお腹に手を置かれる。

「にーぃ」

 すすっと下腹部へ手が滑る、なかなか心地よい。

「さぁーん」

 すぽっと猫神様の手が毛に埋もれた袋に入る。あれ?

「ダーッ!!」

 拳で突き上げられ驚愕する。

 ばかな! 袋だと!

 猫神様は手を天につきだしたポーズで、その手に自分が逆さまにぶらさがっている。


「にゃぁあ有袋類になってるにゃぁ」

「あったかいねぇ、被って良い?」

「これ以上は、やめてほしいにゃ!」

 もはや猫と呼んでいいのか謎の生物になっていた。

 有袋類といえばカンガルーやらコアラだが、さらに言えばメスにしか袋はないはず、色々超えてしまった感がある。


「オスなのににゃぁ」

「まぁまぁ、首輪なんてつけてて鈴をつけられても困るからねぇ」

 敵に鈴を付けられると、監視されるし、妨害されるしろくな事がない。

 いわゆるコンピューターウイルスみたいな物だ。


 神使の階位が上がれば難しいが、猫又程度となると付けられる可能性は高くなる。

「うにゃ、しかたないですにゃ」

「さぁ、タマ準備していっておいで、五年位猶予はあると思うけどはやめに世界樹に行くんだよ?」

「わかってるにゃ」

「前回もそう言ってさ、世界にまたがる大家族になってたよね?」


 前回世界を後にするときに家族が、たぶん五千匹位になっていた。

 その御蔭でいくらかの信仰を得ることができたのだが。


「こっ、こんかいは気をつけるんだにゃ!」

「じゃあいっておいで、朱雀門のほうにはもう話ししてあるからね」

「りょうかいですにゃ、いってきますにゃ」

「いっておいで気をつけるんだよ」



 猫神様の屋敷を後にして、自分の家に戻ってきた。

 五年も猶予があるなら色々持っていかなければならない、調理道具や食料をお腹の倉庫に入れていく、生肉は猫又になってからは、あまり好まないようになってしまったのだ。

 今回は次元倉庫があるため、大きくて持って行きにくい、フライパンやまな板も持っていく。

 そういえば能力拡張もわすれずにいかねばならない、準備を終え役所へと向かう。


 役所で働いている神使は、色々な神様のところから出向してきている。

 その殆どは人型であり獣型はほとんどいない。

 人型と獣型はなぜあるかは、元々生きていた頃の姿次第であり、魂に適正がある者が輪廻の輪から引き上げられ眷族になる。

 ちなみに強制的にだ。

 人型だから上位というわけでもないし、階位が上がると人型を取れるようにもなる、その逆もだ。

 ただ仕事内容から、人型が必要とされるだけだ。


 受付を済ませ日の当たるとこで待っていると、やっと順番が回ってきた。

「二十六番でおまちのタマさーん三番窓口へどうぞ」

 アナウンスをきいて三番窓口にいく、狐耳のお姉さんだ。

 おそらく、お稲荷様の所の神使なのだろう。


「こんにちわだにゃ」

「こんにちは、今日は能力拡張ですね、この上に手を載せてください」

 情報を読み取る神具の上に前足を置く。

 わずかに光が神具に吸い込まれていくのが見えた、それぞれの神力の波長から個人を識別するらしい。


 ここではさまざまな後付能力を見たり、付けたり消したりすることができる。


「現在の主能力は板術と雷術ですねぇ、残念ながら三尾まではまだまだ無理ですね、千年くらいかかるかも?」

 ふぁ! このお姉さんひとこと多い、少し傷ついた。

 板術は板を扱える防御能力、雷術は電気とかを扱える攻撃能力だ。

 副能力には二足歩行、親指(猫でも物が持てるようになる)、治癒、身体強化、もふもふ強化がついている。


 尻尾一本につき大きな力をもつ能力が付けれるが、付けるにも信仰がいる。

 コツコツと善行をつんで、信仰を得られれば尻尾も増えるだろう。


 能力といっても後付と、自分で長い年月をかけて習得したものがあるが、後者はここでは見ることが出来ない。

 例えば自分は猫唱拳が使えるが、長い修業を経て手に入れた能力だから此処では見れない。


 猫唱拳は自分より大きなものと戦う拳法で、詠唱しながら様々な強化をする事ができる、強力ではあるものの詠唱が必要で、声が出るので暗殺には向いていない。

 猫本来の戦い方を捨ててでも、より強い力を求めた結果うまれた拳法なのだ。


「余った信仰値で、なにか付けれますかにゃ?」

「そうですねぇ、毛質向上か軽量化ならとれますね」

 軽量化は身軽に動けるようになり便利だ、毛質向上は艶と手触りが良くなるのだが戦闘向きとはいえない。

 だが迷わない、毛並みは大事。


「じゃあ毛質向上を、おねがいしますにゃ」

「えっ、本気なのかな? かしこまりました、こちらへどうぞ」

 通常階位が低いと便利な能力をつけたがるが、容姿に係る能力をつけようとしたため、狐耳のお姉さんはびっくりしたようだ。


 狐耳さんが膝をポンポンと叩く。

 猫って素晴らしい、ふとももをふにふにすりすりする。

 人間でやるとセクハラとか言われそうだが猫である。

「それでは施術しますね」

 所謂ブラッシングである、櫛のような神具で丁寧に撫でられると、どんどん光沢が増していくのがわかった。


「あら? お腹に何か引っ掛かりが……これは……これは素晴らしい!」

 おもむろにお腹の袋に顔を突っ込み、狐耳さんは勢い良く立ち上がる、突然のことで混乱するが、袋と見ると被ったり突っ込むなとおもう。

 自分がしないかといえば、するのだけれども。


「新しい世界とかどうでもいいから、降ろしてほしいにゃ!」

「これはタマさん失礼しました、袋の中には不思議な空間が広がってました」

「次元倉庫ですからにぇ! というか顔入れるにゃ!」


「ふふふ、まぁそう怒らないでください鰹節あげますから」

「にゃぅ、これは良い鰹節にゃ有り難くいただくにゃ」

「(ちょろいわね……)」


 思わず良い鰹節を手に入れて上機嫌で役所を後にする、少しばかし小腹がすいたタマは通りの茶屋に立ち寄った。

 席に座ると狸っ子が注文を取りに来た。

「いらっしゃいませ、ご注文はお決まりですか?」

「お茶とみたらし団子くださいにゃ」

「はーい、それでは少々おまちください」

 急ぎ足で行く狸っ子の尻尾をみると、もこもこ具合がなかなか素晴らしい。

 もふもふも良いが、もこもこも良いものだ。

 我がもふもふにはかなわないだろうと思っていると、頼んだものが運ばれてきた。


「ごゆっくりどうぞ」

「ありがとにゃ」

 まずはみたらし団子を手に取る、親指の能力で猫でも物がつかめるのだ。

 団子の中でもみたらし団子は特別である、きなこも捨てがたいが。

 ひとくち口の中に入れる、硬さはちょうどよい甘さも調度良い。

 お茶はあまり好きではないが、この時ばかりは別だ。


「お茶がおいしく感じるにゃぁ」

 団子で柔らかいのは苦手なのだ、上顎につくような柔らかい団子は認められない。

 ずべて平らげるとお持ち帰りのみたらし団子を大量に貰い朱雀門へむかう。


 異界へとつなげる転移門は街の四方にある、それぞれ用途が決まっていて今回は転移容量は少ないが、どこにでも繋げれる南側だ。

 主に獣型神使がよく使う。

 門を通るとき、神使は門の転移容量に見合わない力を封印されてしまう。

 その代わり繋いだ先の言葉や文字を記憶させてくれる。

 もっていける能力は尻尾一本分までになるだろう。


 といっても戦場に向かうわけでもないので、問題はない。

 北の玄武門なんかは軍事用で、場所は選ぶが大規模な艦隊を送り出せる。

 朱雀門の門番は赤い雀だ、小刻みにはねて動くのが本能を刺激するが我慢だ。


「話は聞いてるちゅん! 門をつなげるから待つちゅん」

「よろしくですにゃ」

「そういいつつ、手で、押さえるの、やめてもらえるちゅん?」


 我慢してたが、無意識に手を出して押さえてしまっていた。


「これだからニャンカスは嫌だちゅん」

 嫌味を言いながら朱雀は門を目的の世界へと繋げる。


「ニャンカスとか言わないでほしいにゃ」

「ニャンカスはぁ、さっさといくちゅん!」

「いたいにゃ、やめてにゃ!」


 朱雀にくちばしでつつかれながら門へ追い立てられた。


 次回予告


 新たな世界、そこはタマにとって厳しい世界だった。

 衛兵に職質されるタマ

 お兄さんこの葉っぱなにかな?

 はたしてマタタビは薬物の使用に該当するのか?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ