第1話
初日だし連続で、もう一個あとで出しときます
結論。
1人で重い鞄と更に重いヘッドギアを運ぶのは無理があった。
結局、桐嶋宅の自転車を借りて、帰路にはつけたが、またこの家に行かなくてはならなくなってしまった。折角帰宅部で外に出なくて大丈夫だったのに・・・。
家につくと玄関が全開になっていた。初穂がアイツから連絡を受けて開けたのだろう。
「ただいまー」
「お帰りなさい」
リビングの方から鈴の鳴るような声と共に、ポニーテールの少女が駆け寄ってくる。俺の妹の桜葉初穂だ。
「おう、初穂」
「ごめんねお兄ちゃん。閉め出したりして」
そういってスポーツ飲料水を、俺に差し出す。
「ありがと。てか嫌だったらあのバカの言うことなんて無視すれば良いんだぞ?」
初穂が斎我のイタズラの被害に会うことは絶対にない。1度奴には前科が有るが、その時地獄を見せてそれっきりだ。
それでも奴は諦めず。時たまメッセンジャーなどで初穂を代行人として巻き込んだりしている。
「いいよ。それでもやってるのは私だから。それに---」
「それに?」
初穂は少し顔を赤らめながら上目遣いになると---
「---お兄ちゃんと遊びたかったから」
---と言い放った。
「あのね、去年は受験勉強で遊べなかったし、高校生になったら忙しいでしょ?」
「・・・」
「だからね、お兄ちゃんをわざわざ別の遊びに誘うんじゃなくて、最初から同じ遊びをしたいなぁって・・・」
なにで慌てたのか矢継ぎ早に言葉を続ける初穂。
正直この夏も初穂に構ってあげるしかやることは無かったのだが、こんなに可愛い妹と遊ぶ事が出来るのだ。
初穂の頭を右手で撫でる。俺自身も背は同年代で1番低いが、初穂はそれよりも頭一つ分小さい。
初穂はにこっと微笑んで目を細める。
・・・まあそれなりの結果を出して報いよう。
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やっと来た夏休み。そしてFBOのサービス開始日だ。
そんなお昼頃。制作者代表がインタビューを受けている。
スーツを着た若い男。天野空という名前らしい。
正直、新しいジャンルのゲームの開発は素晴らしいとは思うが、昨日それを受け取った俺にとってはそこまで天上人の様には思えなかったが、初穂はポニーテールを踊らせながら聞いている。
『それでは天野さん。最後にFBOについて一言お願いします』
「やっと終わるのか」
「お兄ちゃんちゃんと聞いてたの?」
正直あんまり。彼は『早くプレイしたい人もいるでしょうから手短に』と前置きして続けた。
『プレイヤー。詳しくはプレイヤー予定の皆さま。FBOに真のユニークは存在しません。
無論とんでもなくレアな武器やボーナスは存在します。が、どれも試行錯誤し、何度も繰り返し、勝利を勝ち取ったとき。必ずあなた達の手に、それらは在るでしょう。
本当の自由で己を作り上げる。皆さんを縛るものは何もないことを覚えていてください。』
『それでは、ゲーム開始のカウントダウン開始です。視聴者の皆様はヘッドギアを装着してください』と無機質な音声が流れると、画面にカウントダウンが表示された。
「初穂。トイレはいったか」
「お兄ちゃん。私もう中学生だよ?」
「そうだったな。今月は母さんも父さんも海外だし、今日はめい一杯遊ぼうか」
「うん!」
本当に嬉しそうに笑うな。これだけでこのゲームを始める価値がある。
そしてカウントが0になる。
俺たちは新たな世界に旅立った。