第12話
「お兄ちゃんこっちだよー」
「おう」
今日は第1の町から初穂と一緒にログインした。俺の新しい武器が手に入る予定だが、兄妹揃って早起きしたせいで姐さんとの約束の時間には少し早い。
折角なのでヒナに構ってあげることにしよう。
「ヒナ。今日は露店巡りでもするか?」
「え?いいの?」
心配そうな顔で返すヒナ。
「どうした?不安そうな顔して」
「だって・・・お金がないよ?」
このゲームは無数にあるRPGのように、敵を倒したからって即金が手に入る仕様じゃない。お金を得るにはモンスターを倒したりしてその素材を売るぐらいしかないのだ。
かといって弱いモンスターは誰でも狩れるぶんとても安く、収入も雀の涙。利益を出すには強い誰も狩れないような強敵を狩らないと意味がない。もっとも今は弱いモンスターしかいないのだが。
ヒナは俺はそんなことは到底できないだろうと思っているようで、心配しているのかもしれない。
俺はヒナの頭をポンポン叩き安心させるように言う。
「心配するな。金なら持ってないが物々交換でならどうにかなるさ」
「それ大丈夫じゃないよ・・・」
確かに自分でもおかしいと思う。物々交換て宛にならないし。苦し紛れに俺は続けた。
「ま、まあ俺も後から用事があるんだ。ついでだから一緒にいこう」
「もう、仕方ないなぁ」
ヒナは苦笑して、楽しそうに笑った。
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女の子と歩いていると、割りと色んな所で新しい発見がある物だ。家具を売っている店があったり、いい素材を売っていたり、逆に買い取り専門の店も見つけたりした。男とは見るものが違うのか、いい掘り出し物が見つかったりしている。
「オヤジ、『スライムゲル』10本くれ」
「おう分かった!ちょっと待ってな!」
「お兄ちゃんそんなに何に使うの?」
「秘密だ」
俺は笑顔で茶化してはぐらかしてみる。するとヒナは少し拗ねてみてそっぽを向く。
「待たせたな!支払いは何でする?」
「物々交換で大丈夫か?」
俺はまず『ゴブリンのこん棒』を1ダースほど提示してみる。オヤジは慌てたように言ってきた。
「いや、こんなに要らねぇよ。5本で十分だ」
「そうか?」
少し安い気がしたが俺は先方の言う通り、5本のこん棒を相手に渡し、代わりに試験管に入ったスライムゲルを10本インベントリに入れた。
「まいどあり!所で隣のは彼女かい?可愛い娘だな」
「ふぇ?」
そこでオヤジがからかって来た。ヒナは咄嗟のことで目を白黒させている。
「そうだと嬉しいがな。妹だよ」
「そうかー、そりゃ残念だな」
俺はそこでいくらか換金してもらうと、店を離れた。
「いい品揃えだったな、ヒナ・・・ヒナ?」
反応が無いと思ったら、ヒナはまだそっぽを向いていた。恋人扱いされたことに憤っているのか、首筋まで紅い。
「ふむ・・・」
さてどうしたものかとそこらを見渡すと、雑貨屋のような店を見つけ、そこでちょうどいい物を発見した。
「これをくれ」
「まいど」
思ったよりもそれは安く、楽に買うことが出来たそれを、俺はヒナの首にかけた。
ヒナは間抜け顔でこちらに振り返った。
「へ?」
「安物で悪いけどプレゼントだ。これで機嫌を直してくれ」
ヒナの首には小さな蕾の絵が彫られたネックレスがかかっていた。どうやら《彫刻》のビルドの持ち主が先ほどの店をやっていたのだろう。植物を彫ったものにしては珍しく、蕾が題材になっているが、それがむしろ彼女の名前にぴったりで面白く、これをプレゼントに選んでみたのだが、ヒナもそれに気付いたらしく。嬉しそうにしたかと思うと少し吹き出した。
「お兄ちゃん。別に怒ってなんて無かったよ?」
「そうか?まあどっちでもいいさ。さっき言った通りに安物だから貰ってくれ」
「全くもう」
困ったようにしながら、興味深そうに彫刻を眺めるヒナ。
その目に女の子以外の目を感じたので、ふとこの間浮かんだ疑問を聞いてみる。
「そういえばヒナはなんのビルドを選んだんだ?生産職なのは知ってるが何を作るのかまだ知らないぞ?」
ヒナはうっかりしていたようで、直ぐにその事について説明する。
「《裁縫》だよ。服とかを編む奴だね。お兄ちゃんもまだ作って無いみたいだし、先に言えてよかったよ」
「そうか。武器はもう注文してしまったから、被らなくてよかった」
先に装備を作ってもらう約束をしていたのに、自ら破るわけにはいかないからよかったよかった。
「それが今日の用事なの?誰に武器を依頼したの?」
ヒナが小首を傾げて聞いてくる。
「名前は知らないが、β出身の人だ。腕は十分だよ。この先の露店にいるはずだ」
「へー。誰だろう」
そして、ほとんど間を開けず、人ごみの先から手を振っているのが見えた。俺はそこへ向かって一直線に向かう。
視界が開けると、昨日見たにんまり顔の女性が立っていた。
「やあ坊っちゃん。注文の品は出来てるよ」
「そうですか。姐さんどんなものか見せてもらっても?」
顔を見るなり話を始めるが、よくもまあ少ししか話して無いのに気が合うものだと思っていると、背後から声をかけられた。
「ねぇライト?なんでここに?ていうかあねさんってどう言うこと?」
見るとサイカがそこに立っていた。その身にはリアルと違って所々鎧がつけられている。が、それに加え、いつもと違い呆然としているように取れた。
「何を驚いているんだ?」
「お兄ちゃん」
「ん、なん---」
振り替えると心臓が止まるかと思うような表情をしているヒナが。俺、何かしたろうか。
「おやおや~」
その場ではただ一人、姐さんだけが楽しそうにしていた。
本当色々説明したいけど話が延びるなー。