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ADVALN ―世界の真実を知るまで―  作者: 安藤真司
―世界編―
19/20

現実を掴むまで

一葉がゆっくりと目を覚ます。

立ち上がろうとすると体の節々が痛む。

思わず自分の体を見れば、着ている制服もぼろぼろ、あちらこちらに打撲か何かの跡がついている、なんとも悲惨な状況であった。

衝撃を加えないように恐る恐る周りの景色を見れば、間違いなく自分が自殺を選んだ場所である。

時間は空を見るに夕方くらいだろうか。

ひとまずの状況整理を終え、思い切りため息を吐く。

「これからどうすっかな……」

「あーっ、起きたんですね」

「んー、あぁ、なんだか上手く元の世界に戻れた感じだな、気分も悪くない」

「それは良かったです、私もさっき丁度起きたところでして」

「そっか、じゃあとりあえず今後の予定でも話し合おうかうぉいっ!!??」

「やっと気づきましたね、っていうか遅いよっ!色々っ!」

一葉の横に、よく見たことのある少女が立っていた。

一葉同様に傷の目立つ紺色のセーラー服に赤いリボンで身を包み、

さらさらしていそうな黒髪を割と短めに揃えており、

身長は標準くらいと思しき、

かなりすらっとした細い体型の、

そんな一葉にとって最も大事な少女が、

立っていた。

「ふふっ、初めて会った時とおんなじやりとりしちゃいましたね」

やはり初めて会った時のような笑顔を見せる結が、そこにいた。

「え、いや、なんでここにいるんだ?」

ここは一葉が自殺に選んだ場所のはずで。

次元Igからここに戻ってきたということは、結も当然自分の自殺した場所に帰っているものだとばかり思っていたのだが。

「いえ、私もここでぴょんと跳びましたよ?ここで自殺を試みました、というか……」

ぶんぶんと首を振って周りを確認すると、結は言葉を繋げた。

「ここ、本当に一葉くんのお家だったの?ちょっと自我を失って狂ったからって、その間に家が廃墟感満載の場所に変わるもの?」

「え、でも」

「それに、私、そもそも廃墟があるからってここに来たけど、元が黒田家だなんて聞いてなかったよ」

「……???」

「そんな変な顔しないで私もこれで疲れてるんだから」

「変な、って、え、それじゃ例えば住所って」

一葉が自分の家の住所を伝える。

結はそれを聞いてすぐに首を振る。

「じゃあなに、一葉くんここが我が家だと思っちゃうほどに狂ってたのね……」

「なんだようるさいな、そう思ってたんだから仕方ないだろ」

「うんうん、そうだね」

「あー、もういいだろ、でもたぶん、家族がいなくなったって記憶は本当だし、とにかく家に戻って状況を確認しようかな」

「そうだね、私も家に戻ろうかな」

そう言い合って、二人は思わず吹き出す。

「普通、こういう時って『戻ってきたな、元の世界に』みたいに感傷に浸るべきじゃない?」

「結が先にちょっかいだしてきたんだろ」

「一葉くんが狂いすぎなんでしょ」

二人そろってふらふらとした足取りで、ゆっくりと歩き出す。

「まぁ俺の記憶違いはいいとしてさ、結もこの場所で自殺しようとしたんだよな?」

「え、うん」

「ひょっとして、飛び降りる前に俺らって会ってたりするのかな」

「……さぁ」

「結、今更俺の前でそんなわかりやすい嘘が通用すると思うな」

「くっ、なんて男なの」

「急にキャラがぶれてるよ結さん」

「手」

言って結が一葉の手をつかむ。

一葉も全く嫌がらない。

「会ってはない、けど」

「けど?」

「私が飛び降りて、意識を失う直前に、ね、男の人の顔がそばにあった気がしてたんだ」

「それが、俺だった?」

「わかんない、でも、向こうで一葉くんが寝ているのを見て、なんとなく、そうだって思ったんだ」

「はぁ、そんなことが……」

「うーん、わかんないけど、同じ場所で飛び降りたのなら、落ちた場所で顔をちらっと見たのかもね」

「俺にはそんな記憶全然ないなぁ……」

「そんな記憶、ね」

「ん、どうした?」

結の機微の変化に、一葉は当たり前のように気づく。

ぎゅっと、一葉の手を握る力が強くなる。

と同時に結が歩みを止める。

「一葉くん」

「うん」

「一葉くん、は」

「うん」

「今の、一葉くん、は」

「うん」

「本当に、私の知ってる、一葉くん、でいいのかな」

「……ん」

「未来の記憶を持ってるあなたは、本当に私の好きな一葉くんのまま?」

「うん、自分では、そう思ってる、つもりなんだけど、どうかな」

「そっか、ごめん、私にも、わからないや」

「そっか、不安にさせてごめん、でもな」

今度は結に応えるように、一葉の方からぎゅっと手を強く握り返す。

「結の創った世界は、過去とか未来とか、そんな時間の流れを超えたものだったから、さ」

その声は、明らかに、

「ちょっと一つ二つの未来が見えるだけの俺には、これから先、結とどんなことがあるのか、なんにもわかんないんだ」

結のよく知る、暖かい、

「今の俺には今の結しか見えてないよ」

結の好きな黒田一葉のものだった。

結にはそれで十分だった。

「うん、私の好きな一葉くんだ」

「うん」

迷いは全て、なくなった。


「本当に、帰ろうか」

「そうだね、帰ろう」

「俺は、今家族がどうなってるのか、きちんと知ることから始めてみる」

「私は、家族ときちんと向き合うことから、かな」

「たぶん、俺のこと、引き取ってくれるって言ってくれる人がいると思うし、生きていくための準備もしていく」

「私は、そうだね、とりあえずは日常に戻っていくしかないかな」

「俺は、学校にはもういかない」

「じゃどうするの?」

「父さんの会社を継ごうかな、って」

「軽いね、会社ってよくわかんないけど、その辺の高校生にできるものじゃないでしょ?」

「そりゃあ、ね、まぁそういうただの高校生にできないような知識だけはちゃんと残ってるからね」

「わー、嫌味なガリ勉」

「なんとでも言ってくれぃ」

「ふふっ、私たち、すごく前向きだね」

「だな、俺たちにあるまじきテンションかもしれん」

「いやー、さっきまで自殺してたような人達の会話ではないよね」

「向こうのことを考慮してもさっきまで殺し合いとかしてたもんな」

「そうだね、なんか信じられないなぁ、自分が全部創った、とか」

「はは、しばらくは大人しくしててくれよ」

「一葉くんがそう言うなら、そうする」

「そうだ、家の住所とか教えてもらえる?ほら連絡とかまたとりたいし」

「え、いくらなんでもいきなり家の場所聞いてくるのはちょっと……」

「どうせ携帯とか持ってないんだろそれくらいしか会う方法ないしいいだろ」

「仕方ないなぁ、でもちゃんと迎えに来てよ?」

「うん、絶対行くから、待ってて欲しい」

「待つのはあんまり得意じゃないような気がするけど一葉くんなら我慢してやろうかな」

「あんまりこういう言い方はよくないかもだけどさ」

「うん?」

「俺、たぶん知識的にはちゃんと会社動かせると思うし」

「はぁ」

「もちろんそれでもたくさん壁にぶつかると思うし記憶もほとんど役に立たないけど」

「そう」

「すぐにとはいかないしそういう現実を生きていくことの他に、未来の為にやらなくちゃいけないこともあるけど」

「へぇ」

「俺に出来る最速で結を迎えに行くからさ」

「うん」

「結だけじゃなく、結の家族だって一緒に養えるくらいに頑張るからさ」

「……あれ?」

「そのときは、一緒に暮らそう」

「……あー」

「それでさ」

「ストップストップストーップ!!!」

「なんだよ」

「嫌じゃないけど早すぎだって私たちまだ子供じゃんか」

「早すぎ、かなぁ」

「付き合うのだって普通に考えたら早すぎるくらいだって」

「嫌じゃないなら別に」

「いいから、そういうのはもっと時間をかけて欲しい」

「じゃせめて一緒に暮らすのは?」

「……まぁ、それくらいなら、許そう」

「おっけ、まずはそこ目指すことにするよ」

「はぁ、なんか、一葉くんは、変なタイミングで積極的だよね……」

「それいつのこと言ってんのかな」

「いくべきところで来ない癖に」

「もういいだろほっとけ」

「うん、でも、いつかそうなれたら、いいね」

「それまで、嫌われないように頑張るよ」

「もっと、好きになってもらえるように頑張ってよ」

「ならそうする」

「うんそうして」

「そのうち家族もちゃんと紹介してくれよ」

「うん、一葉くんも、ね」

「あぁ、絶対に」

「約束だよ」

「皆、きっと喜ぶよ」

「そうだといいな」

「結なら大丈夫だよ」

「まーうちの家族も一葉くんなら喜ぶかな」

「だといいけどな」

「しかも一家全員養ってくれるんでしょ?」

「金目当てかよ……いやそのつもりとは言ったけど」

「女の子は皆打算で動くもんですよーっと」

「ほんと、すぐに迎えに行くよ」

「うん、待ってるね」

「おう、待っててくれ」


二人は、歩く。

どこまでも。

手を繋ぎながら。

寄り添いながら。

歩く。


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