愛を囁く男は、信じないわ
―――大好き。愛してるよ・・・―――
その言葉がついこの間まで、目の前で別の女にのめり込んだ男に、囁かれていたのかと思うと、体全身に寒気が走った。
私の名前は、ウィルフォーゼ・ゼッシュラード。殿方の名前にも聞こえますが、れっきとした公爵令嬢でしてよ。
そんな私には、婚約者が居ますの。公爵家同士の結びというものも、有りましたが・・・なにより、お互いに相手に惚れていましたの。まあ、今はあんな男に惚れていた自分に、嫌悪感を抱いているけれど・・・。それに、あの男が私の婚約者だという事は、過去形に近いうちに、なりますもの。
理由?理由なんて今、目の前の光景を見れば判る事でしてよ?
ウィルフォーゼは、扇でそっと口元を隠し、冷たい目で目の前に居る男女を、見つめる。
そこには、一人の女生徒を囲む様に、見目麗しい男生徒が数人居る。そして、男生徒の中には教師も紛れ込んでいる。
女生徒は今年、推薦でこの学園に入学したという、頭が良い女だ。身分は、男爵令嬢と低い。容姿は、栗髪に、茶目、平々凡々といったものだった。確か名前は・・・マルチア・ピクシアだっただろうか。
そして、教師含む男生徒達は、皆、共通して見目麗しく、権力者の息子ばかりだ。中には、第二王子なども居る。そして、ウィルフォーゼの婚約者だという、男も。
彼等は、何故かマルチアに惹かれていった。恋人や、婚約者が居るにも関わらず、だ。
それをウィルフォーゼは、乙女ゲームみたいと思った。しかし、疑問を感じる。
乙女ゲーム?私、そんな言葉知らない筈なのに、何故知ってるのかしら?何か・・・、思いだしそうなのだけれど、何だったかしら?
「でも・・・今は、そんな事どうでも良いですわね。婚約を無かったことに、両家に話をしないといけませんわ」
ウィルフォーゼは、目の前の光景に背を向け、自らのすべき事をしに去っていった。
後に、ウィルフォーゼは、前世の記憶というものが甦ったりするのだが、それはまた別のお話し。