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ADVALN ―世界の真実を知るまで―  作者: 安藤真司
―出逢い編―
3/20

絆を深めるまで

金髪、碧眼の、女性。

少女というほどの幼さを残していないこの女は一度一葉に向けていた視線を外し、彼女自身が『ゾンビ』と呼んだ男を睨みつけた。

右手に握った小銃の銃口をそのまま男に合わせる。

「悪いとは思ってる、でも、こうするしかないからさ、ごめん」

早口にそう呟き、彼女は引き金を引いた。

小銃から放たれた弾はまっすぐに男の眉間へと突き刺さった。

そしてここで不思議なことが起こる。

眉間を貫かれた男は先ほどのように傷口が塞がったりすることなくその場に倒れ、両手で頭を抱えて苦しんでいる。

さらに苦しむこと数秒、男は頭から侵食されていくようにゆっくりと、霧散した。


その光景をただ黙って見つめていた一葉は、ふと我に返る。

「そうだっ、ユイっ…」

結の元に数歩駆け寄り、血に染まった彼女の体を抱きかかえる。

先に見た通り、彼女の体は血だらけではあるものの、そこに傷はみられない。

さらに驚くべきことに、

「なんだ…?靴が…周りの雑草と…くっつい、てる?」

結の履いていた革靴が辺りの草を巻き上げ、結の膝のところまでその草のかたまりをひねりあげていた。

それはもう一本の蔓といえるほどに複雑に絡み合い、また、結の足とも一体化しているかのようだ。

「大丈夫、不安かもしれないけど、それは生きている証だと思ってもらって平気だよ」

金髪の女が再び口を開く。

「本当に、大丈夫なのか、ユイは」

「うん、大丈夫」

「本当か!?」

「本当」

「そう、か…そっか、よかった…」

今まで張りつめていた空気が一気に緩む。

ふぅっと息を吐いて、一葉はいったん気持ちを整理する。

「とりあえず、ありがとうございます、助けてくれて」

「お礼は、その女の子にしてあげて、私は、むしろ遅れてごめんなさいって言わなきゃいけないくらいだし」

「いや、そんなことないですよ」

「いいよ、その微妙な敬語、気持ち悪いからさ」

「びみょ、えぇと」

「私、ノア、よろしく」

「へっ、ああ、えと、俺、黒田一葉」

「は?あ、ごめん何?」

「くろだ、いちよう、俺の名前」

「イチヨー?」

「うわなんかすごいイチローの発音」

「言いづらいな…いちょー?」

「いやそれでいいですもう」

「いちょー、場所移そうか、その子担げる?」

「……うん、俺が悪いなこれは……」

「何か言った?」

「いや、ユイを運ぶのは大丈夫だ、でも、どこに行くんだ?俺たちここであのすぐそこにある木以外なんにも見つけられなかったんだけど…」

「それはそうだろうね、詳しくはあとでちゃんと話すけど、ここにはあの木以外に目印はないよ、だからまずはあの木に寄りそいに行く」

「寄り添う?」

「うん、あの木がこの世界と向こうの世界とを繋ぐ架け橋の役割を果たしてるからね、あれだけ立派な木、他に見たことないでしょ?」

「うん…それは、確かにないけど、向こうの世界ってまさか」

「ん、違う違ういちょーの元いた世界のことじゃないよ、単純に私たちの住む家のある場所って意味で、ええと、わかりやすく言うと、あの木がエリア移動のポイントなの」

「ゲームっぽいな」

「近からずも遠からず、かな」


一葉とノアは未だ気絶している結を連れて、大樹の根元まで歩いた。

幸いにも、雑草が絡まっているように見えていた結の足は特に地面にひっついているわけではないらしく、持ち上げようとしたときに結の足に絡んだ草が邪魔になるようなことはなかった。

「とにかく行くよ、この大樹、世界を跨いで存在する木、世界と世界を繋ぐ神聖なもの、この木の名は、”アドバルン”、これに寄り添うことで、私たちは世界を超えることができる」

そう言って、ノアは手を差し出してきた。

一葉はその手を握り返す。

瞬間、周りの景色がぐにゃ、と歪み始める。

「少し目、瞑ってて」

「お、おう」

言われるままに目をぎゅうっと閉じる。


ほんの数秒後。


「目、開けていいよ」

「あれ、うわっ!本当に景色が変わってる」

目の前にはやはり大きな木。

しかし周りは草原だけの景色ではなく、すぐ傍に大きな風車を付けた木造の家や、恐らくその家主が耕しているであろう畑があった。

また、ここは比較的標高の高い場所にあたるらしく、遠くにはうっすらと町も見える。

「さて、うちでまずはその血、流そうか」

ノアはそう言って、長くさらさらな金髪を風に靡かせながら、思いっきり日本人離れな顔を初めて、笑顔でいっぱいにさせた。

その笑顔は、つい先ほど結の笑顔がそうさせたように、一葉の心を安心させるのには十分なものだった。


その後ノアは一葉と結を大きな小屋のような造りの風車が目立つ家にあげた。

「この家、私しか住んでないから遠慮せずあがって」

と、少し悲しそうな表情を浮かべながらであったことに一葉は気づき、しかしそれよりも優先事項があると思い直し特に触れることはないまま、まずはシャワーを借りる次第になった。

一葉は当然自分より先に結のことをお願いしたため、先にノアが結の体を洗うために一緒に入る予定だったのだが丁度連れ出すところで結の目が覚め、


「あれ…ここ…どこ…あなたは、だれ?わたしは、だれ?アイ、ドント、アンダースタン」

「余裕あるなおい」

「あれれ、一葉先輩、よかった無事だったんですね」

「ユイがかばってくれたおかげでな」

「私が?…あぁ!そうだ私、なんか、あの、怖い人に、確か、でも、生きてる!?」

「落ち着け、大丈夫だ、大丈夫だから、ユイは何事もなくちゃんと生きてるから!」

「そう、いちょーの言うとおり、安心して」

「うん、わかりました、ってうわぁっ!知らない人!そしてすごくかわいい!めっちゃきれいなブロンドストレート!眼も青くてきれい!」

「ふふ、元気そうでなにより、私、ノア、よろしくね」

「私、結、野上結です、ムスビーって呼んでください」


と中々のおふざけを挟み。

「結ね、よろしく、そうだ起きたなら先にその足治しちゃおうか」

「よろしくです、それでええと、足…?」

言われて自分の足を見る結。

未だ草が結の足をぐるぐると巻きつけたままである。

「…?この草離れないですね?」

「うん、そういうものだから、少し目を瞑って、自分の、いつも通りの足をイメージしてみて」

「自分の、いつも通りの、足、ですか」

素直に目を閉じる結。

数秒の後、しゅるしゅると音を立てて、結の足に巻き付いていた雑草はまるで結の足の内側に潜り込んだかのように消え失せていた。

残ったのはごく普通の足とローファと、先ほど絡みついていた草の部分に沿ってついた、謎の模様のみ。

「足になんか模様残ってるんですけど…」

「ごめんね、そればっかりは、私にもどうしようもないの」

「消えないのかそれ」

「ごしごししてみましたけど全然、肌の一部みたいで」

「それについても、あとで説明しなきゃね、今はとりあえずその血、洗い流した方がいいと思う」

「うん…」


そうして二人は風呂場に向かった。

結も女の子なのだ、足に奇怪な模様が残るのは嫌だよな、などと考えながら一葉は座り込んだ。

ノア。

いきなり現れて、ゾンビを殺すほどの力を持ち、初対面の人間にここまで優しくする女、というのは信頼に値するのだろうか。

「ってそんなこと考えだしたらキリがないか…」

さらにその場合、現在風呂に向かった結を助ける術はない。

「ひとまず甘えさせてもらうかなぁ」

そうしている間に少し離れたところから、

「ノアちゃん体きれーい、さ☆わ☆ら☆せ☆てっ!」

「ちょっ、いや、結ってば暴れないで!」

「………」

「急にどうしたの?どこか痛む?」

「スーツで気づかなかったけど…」

「うん」

「ノアちゃん胸でかいな…」

「結…?」

「私…胸…ちいさ」

「ほらこれっ!ボディソーップッ!」

などなど、一介の高校生の男子にはなかなか厳しい会話が大声で聞こえてきたのだった。

一葉は確信する。

「あ、ノアは信頼して大丈夫そうだわ」


全員シャワーで体を流し終え、結とノアはそれぞれ紺色と青紫色のジャージに着替え(ノア曰く「仕事の時のパンツスーツ以外はこのジャージしか持ってない」らしい)、

さすがに男のサイズがなかったため一葉は仕方なくシャツの下に着ていた白いTシャツ(要はインナーだが)に制服のズボン(血飛沫は気にしないことにしたらしい)の状態で、

居間のソファに女性陣、

テーブルを挟んで座布団に腰掛ける一葉、

という一葉個人としては少し緊張感に欠ける形でノアは話し始めた。


「ええと、改めて、まず、私の名前はノア、それで、どこから話そうかな」

「私のことから話せばいいかな」

「なんで私があなたたちを助けたか」

「というか、なんでこうもすぐに対応できたのか」

「私もね、たぶんあなたたちと一緒」

「あっちの世界から、一年前、落ちてきたの」

「色々あって今はこうして、あのモンスターなんかを倒して暮らしてるんだけど」

「二人を見た瞬間にわかったんだ」

「服がまずこっちの人と全然違うから」

「しかもあの世界、というかあの空間にいたし」

「あそこ、アドバルン以外、アドバルンていうのは、あの草原にあった大きな木ね」

「アドバルン以外何もなかったでしょ?」

「あそこは、モンスターを倒すためだけにある場所なの」

「だから民家も何もないってわけ」

「この世界には多くの場所にアドバルンが存在しているの」

「あるアドバルンから別のアドバルンまで、自分が到着先を強く願えば移動できるんだ」

「その仕組みがなんでなのかはまだ不明」

「でもとにかく、世界はこの木に寄りそうように町は繁栄してきた」

「だから、人々はアドバルンを神聖視している」

「アドバルンのことを調査している学者さんもいるくらい」

「それで、仕組みはわからないけれど、アドバルンから不思議な力だけは取り出せた」

「それがいつの間にか世界中の色んな人に溢れだして」

「気づけば不思議な力を持つ人が現れるようになった」

「人々はそれをアドバルンからの恩恵として、さらに世界の発展に役立てた」

「この世界には友好的なモンスターも凶暴なモンスターもいたから」

「凶暴なモンスターからの脅威をおさえるために」

「研究の結果作られた、あの草原しかない世界」

「あそこを使って他の生物への被害を最小限におさえながら暮らしている」

「私はそのモンスターをあそこに送ったり、どうにか送ったモンスターが」

「またこっちに戻ってこないように、倒す仕事をしているの」

「とりあえず、こんな感じ」


一気にノアは話し終えた。

隣の結は難しそうな顔をしている。

一葉もあまりわかった感じはしないようだ。

その二人の反応はそれぞれ、

「一葉先輩、訳してください」

「ごめん無理だ」

「頭良いんですよね鉄高3年」

「ごめんやめて」

「なんか微妙な目測による計算してたじゃないですか」

「関係ないだろそれは」

「ごめんね訳してノアちゃん」

「本人に聞くか」

「じゃあ誰に聞くんですか」

「ごめん訳してくれノア」

「…お二人仲良いんですね」

「会った時間はノアとほとんど変わらないけどな…」

「私ノアちゃんとももう仲良しだよ?」

と、暢気なものである。


大体、人の理解を超える話というものは、実感がわかないものである。

一葉と結も例外ではなく、実感が湧かない話にはついていけない。

が、何度も繰り返させるのもよくないかと思い、一葉はひとまず気になる部分のみを質問としてぶつける。

「この世界については、ま、善悪両方のモンスターがいるらしい、ってだけでも充分だろ、それだけで充分に俺らの知っている世界とはかけ離れすぎてるし、アドバルン?でワープできるって知っていればいざって時に逃げるくらいはできると思うし」

一葉は胡坐をかいていた足を逆に組みなおす。

「それで、ゾンビって呼んでた、あれ、一体なんなんだ?」

ノアの表情が硬くなる。

「凶暴なモンスター、でも、あれ、完全に人型だったよな、ひょっとして」

「それは、違うの」

今までのはっきりとした物言いではなく、弱々しく一葉の言葉を遮るノア。

「確かに人型だけど、別に元が人間だったわけじゃないよ、ただあの、驚異的な回復力をもってゾンビって呼ばれているだけ、普通ゾンビって死体が勝手に動いてるようなモノのことを言うんだろうけど…まぁそれで、唯一の人型だから知能をもったゾンビとかだと、あんまり人と見分けがつかないこともあるけど」

「…それって、まさか…」

一葉は感じる。

その言葉が差し示す意味。

驚異的な回復力。

知能を持つものもいる。

人と、見分けがつかない。

それはまるで。


今の結そのものじゃないか。


その考えに至った瞬間、ノアに対する怒りが爆発しそうになる。

が、結が一葉の体を止めに来た。

どうやら結自身も現状では自分の状況と変わらないものだと理解したようだ。

「待って一葉先輩、まだ、話の、途中です」

それに怒りの矛先はノアちゃんじゃないですよね、と結は付け加える。

「っ、ごめん、ノア、続けて、くれ…」

「うん、それで人の社会に紛れて、多くの人が犠牲になることがあるんだけど、今の結とは全然違うの」

「…そうなのか?」

「当然!もし私から見てゾンビかもしれないって思ったらそんな見ず知らずの人、助けたりしないよ」

「いやノア結のことは助けてなかったような…」

「それは、本当に間に合わなかったんだよ、そうじゃなくってこうして家を提供しないってこと」

「ノアちゃん、私、ゾンビじゃないんだね?」

「うん、結は、ゾンビなんかじゃないよ、ちゃんと生きてる、人間だよ、ゾンビは心がないから、そんな笑顔、できないもの」

「ふふっ、ありがとう、ノアちゃん」

「ううん、事実だもん、それに、あなたもね、いちょー」

「……は?」

「あなたも、ちゃんと人間だよ」

「…そうかい」

「結の足のその紋章だけどね」

「かっこよく言ったね、これ紋章なの?ただの柄の入ったストッキングみたいだけどな」

「紋章って呼ばれてるよ、私の掌にも、ほら」

「黒くなってるな、異様に」

ノアの掌に大きく黒い模様が描かれている。

どことなく拳銃の形が連想できそうな模様だ。

「これはさっき言った、アドバルンから与えられた不思議な力があるって証拠で、理由はやっぱりわかってないんだけどね」

「じゃあ、私、不思議な力を持ってるんだね?」

「あはは、たぶん、足から草が生えてくるだけなのかもしれないけどね」

「それは不思議だけど傷つくっ!」

「私は、いちょーの見た通り、ここから拳銃を出せるから、戦闘以外じゃ役に立たないし、こういう仕事をしてるんだ」

「なるほど…」

「ゾンビに対して、普通の攻撃は通用しないけど、私の撃った弾とか、他にも特殊な力が備わっているものであればその体を溶かすことができるの」

「それで、一撃で倒せたわけか」

「大体、私からはこのくらいかな、でもとりあえず今日は早く寝て疲れをとった方がいいと思うよ、この世界のことは暮らせばわかると思うし、何か考えるにしても疲れてない状態の方が頭が回るでしょう」

「そうだな…お言葉に甘えて、泊まらせてもらうよ」

「私、ノアちゃんと同じベッドね!」

「へ?うん、もちろん一つしかないからいいけど、あ、あんなこともうダメだからね!?」

「何したんだよユイ…ま、今日は暖かいし、俺はここで寝させてもらうよ」

「ご、めん、悪いよね、そこ」

「ソファあるだけましってことで、そもそもノアがいてくれなかったら草原で寝てたわけだしこっちが謝りたいくらいだよこんな親切にしてくれて」

「そうですノアちゃん、一葉先輩の言うとおりです」

「そうかな」

「私たち、もう友達なんだから、ノアちゃんは私たちにもっと厳しくっていいんだよ」

「厳しくなんかしないよ、でも、ありがとう、気が楽になった気がする」

「よかった、私たち本当にお邪魔虫ですし、追い出されないように気を付けます」

「うん、結ちゃん」

そんなこんなで、一葉と結とノアの出会って初日は、幕を閉じる。

わけもないのだが、こうして三人は初日ながら、絆を深めていったのであった。

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