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ADVALN ―世界の真実を知るまで―  作者: 安藤真司
―世界編―
20/20

誰かと誰かが結び繋がるまで

「えーこれからは社会人として働くための訓練だと思い、自らの意思で全ての物事を決定する場面が……」

本日幾度目かのあくびが結から発せられる。

「えーこれだけ勉学に励むことのできるのはこの今が最後ですので……」

案の定これは長くなりそうだ、と判断した結はそっと目を瞑り、思考をなるべくシャットダウンする。

「えーですから、遊ぶなとは言いませんが遊ぶ際には節度を持って……」

(あぁ帰りに何かおいしいものでも食べて……それで……)

と益体のないことを考えているうちに本格的に睡眠に入る結。

「……のー」

こくりこくり。

「あのーっ」

と、体を揺さぶられる感覚に結は目を覚ます。

「……うん?」

と、どうやら自分が寝てしまっていたらしいことと相手が起こしてくれたらしいことをなんとなく察する。

「もう終わりましたよ、入学式」

その起こしてくれた相手は当然入学式用に見立てたであろうスーツに映える茶髪のセミロングの女の子であった。

女の子といっても、冷静に考えるに結と同い年か一つ二つ程度しか変わらないのだろうが。

「ほう、ちょっとご飯に夢を乗せて食べていたらあっという間に時間が」

「夢見てただけでしょそれー、すごく気持ちよさそうに寝てたよ?」

「あはは、起こしてくれてありがとうございます、えーと」

「あ、私、藤崎琴音ふじさきことね、もちろんだけどここの新入生」

「私は野上結、むすびーって呼んでください、よろしく藤崎さん」

「琴音でいいよ結ちゃん、それに口調も」

「それもそうか、むむん、ではでは早速私の大学お友達第一号ということで」

「うん?」

「この後ご飯でもいかが?」

「そんなに大袈裟に言わなくてもいいんじゃない?行こ行こ」


そんなとある4月の頭。

野上結は無事合格した大学への進学をひかえていた。

結としては大学受験を行うという決断には、これまた多くの葛藤があったのだが。

家族のそして大好きな彼の後押しもあり、一生懸命勉学に励むこととなった。

今日はその入学式の日だったのだ。


「あ、琴音ちゃん、ちょっとだけ外でお母さんと弟が写真を撮りたいって言ってるんだけど……」

「私も今ちょうど妹から同じこと言われちゃった」

「お、気が合いますな」

「そうだねぇ」

入学式会場を出ると、辺り一面スーツの学生で埋め尽くされている。

中には私服の人がビラ配りをしている様子も見られる。

サークルの案内だろうか。

このなかで会うのは無理あったかなぁと思いつつもキョロキョロ周りを見ていると、案外すぐに結は家族を見つけることができた。

「あ、こっちこっちー」

「あらあら、そちらもうお友達できたの?」

「くっ、姉ちゃんより……何千倍も……かわいいっ、だと……」

「ちょっ、弟の分際で何をーっ」

「そんなかわいいお友達が出来たら一葉兄さんに浮気されるかもなー」

「しっ、しないもんっ、と、思う、かも、しれない……?」

「一気に自信なくすなよ……」

「あー、えっとー、私藤崎琴音っていいます、よろしくお願いします」

「えぇ、うちの子ちょっと変だけどよろしくね」

「いえいえ、とってもかわいいです」

そんなこんな写真を撮る結と琴音。

結の母と弟も二人で帰っていく。

「ふーっ、なんかいきなりごめんね私の家族あんなで……」

「ううん、それより、たぶん私の妹の方が……」

「へ?」

と、そこに人の間をすり抜けて走って近づいてくる人影が。

「お姉ちゃーんっ!!」

「あ、あれさっき言ってた琴音ちゃんの妹さん」

「そう、静音しずねって言うんだ、二つ年下で次高校二年」

「へぇ、あちらさんもなかなかどうしてかわいい」

「もう、言い方が……」

言ってる間にその静音が琴音と結の元に辿り着く。

そしていきなり涙を浮かべた静音が琴音に抱き着く。

「お姉ちゃんよかったね無事入学できてお姉ちゃんスーツ本当によく似合ってるよお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃん」

「はいはいありがと静音、でもここおうちじゃないから」

「はぅっ!!??」

琴音の言葉にぎょっとした顔で結を見る静音。

(いやむしろ家でならいいんだ……?)

と思いながら結は先ほどの事は特に気にせず挨拶をする。

「どうも初めまして私野上結、むすびーって呼んでね」

「あっ、あのっ、は、初めまして、お姉ちゃんの妹の、藤崎静音、です」

「よろしくね静音ちゃん」

「は、はい……」

静音の声がどんどん尻すぼみになっている。

恥ずかしかったのであろう。

気持ちはわからなくもない、かな、と思わず吹き出しそうになるのをこらえつつ、結は改めて、

「一緒にご飯、行かない?」

と誘う。

静音は消え入るような声で、

「はい」

と返事した。


結、琴音、静音の三人は近くでご飯を軽く済ませた後、手頃なカフェに入り、各々好きなものを飲んで休憩している。

結はブラックのホットコーヒー。

琴音はホット抹茶ラテ。

静音はアイスキャラメルマキアート。


「っていうか結ちゃんナチュラルにブラック飲むんだね、私コーヒーあんまり得意じゃないなぁ」

「んー、私もこんな贅沢品飲むようになったのは去年からなんだけどね」

「あ、お姉ちゃんもお勉強してて眠くなってきたときよく目が覚めるガムみたいなの食べてたよね」

「そんな感じかな、最初はまずいのも含めて目が覚めたんだけど一年続けてたらすっかりブラックがよくって」

「なるほどなるほど」

「そういえば、二人は家どの辺なの?」

「家からここまで片道2時間くらいかかるような所、だから無理言って春から一人暮らしする予定だったんだけど……」

ちらっと静音を見る琴音。

それに合わせて先ほどと同じく恥ずかしそうに顔を赤くする静音。

「静音が、どうしても私と一緒に住みたいって言うから……春から二人で暮らす、かな」

「それってでも静音ちゃん高校は大丈夫なの?」

「一応、元の家とここの間くらいにある高校だから、そんなに移動にかかる時間は変わらない、し」

「まぁ私としてもかわいい妹が一緒なのは嬉しいんだけどね、こんなべったりで大丈夫かなとは思うかも」

「む、べったりの何が悪いのさ」

「悪くはないってば」

「あはは、仲良いなぁ」

「それは結だって、弟さんと仲良さそうだったじゃない」

「ま、仲はいいけど、あれは同い年だし……」

「え、じゃあ彼もどこか大学に?」

「ううん、あやつはもう働いてるんだ、高校に入る前から」

その時の様子を少し思い出して、苦しくなる胸もあの時ほどではない。

そう感じて、きちんと自分が前に向かっていることを確信する。

「本当はもう一回勉強するチャンスがあったんだけど、今の仕事に慣れてきたからって結局家の近くの工場で働いてるよ」

「……いい弟さんだね」

「まぁ、ね」

「それで、結ちゃん?」

「ん?」

「その弟さんが言ってた、『浮気しちゃうかもしれない一葉兄さん』って誰なのかなー?」

「彼氏さんっぽい発言だね」

「……彼氏、ですな」

「やっぱりそうなんだーへぇどんな人?」

「え、いや、いいじゃん私の話は!」

「同い年?」

「年上!」

「いくつ?」

「二つ上!」

「いつから付き合ってるの?」

「3年前から!」

「相手のどこが好きなの?」

「全部!」

「全部話してるよ結さん……」

「はっ誘導尋問か」

「いやいや何も誘導してないよ私は……」

「えぇ、まぁそのような男がおりまして」

「今のを聞く限りそちらとも仲良さそうだね」

「どうかなぁほぼ毎日会っていると少し思う所も」

「毎日会ってるんだ?高校がおんなじだったとか?家がお隣とか?」

「あー、うん、そんな感じ」

「どんな感じ?」

「琴音ちゃんと静音ちゃんとおんなじ、感じ?」

「一緒に住んでるくらいぼかさなくてもいいんじゃない」

「あんまり良いイメージ湧かないでしょ、この年で同棲だなんて」

「一般的にはそうかもね」

「琴音ちゃんと静音ちゃんこそどうなの、そんなかわいい姉妹がフリーでいていい世の中じゃないでしょ」

「あはは、今のところは私も静音も彼氏なんていたことないよー」

「え、信じないよそれ」

「静音ちゃんはモテるんだけどねー」

「お姉ちゃんはしょっちゅう告白されてるのに毎回断るから」

「それを言うなら静音ちゃんの方が告白されてる回数多いでしょ」

「私は、お姉ちゃんがダメだったから仕方なく、みたいなものだし……」

「こんな感じでかわいいのにあんまり自分に自信がないみたいなんだよね、静音は」

「ふぅんかわいいのに」

「かわいいかわいい言わないで」

「琴音ちゃんは?いい人一人もいなかったの?」

「うーん、私は、言い方は悪いけど、外見しかみてない人はちょっと、ね」

「んー、今少し話した感じは二人ともすっごくかわいいけどなぁ」

「まぁまぁ恋愛は一人一人考え方も違うからね」

「でも、どう一緒に住むことになったの、結さん」

「そうだよね高校生やら大学生の男女が同棲って結構珍しいよね」

「んん、なんかねー、私の家は色々あってすごく貧しかったんだけど、彼が全面的に支援してくれて、って感じで」

「じゃあ家族も皆一緒に住んでるの?」

「彼にはそう言われたんだけど、お母さんと弟に一人で行って来いって言われて、ね」

「その彼何者……すごい大人じゃないよね?二つ年上ってまだ大学の3年生とかだよね?」

「年齢的にはね、一応大学には行かずに会社のなんかをやってるみたいなんだけど、お仕事の内容はよく知らないや」

「会社、そんな人もやっぱりいるものなんだねぇ」

「すごぉい……」

「いやいや、すごいとは私も思ってるけど、そうじゃないの」

「そうじゃない、って何が?」

「一葉くんがすごいのは、たぶん、そうじゃないの」

「そか、見せつけてくれるねー」

「え、あ、いやっぱなし今の!」

「ごちそうさまでしたー」

「でしたー」

「今日が初対面の人に私は何を言っとるんだ!?」

「いいよーもっと具体的に言ってくれてもー」

「てもー」

「いいから!ほら、もう結構な時間だし連絡先だけ教えて!」

「はいはいこれ私のね、静音は携帯持ってないし、また引っ越して来たら一緒に会いに来て欲しいな」

「うん、行く行く」

「待ってるね」

「うん」


結は琴音、静音と別れた後ぶらぶら歩きながら家へと帰っていた。

携帯にある、琴音ちゃん、の番号を見てにやにやとするのを抑えられない。

自分の中の闇はだいぶ一葉のおかげでなくなってきたように思う。

しかし、いつだって知らない人と話すのは難しい。

初めて会う人と仲良くなれた、という経験はまた自分の自信になるだろうか。

(一葉くんにも話してあげようかな)

と思うと同時に楽しかったテンションが一気に冷める。

(一葉くんも、来れたらよかったのに)

この感情の上下がまさに、いまだ自身を制御できていない未熟さなのだろうとも思うが。

今日は結の入学式。

きっと、母親に並んで、面倒を見てきた一葉も喜ばしいと思っていることだろう。

だが、大事なミーティングがあるため、一葉は今日、どうしても来られない、ということらしい。

今結は一葉と二人で一緒に暮らしている。

その辺のアパート、ではなく無駄に(と結は思っている)大きな一軒家である。

結としては、金銭感覚の違いすぎるおぼっちゃまと一緒に暮らすのはそこそこ大変なことで。

だが大きな問題もなく幸せにやっている。

そんな二人の家から徒歩でも3、40分で着く大学を結は希望し、そして合格した。

大学が始まれば、歩く以外の移動手段を考えてもいるのだが。

そんな遠くもない道のりを一人、ゆっくりと歩いて帰る。

「私が寂しい思いをしてるときくらい、お仕事より私を選んで欲しいなー」

と呟く。

「いやでもこういうこと言うとすぐ来ちゃうからなー一葉くん」

「結っ!」

と自分の独り言にかぶせるようによく知る男の声が。

「悪いっ、もう、遅いかなって、思ったんだけど」

(ホントに来るもんなこの人は……)

どうやら走っていたらしい、随分息が荒い。

仕事終わりですぐに来たのだろう、少し板についてきたビジネススーツ姿。

それでもまっすぐに結の元に居続ける男。

黒田一葉が、いた。

「さっき、もう入学式が終わって、そこで出来た友達とご飯食べてから帰るねって連絡したでしょ」

「え、そうなのか見てなかった」

慌てて携帯を引張りだし、あぁー、とうなだれる一葉。

「そっかー、仕方ない写真は今少し撮るとして大学前で撮ったものはおばさんに貰うか」

「え、今?撮るの?ここで?」

「うん、はいチーズ」

「へっ」

ぱしゃり。

「一葉くん……」

「んー?」

「なにその無駄に高性能っぽいカメラは?」

「ただの最新モデルだけど?」

「そういうのただのって言わないんだよ一葉くん」

「いいだろ結の晴れ姿を一生のメモリアルとすべく」

「お父さんか」

「せっかくの入学式なんだしいいだろ!?」

「全く、別に、メモリアルなら、入学式なんかじゃなくって、そのうち、もっといい式を挙げればいいでしょ」

「そ、それは、まぁ、そのつもり、だけど、さ」

「そ、そうだよ」

「そ、そうだな」

「あはは」

「ははは」

「帰ろっか」

「そうだな」


どちらともなく手を握る。

どちらともなく肩を寄せ合う。

「一葉くん」

「なに?」

「私、大学生になります」

「うん、おめでとう」

「私ね、今でもわからないんだ、ノアちゃんのこと、リンドウさんのこと、アリスちゃんのこと」

「うん」

「それに、一葉くんのこと」

「うん」

「でも、わからないなりに、ね、思うことがあるんだ」

「うん」

「私は、きっとまた、皆に会えるんだろうな、って」

「うん」

「ノアちゃんが何を想って私たちと一緒に過ごしたのかはわからない」

「うん」

「リンドウさんとアリスちゃんが何を想って消えていったのかはわからない」

「うん」

「一葉くんが私のことをどう想ってくれているのかはわからない」

「うん」

「でも、私は私が何を想ってるのかを知っている」

「うん」

「私はね、皆の事が大好きなんだ」

「うん」

「大好きだから、きっとまた会えるって信じてる」

「うん」

「それで、いいんだよね?一葉くんの信じる未来も、そこにあるんだよね?」

「うん、俺は、結と一緒の未来を選びたいって思ってるし、皆とまた会えるために頑張ってるつもりだよ」

「うん、大好きだよ、一葉くん」

「うん、俺も大好きだ、結」

「うん、私はまだ、未来を信じていける」

「それは何より」

「だから、一葉くんも、私の選んだ未来を信じて欲しいな」

「あぁ、信じてみせるよ」

「うん」



誰が何を願い。

誰が誰を想うのか。

言葉にしなければ伝わらず。

言葉にすれば誤解される。

そんな悲しい世界だけれど。

そんな空しい世界だけれど。

野上結は誓う。

黒田一葉は誓う。

不死身でなくとも。

不思議な力がなくとも。

かつての友がいなくとも。

かつての世界がなくとも。

きっとまた会える。

きっといつか理解できる。

きっと想い続けられる。

そう。

大事な人との世界はきっと、結ばれている。

これまでも。

これからも。

ずっと。

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