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クレイジーシスター   作者: みきうる
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2話 自己作成ゲーム

 佐々木先輩との揉め事から早数週間がたった。

 その数週間の間にリリさんは何度も相談を受け、様々な暴走・・もとい、手段によって解決してきた。

「私の家のネコが脱走しちゃって・・。探し出して欲しいの」

「わかりました。まずは野良猫を大量に確保して見聞した後は、他の家にいないかどうか乗り込みをします。すぐに見つかるから待っていてください」

 と、リリさんは言い出した。

 全く・・何を言ってるんだろうね? この人は。

 僕はそう言うリリさんを止めたが、逆に野良猫用の罠をつくるのを手伝わされた。

「早く! 早く作らないと目標が逃げる!」

 その鬼気迫る感じは猫探しというより、漫画家の修羅場そのものだった。

「野良猫を捕まえたけど、目標のネコはいない。もしかすると、他の街に行ったのかも。だったら、もう一回別の街に・・」

「もう勘弁してください!」

 僕は罠作りからは外れたが、いまだにリリさんは一人で造り続けているらしい。凄い執念だ。

「テストでいい点を取らないとヤバイ。だからカンニングを手伝ってくれ・・」

「わかっ――」

「駄目です! リリさん!」

 後、どんな願いだろうと引き受けるところがあるので、僕が居る時にはストップをかける事もあった。

 そして相談しに来た相手にふと、言われたことがあった。

「おまえってシスターの小間使いなんだろ? 一緒に解決しようとしていたところを見たことがある」

 いつの間にか、リリさんの前に一言通すマネージャーのような立場を確立し始めていた。

 今のところは僕が居ない間にリリさんに会おうという不届き者はいないが、このうわさが広がり始めたら願いによってはそうする人が現れるかも。

 変な話を受けられてリリさんの立場が危うくなるのも困るし、なんといったって僕にお鉢が回ってくるのは勘弁したい。


 そう思った次の日、僕の願いはぶち壊された。

 僕がいつも通り、裏門から教会に行こうとした。

 僕は表から直接入って生徒に見られるのは嫌だった。それがクラスメイトだったら最悪だ。まぁあっちは転向初日でどっかに行った僕の事なんて覚えてないんだろうけど、それでも嫌なものは嫌だった。

「羽風君。待ちたまえ」

 僕はびくっと肩が揺れて、僕を引きとめた人物を恐る恐る見る。

 担任の先生だ。電話で聞く声の印象と違って、見た目はお堅そうに感じる。眼鏡と髭がそうさせているのか?

 なんだ、何だ。

「そんなに震えなくてもいい。楽にしてくれ」

「は、はぁ・・」

「特にどうという事じゃない。君の様子が見たかっただけなんだ。いやぁ元気そうだね」

 僕は強張っていた肩の力が徐々に抜けていくのを感じた。拍子抜けというか、緊張した損というか・・。

「最近、教会の人間とあれこれやってるそうじゃないか。どうだい?」

 見たかっただけじゃないじゃないですかー。

「・・いえ、とくには。その・・楽しんでます」

「それは良かった。いやいや。そういえば、最近、君と同様不登校気味の生徒が居てね。どうだい? 話してみないか?」

 不登校気味って・・。一応、登校してるんですが。

「それはちょっと・・」

「だよね。不登校イコール話が通じるわけじゃない。ちょっとした提案だよ。引き受けなくても、引き受けてもとくに何かあったわけじゃないから引き受けてくれなくて結構だ。けど、その子が気になる事を言っていたからちょっと、ね」

 気になる事?

 生徒に迷惑を与えているとかそう言う事だろうか? 僕はそう思って眉をしかめると、先生はにやりと笑った。

「教会の美人シスターと何でも屋をやってるって聞いたんだ。その不登校気味の生徒は君によく関心を持っていたよ。で? 具体的には何をしてるのかな?」

「特には・・猫探しとか。荷物整理とか。後、いろいろ・・」

「うん、うん。本当に彼女から聞いた通りだね。他にも部の不和を解決したんだろう。凄いじゃないか」

 ますます真意が見えてこなくなった。先生は僕が犯罪の手伝いをしているのではないかと疑っていると思ったが、その表情を見るにそれはない。

 もしかすると、そう見せかけて実は疑ってるとか? ・・・どこのスパイ漫画だよ。僕の先生ポーカーフェイスが凄すぎだろ。

「それはリリさんのおかげです。リリさんはその・・凄い人ですか」

 二重の意味で。

「そうかい。いやぁ、あの人とそこまでうまくやれるなんて本当に羽風君は凄いよ。ある意味、猛獣使いだ」

「はぁ」

 猛獣だってリリさん聞いたら静かに怒るだろうなー。

「じゃあ、彼女によろしく」

「へっ・・え?」

「あははっ。ただの確認だから。そんなに気負わなくていいよ! それじゃあ!」

 先生は目的不明のまま、「HAHAHA」と、走ってその場を立ち去った。

 本当に・・何だったんだ?


 裏門から学校の敷地に入り、歩くこと五分。教会についた。

「リリさん。おはようございます」

 僕は教会の扉の前でそう言うと、重い扉をぐっと持って扉を開けた。

 いつも思うが、この開け閉めを数回繰り返すだけでかなりの体育の運動になるんじゃないかと思っている。腕だけ筋肉ムキムキになりそう。

 僕はそんな自分の姿を想像してあまりのおぞましさに首を振った。

 こえー。

 そう思って教会に足を踏み入れたが、今日はいつもと違っていた。リリさんが僕の挨拶に全く返事を返してこないのだ。

「? リリさん?」

 僕が一階の奥に行ってもリリさんの姿はどこにもない。休むとしても一言連絡があると思ったが、そうではないのか?

「そういえば、リリさんが休む事一回もなかったな・・」

 と、僕がきびすを返して家に帰ろうとしたところで上からばたっと大きな音が鳴った。

 ネズミ? いや・・ここは比較的新しいし、それにネズミがこんな大きなものが動いた様な音がするのか?

 ・・・まさか、泥棒・・。

 いやいや、そんなリリさんの居るところでそんな命知らずなまねをする奴がいるとは思えない。そんなことをする奴は自殺志願者だけだ。

 でも、もしもだ・・。もしも――

『きゃー! あまりにも敵が強すぎて負けちゃったー!』リリさん。

『ふははは! これが教会の防衛ラインとは笑わせる! これで教会は俺様の物。これが世界への足掛かりだ~』?

 いやなんだよ。?って。

 リリさんが負けた時点で僕があいつに勝てるわけがない。けど、もしも・・もしも――

『エクスカリバー! リリさんもう大丈夫です。僕が助けに来ました!』僕

『大地君!』リリさん。

『ぐおお。聖剣を使うものがまだこの世にいたというのかー』?

 悪化したよ! 聖剣って何!

 エクスカリバーなんてそもそもどこに・・。

 その時、どんっと僕の足元で何かがぶつかり、転がった。その何かは木の剣で中心に綺麗な石が嵌められていた。

「これが・・エクスカリバー・・!」

 まさかこんなゴミのように捨てられているとは・・!

 初めて見るその剣を持って僕はまだ見ぬ二階へと階段を駆け上った。

「リリさん!」

「大地君っ!?」

 二階は僕が思った以上に生活感あふれるものだった。まるでマンションの一室をそのまま二階に持ってきたようなものだった。一階は入り口だけで部屋を見渡せたが、二階は普通のマンションの一室のように部屋がいっぱいだ。キッチンや液晶テレビ、ソファーにパソコン。僕はてっきり、シスター=清貧だと思っていたがそれは間違いの様だ。

 いやまぁ、シスターの前に一人の人間だしね。

 リリさんはパソコンの前でコントローラーのようなものを持ってじっとパソコンの画面を見ていた。

 上からきた物音はリリさんがコントローラーを落した音かもしれない。

 そうか・・。エクスカリバーの役目は終わったか。そもそも働いてないけど。

「ち、違うの!」

 リリさんは慌ててコントローラーをしまおうとするが、落としてしまった。

「別に・・リリさんも業務よりパソコンをしたい時があると思うので・・。僕は気にしませんよ」

「それは誤解! これは・・えーと。う!」

 リリさんとは思えぬ狼狽ぶりだった。「違うの! 違う!」と言うリリさんに僕は「わかりましたから」と言ってなだめた。

「うぅ。私がゲームに夢中になって業務を放り出す人だと思われたくなくて・・。思ったでしょう?」

「思ってませんよ」

 思ったけどー。

「そんな私が昔造ったドウモトソードまで持ち出して・・。私の事をそれで叱る気だったんでしょう。何でそれがドウモトソードなのか分からないけど」

 エクスカリバーだと思ったそれはドウモトソードだったのか。いや何だよ、ドウモトソードって。

「ええっと。この剣は・・何ですかね」

「私が手ずから木を切りだして造った木の剣よ。何年も前に作ったんだけど・・まだ、あったんだ。ドウモトストーンまだ嵌ってる。わぁ本当にどこで見つけたの?」

「いやそこらへんに・・」

 また新しく単語が来たよ。何だよ。ドウモトストーンって。

 リリさんは僕の言葉にハッとなった。

「って、そうじゃなくて。その、これは誤解なの。実は中学校のゲームサークルに頼まれて・・」

「サークル? この中学校にサークルなんてあるんですか?」

「ああ・・。この中学校には部活動として認められないものもあるの。ほら、漫画部とか。資料の漫画収集とかに部費は払えないでしょ? そういうのもあって、否認過のものも多くて・・。

そこで中学校が融通を聞かせて、部費はないけど集まって活動はしていいっていうものに配られるのがサークル。サークル紹介などで学校新聞にも載るし、新入生の勧誘もできるから決して仲間内だけで集まるだけのものじゃないのよ。それにゲームサークルがあって、そのサークルが自主製作のゲームをつくったの」

 どこか革新的な中学校だな、ここ。

「へぇ。自主製作のゲームをつくるなんて凄いじゃないですか。もしかすると、テストプレイですか?」

「そうなの。早めに意見が欲しいからって急いでやってたんだけど、全然進まなくて。私、ゲームをプレイする才能ないのかな・・」

 珍しくしゅんっとなるリリさん。

「ゲームに才能とかはないと思いますけど・・。ちょっと見ていいですか?」

 いきなりバグで進めない可能性もあるし、落ち込むものではないと思うが・・。

 僕はパソコンを覗き込むと、いまだにゲームスタート画面で止まっていた。タイトルは〝ネコクエスト〟とあり、ポリゴンでできたネコが飛び回っている。

「全然そこから進まなくて・・。コントローラーをパソコンにつないだんだけど、何も変わらないの」

 僕はコントローラーの配線がパソコンにつながっていることを確認した。

「確かに・・って、ん?」

 これはパソコン初心者にありがちな・・。

 僕は確認するためにウインドウのメインメニューからコンピューターを開いた。

「やっぱり・・」

「何かわかった?」

「ああ、はい。コレ配線は繋がってるんですけど、パソコンにコントローラーを認識させてないんですよ」

「え・・? コントローラーに認識ってあるの?」

「はい。これPSのコントローラーですよね? そもそも、これはPS対応のコントローラーであってパソコン専用のコントローラーじゃないんですよ」

 このコントローラーは最新3のもの。案外、リリさんも結構ゲームを持っているんだな。

「へぇ。大地君よく知ってるね」

 リリさんは感心して、僕の頭を撫でた。そして優しい笑みを浮かべた。

「コントローラー、買ってきた方が良いかな?」

「いやそれは・・。コントローラーをそうだと認識させるソフトをインストールすればいいだけです。多少の危険性はありますけど・・」

「そう。だったら、大地君にインストールをお願いするね。私にはそういう安全なソフト? って奴が分からないから」

「いや、僕も素人です。ちょっとパソコンをいじる時期が長かっただけ」

 不登校だと家にいる時間が長くなるだけあって、暇をつぶせる手段も限られてくる。その辺、ネットの暇つぶしはかなり充実したものだ。

 ネットからコントローラー接続のソフトをウイルスバスターに読み込ませ、それにOKがでると僕はインストールした。

「はい。これでPSのコントローラーでもゲームがプレイできます」

「ありがとうっ。大地君はゲームサークルの人たちを救った!」

「大げさです」

 僕は笑いながらリリさんの肩を叩いた。

 よしっ。これで終わりだ。僕は関わらない~っと。

「それじゃあ問題が解決したところで僕は勉強しようと思います」

「待ってよ、大地君」

 逃げられなかった。

 ダヨネ。

「大地君ってパソコン関係は強いんでしょう。だったら、このテストプレイをしてほしいの」

「少しわかるってだけです」

 案の定、僕はリリさんにテストプレイを頼まれた。

「私よりは少なくともできるでしょう。お願い」

 僕はそれでも往生際悪く抵抗を試みる。どうせ捕まる事は前提。もしも助かったら儲けものだ。

「ほら。僕は勉強があります。仮にも教会に登校してる身ですし、そんな僕がゲームだなんて・・」

「ゲーム=遊びっていう認識は良くないよ。最近はゲームをしながら足し算や掛け算を素早く解いて、その得点を競うってゲームもあるんだから」

 少なくとも今やろうとしているゲームはそういうものじゃないと思う。

「本音は?」

「別に一日くらいサボったっていいじゃない。テストプレイの方が大事よ」

 ろくでもねー。

「えーでも・・」

「でも、は一回。大丈夫よ。今日で終わらせるから」

 ぽんっと肩に置かれた手が怖い。


 何時間拘束されるんだろうという僕の疑問はさておき、リリさんの強制的な手伝いをする羽目になった僕。早速、椅子に座ってネコクエストと、映し出されたタイトル画面から〝NEW GAME〟と描かれているボタンを押した。

 ピロリン。

「始まった・・。始まるんだ・・」

 リリさんは感心したようにつぶやいた。

 ここで感心するのかー。

『ここはどこかの遠い異世界。ネコがまるで当たり前のように二本足で立ち、会話をする不思議な世界』

 緑の画面から文字が浮き上がってくる。ナレーターから声はない。ただ、文字が映し出されているのみだ。

「声がないのね。最近のゲームはフルボイスだと聞いているんだけど」

「サークルに何を求めているんですか・・」

 ハードル高過ぎでしょ。

「私がゲーム制作を頼まれたらスクエ二に匹敵する3Dを叩きだして見せるのに」

「いや、さすがにそれは・・」

「スクエ二を占拠すればいいんだもの。簡単よね」

「本気でしないでくださいよ、それ」

 リリさんは本気でしそうだから怖いわ。

『ここの一軒の家がある。この家の主はスノウ。何年も前、この家は素晴らしき笑顔と喜びに満ち溢れていた・・』

 そこに昔のゲームのようなポリゴンづくりの家が現れる。簡略化しており、家は茶色の屋根と壁だけだった。

『にゃあ。ご主人様・・』

 そこに毛が黒く、赤い首輪をした可愛らしい猫が二本足で現れた。

「どっかのモンスター狩りゲームのお供みたい・・」

 リリさんが「まさか・・パクリ?」と、警戒する。パクリだとするならば何をするんだろう、この人。考えたくないけど。

『ご主人様が去ってから早数年。ネコは・・キキは待ちくたびれたニャ。もう、もう・・』

 キキは肩を震わせ、いきなり本物のネコの顔に切り替わった。恐らく、あらかじめとっておいた本物のネコの映像を混ぜたのであろう。

『待てニャい!』

 こえーよ。

 いきなりのドアップからのまさかのボイス付き。不意打ち過ぎて心臓に悪い。

『ご主人様がもう魔王として覚醒したのも知っている。ケド、それでもキキのことを迎えに来てくれると信じてたニャ』

 景色はバッと暗くなり、暗い雰囲気に合うピアノのサウンドが流れ始める。

『元々、ご主人様は古代、人間を恐怖に叩き落とした魔王の子孫だったニャ。それでも、ご主人様は清き心を忘れニャかった。親に捨てられたキキを拾ってくれたニャ。可愛がってもくれた。

けれど、数年前にご主人様は覚醒したと。覚醒したご主人様は古き仲間を集め、人類を打倒しようと動いている。キキは何もできない。もう・・ご主人様の世界侵略は始まってるかもしれない。山奥に住んでいるキキには分からないけれど』

キキは「にゃー」と、文字とは違う本物の猫の声で一声鳴いた。

『ご主人様を止められるのはキキだけ。なら、キキがご主人様を止めるニャ。そしてまた、この家で一緒に・・』

 そしてこのゲームのタイトルである〝ネコクエスト〟の言葉が空に浮かびあがった。

 次に画面が真っ暗になると、1Pの接続を確認しました、と、言葉が出ると、画面は元に戻った。

『その言葉を待っていたぞ、キキ!』

 物語が本格的に始まった所で、いきなり謎の老猫がでてきた。ゆったりとした服に立派な杖。明らかにお偉いの雰囲気だ。

『猫長老!』

『久しいのう。お前が人間に変われたと聞いてから長き時がたった。が、こんな結果に終わるとは残念でならない』

『猫長老・・』

「ところで、猫長老は一体どうやってキキの決心に気付いたのかな。タイミングが良すぎるような・・。もしかして、ストーカー?」

「も、もしかすると水晶とかでキキの決心を見ていたとかじゃないですか。ほら、徳の高そうな猫だし」

 リリさんは「いえ・・」と、猫長老の人格?を疑っていた。

「実は魔王の回し者で、味方のふりをしながらキキの動向を探っている裏切り者で、キキはその事実を受け入れられずに苦しむ。そして物語は――」

「序盤でどんだけ予想してるんですか! まだ始まって五分もたってないですよ!?」

 この人、いつもゲームしながらそんなことを思っていたんだろうか。

『お主に力を授けよう。魔王を倒すと決めたお主にネコ会は支援いたす』

 猫長老は『はぁっ!』と、杖をかざすとキキのパラメータが追加された。

『これで道具が持てるようになる。レベルアップができるようになる。装備を付けられるようになった』

「これって基本的な事じゃ・・」

「この世界ではかなり大変な事、って事で済ましてください」

 テストプレイ感想の紙が分厚くなりそうだ。

『状態異常になる。疲労するようになった。モンスターがエンカウントされるようになった。人生にセーブが効かなくなった』

「え? これって、つまりは猫長老の支援を受けなければモンスターが襲ってこなかったって事?」

 リリさんが猫長老の支援に首をかしげた。

「そうなりますね」

「じゃあ猫長老の支援って危険よね」

「勝てばいいんですよ。勝てば!」

 それに猫長老の支援がないとボスと戦えないのかもしれないし。

『ありがとう、猫長老。キキはこれでご主人様を止めるニャ!』

『頑張るがよい。応援してるぞ』

 キキは元気よく猫長老に手を振ると、山をたったかと降りていき、ロード画面に入っていった。

 ロード画面が開くと、山物のふもとである町にたどり着いた様だった。町には整備された石の道があり、その先には簡易的な家が数件存在していた。

 僕は早速、町の地図を出すと何をするべきかを考えた。

「どこに行くの? 大地君」

「武器屋でしょう。まともな武器を買ってモンスターを狩らないといけませんから」

 僕はリリさんにそう言うと、キキをアナログスティックで動かして剣と盾が描かれている看板の下に入った。

 入るとすぐさま武器屋の店主の立ち絵が現れ『らっしゃい』と文字がでた。

『ここに入るとは・・・目的は何だい?』

 店主の言葉に選択肢はなく、勝手にキキが答えた。

『魔王を倒す。それだけニャ』

『ほう・・。とうとうそんな日が来たか』

 え? 何か怪しい。

 店主は武具屋のメニュー画面に持っていった。僕は〝買う、売る〟の二つのコマンドから買うを選んだ。

 武器の数は当然だが少なく、ハンマーと木の剣、魔剣しかなかった。

「魔剣?」

「わ、ほんとだ。しかもレアってところが金に光ってるね、大地君。バグかな?」

 僕は嫌な予感を押し込めて、武器から装備の部分に移った。

 皮の防具、段ボールの防具、後は魔王の装束だった。

『さぁ、おまえは何を選ぶ? クク・・。魔王様の反乱分子をここで見つけるとは俺はついてるな』

「こいつ絶対、魔王の手先だろ」

「そうねー」

 まさかこんな所でイベントフラグとは。僕はいつの間にかあらわれた〝店主の怪しい所を指摘〟というボタンを押した。

『その言葉・・ご主人様の手先だニャ! ご主人様の手先はキキの敵と同義! 覚悟!』

 突如画面にファイト!と、言葉が出て強制バトルモードになった。

「まだ武器と装備をそろえてないじゃない。これって危ないんじゃないの?」

「大丈夫ですよ、リリさん。序盤の敵ですし、初期装備で行けるに決まってます」

 僕は気軽に〇ボタンを連打した。

『魔王の幹部、テルーサが勝負を挑んできた!』

 ・・・・・・幹部?

『ここで会ったが百年目! くらえ! 必殺技バスカークエンドレスファイヤー!』

『キキは死んだ!』

『ニャー。幹部は早かったニャ』

 いきなり必殺技の名前を叫ばれたと思うと、カッと画面が光り、不死鳥のような鳥が画面中で暴れまわったと思った時にはすでにキキは死んでいた。

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 序盤であっさり沈められた。


 つまり、あそこでの最善の選択肢は怪しい所をスルーし続けるところだった。初見で見抜けないだろ、それ・・。

 僕はセーブしてなかったため、最初からやる羽目になり、このゲーム相手にはこまめにセーブすることにした。

「また武器屋に入るんだ。頑張ってね、大地君」

 リリさんはそう言うと、お茶を入れてくるために席を外して台所に行った。

『さぁ、おまえは何を選ぶ? クク・・。魔王様の反乱分子をここで見つけるとは俺はついてるな』

 と、あからさまな言葉が出ても指摘せずに黙って、木の剣と皮の防具を買った。

 ちなみに何故、魔剣を買わなかったかと言うと、魔剣を買おうとすると〝魔剣を証拠に怪しい所を指摘する〟という選択肢が出てきたから。魔剣なんてものは最初からなかったんだ。

 最後に店を出ていこうとすると店主・・いや、テルーサの言葉がでた。

『こいつ、まだ俺の正体に気付かないとは・・愚かな奴め』

 くっ、くぅ。

 僕はイラつき交じりにアナログスティックを乱暴に前に倒した。

 走れ、キキ! 早く幹部を倒すその日まで!


 地図を出すと、この町から都会の方に行くと、魔王の手下がはびこる魔王城へ行けるらしい。やはり道中の道は整備されておらず、画面中緑の森の中を歩くことになった。

 画像がポリゴンの荒い仕様の為、森というより緑の空間の中をキキが宙に浮いているように見える。

 キキ、うまったりしないだろうか。

 ちょっと心配になった。

 さらに歩を進めると、画面がいきなり歪んだ。

 そしてポケットさながらのBGMがパソコンから流れ始めた。

「ポケットさながらというか、ポケットのBGMそのものだよな。しかも初代のバトルBGM」

 著作権とは一体何だったのか。

『スラヌー×3が現れた!』

 テルーサをカウントしなければ、初めてするまともなバトルだ。僕はコマンドの〝戦う、守る、道具を使う、逃げる〟の中から戦うを押した。

「っていうか、説明一つもないな・・」

 すでに戦うと決意してるとはいえ、モンスターに会った時の反応とか、せめてそういうのが欲しかった。

『キキの攻撃! スラヌー1に24ダメージ! スラヌー1は死んだ』

 キキは僕が思った以上に強かった。一撃を敵に与えると敵はあっさりと死んだ。

 もしも、ここで雑魚敵にも勝てない様じゃこのゲームは積むと思っていたが、そんな心配は不要だったようだ。

 キキはダメージを受けながら順調に敵を倒していき、スラヌー1、2、3を倒した。

『スラヌーを倒した。経験値を50取得』

 すると、テレッテーンと言う音程の外れた音が鳴った。

『キキのレベルが2になった。体力+4.攻撃+3。防御+1.回避+1。魔法防御+2』

 思いのほかあっさりとレベルが上がった。この調子ですぐに上がっていくかは謎だが、このままぬるい敵で高レベルにまでいってほしいものだ。

 そしてしばらくするとまた景色が歪んだ。

『スラヌーとボルガザークが現れた』

 ・・・。

 何かいかつい名前だな。またすぐ死ぬパターンじゃないか。

 僕は恐る恐る〝戦う〟と、選んでボルガザークをターゲットにする。

『キキの攻撃。ダメージ1!』

「あ。全然ダメージを与えてないや・・」

 強すぎだろ。敵・・。

『ボルガザークは怖がって逃走した。スラヌーの攻撃。キキHP5マイナス』

『キキの攻撃。スラヌーに24ダメージ! スラヌーを倒した』

 そこにまたテレッテーンというレベルアップの音が鳴る。

『ボルガザークを退けた。経験値850』

『キキのレベルが10になった。攻撃+20。防御+15。回避+10。魔法防御+22』

「退けただけでこの経験値・・」

 スラヌー倒す気が失せてくるー。

「どう? 大地君。進んだ?」

「あ。リリさん」

 リリさんがティーカップをお盆に乗せて持ってきた。お盆は赤い和風の代物。シュールだ。

「どうぞ。大地君」

 リリさんは笑いながら僕にお茶を渡してくる。ティーカップの中のお茶はとても真っ赤で今すぐ流し台に流したくなるものだった。

「僕はいつも思うんですけど、リリさんに毒を盛られても、いつ盛られたか分からないでしょうね」

「えー。そうかな。見た目でわかると思うけど・・。にごりとか、そういうので判断できるし」

「普段飲んだことのないお茶だと分からないと思うんですよ。僕は」

 それでも僕はティーカップのお茶を持って、ちょびっと飲んだ。

 辛い。少し飲んだだけだというのに舌がピリリとする。だが、不思議と不快にならない辛さだった。只、味が濃いだけじゃない後を引くうまさ。激辛ラーメンを食べた時に似ている。

「・・・キムチとか?」

 いつも、どこか斜め上を行くような味たちだった。まさか単純な味のお茶ではあるまい。

「違うよ。これは唐辛子茶。辛いけど、とても美味しいの」

 しまった。深読みしすぎた。確かにリリさんのお茶は料理名ではなく食材系が多い。それを考えるべきだった。

「今日はゲームで頑張る大地君の為に眠気が覚めるお茶にしたの。これを飲んで頑張って」

 つまり、今日は寝かせないと。



 リリさんは僕に任せて席を外すと思ったが、それはないようだった。リリさんは白紙にびっしりと文字を埋め尽くすような勢いで意見を書いている。テストプレイの感想は自分で挙げるようだ。

 ネコクエストのイベントに口を出すのはそういう理由かもしれない。

 ま。まぁ、僕はそういう所は嫌いじゃないよ!

「経験値配分が変だよね、このゲーム。ここはもうちょっと少なくてもいいんじゃないかな」

「そそおお、ですか」

「どうかしたの? 大地君。疲れちゃった?」

「い、いいえ・・」

 恥ずかしい事を思ってる時にリリさんに顔を合わされるとドキッとする。

 僕はいまだに森の中だ。すでにプレイしてかなりの時間がたち、レベルも上がって敵もそれ相応に強くなってるのに街すら見えない。徒歩で森を横断すればそれは時間がかかるけど、そこまで現実仕様にしなくても・・。

 マップの使い回しが楽なのはわかるんだけどさ。ずっとそのマップってのも珍しいよ。

「作業感を徐々に感じ始めてます・・」

「大地君! 画面、画面!」

 リリさんに言われて画面に視線を戻すと、キキの立ち絵が出てきた。

『ニャア。キキも結構強くなってきたニャ。百戦錬磨のネコと言われてメスにモテるのもそう遠くない日かもしれニャい』

 このネコ、目的を忘れかけてないか?

「ゲームのイベントみたいね」

「まぁ少し前まで無言でスラヌー殺してましたからね」

「それは大丈夫なのかな?」

 ははは。僕はスラヌーを効率よく殺すのがうまくなりましたよ。

『そこの旅の人』

 そこにひょろながい木が現れた。木は模様のせいなのか眼鏡もかけているようにも見え、色素が薄い危うげな木だった。

『キキはネコニャ』

『それは済まない。にて、旅のネコ。僕の願いを叶えてほしいんだ』

『名乗りもせずに・・。一体何者ニャ』

『僕は木の大樹。とても大きい僕にふさわしい名前だ』

『うーん。ちょっと元気がなさそうに見えるニャ』

『そんなことはいいんだ、旅のネコ。僕の願いをかなえてくれよ』

『強引だニャア』

『1願いをかなえる 2叶えない』

 そこに選択肢が出現する。僕は迷わず2を押した。

「どうして! ここは1でしょう! 困っている人がいるなら助けなくちゃ!」

 リリさんはゲームの中でも人助けか。

「大丈夫です、リリさん。あれは木ですから」

「え・・あーでも、そうじゃないでしょう。言葉が喋れる時点で木も人間も関係ない。平等に助けなきゃ」

「えー。でも、スラヌー倒す時間がなくなりますよ」

 僕はぶつぶつと「スラヌー。スラヌーを狩るのが僕の目的。スラヌー」と言った。

「大地君・・。目的、忘れかけてない?」

 あれ。少し前にそんなことを思った気がする。

『お断りニャ。メスにモテるのがキキのもく――・・・。ご主人様を倒すのがキキの目的ニャ』

 今、思いだしたかのように訂正しなかったか?

『ええー。僕の願いをかなえないと? それはよくない』

『1願いをかなえる 2叶えない』

 そしてまた木は同じことを聞いてきた。僕は迷わず2を押した。

『ええー。僕の願いをかなえないと? それはよくない』

『1願いをかなえる 2叶えない』

「無限ループか」

 これは「うん」と言うまで同じ質問を繰り返すだけだ。僕はしぶしぶと1を押した。

『ありがとう。君は心優しい!』

 何でだろう。とっても白々しく聞こえるよ。

『僕の背中をかいてほしいんだ』

 すると、画面が変わって木の姿がズームされる。そこに大きな矢印がでて、木の背中をかいてみよう!と、文字が出る。

 僕はその矢印をクリックする。すると、矢印は僕の動かした方に動いた。

「これで木の背中をかけってことね」

 リリさんの言葉に僕が頷くと、僕は矢印を右の方へ持っていく。そして右の方から背中へと矢印が行った。

 背中の方に矢印を持っていけば後は簡単。その矢印を上から下に。下から上に、を繰り返すだけだ。

 ピコンと、ゲームがそれによって音が鳴り、木の顔が正面を向いた。

『縦上縦上? それは何? ちょっとわからないかな。評価はDだ』

「WHY!?」

 僕が思わず英語で叫ぶと、キキも同時に『何故ニャ』と映し出た。

『僕は背中を書いてくれ、と言ったんだ。なのに、君は縦上縦上とは・・馬鹿にしてるのかい?』

「そういう意味かよ!」

 漢字表示をそういう時だけぼかすとは卑怯だ!

「この製作者、間違いなく意地が悪いだろ」

「もしかすると、ちょっとしたお楽しみだったんじゃないかな」

「いわゆる作ってる時は面白いと思っているが、やってみるととんだクソゲーだったという事か」

「ええ? でも、まだエンディングを迎えてないじゃない。エンディングを迎えるまでゲームの評価は決めちゃダメ。最後で評価が覆るものもあるんだから」

 リリさんはテストプレイをどうやらエンディングまで続けるようだ。

 マジかよ。

『うーん。これを成功させたら魔王を倒せると噂の武器をあげようと思ったんだけど、これじゃあね~』

 マジかよ!

 大樹はさらりとクリアするための大事なものを表示させた。

 僕、クリアできないかも・・・。

 僕は恐る恐る後ろを見るとリリさんはにっこりと笑った。その笑顔は僕を信頼していた。

「大丈夫だよ、大地君。大地君ならそんな専用武器がなくても平気だよ」

 ていうか、それまで拘束を解いてくれないんでしょ・・・?

『でもまぁ僕は優しいから。君にはこれをあげよう』

 そこにマイナスな効果音が鳴って画面が赤緑青と三色に光り輝く。

『〝戦闘機〟を手に入れた』

「これってそんなに残念がる武器なんでしょうか?」

 空から撃ち続ければ地上の敵なんて一網打尽だ。最強の武器では?

「何言ってるの、大地君。モンスターなんだから飛ぶでしょう」

「ああ・・。デスヨネ~」

 でも、もしも飛ばないんだったら・・と、淡い希望を抱いてしまうのだ。

『ありがとうニャ。ちょっと言い方にイラっとしたけど、ありがとうニャ』

 キキは頭を下げると、早速もらった戦闘機を使うようだ。メニュー画面から武器、戦闘機を押した。

『空を飛ぶ! 空を飛んでるニャ!』

 僕には戦闘機の知識はないため、何の戦闘機なのかは分からないが、とりあえず空のグラフィックになった。機体が揺れるわけでもなく、真っ直ぐに動き回るせいなのかあまり現実感がしない。

『ありがとうニャ! ありがとうニャ!』

『そう言いながら機関銃を発射しないでくれ。いでで!』

 大樹は辛そうに身をよじった。

『ニャア。大樹以外の木を掃おうとしたのニャ』

『嘘をつけ! 僕にしか銃の弾が当たってないのがいい証拠だ!』

『キキはまだ戦闘機の操作に慣れてない。これはしょうがない事故ニャ』

 そのわりにはキキは慣れた操作で操縦桿を握っている。

 戦闘機から見る景色は今まで歩いていた森が一望できた。出てきた町から次の街まで相当の距離がある。これを正規でプレイしようとすれば相当の時間になるだろう。

「・・・リリさん。僕の目には次の街が魔王城に見えるんですが、気のせいですかね」

「いいじゃない。エンディングが近いって事よ」

 いやいや。森と町だけで魔王城にたどり着くような道中で良いのか。

「それにテストプレイだもの。そんなに長いはずがないって事じゃない?」

 本当にそれだけなのか・・。

『大樹~。ありがとニャ! キキはこれで大空へと羽ばたいていく~』

 ゲームから飛行機が発進するような音がすると、戦闘機は魔王城の方へと真っ直ぐに飛んで行った。

 と、そこで敵が現れた。今までのようなRPGの戦闘用メニュー画面はなく、大量の敵が幾重にも重なって現れた。

 そのモンスターは鴉と虎を合体させたような見た目をしており、鴉の翼で空に浮いていた。

「これを全て倒せと!? それは無理だ!」

「大地君。落ち着いて! 大地君ならできる。できる」

 その妙な信頼は何だ。

 僕は暴走のあまり、適当にコントローラーのボタンを押す。すると、どこかのボタンを押したところで戦闘機から弾が出てきた。一発あたるだけでも敵は撃破され、モンスターの厚い壁が少し薄くなった。

『当たれば飛行型モンスターは死ぬ。この戦闘機はもろい。一発的にあたるだけでお陀仏ニャ。モンスターを避けながら同時に撃つ』

 僕はすぐさま、どのボタンで弾が出るかを確認すると、モンスターを撃った。目の前のモンスターは撃破したが、別の方向にいたモンスターが光線をキキめがけて放ってくる。

 それをアナログスティックで避けながら、弾で避けた先のモンスターを撃つ。神経の削られる真剣勝負だ。

「シューティングゲームみたい」

 リリさんはそう言ってとうがらし茶に口をつけた。

「ゲームの趣旨変わってますよね・・。クエスト要素どこにいったんでしょ」

「一本のゲームで多種様々な内容をプレイできるってものじゃないの?」

「その手のゲームって器用貧乏になる事が多い様な・・」

「弊害ねー。ゲーム業界の衰退ね~」

 適当ー!

 僕はそんな会話をしながら、シューティングゲームに変わったキキの戦闘機を動かす。

 僕は不登校時代の経験から他ごとをしながらゲームをするスキルを身に着けている! 自慢するべきことじゃないけど!

 キキは魔王城の付近で高度を下げ、魔王城に突っ込むかのように速度を上げた。

「ん・・? ように、じゃない! 突っ込む気だぞ、コレ!」

「バッドエンド?」

 いきなり何故! やっぱりD評価を取ったのがまずかったのか!

『キキの命でご主人様を止められるなら本望! 猫社会に栄光あれ! キキばんざぁぁああああい!』

 そしてキキは吸い込まれるように魔王城に突っ込んで――行かなかった。正確には行けなかった。

 マントをはおった紫の角を生やした人型の生物が念動力で止めたのだ。

『予告もなしの特攻とは・・どこのカミカゼだ』

『お、おまえは・・!』

「もしかして、あれがご主人様なのかな?」

「にしては、人間離れしてません?」

 僕がそう言うと、リリさんは納得したように「そういえば、そうねぇ」と、笑った。

『ご主人様の幹部・・か?』

 疑問形とはこれいかに。

 キキはバグなのかは知らないが、過剰と言っていいほどまでに首を九十度曲げた。そこまで曲げると首を傾けたというより、顔が体の横についているようだ。

 超こぇー。

『俺はスノウ魔王の幹部が一人、ジータ。まだ、だらだらしていたいがしょうがない。一応、魔王城警備主任だからな』

『幹部! キキの戦闘機を念動力で止めるとは。戦闘機から下りての戦闘ニャ!』

 キキは首を元に戻すと、戦闘機からジータの前に立った。

『『勝負!』』

 すると、キキVSジータという文字と二人の立ち絵が出ると、画面が大きく変わった。二人は両端に戦闘態勢の状態で立ち、上には互いのHPがでていた。

「格闘ゲームか」

 僕はうっ、と顔をしかめた。こういうプレイヤーの腕が問われるゲームは殺伐としていて好きじゃない。

「大地君って格闘ゲーム苦手なの?」

「ええ。大体、こういうゲームは遊びではなく真面目にやってる人がいるんです。その人の勝率を下げたりするような真似をしでかすと、後が恐ろしくて・・。相手に勝つならともかく、2VS2が基本のゲームに相方の足を引っ張ると怖いですよぉ。いや、ほんと」

「そうねぇ。真面目というより、あれはもう仕事だものね」

 遊びだというのに仕事というのはこれいかに。

 僕は視線をゲーム画面に戻すと、どのボタンを押せばどのようなアクションができるのかを確認した。とくにクセのない単調的な動きだ。逆を言えば、とても使いやすいという事だ。

『ファイト!』

 カーンと音が鳴って、バトルが開始された。

 僕はアナログスティックを押し込んで素早く駆け出すと、相手もそれに呼応してこっちに向かってきた。僕はキキを操作してジータに、威力は弱いが素早く放てる上に射程が長い猫パンチを出した。

 ジータはそれに対して神がかった動きをした。猫パンチに対して空中に飛んで、光線を放つ固有技を繰り出してきた。固有技には少しのタイムラグがある。だというのに、ジータは迷わずこの技を出してきた。僕の動きを予想した動きだ。

「チッ!」

 僕は固有技をバックステップでかわそうとするが、射線が大きいこともあってくらってしまった。

 技をくらえばよろけてしまう。キキは一秒と満たない間、完全に無防備になった。が、固有技を放った後はあっちにも硬直がある。お互いの硬直が解けると、僕はすぐさま防御態勢をとった。

 相手は案の定、すぐさま攻撃を放ってきた。僕はそれを防ぐとカウンターを決めようとした、はずだった。

「これは!」

 その防御を解いた瞬間、ジータはもっとも威力が弱く射程が短い足払いを使ってきた。

「何で相手はこんなしょぼい技を?」

「リリさん、違います! この足払いはキキを浮き上がらせるもの。これは危険です!」

 浮き上がったキキは完全無防備。そこにジータはさらに相手を空中に上げる、バイクを使ったアッパーがきた。そのアッパーをくらって無防備のままキキは下に落ちていく。そこに、また足払いをかけようと待ち構えているジータの姿があった。

「「無限コンボ!」」

 リリさんと僕は同時に叫んだ。

 リリさんも知ってるのか・・。この人の事がさらに分からなくなってきた。守備範囲、広くないか?

 無限コンボとはバランス調整の足りないゲームに見られるハメ技の事だ。出の素早い技で敵を一旦捕らえると、後はそれにつなげるBの技を繰り出し、もう一度最初に放ったAの技を繰り出してまた敵を捉えるというものだ。

 これにハマれば最後、敵が対象を手放さない限りはずっと続けられる悪魔の所業。ライトユーザーにとって忌むべきコンボだ。

 キキはなすすべもなくこれをくらい続け、HPが0になった。

『おまえはこの程度か!』

 ジータの言葉と共に画面が暗転。タイトル画面に戻った。

「無限コンボなんて・・。これは予想外よ」

 リリさんは顔をしかめた。

「そうですね、リリさん。これはゲームバランスの崩壊です。早速、サークルさんに話をつけてテストプレイは終了――」

「それはできないけど。まだ反撃の糸口があるはずよ。そうね・・」

 できないんだ。

「もう一回、もう一回やってみて」

「はぁ・・」

 幹部戦前でセーブしたおかげでセーブポイントからやり直しても全く問題はなかった。だからといって負けると分かっている勝負をするのはなぁ・・。

『ファイト!』

『おまえはこの程度か!』

『ファイト!』

『おまえはこの程度か!』

 案の定、ものの数分で勝負がつく。

 ジータの反応速度がおかし過ぎる。あの一秒にも満たない反応速度は人間でできない事だ。こちらが何の技をうつか、あらかじめ知ってるのかと問いたい。

「無理ですよ、リリさん」

 僕が泣き言をあげてもリリさんは顔色一つ変えずに画面を凝視していた。

「大地君。遠距離から放てる技ってある?」

「ああ、画面の端から相手に当てる技・・ありますけど、射程が長いだけあって威力が弱いですよ」

「あるんだ。なら十分。試してみたいことがあるの」

 リリさんの目がぎらりと光った気がした。


つまり、リリさんの言う実験を僕は不承不承やる事になったのだ。

『ファイト!』

 僕はアナログスティックを押し込もうとしたが、リリさんがそれを手で制した。

「大地君。画面の端から相手にぶつけられる技、派生技だっけ? やってほしいの」

 僕はその言葉に首をかしげた。確かに派生技はどこからでも当たる。だが、相手にも見切られやすくその後の硬直がしばしばある派生技をいきなり打つのか。

「敵の牽制って事ですね。わかりました」

 僕はRを押し込んで派生技を放つ。

 すると、ジータは何の抵抗もなくその派生技を受けた。ジータのHPは微々たるものだが、少し減った。

「?」

「このAI、動きがおかしかったのよね」

 AIって言っちゃったよ。

「キキがAIの射程に入った時にジータは動き出した。それはいつもそう。あれだけの反応速度を持つAIがそんな1テンポ遅れた動きをするわけがないって思ったの。けど、やっぱりね」

「つまり、敵は射程に入らないと行動しないって事ですか」

「だと、思う。訓練用AIにはよくある事よね」

 リリさんは「私の作戦勝ちね。さあ大地君、やっちゃって!」と、張り切っていた。

 僕はリリさんの言うとおりに派生技を遠くから撃ちまくってじわじわとHPを減らしていった。ジータは何の抵抗もしないし、キキは派生技を撃つだけだった。

 うーん。作業。

『マジかよ。俺、負けちまった・・』

 ジータはHPを0にして悲鳴をあげながら沈んでいった。

「あっけなかったです・・」

「それほど夢中になったって事だよ、大地君」

 いや、なんか違うと思う・・。

『熾烈な戦いだったニャ。ジータ、ご主人に忠誠を尽くすというなら何故、ご主人の愚行を止めなかった』

『愚行? それはおまえの言葉だ。スノウ魔王は奥にいる。俺が本当に正しいかどうかはスノウ魔王が証明してくれるだろう』

 ジータはそう言うと、砂のように消えてしまった。死んでしまったのかは分からない。

「次はボス戦って事?」

「みたいですね」

 リリさんは「もう?」と、不満げだが、僕としては長い間プレイしたくないのでは助かる。

「テルーサとかはどうなったの?」

「ほら、無視し続けたので会ってない設定ですし。もしかすると、ソードマスターヤマトみたいなことかもしれませんよ。今から幹部が全員一気に倒される、とか」

「ソードマスター?」

 ううむ。リリさんだったらヤマトを知ってると思ったが違ったか。

「ヤマトは・・伝説の漫画です」

「伝説・・!? そんな有名な漫画なの?」

「ええ。是非、ググってください」

 有名だよ。打切り漫画としてね。

『来ましたね・・』

 キキが奥に進むと、大きい扉から男の声が聞こえた。

『ご主人・・!』

 とうとうキキとスノウは扉越しに対面した。

「何で扉越しなのかな? 開けて話せばいいのに」

「雰囲気づくりじゃないですか、たぶん」

 キキは扉を開けて主人であるスノウの顔を見た。昔の優しげな顔とは違う、眉のつりあがったきつい顔にキキは戦慄した。

『その角・・前よりも大きくなっている』

 キキがそう言ってスノウの両側から生えている二本の角を凝視する。

『さすが私の元飼い猫、さすがに気付いたか。この角は魔王の証。昔とは違い、私の角も伸びた。覚醒はすでに終えている』

『ご主人・・! ご主人は魔王という人格に操られているだけニャ! 本当のご主人は心優しい中年だニャ!』

 中年ははたして言う必要があったのだろうか。

 だが、中年という割にはグラフィックを見る限り若く見える。いわゆる魔王覚醒時に若返ったという奴なのだろうか? いや、グラフィック荒くていまいち分からないんだけどさ。

『優しい・・か。そんなのは疑似人格に過ぎない』

『ご主人は優しい。昔と変わらないニャ。だからこそ、キキはご主人が帰ってくると信じていた』

『ならば、永遠に待っていれば良かったんだ。二度と会えないご主人を』

『ご主人・・。やっぱり、優しいニャ』

 キキは視線をそらすスノウを見て安心した。

『ご主人は覚醒してもキキを殺さなかった。それが何よりの証拠ニャ。そして悪の道を進むご主人はキキをあえて突き放した・・。これを優しさと言わずして何というニャ』

『どこまでも自分に都合の良いことを・・。だが、仮に私にまだ優しさがあるとするなら消さないといけない。それは魔王には不要だからだ』

 スノウはそう言うと、黒いオーラが体全体を包み、全身は黒と紫の体色に変化して禍々しい気を放ち始めた。顔はもう、人間らしさなどみじんもない獣になっていた。

『ご主人。ご主人はまだ、人間界を征服していない。その侵攻すらしてないニャ。二年たった今でも人間界が平和なのはご主人のおかげ』

 キキは目をつぶり、覚悟を決めたように目を開いた。

『ご主人を解放してあげる。たとえ、それが命を絶つ結果になったとしても!』

 画面が光につつまれてRPG仕様のメニュー画面に変わった。

『スノウとのバトルが始まった!』

 僕は早速、戦闘装備から戦闘機を出すとキキを乗せた。シューティングゲームになると思ったが、キキが戦闘機に乗っているグラフィックになっただけでRPGから変わっていない。しかも、戦闘機の弾は通常攻撃より強かった。

「魔王城まで行く間、こんな感じで良かったような・・」

「きっと経験を積んで方針がRPG一筋になったのよ。やったじゃない」

 リリさんが「成長したね」と言っているが、僕は内心、えーと呆れていた。

 方針ってそう簡単に揺らいでいいものだろうか。多種多様で行くと決めたなら最後までそれを貫いてほしい。

『ニャー! 特攻!』

 キキが戦闘機で弾を撃って攻撃していく。スノウのHPも削れていく。が。

『本当にこんな事で良いのか? 永久不滅の技を知れ!』

 その言葉と共にスノウのパラメーターが上がった。

 スノウのHPは回復しないが、攻撃力や防御力が上がる事によっていささか苦戦を強いられ始めるようになる。

「やっぱり、徐々に手数の差が出てきてるね」

 リリさんがそう言って眉をしかめた。

 その通り。キキはどれだけ強かろうと一人だ。それは相手も同じだが、あちらとこちらではHPの総量が違う。こういうのは他の奴がパーティーに参加して盾役や回復係、アタッカーと役割を分けるものなんだが、キキはそれすべてを担っている。

 もちろん回復せずともスキルによってじわじわと回復していくのだが、スノウの固有技によってHPが三分の一削られると回復魔法を使わざるおえなくなる。すると、手が止まって攻撃が止まる。止まれば追撃を与えられるのも当然だ。

「このままではジリ貧だ・・」

 もしかすると、そんな手数すら跳ね返すほどに強くならなければならなかったのかもしれない。あの長い森の道のりはスノウを倒すのに十分なほどの強さにしてくれたはずだ。けど、僕はそれを戦闘機で飛ばしたから・・。

『ニャ、ニャア・・』

 とうとう限界が来て、キキのHPが真っ赤に染まる。警告音が甲高く鳴り響いていく。

「やばい!」

 僕は回復アイテムをすぐさまキキに投げるが、そこでスノウの必殺技の前兆が来た。

『キキ・・私を止める事などできない。仲間も強さもない優しいだけのネコには私を・・助ける事なんてできない』

 そうやってスノウが言うと、スノウの手のひらに無限の闇が集まってくる。それは手のひらの宇宙の様だった。

『ご主人!』

『必殺、無限圧殺』

 それがはぜると、魔王城が重みに耐えられずにみしっ、みしっと潰れていく。キキもHPが0になり、押しつぶされて視界が暗転した。

「キキ!」

 僕は叫んでつい、パソコンの画面をつかんだ。ここまできてすべてがまっさらになってしまうなんて僕は嫌だ。

『この力は私の本気に近い。この力を放てば世界など簡単に取れる。けど、奪ったものに意味なんてない。私はもう止まれなくなってしまった私を止めてほしかった。・・・最初からこの手で葬る事になるなら、あの日、拾わなければ良かった』

 スノウは瓦礫と化した魔王城を見てそう言った。

 HPバーもとっくに0。瓦礫ばかりの残骸には生き物の血のような跡もあっちこっちにくっついていた。

『でも・・・・・こうなると分かっていても、私はきっとおまえを拾うんだろう。私はなんてひどい主人なんだ』

『そんなことないニャ』

 キキの声だ。キキは瓦礫の中から顔を出すと、ゆっくりと這い出ていった。

「『どうして・・』」

 僕とスノウの言葉と文字が同時に出た。

『キキは一人じゃなかった。ここにいるキキは一人ニャんだが、遠い地でキキを見守る偉い長老がいたニャ。長老が蘇りの術を使ってくれた。その命を犠牲にして』

「猫長老・・。良い猫だったのに」

 リリさんがじ~んと感動していた。

 いやいや、序盤数分しか出てなかったじゃないですか。強いて言うなら伏線だったのね、程度だよ。

『ご主人の本音はこのネコがしかと聞いた。ご主人、ずっと止めてほしかったのか。もっと早く、止めに行くべきだったニャ』

 キキの目は恨みなどなく、あくまで主人を思っていた。

『その角を破壊すればご主人の負の連鎖は止まる。ご主人を助ける為にこのキキ、命を張らせてもらう』

『キキ・・』

 スノウは人間離れしてしまった目から涙をボロボロ流した。その涙でさえ、緑色だ。

『ご主人、覚悟してニャ』

 キキが構える。スノウも魔王としての本能なのか、手は全く緩めていなかった。本気の勝負をたがいにするだろう。だが、勝つのはキキだ。こんな主人思いのネコが負けるはずがない。

「行け。キキ」

 僕の言葉と共にキキは走り出した。最初のころとまるで変わらない剣と引き下げて。

『uooouu49naubmutm/!』

 ?

 僕は二度見してしまった。何か、おかしくね?

 すると、ブラウザがその重みに耐えられずに勝手に閉じた。パソコンの表画面からはセクションは予期なく終了しました、とある。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 文字化けしおった。

 なんというオチだろう。そういば、これテストプレイだった。まだ見ぬバグがあるのも当然と言える。当然だ・・しかし・・・・。

「だ、大地君・・。その・・」

 あれだけ最後は入れ込んで感情移入していたゲームがこんな無残な終わり方をしたんだ。リリさんもかける言葉が見つからないだろう。

 今まで頑張ってきたのがアホらしくなってきちゃったな。

「こんの・・クソゲーが!」

 意見書に書く言葉はこれが全てだ。



五年以上前に書いたRPG小説をこの2話に盛り込んでいます。結局、RPG小説が書けなかったのは1話だけならまだしも4話で書ききるのは無理だと思ったからです。

こういう形で再びかけたのは嬉しかったです。

次回の掲載は11月22日です

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