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ADVALN ―世界の真実を知るまで―  作者: 安藤真司
―出逢い編―
9/20

二人の世界が出来るまで

野上結は逃げる。

自分から。

自分の意思から。

(違う違う違う、私は、ホントに、なんでこんなに…)

右も左もわからない建物内を、わけもわからないままに走り抜けていく。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ」

今やゾンビと化したらしいこの体は確かにいくら人間であった時の全力で走っても疲れないらしい。

それはつい先日の事件で嫌というほど自覚したはずなのに。

さらには。

心を強く持てば、紋章の力を更に強く扱える。

誰よりも早くノアを助けると誓ったあの時の力は、確かに誰よりも強い想いから生まれたものだ。

だからこそ。

「心が弱ってる今は、たったこれだけの距離で、こんなに疲れちゃうのかな…」

メンタルがフィジカルに影響されるという意味ではまだまだ自分は人間であると呼べるのかもしれないね。

と、結は思わなくもない。

協会の何階あたりに来たのかもう覚えていないが、とりあえず少し休憩したい。

心を休めたい。

そう思ってふらふらと歩いていると丁度良く突き当りに小さな噴水が見えた。

こういう水ってあんまり綺麗じゃなかったりするんだっけ、と呟きながらも今は気にしないことにして、淵に座って軽く水で顔を洗う。

そのまま水面を覗きこむと自分の、泣きはらした可愛げのない顔が映っている。

「ひっどい顔…」

大きくため息をついて、結局逃げてきちゃったけどどうしようかなぁ、と悩む。

悩みながら、先ほどの主様ことガイさんの話を思い出す。

「そう、だよ、無害認定されなかったら、殺されちゃうんじゃ…!!」

え。

あれ。

ひょっとして、私ここにいるうちにもう、一葉先輩…。

…。

ううん、仮にそうだとしても、今の私には、会わせる顔もない、かな。

第一、あの人は、たぶん死なない。

死ねない。

それも、わかってることだったじゃんか、落ち着きなよ私。

「どうしよ…」

とごたごたひとりごちていると、視界の端で、水面が急に激しく揺らいだ。

「ん?今すごい波がたってたような…?」

気のせいだろうか。

いやでも。

と、覗き込むように見ていると、水の中から得体のしれない引力が働き、結は水の中に吸い込まれそうになる。


「えっ!?なにこれぇ!?」


一瞬のこと過ぎて結は何をすることもできないままに水の中に引きずり込まれた。

が、水面を超えたあたりから周りの風景が急にぐらぐらと揺らいでおり、本当に文字通り噴水の中に吸い込まれたのではないと結は直感する。

さらに、どういうわけかはわからないが、結の体を引いてくる力は強いが無理な強さではなく、どこか温かみを感じる者であったので、結はそれを感じて抵抗をやめる。

そのまま目を瞑り、数秒。

身体の感覚が元通りになるのを感じるが、若干乗り物酔いのような気持ち悪さを感じる結は目を中々開けない。

するとそこに声が届いた。

「無理やり連れてきちゃってごめんね?大丈夫かな?ちょっと待ってね酔いを醒まそうか」

と、頭を撫でられる感覚。

これもなかなか温かい。

と思っていると体の気持ち悪さの一切が吹き飛んでいる。

ちらっと目をあける。

そこには全く見覚えのない小さな池と、やはり見覚えのない小さな小屋の二つだけがポツンと存在している非常に狭い空間があった。

その小屋の前に座り込んでいる結と、その目の前に、一人の少女が結を覗きこんでいる。

「え、と、ここは…どこ?あなたは…どちら?」

「私はね、クウヤって言うんだ、クゥって呼んで欲しいかな、『くー』じゃなくって『クゥ』ね」

「あ、私、結、野上結です、むすびーって呼んで欲しい、かな」

「うん、よろしくね結ちゃん」

「うん、こちらこそよろしくだよ、クゥちゃん」

「ストーップ」

「へ?」

「クゥちゃんはだめ」

「…ええと」

「元彼がそう呼んでいたので」

「…ええと」

「厳密にはくーちゃんだったけど、とにかくちゃん付けはだめ」

「…クゥ、さん?」

「なあに、結ちゃん」

「とりあえず、その」

「あ、うち入ろうか、ここじゃなんだし、そもそも私が結ちゃんのこと呼んだわけだしおもてなしなくちゃだし」

「え、いえいえ、そんな」

「それに、結ちゃんも相談があるんでしょ?」

「……どうして、それを?」

「それも含めて、ゆっくり話しましょ?ね?」

………。

正直なところ。

割と初対面でもテンション高めに話せて、あまり人見知りのない結であったが。

このクウヤという少女のことは苦手であると感じるのであった。


「私ね、結ちゃんたちがさっきまで話していたガイくんのお嫁さんなんだ」

「へ!?そうなの!?」

いや何歳だ!?

見た目、私と同じくらいに見えるけど…。

つーかあれ、ガイさんと何歳差だろ!?

まさかロリコっ!?

と、愛らしい姿の少女と卓を囲む結はいまだに距離感が測りきれず、寸でのところで突っ込みを我慢する。

「うん、もうすぐ結婚してから何周年かなぁ…」

ホントに何歳だ!?

「まぁ837周年なんだけどね、実は私覚えてました!みたいな」

嘘つけぇっ!

「やだもうそんなにさっきから突っ込まないでよ、キャラでもないのに激しいツッコミは精神的ストレスを助長するよ?」

「心の中を読まないでクゥさん!」

「まぁ、だからね、簡単に言えば、人間じゃないのよ、私も」

「…!それって、アドバルンの、紋章の…」

結は急に真剣な話題に移ったと、居住まいを正す。

「うーん、それとは違うんだけど、まぁアドバルンの不思議な力が源ではあるのかな」

「違う…?」

「それは大事なことじゃあないよ、とにかく私人間じゃないから、さっき言ったことは本当だよ?ガイくんとは837周年」

「それは興味ないんだよクゥさん」

「あらら辛辣だね…かつてこの協会が王国だった、って話は聞いた?」

「うん」

「そ、魔界と人間界のあちこちを二人で旅して、ようやく和解して、共存できるようになって、王国そのものが必要なくなって、今の協会の前身ができて、今の世界が作られていったの、それを二人で見守ってきたんだ」

「そっか、二人で、ってことは、もしかしてあのガイさんも…」

「あはは、また私とも皆とも違う形だけどね、ガイくんも人間ではなくなっちゃったね」

「なくなった、の?」

「うん、色々あったけど、結局私とずっと一緒にいたい、って言って、人間やめるぞぉ、みたいな、いやぁ、あの時のガイくんはかっこよかったなぁ惚れ直しちゃったよ」

「いやそんな、簡単に、この世界では、人が人でなくなってしまうことができる、ものなの…?」

「んー、逆に聞くけれどさ、結ちゃんにとって、人間であること、って何?」

「人間で、ある、こと」

「うん、例えばオオカミに育てられた女の子は人間?あるいは、生まれてすぐに親に見捨てられて死んでしまった子供は人間?あるいはあるいは、生まれてくることすらできないで死んでしまった子供は人間?」

「そりゃぁ、人間、だと、思うよ、だって、人の子に生まれたんだから」

「生物学的視点であれば確かにそうだね、それは否定のしようもないことで正しいと思うけど、オオカミと意思疎通が出来て人間とできない子はオオカミなんじゃないかな、それに、生まれてこようが生まれてこなかろうが、正直親の愛をもらえなかった生き物が人間であるわけがないと私は思うんだけど」

「それって、じゃあ、例えば!どんなに頑張っても貧乏で!そんな家庭で生まれ育った子供はクゥさんから見たら極論、人間じゃないっていうの!?」

「さぁ、それは私じゃなく、結ちゃんが知ってるんでしょ?」

「…」

「だから、悪い意味合いでもこんなに簡単に人間なんてやめれるんだよ、正しい想いがあれば人間なんてすぐに正しい形で進化できるよ」

「正しい形なんて、そんなもの」

「人間はさ、その気になればすぐに人間を超えれるよ、でも、超えるのが怖いだけ」

「人間は、そんなに、強くないと思います」

「いやいや、そんなことないって、何言ってるの結ちゃん」

そこでクウヤは一息溜めてから言葉を続けた。


「私たちの心はそんなに弱くないよ、結ちゃんだって知ってるでしょう?」


確かに、そうだったかも、そう結は思った。



一息ついたクウヤはいつの間にやら沸かしていたらしいお湯でもって、紅茶を入れるとテーブルの上にことんと二つ並べてにこにこと笑っていた。

さっきまでの話が本当であるならば、この見た目結とそう変わらない少女は実は最低でも837+α歳ということになるみたいだが…。

(なんか、大人の余裕が一周して幼くなってる印象だね、かわいいけど)

という結論で自分の中でアリ判定をだした結はゆっくりと紅茶とトークを楽しむつもりで沈んだ心を入れ替える。

「ところで、さっきの話はいいとしてさ、クゥさん私に話があるって言ってなかった?」

きょとんした表情を見せた直後に、あぁそれそれそうだったという顔をしてみせるクウヤ。

「悩める少女の相談に乗るのも私のお仕事の一つということでね、噴水見てたら明らかに悩める女の子がいたものだから」

「うっ」

「正直ガイくんから話は聞いてるから、ある程度の予想はついているんだけど、結ちゃん」

「あのっ、これは私と一葉先輩の問題ですので、他の人が関われることなんてなにもないんです!」

「本当にそう思っているなら、今必死であなたを追いかけてる一葉くんとすぐに話し合って解決したらいいんじゃない」

「えっ追いかけてきてる?」

「うん、部屋を出た結ちゃんを、追って」

「一葉先輩…でも、私、会えないんです、会っても、先輩の顔も、見れない」

「…確認だけど、結ちゃんはさ、一葉くんのことが嫌いになったの?二度と近寄らないでほしい?自分と同じ空間にいて欲しくない?死んでも死なないそんな彼を気持ち悪いと思ってる?」

「そんなのっ!全部っ!違います!」

「だよね」

「で、でも、そこまでわかってるなら、私が、逃げてる理由だって、クゥさん知ってるんじゃないですか」

「さぁ、さっき私も言ったし結ちゃん自身も言ったけど、それは私じゃなくて結ちゃんが知ってることであって、結ちゃんの問題だからね」

「じゃあどうしろって言うんですか」

「今の気持ちをきちんとさ、話さないと何も伝わらないよ」

「でも、話したところで、伝わらないかもしれないし、伝わってとしても、私今すごく失礼な行動してますし、嫌われてるかもしれないです」

「……ちょっとだけ、長話しても、いい?」

「…はい、なんですか」

「さっきも話したけれど、私とガイくんは結婚しているし、お互い好きあっているんだけどね、そこまでいくのに結構時間はかかったの」

「惚気を聞く気は…」

「いいから聞いて。私の元彼はね、もうすんごい昔の人間と魔族の戦争中、勇者として魔王を倒すべく立ち上がって、その戦争を終わらせるために魔王と一緒に死んじゃったの、それでその時勇者と一緒に戦っていた私とガイくんが、戦争が終わってから国の英雄みたいな扱いをされて…」


そこでいったん話を切るクウヤ。

何か本当に思うところがあるらしい、と感じた結はそれ以上余計な口を挟まなかった。

「二人で人間と魔族の共存できる世界を作ろうとあちこちを回ったんだ、本当にたくさんの場所を、本当にたくさんの時間をかけて、それで、気づいたら私はガイくんのことを好きになってて、あとから聞いた話だとガイくんも私のこと好きになってくれてたみたいなんだけど、

私が勇者の事好きだった自分を裏切るのが怖くてしかも勇者の事を好きだった事実を知っているガイくんとどう向き合ったらいいのかわからなくて、ガイくんはガイくんで勇者がいなくなった悲しみにつけいるようで罪悪感があってしかも私がずっと勇者を好きなんだろうって思ってたから私とどう向き合ったらいいのかわからなくて」

「…それで?」

「一旦ね、離れちゃった、私の方から、逃げちゃった」

「…」

「でも逃げてみて、やっぱりさ、好きなんだなって余計に実感しちゃって、どうしようもないこの気持ちをどうしたらいいのかな、なんて思ってたらガイくんが私のこと見つけて捕まえてくれて、

思ってること、

感じてること、

今までどうしてきたか、

これからどうしたいか、

過去のことも、

今のことも、

未来のことも、

全部、

全部、

きちんと話してくれたんだ」

そういってクウヤは結の頬に手をそっと触れる。

結はさきほども感じた温かみが顔中に広がっていくのがわかる。

「だから、ね、私は結局待つことしかできなかったけれど、きっと結ちゃんならできると思うよ、全部、話すこと」

「…できる、かな」

「できるよ」

「伝わる、かな」

「伝わるよ」

「私、嫌われてないかな」

「嫌われてないよ」

「私、一葉先輩に、謝りたい」

「うん、謝ってきな」

「うん…!」

ばっと顔をあげる結。

クウヤの力なのだろうか、ひどく疲れていた顔がいつもの元気いっぱいの顔に戻っているような気がする。

いや、鏡で見たわけではないが、おそらくそうだろう。

「クゥさん!私、行ってきます!それで、また、ここに来てもいいですか!?」

うん、と頷くクウヤ。

「ようし!……??」

と勢いよくクウヤの小さな家から飛び出た結だが、そういえばここからの出方をそもそも知らないな、と思い返す。

「あ、クゥさん、どうやってここから出たら…?」

「あ、そういえば教えてなかったねー、ごめんねー、えぇと…あれ?」

「どうしたんですか?」

「…なんだ、やっぱりいるんじゃん」

「え?クゥさん?」

「元の噴水の場所に戻してあげるんだけど一つだけ注意」

「はい」

「またあのちょっと酔いそうな感じになると思うけど、一応私の方で軽減しといてあげるから、気持ち悪そうな顔しないで、出たらすぐに元気いっぱいの笑顔で探しに行ってね」

「やけに具体的な注意で…」

「行くよ…はいっ!」

はい、の掛け声とともにパン、とクウヤが手を叩くとここに吸い込まれたとき同様、小さな池に体が吸い込まれていく感覚に襲われる。

だが、確かに先ほどよりは気持ち悪さを感じない。

これなら戻ってすぐに動けそうかな、と思いながら、体の浮遊感がなくなるのを待つ。

また数秒の後、体の感覚で元の場所に戻ったことを感じた結は言いつけどおり、元気いっぱいの顔で決心を固める。


「ようしっ、一葉先輩に、謝る!それで、今の私の気持ちをちゃんと、伝える!」

「そうかとりあえずそこどいてくれるかなユイ」

「あぁ、はいすいません下敷きにしちゃってて、重かったですか」

「いやユイはまぁ小柄だから全然重くなかったよ大丈夫」

「なら良かったです良くないよ!!??」

良くなかった。

戻ってきた場所に変わりないのだが、丁度噴水の近くにいたのであろう一葉にのしかかる形で戻って来たらしい。

なるほど、クゥさんなんかぼそぼそ言ってたの、これかぁ。

と少しの納得と、少しの気恥ずかしさを新たに抱えつつ。

ひとまずお互い埃を払いながら立つのを待ち、辺りに自分たち以外誰もいないことを確認する。

結はしっかりと一葉のことを正面から見据える。

走って探してくれていたのか、ひどく汗をかいている。

(本当に、必死に探してくれてたのか…)

と、余計に顔が熱くなるのを感じるが。

一葉の方も結から目をそらさずにいる。

(うん、全部話さないと、いけないんだよね、クゥさん)

大丈夫、言える。

結は決心したことをきちんとやりとげるための一言を、一葉に向けて放つ。

「一葉先輩、しばらく逃げていてごめんなさい、でもちゃんと、伝えたいことがあるんです」



しかし。

そう決意を固めた結は、

「あ、ちょっと待って、俺も、あるんだけど、先に言わせてもらえるか?」

一葉によって早速出鼻をくじかれた。

(いやいや、そこは空気読めよ一葉先輩)

言ってしまう。

「いやいや、そこは空気読めよ一葉先輩」

「急に口悪くなったなユイ!?」

閑話休題。

「ごめんなさい、でも私に先に言わせてほしいです」

まっすぐと一葉に相対する結。

一葉もそれに威圧された、わけではないだろうが何か伝わったのか、今度はさすがにあきらめた。

「わかったよ、じゃあ、先に頼むからそのかわり終わったら俺の話も最後までちゃんと聞いて欲しい」

「わかりました、約束します」

そう言うと一葉は小さな噴水の淵に座り、ぽんぽんと隣を叩いた。

ゆっくり座って話そうか、ということらしい。

(まぁ、長話になりそうなことくらいは伝わった、かな?)

結も逆らわずに隣に並んで座る。

周りをちらちら見渡して、タイミング悪く誰か通ったりしないといいなぁと思いつつ。

「ところで、こうやって話すの、一ヶ月ぶりくらいですよね」

「…まぁ、そうだな」

「私が一葉先輩の事避けてましたからね」

「うんでもさ、避けられるようなこと、したからな」

「そうですね、避けられるようなことしてました、一葉先輩」

「あぁ…」

「まず勘違い、というか、誤解というか、それを先に解いておきたいのですが」

「誤解?」

「一葉先輩が助けてくれた時、一葉先輩が、まぁそのぐちゃぐちゃといいますか、あんな感じに臓器ぶちまけて意味の分からない黒い液体吹き出しながらしかも死なないで壊れていく様子を見て、正直に気持ち悪いと思いました」

「…うん」

「それ自体は本心です、本心なんですが、私が本当に拒絶したかったのは、そういう風に一葉先輩を拒絶した自分自身なんです」

「…」

一葉は黙る。

それに甘えて、結は思っていることを全て吐き出す。

「私、助けてくれたのに一葉先輩の事、気持ち悪いって、初めて会ったとき、私だっておんなじことして、おんなじように死んでいって、きっと一葉先輩はその様を全部見ていたのに私に何事もなかったかのように接してくれてたのに、なのに、私は、全然、普通になんか接すること、できなくってっ!

先輩なんかよりもずっと私の心が、気持ち悪くって、それで、先輩の顔見たらまた自分の嫌なところを見せ付けられるような気がして、先輩の事避けて、自分の事から目を背けて、自分の殻に閉じこもって、何事もなかったかのようにノアちゃん達と喋って、

それで、そのうち時間が解決してくれないかななんて思う私すら出てきて、余計に何も前に進めなくなって、でも、全部話したら一葉先輩は、私のこときっと嫌いになって、私の前から本当にいなくなっちゃうかもって、

そうじゃなければ、それすらも全部受け止めてみせて、私の事許してくるんじゃないかって、そんなことされたらもう私、絶対自分を許せなくなって、きっとまた、この世界から逃げちゃうんじゃないかって、

そしたらノアちゃんは、一葉先輩はどうするのかな、リンドウさんとアリスちゃんはどうするのかなって、そればっかり考えて、全然動けなくって、辛かった、辛かったんです、自分一人ばかりが被害者面して生きているのが、辛かったんです!」

一気に話した結は息を荒げながら、最後に本当に伝えたいことを、一葉の顔を見上げながら、やはり一息で言い切る。


「だからこんな汚い私を許してくれませんか?一緒にいてもいいですか?」

「いいに決まってるだろ」


即答だった。

「俺の話、聞いてくれるな?」

と前置きをしたうえで、

「俺もさ、色々考えたんだけど、ユイにきっと嫌われてるんだろうなって思ったし、実際自分の今の状態はユイが言った通り気持ち悪いんだろうなって思った、から、普通に皆から離れていこうかなって、思ったんだけど、さ、

やっぱり一緒にいさせてくれないかな、こんな黒い血が流れているような汚い俺を許してくれないかな、そう言おうと思ってたんだ、だから、むしろ、一緒にいてくれると、嬉しい」

と話し、そっと結の頭を優しく撫でる。

瞬間、結は押し寄せてくる感情をこらえきれずに泣き出した。

「うえぇっ!?なんだよ泣くなよ頭撫でたのやっぱ気持ち悪かったか!?」

「はいっ!もう、超きもいです!男性は喜ぶって思ってる人多いですが、頭撫でられるって行為は女の子からしたら割と気色悪いです!漫画の読みすぎです!」

「あぁもう泣きながらもよく精神攻撃行えるなお前は!?」

「もちろん好きな人になら、人目ない場所限定で嬉しいです」

「細かい解説ありがとうよ余計にへこむわ」

「だから、もう少しだけ、でいいので、その…な、撫でていただいて…」

「へ…あ、あぁ、おう、ま、まぁ減るもんじゃないし、な!」

「そう、です!減るもんじゃ、ないです!」

如何せん対人スキルの低い二人であった。

しばし無言の、しかし気まずくはない時間が流れる。

ふと思うところのある一葉が疑問を口にする。

「つーかユイさ、俺も確かに悪かったけど、避けてた主な理由は自分自身だったんだよな?」

「え、えぇ、まぁ恥ずかしながら…」

「”世界から、逃げちゃう”か…」

「それは、その…」

すっと立ち上がる一葉。

「ユイ、少し、場所移さないか?話したいことが一つ増えた」

「いいですけど、でもなんで場所を?」

「…万が一にも誰にも聞かれたくない」

「わかりました、じゃあどこに行くんですか?」

「んーと、そうだな…」

そこでわざとらしく考えている振りをした一葉は恐らく考え付いていたであろう場所を口にした。

「出会った場所にでも」



隣に並んで寝ころぶ一葉と結。

辺りには見渡す限りの草原。

ここにあるものは、確かにこの巨木、アドバルンのみらしい。

ここは、一葉と結が初めて出会った場所であり、二人とノアが初めて出会った場所である。

その草原のみが広がる場所に唯一存在するアドバルンに寄り添うように、一葉と結は空を仰いでいた。

「でもいいんですか、ここ凶暴なモンスターを倒すための場所、でしたよね?そりゃ用がなければ誰も来ないでしょうけど、もしゾンビとかが襲ってきたらどうするつもりですか?」

「それは来た時に考えるよ、少なくともここにいればすぐにワープして戻れるし」

「そういう慢心が事故を引き起こすんだと現代社会に訴えかけたいですよ…」

ここでも時間の概念はきちんとあるらしく、空は暮れかかっている。

吹き抜ける柔らかい風を感じながら、一葉は滔々と話し始める。

「話したいことが増えたってのは簡単に言うと元の世界の事なんだけどさ、元の世界での俺の話」

「元の、世界のこと、ですか」

「結はさっき、自分を許せなくなって世界から逃げるかも、なんて表現をしてたよな」

「…はい」

「それってどういう意味で使った?」

「…ええと」

「いや、答えなくていい、話を続けるけど、俺も、もし結が許してくれなかったら皆から離れるつもりだった、って言ったよな」

「…はい」

「俺はさ、正直に言うけど、たぶん死ぬつもりだったよ」

「死…ぬ?」

「せっかく許してくれたのにまた気味が悪い話して申し訳ないんだけどさ、俺、実は、この世界に来る前に、自殺してるんだ」

「っ!!」

「というか、自殺しようと思って、高いとこから飛び降りたんだけど、そこから意識がなくなって起きたら、ここにいた、みたいな感じでまだこの世界に実感が持ててないんだけど」

「…どうして、どうして、そんなことしたんですか」

「知ってのとおり、俺は鉄高校の学生でさ、親は金持ちの社長だわクラスメイトもどこぞやの御曹司だのお嬢様だのそんなんばっかりで毎日毎日お前は世界を総べる義務があるとか言われて、さ」

「つまらなく、なったんですか?」

「いいや、確かに疲れてはいたけど、いや、そうだな、そんな生活に疲れたんだ、でも疲れてることに気付かなかったんだ、もうその生活のせいで心はとっくに壊れてたんだろうな、気づいた時には自分の家から家族がいなくなってて、

廃墟になって荒れ果ててしまうくらいの時間が経つほどにはそれに気づかなかった、そんな自分に生きている意味を見いだせなくなった、それで、死のうと思った」

「廃墟に…?」

「それはいいんだ、とにかく、とっくに俺の心なんて壊れてたんだよ、だから、死んだって大したことじゃないなんて、思ってたんだけど、ユイに拒絶された時、すごく嫌な気持ちになったから、たぶん、まだ、この世界には生きていたいんだろうなって思って」

「…そもそも、死ねないんじゃないですか」

「それもそうだな、とにかく、この世界に来たときは本当になんともなしにふらふらとしてたけど、ふらふらここで寝ることを決めてなんとなく起きて、ここでユイと会えて、ちょっとだけ、変わったみたいだよ」

「死にたくないな、と思うくらいには?」

「あぁ、生きてたいと、思うくらいには」

「ホントにちょっとですね」

「俺もそう思うよ」

「…大変だったんですね、色々」

「どうだかね、大変だから自殺する、なんてそんな奴で溢れたら、世界が終わると思うけど」

「私は、その、自殺そのものが悪だとは思わないですよ?」

「いいや、自分でやっといてなんだけどさ、自殺なんて悪だよ、悪そのものだよ」

「そうですかね」

「人殺しだぜ?A君が殺したのがたまたまB君でなくA君だったってだけで」

「でも犯罪は、他の人の財産を奪うから罪なんですよね、時間なりお金なり命なり、なら、自分自身の財産を自分で使用するのは罪じゃないと言えませんか」

「確かにそうかもな、まぁ、俺は家族がどうなったのかわからないけれど、単純に誰かが死ぬことはそれだけで周りの人間の時間を奪うから、それだけでも充分罪だろ」

「詭弁です」

「やけに突っかかってくるな…まぁ一般論はいいよ、とにかく俺は自分でそんな考えを持っているから、あんまり自分自身を許す気がないんだよ」

「自分を、許す、ですか」

「ユイが初めて出会って俺のことを助けてくれた時、確かに、体の中身とかばっちし見たし、気持ち悪いとも思った、でもな、自分よりも気持ち悪いだなんてどうしても思えなかったから、ああして普通に接することができたんだと思う」

「…そんなこと、ないですよ、全然、気持ち悪くなんかないです、一葉先輩は」

「そう言ってくれると、嬉しいよ」


ここで一旦言葉を切り、仰向けだった一葉はごろりと体を横に向け、結の方を向く。

「俺の話は以上だ、元の世界で自殺なんかしようとした、そんな俺だから、本当に、ユイに許してもらうような人間じゃあない、でも、さっき言ったことも本心だ、隠そうかと思ったけどちゃんと全部話したうえで、これからもこの世界で一緒にいたい、そう思ったから…」

「ストップです一葉先輩」

「ん?」

「まだですよ、まだですまだまだ」

「な、何がだよ?」

「一葉先輩だけ話して私が話さないんじゃあ、まだ終われないですよすっきりしないです、伏線張るだけ張って回収されないミステリーくらいまだ終われないです」

「それは確かに終われないな…」

「なので、申し訳ないのですが、もっかい仰向けに戻って下さい、私の話が終わったら横向きになることを許可します」

「わかった…んじゃ聞くよ」

「一葉先輩が壮絶な過去を暴露してくれたので私は大したことないですが、私ですね、実は自殺しようと高いところから飛び降りて目が覚めたら」

「待て待て待て待てそれはさっきの俺だろ!?」

「いえですから、私の、話なんですが」

「…えと、本当に?」

「本当です、この流れでふざけるとでも思いましたか?」

「いやすまん、ふざけたと思った」

「失礼しちゃいますねぇ、私がいつそんな面白くもないことを言うような素振りを見せましたか」

「今まさに面白くもない茶番を見せられてるよ」

「それで、ですね、本当に一葉先輩とかぶるんですが、飛び降りて、目が覚めたらここにいて、っていう流れでこの世界に来たんです」

「そうだった、のか…聞いてもいいか、なんで、自殺を?」

「もちろん聞いてください元よりそのつもりで話を始めていますから…私は、一葉先輩とは逆に、とっても貧乏でした」

「あぁ、そう言ってたな」

「私の家はお父さんが私が生まれて間もなく死んでしまったので、お母さんが一人で私と、私と同い年の、あ、双子でないんですが、弟の二人を育ててくれました、私の知る限りでは私たち家族は貧しいながらも楽しく生きていましたね」

「それなのに…なんで」

「あぁ焦らないでください、ちゃんと話しますって、それで中学を卒業したときに、私も弟も当然働きに出ようとなったのですが、お母さんからも弟からも後押しを受けて私だけは高校に通わせてもらえることになりました、

ただ、やっぱり無理をしていたんでしょう、私、見ちゃったんです、お母さんが、学校の先生に人知れず頭を下げているところを」

「頭を、ね」

「はい、会話の中身までは聞いていません、でも、お母さんのすがるような表情を見てたら胸が張り裂けそうで、そこで私気づいたんです、なんだかんだと言って自分だけが楽をして生きているじゃないかって」

「そんなこと、ないと、思う、けど」

「いいんですよ、少なくとも私はそう思ってるんです、もちろん今でもですが、ええと、それで、私は自分だけ甘やかされて生きている現状に、耐えきれなくって、死のうと思ったんです」

「普通に学校やめるだけで、いいんじゃ」

「あはは、確かに今ならそう思います、でも、そうじゃないんです、私は、お金の問題そのものじゃなくって、二人に迷惑をかけてまで、生きている意義を見失ったんです」

「物はいいようだな」

「物はいいようなんですよ、世界はそうやって嘘でできています」

「嘘でできていることについては否定しないよ」

「はい、それでこの世界に来て、あれなんで生きてるのかな、とか思ったらここで寝ている人がいるじゃないですか、こんな私が人様に話しかけてもいいのかな、もう私は死人じゃあないか、って思ったんですけど、あまりにもかわいい寝顔で、見てたらついうとうとしちゃって」

「悪かったな、かわいい寝顔で」

「本当ですよ、それで思わず話してみたくなっちゃったんです」

「それはどーも」

「ま、いきさつはそんなところで、一葉先輩が私を庇って死んだのをみて、気持ち悪いなと、ついでにそんな風に思う資格もない自分が何やってんだって思って、やっぱり私はここで人に関わるべきじゃなかったななんて考えて、

やっぱり死のうかなと思ったんですけど、なんでか、どうしても今度は死ぬ決心がつかなくって、死ねば楽なのに、どうしてもどうしても一葉先輩にこんな自分を許してほしくって、それだけのために生き続けてる自分が不思議で、なんだかよくわからなくなってました」

「なんか…俺たちおんなじだな」

「全くおんなじですね、元の世界で置かれていた状況は真逆なのに」

「これもひょっとするとアドバルンの不思議な力の一種なのかもな」

「さぁ、そうかもですね」


結もこれで終わりと、話を区切る。

「あ、一葉先輩、まとめに入るのでこっち向いてください」

「その前置きは必要かね…」

言いつつ、ごろりと向き合う二人。


「一葉先輩」

「ん?」

「私も、言うつもりはなかったんですけど、全部話したくなったので話しちゃいました」

「うん、俺も、話すつもりはなかったけど、全部話したくなったから話した」

「自殺もしちゃうし、自分のことを棚に上げて他人を気味悪がる狂ってしまった私ですけど、それでももし許してくれるなら、改めてになりますが、許してほしいです」

「うん、許すよ」

「ついでに、一緒にいて欲しいです」

「うん、一緒にいる」

「ありがとうございます」

「ユイ」

「はい」

「俺、自殺するし、家族がいなくなってることにすら気づけないほど狂っていて、気味の悪い黒い血が流れているゾンビそのものだけど、それでももし許してくれるなら、改めて、許してほしい」

「うん、許すよ」

「それで、一緒にこの世界にいて欲しい」

「うん、一緒にいる」

「…ありがとう」

「どういたしまして、です」


ふふっと笑ったその顔は、

一葉が初めて出会ったときに見た、

その時よりもずっと輝いていた。


「しかし、俺たちなんでこの世界に来たんだろうな」

「さぁ、なんなんでしょうね」

「自殺となんか関係あるのかね」

「そんな人他にたくさんいたら嫌ですよ」

「そらそうだ」

と言って、一葉はすっと立ち上がる。

「あー、ええと、言いづらいんだけどさ」

「はい?」

「掘り返す気はそんなないんだけど、ユイの自殺する理由になったっていう」

「お母さんと先生の話ですか?まぁ内容も聞こえなかったのに自己嫌悪して死んじゃうなんて冷静になってみるとなかなか狂ってますよね」

「あぁいや、まさにその内容なんだけど」

「内容、ですか?」

「いやいや、話が聞こえなかったのに自殺なんて、さ」

「はぁ」

「するわけないだろ、それこそ普通に考えて」

「…と、いいますと?」

「本当は、話の内容、聞こえてたんだろ」

「…」

「ついでにさ、その内容、やっぱり金銭面以外の話が何かあったんじゃないのか、それこそ自殺したくなるような」

「…」

「ユイの話聞いてりゃ俺でもわかるぞそれくらい、痛みから目を背けるのは、やっぱ、よくないことだと、思うし」

「…そう、ですね、そう、なんですよね、そりゃあ、もちろん聞こえてた、はずですよね」

「言いたくなきゃ、いいぞ言わなくて」

「いえ、ここまで来たんですから言わせてください、ええ、はい、そうです全部聞こえてましたでもなかったことにしたかったんです認めたくなかったんです」

「何を」

「血が繋がっていないこと」

「っ!…そう、か」

「先生が言っていました『血も繋がっていないただの他人のためによくそこまで頭を下げれますな』って、それを聞いて、私は、絶望したんですよ」

「悪い…」

「いいえ、今更です、それにそういうことなら一葉先輩の自殺について私も思うところがあります」

「俺の?」

「そっくりそのままお返ししますよ痛みから逃げてんじゃねぇですよ一葉先輩」

「俺が、逃げて、る?」

「気づいたら家族が皆いなくなってて家が廃墟化ですかいやいや、いくら精神が壊れようがそんなことあるわけないじゃないですか」

「…」

「一葉先輩の話聞いてたら私でもわかりますよ、簡単なことです、私とおんなじです、認めたくなかっただけでしょう?」

「…」

「正解まで私が言っていいですね?言いますよ?だから一葉先輩は家族が死んだことを認められなかっただけですよね?」

「…そうだよ」

「死んでからも、家を離れなかったんですね?」

「そうだよ、俺の家族は、俺を残して皆、一斉に事故で死んだよ…愛はなかったと思う、家族ってのはよくわからなかった、でも母親と父親と弟と、三人がたまたま一緒にいなくなって初めて、認めたくなかった、自分が、孤独だってことをさ」


結は仰向けに寝ていたままだった体を起こす。

が立ち上がりはせずに座った姿勢で隣に立つ一葉に話しかける。


「私たち、やっぱりとことん狂ってますね」

「あぁ、都合の悪いことから、逃げ続けてたんだよな」

「はい、痛みなんてないと思って、目をそらし続けてました」

「見なかったことにして、自分は弱いから耐えられなくて当然だなんて思い込んで」

「それでまぁよく死んだ生きたとか言ってられましたよ」

「全くだ、人としての最低ラインに立ててすらいなかったよ」

「で、ようやく立てたと思ったら、私たち、もう人間じゃなくなってますもんね」

「ゾンビってのが人より上なんだか下なんだか、わかりはしなさそうだけどな」

「どっちでもいいことです、そんなことは」

「…俺、もう、家族、いないんだよな」

「はい、いないですね」

「帰る場所、ないんだよな」

「いいえ、ノアちゃん家に帰れます」

「そうかな」

「私だって、家族はいないです」

「血の繋がりなんて、大した問題じゃないだろ」

「そうなんですよね、そもそも愛し合って結婚する二人に血の繋がりはないですもんね」

「だから、ユイにはノアの家以外にも、帰る場所はあるんだよ」

「それでも、私は自分殺しをやってしまいました、その業かどうかはわかりませんが、人でなくなりました、長い時間をかけて、この世界でゆっくりと自分のしたことを噛みしめて生きていこうと思っています」

「ユイ…」

「だから、そのお手伝いを、してほしいなって、一葉先輩に」

「任せろ、なんかあったらすぐに呼べよ、小難しい話にも笑えないギャグにも全部付き合ってやるさ」

一葉が手を伸ばす。

「あはは、それはこっちの台詞ですよーだ、でもお願いしちゃいます」

結がそれを握る。

一葉に引っ張られる形で結は立ち上がる。


「なんか、すっきりしたな」

「はい、そうですね、全部、話せました」

「俺も、元の世界と、この世界で思ったこと、全部話せたよ」

「これで私たち共犯なわけです」

「なんのだよ」

「運命共同体と言い換えてもいいです」

「それはだいぶニュアンス違くないか?」


「どっちも離れることができない、あるいは離れたくないなと思う、なんて意味ではおんなじですよ」


その言葉で、さすがの一葉もようやく気付く。

「っ結!」

一葉は握っていた手をぐいっと引き寄せて、正面から結のことを抱きしめる。

その体は、想像していたよりもずっと小さく、細く、脆いものだった。

こんな小さな体のどこからあれだけの強い意志が出るのだろうと、感心してしまう。

「一葉先輩…遅いです」

「…何が」

「全部」

「ぜんぶ?」

「鈍すぎです、私、結構コミュ力ないなりにアピールしてたつもりなんですけど」

「わかりづらいし…それにこういうのは、お互い様だろ」

「そうかもです、でも、名前で呼んでくれるのは、やっぱり遅いです」

「ごめん、これからも、ちゃんと結って呼んでも、いいか?」

「一々、確認しないの、一葉くん」

「…」

「照れてるの?」

「照れてるんだよ…」

「もっと男らしくさ…」

「…です」

「ん?」

「結のことが好きです!俺と!付き合って下さい!」

「……………………」

「いや、男らしく、って言うから…あのぅ…」

「一葉くん」

「は、はい」

「全然、男らしく、ねぇよ!!」

「うおぉっ!?」

結は両手で突っぱねるように一葉を突き飛ばす。

「さっきも!言ったでしょ!遅い!つーか!それは抱きしめる前に言えよ!!」

「経験不足だよ悪かったな!」

「ホントですムードも何もないじゃないですか!」

「で!?」

「でって!?」

「俺は結の事が、好き、友人とかじゃなく女の子として、好き、なんだけどそれで、結の、返事、まだ聞いてない」

「………………………………………………好き」

「…」

「なんか言えよ一葉くん」

「結さん口が悪いよ口が」

「私だって好きな人と両想いなのがわかったんだからこの余韻に浸らせて欲しいよ」

「でもあまりに結がかわいかったのが悪い」

「あんまり言うと恥ずかしくて死ぬからやめて」

「わかったよ…結?」

「ん?」

「こんな俺でよければ、よろしく」

「うん、一葉くん、私のほうこそ、よろしくね」

「今日だけで何回もよろしくしてるな、俺たち」

「だね、この世界でのことと、元の世界でのことと、その、こういうことと、3回分」

「つーか切り替え早いなぁ、その微妙に距離のある敬語から普通の口調に変わるの」

「女の子は切り替えが早いんじゃないんです、普段から男の人達よりもずっと先のことまできちんと考えて生きてるだけです」

「そうかよ」

「そうだよ」

「そろそろ帰るか」

「うん、帰ろう」

「ノアたちにちゃんと話さないとな」

「クゥさんにもお礼言わなきゃ」

「え、誰それ」

「なんか、ガイさんの奥さんらしいんだけど、さっきの噴水の下に……」


そうして。

一葉と結は互いに想いを吐露し合い、心の距離を縮めたのであった。

ついでに付き合うことになったのであった。



「と、いう成り行きなんだけど、ガイくん?」

「んー、どう思う?クゥは」

「まさか、万が一ってこともないと思うけど…」

「ま、せっかくのERRORだからな、多少の期待は仕方がないだろう」

「うん、そう、だよね」

「もちろん、世界が変わる前に、一葉が消される可能性も大きくある」

「…わかってるよ」

「どのみち俺はクゥといるし、どっちでもいいけどな」

「私も最後までガイぽんと一緒にいれたらそれでいいけどね、でもどうせならなるべく長く一緒にいたいでしょ?」

「ガイぽん言うな」

「ごめんごめん」

「”野上結を助ける為の世界”で、『既に野上結は救われてしまった』事実を、世界がどう捉えるのか、せめて良い方向に動くことを祈っておく、か…」


そう言って、夫婦は終わらせる。

これからの世界の為に。

これから生まれてくる人の為に。

今までの世界の為に。

今までに死んでいった人の為に。

終わらせる。

二人だけの世界を。

願う。

二人の為の世界を。

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