小隊への不信
おつまみが来て、お酒が進んで、他愛もない話をする。私の川瀬さんが一杯飲み終わる頃には私の緊張も解けていた。
「どう?調子戻ってきた?」
どうやら、川瀬さんには緊張がまるわかりだったようで、少し恥ずかしい。
「はい、大丈夫です。結構飲むんですね、川瀬さん。」
もう4杯目になろうかというロックの焼酎を飲み干す。
「さぁて、いい気分になってきたし。そろそろ本題に入ろっか。」
「本題、ですか?ただ飲みに来ただけだと思ってました。」
すこし顔を赤くした川瀬さんが心なしか真剣な顔になる。
「これからの話をしようと思いまして。この小隊が集められた理由から説明しますね。」
「はぁ。理由ですか。」
川瀬さんが敬語になった。真面目な話なのだと確信する。
「実は半年前から調べていまして。何かのエリートが集められた。でもなんのエリートかは隊員には知らされない。それに何か月もただただ待機なんておかしすぎるでしょう?出勤は週一ですし。」
私たちが集められたのは約8か月前。確かにおかしいとは思っていたが初めて入る部隊だし、こんなものかで済ませていた。お給料はしっかり振り込まれるし、ただ書類のはんこ押しを支部長から任されるだけだし。
「本部からのれん分けされた研究施設に入っていた時代が長かったので少し人脈を使って調べたことを少しお話しします。あ、ほかの方々には伝えないでくださいね。」
「なんでまた、私にそんな重大な話をするんです?それとこれは支部長も知ってるんですか?」
そんなに重大なことなら、支部長が許すはずがない。あの人は情報とかそういうのに厳しい人だ。
「あなたは13番隊の中で、一番何にも毒されていない。それが理由です。実はこの調査自体、支部長が提案したことなんですよ。支部長も実は本部のお偉い人なのですが、突然情報があいまいになってきたことがだいぶ不満だったらしくて。そこで、支部長はほかの部隊、僕は研究部や支部長の手の入れにくいようなところから情報を仕入れていたんです。」
川瀬さんは唐揚げをつまみながら話す。この人たち、割といろんなことやってそうだとは思っていたけど、まさかスパイ活動もやってるなんて。
「続けますね?それで、あなたが毒されていない、というのはですね。大山さんと木村さんは前、同じ傭兵団にいたというのは知ってると思いますが、実はあの人たちも本部の人間だったんですよ。松井さんは過去にマフィアを転々と歩き回ったスパイだった、という情報もあります。」
「それがあの人たちが、こう、悪いという理由になるんですか?」
「ただの経歴詐称なら問題なかったんですが、これは本部がかかわってるらしくて。この情報をもらった時にだいぶ面倒なことになってそうだと確信したんです。」
一口、焼酎に口をつけて続ける。
「えー、それでは本題に戻しますね。これからの話です。これから、小隊で集まる機会、というか出勤回数が多くなるでしょう。これはわかりきったことです。そしてしばらくして、戦力になってきたあたりで、まる一週間かかる任務が3つ入るはずです。休みがなくなるので覚悟してくださいね。そして、任務が3つとも終わったあたりで、支部長が殺された、という情報が小隊に入るでしょう。」
「し、支部長がですか!?」
少し声を出しすぎて、川瀬さんに、しーっと言われてしまった。
「もう、誰が聞いてるかわからないんですから。まあいいか。とりあえずつづけますね。」
「す、すみません。」
「この一週間の任務というのは、すべて対象の殺害です。これがまた厄介で......いや、またその時にお話しします。そして、支部長が死ぬという情報が入る、というのがですね。実はこれが情報だけなのか、本当に殺されるのかがわからないわけですよ。」
「どういうことですか?」
「実は僕もよくわかっていないのです。知人によると、そういうことになっていると聞かされました。それにこれが支部長が仕掛けているのか、それとも上が仕掛けているのか、はたまた本当に暗殺計画があるのか、ともわからないので情報が入る、ということにしています。うまく説明できなくてすみません。」
あまり事態が呑み込めていない。突然のこと過ぎて。
「あー、すみません。どんどんと話を進めてしまって申し訳ないです。僕もちょっと酔いが回りすぎてしまってうまく話せてませんね。」
「い、いえいえとんでもないです。」
胸に何かつっかえてるような感覚がしてうまく返事ができない。
「とりあえず、今日はここまでにしておきますね。いやぁ、女性とサシで飲むのが久々過ぎて緊張をほぐそうと飲みすぎました。面目ないです。あ、店員さん、お会計」
川瀬さんも緊張していたのか。全然そんな風には見えていなかった。
「今日はありがとうございます。川瀬さんはこれからどうするんで?」
清算が終わった川瀬さんに話しかける。今日はおごってもらってしまった。
「僕は研究室に返って今日の訓練の整理を......っとっと」
川瀬さんが荷物を持ち上げて立とうとしたとき、よろけてしまった。
「うわぁ!大丈夫ですか?今日はもう帰って寝たほうがいいですよ。」
「そうですねぇ、そうするしかないようです。部屋まで面倒見てもらっていいですか?」
苦笑いを浮かべながら体制を立て直してそういった。
「おごってもらいましたし、それくらいしますよ。」
私はよろける川瀬さんをささえながら、支部に返っていった。途中、軽いセクハラ発言を受けながらもきちんと部屋に送り返した。けど部屋の前に来たその時。
「あれ、鍵がない。どうしたんだろう。研究室かな。どうしよう。」
川瀬さんが研究室に部屋の鍵を忘れたらしい。研究室はここから10分ほど歩かないといけない場所にある。
「あぁ、もう。わかりましたよ。今日ぐらい泊まっていけばいいんじゃないですか?」
すこしため息をつきながら川瀬さんにそういう。これ以上面倒を見るのも疲れたし、なにより私の部屋はここから1分もかからない。
「すみません、でもいいんですか?そこまでしてもらって。」
「いいですよ。その代り、変なことしないでくださいね?」
川瀬さんならやりかねないが、なんとなく今日なら大丈夫だと思った。
その日、川瀬さんを寝室から隔離したにもかかわらず、満足に寝れなかったのはいうまでもないだろう。




