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ADVALN ―世界の真実を知るまで―  作者: 安藤真司
―世界編―
16/20

世界の真実を語るまで

西暦2xxx年。

某日。

全世界の人口のおよそ半数以上が消滅したことが確認された。

そんなことが確認されていた。

原因は。

次元Igイグへの逃避。

元は空想を表すimagineだったのだろうが、いつからかそれは虚数を表すimaginaryの認識が強くなったものだ。

つまるところ、人類の発見した、第5番目の次元。

1次元は線であり。

2次元は面であり。

3次元は箱であり。

4次元は時であり。

その先の次元の存在を人類は確認し、当然わが物にせんと欲した。

できるはずもないのにだ。

さておき。

人類は新たに見つかったこの次元を数学で虚軸を言い表したImになぞらえてIgと名付けた。

次元Igと。

この次元Igは、抽象的なまま表現するならば、時間と空間を凌駕する狭間のような何か、である。

より俗な言い換えを行うならば、思うがままに世界を行き来することを可能にする世界、とでも言えようか。

この次元Igを介して、人々は時間も空間も飛び越えて、より自由に生きることを許された。

なによりも恐るべきは、いわゆる時間的矛盾が存在しない、ということだろうか。

仮に次元Igを通って、子供時代の親を殺害し、果たしてその後再び次元Igを通って元の時間に戻るとする。

そこでは自分が存在していた時間があるはずなのだが、今しがた自分を生むはずの親を過去において亡き者にしている。

では、自分はいったい何者から生まれたのか。

ここに本来時間的矛盾が生じる。

のだが。

次元Igを介すと、どうやら過去における殺人はなくなっていないし、その場に自分がいるという事実も存在するらしい。

自分のアルバムを見れば親がいるし、親と過ごした思い出も証拠品も残っているし周りの人間の記憶にも残っているが現在においては死亡しており、事実過去に殺されたというデータも残っているという状態。

あるいはそもそも自分の出自が不明になっている状態。

そんな矛盾があるようでない世界になるらしい。

では、仮に死んだあと親はどうやって子を産んだのか、という話になるのだが、つまるところ、次元Igは時間という概念よりも上位の概念らしく、『人一人、過去に死んでいようが未来に生きていようが特に問題はないだろう』という効果が働いている、と似非くさい学者は言う。

また、自らが親を殺せばその事実の存在する世界にいられるが、よく考えればその親もまた自らが殺される事実を全く同時になかったことにできるのだ。

このことから平行し決して交わることのない世界が存在すると言う人間もいるし、それでは宇宙全体の質量をオーバーするのでどこかに考慮できていない要素があると論じる人間もいる。

無論、正解など誰にもわからない。

とにかく。

そんな風に自分の思うがままに世界を操れるようになり、人類は皆どこかの時間や場所へと飛び立っては返ってくる、ということを繰り返した。

そう、初めのうちはまだ、戻ってきていたのだ。

自分の本来の時間軸で生まれ育った場を、帰ってくる場であると認識していた。

しかし、人間とは欲に溺れて破滅するか満たされない気持ちで生気を失くすか、常にその繰り返しで存在している。

次元Igと自分の世界を行き来するうちに生きる気力を失った人間はどうするか。

そんな人間のとる行動などただ一つだ。

今までは現在と未来あるいは過去とのパイプでしかなかった次元Igそのものに居ついて、本来の場に戻ることをしなくなった。

次元Igとは上述の通り、基本的に人類にとって自在に操ることなど到底不可能な存在である。

自ら望んで作成した次元Igという狭間の世界に引きこもった人間を外部の人間が見つけることは不可能であった。

当然の帰結ではあるが。

こうして世界中の人間は次々に次元Igへと、消滅していった。

これが次元Igによる世界の終焉である。

次元Igはただ存在するだけで人類を滅亡へとおいやっているのだ。

とすれば、これもまた当然、次元Igを利用して、次元Igの存在をなかったことにすればいいのではないかという意見を持つ人間も出現する。

しかし次元Igは人類の発明ではない、人類の発見なのだ。

なかったことになどできる道理もない。

であれば、次元Ig自体をなくすことは不可能でも、次元Igの発見、一般市民への情報提供をやめさせれば、今を変えることができるのではないか。

私たちが生まれ、唐突に世界を書き換えられてしまうこの時間を。

本来の在るべき姿に。

そのような想いから世界各国のネットワークを通じて大規模組織が建設された。

その名も、『未来』。

『未来』は独自の調査で過去の一体何が、次元Igの存在の普及を加速させたのかを突き止めた。

そこで重要人物となっていたのが。

二人の男女。

一人は世界で初めて、次元Igの作る狭間の世界に巻き込まれ、次元Igの存在を認識した男。

名は黒田一葉。

もう一人はこの黒田一葉が巻き込まれた次元Igの狭間を無意識に形成していた女。

要は世界で初めて次元Igを自在に操ること(のようにみえる行為)を成功させた女。

名は野上結。

この二人が揃ったことで、野上結の作り上げた次元Igを黒田一葉が観測することとなり、そこから世界に広がったとされている。

『未来』からすると両者の出会いを妨げることが必要不可欠であった。

黒田一葉は初めて観測してから何年もかけて誰でも次元Igを世界と繋げることようにと研究を進めたし、野上結は黒田一葉でなくてもいずれ誰かの目にとまってしまうかもしれない。

ならば選択肢は一つだ。

二人とも殺してしまえばいい。

それで次元Igの呪縛から解き放たれる。

そう考えたのだが、どうにも上手くいかない。

何人も彼らの元に向かわせているのに何故か一向にその二人の出会いを邪魔することすらできない。

毎度。

毎回。

『未来』が二人を殺そうとメンバーを向かわせると、ほぼ同時刻に二人は自殺を図るのだ。

そうして、決まって飛び降り自殺を決行してしまう。

自ら死んでもらうのは『未来』にとって良いことであったが、しかしながら野上結は必ず死ぬ直前に次元Igを展開し、そして必ず黒田一葉を巻き込んだ。

そのため、次元Igはやはり存在を隠すことが出来なくなっているのだ。

まるで時間の上位概念であるIgの存在の、さらに上位概念による妨害があるかのように。

ここまで来て原因不明の難関が立ちふさがった『未来』はさらなる決断を下す。

曰く。

二人を引き離すことは不可能であった。

しかし、意図的に近づかせることはできるのではないか。

そして、意図的に近づかせた二人が作り観測する次元Igの狭間に、『未来』のメンバーも潜入し、次元Igを介した世界で時間や空間に囚われずに自分たちの時間を改変できるのではないか。

なかったことにはできずとも、この次元Igを隠すことはできるのではないか。

そしてこの作戦で、本当にたくさんの可能性を潜り抜けて、『未来』は野上結が作る世界に紛れ込むことができた。

『未来』は野上結の世界で一年前から下準備を重ね、今なお野上結および黒田一葉がこの世界について知り過ぎない事、およびこの世界を人々に公開しないことを約束しようと機会をうかがっている。

つまり。

この世界とは。

この次元とは。

異世界であり。

現実世界でもあり。

妄想でもあり。

何にでもなる。

無意識的に野上結が裂け目から発見し拡大した次元なのだ。

そして何であろうとも多くの物事が彼女の思い通りに存在する。

それが自覚的であれ無自覚的であれ。

彼女がここにあれば良い、と思うものすべてが存在する。

だから彼は言ったのだ。

ガイは言ったのだ。

注意を促すように悟った声で言ったのだ。

この世界の主人公は野上結である。

と。

そしてそれは。

文字通りの意味として存在しているのであった。


だが。

これは。

黒田一葉の知る世界の全てではない。

次元Igを秘匿せんとする『未来』の面々も。

当然そこに含まれるとある人物も。

黒田一葉と、そしてガイ、クウヤ以外誰も知らない世界の続きが存在する。

それが理由で、そう、黒田一葉は―。


黒田一葉の趣味は勉学である。

野上結の趣味は無心になることである。

それでも二人は話し続けるのだ。

そういう風に。

想い合っているから。

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