1/10スケールバレンタイン・前編
本編の後日談です。
短編のつもりが、予定より長くなってしまったので前後編に分けての投稿となります。ご容赦下さい。
吹田淳はごく普通の男子高校生であった。
特別な才能や血統や友人や環境や価値観などを持たないという意味においてだが。
だが今は違う。
今は吹田淳は1/10の小人の世界で魔王を倒した勇者であり、そして小人の国パリトットの元女王、アメリアの夫である。
前半は割とどうでもいいが、後半はとてつもなく重要な意味を持つ。
そう、この日、2月14日バレンタインデーという日においては。
淳にとって、この日は去年までは憂鬱な日であった。
子供の頃は良かった。
母親が毎年チョコをくれたから。
この日が何の日かも知らず、ただチョコを食べられるというだけで嬉しかった。
だが思春期に入り意味を知ると、この日は淳にとって、否、モテない男にとって、己の惨めさを思い知る辛い一日となった。
普段は何気なくダベっているクラスメイトの男子生徒。
突然女子がやって来て、彼に用があると言って連れて行く。
その後にぽつんと残されるその他の男子生徒達。淳はその中の一人だった。
選ばれる者と、選ばれない者。
同じ年、同じ学校、同じクラス、同じ性別。成績だって身体能力だって家庭環境だって、自分とそう大きくは変わらない。
ついさっきまで一緒になって馬鹿みたいな事を話して笑っていた、自分と同じ人間だと思っていた相手。
でも、そいつは自分とは違い、誰かに選ばれた特別な人間だったのだ。
淳にとっては、バレンタインデーは、自分が特別な存在でも何でもない、凡百の有象無象の一人に過ぎない人間だと思い知らされる日であった。
それだけではない。
特に辛かったのは、淳が密かに想いを寄せていた女生徒が、他の男子にはチョコを渡していた事である。
複数の男子に渡していたから、おそらくそれは義理チョコだったのだろう。
いや、もしかしたら義理チョコの中には本命も混ざっていたのかもしれない。
だが、淳は己の精神的安定をはかる為、それらは義理チョコだと思い込む事にした。
でも、そんな義理チョコですら、淳に配られる事は無かったのだ。ただの一度も。
淳は想いを寄せるあの子にとって、義理チョコを渡される間柄ですらなかった。
ただのモブ、ただの背景。
彼女の人生の中に、淳はクラス名簿の名前ぐらいしか居場所がない。
それすらも、来年には消え去る。
その事実が、淳の心を何より締め付けた。
2月14日は、自分の好きな女の子が、自分以外の男にチョコを渡す日だったのだ。
もうあと何年かすればこういうシチュにゾクゾク来るようになるのかもしれなかったが、まだNTRに覚醒していない淳にとって、これは胸が張り裂けそうなほど辛かった。
だが、そんな辛い思い出とはもうサヨナラだ。
今年からは、愛と幸せがコンニチワする。
淳は選ばれたのだ。アメリアという小人の少女に。
今年、2月14日バレンタインデーは、淳にとって自分が誰かにとって特別な存在だと認めてもらえる日であり、そして、自分の好きな女の子が、自分にチョコをくれる日なのだ。
たった一つの愛があるだけで、世界はこんなにも激的に変化する。
ネガティブがポジティブへと転生する。
バレンタインという日が、惨めさを確認する日から、愛を確認する日になるのだ。
寝起きはいつになく爽快であった。
普段はアメリアと一緒に小人の世界からやってきたメイドのエマに起こされているが、この日はエマよりも先に目が覚めた。
心のウキウキが、淳をベッドから解き放ったのだ。
布団の中でダラダラと夢なんて見ていられない。
だって、夢より幸せな現実がそこにあるのだから。
淳は部屋の暖房を点けると、クリスマスに小人達の為に買ってあげた、1/10スケールのドールハウスの中を覗く。
そこでは淳の妻であるアメリアが1/10スケールのベッドに入って眠っていた。
それはまるで人形のように可憐で美しかった。
淳はアメリアを起こさぬよう、静かにその寝顔を見つめる。
ああ、可愛いなぁ…
柔らかく艶やかなブロンドの髪。
小さな頭に長い睫毛に、ぷにぷにして柔らかそうなほっぺと唇。
小さな肩に、折れてしまいそうなほど細い手足。
透き通った白い肌。
こんなにも可愛い女の子が、僕の妻だなんて。
僕をバレンタインという、孤独で虚しく惨め日から救ってくれる天使だなんて。
ああ、今すぐ抱きしめてキスしたい。
でも起こしちゃ悪いから我慢だ。
それに、アメリアは体が小さいから抱きしめると潰れちゃう。
こういう時、この体格差は辛いなぁ。
せめてもうあと4~5倍くらいあればいいのに。
抱きしめられない分、思いっきりキスをしよう。
口だけじゃなく、全身を舐め回そう。体の隅々まで。
アメリアが起きたら……
アメリアはまだスヤスヤと眠っている。
まだかな。
まだ起きないかな。
でも、寝顔も可愛いな。
…
…
…
まだかな。
…
…
…
…
…
…
…
……
見抜きしよっかな。
夫だもん、いいよね。
淳はアメリアの寝顔を見ながらズボンの中に手をやると、朝立ちしたままのソレを取り出した。
「おはようございます、淳様。今日はお早いですね。」
「ぼひょお!!!」
突然エマに声をかけられ、変な声が出た。
「ええええエマ、お、おはよう。いや、これはその、何でもないよ?ホント。うん、ちょっと痒くてさ、掻いてただけなんだ。ホントだよ?」
「なるほど、インキンですか。アメリア様には感染さないで下さいね。治るまでは私がゴム越しに事務的に処理しますので、アメリア様にするのはご遠慮下さい。」
「いや、大丈夫だから!そこまで酷くないから!!」
「うるさいのぅ……お陰で目が覚めてしもうたぞ。…何だ、まだ6時前ではないか。」
淳が騒ぐので、アメリアが起きてしまった。
「ごごご、ごめん、アメリア!!ついテンション上がっちゃって、その…」
「テンション上がってしもうたのなら仕方ないな。盛り上がると奇行に走るのはいつもの事じゃからのう。」
「すいません、アメリア様。今後このような事の無いよう、きちんと躾けておきますので…」
「まぁ良い。すっかり目も覚めてしもうたしの。たまには早起きするとしよう。」
アメリアがそういうと、エマが即座に着替えを用意した。
「ささ、レディのお着替えですよ。淳様はそのいやらしい視線をあっちに向けてて下さい。」
アメリアの着替えが終わった。
今日の衣装は淳がこちらの世界で買った1/10スケールのドール用のセーラー服だ。
アメリア達は小人の世界から服を持って来てはいたが、アメリアの服はドレスしか無かったので、普段着には淳の趣味を兼ねてこちらの世界で買ったドール用の服を着せている。
ブロンド髪の小さな美少女が黒いセーラー服に着られてるような姿は非常に可愛らしくて、身悶えしそうになる。
淳は我慢できなくなった。
「あああああアメリア!!ちゅーしよう、ちゅー!!!おはようのちゅー!!!!!」
「ええええ!?ちょ、いきなり!!ん、むぐー!!」
淳はアメリアの口と言わず顔中を唇にめり込ませた。
そしてそのままアメリアの小さい顔をペロペロと舐めまわす。
興奮した淳はひとしきりアメリアの頭部を舐めまわすと、今度は襟元から首筋へと巨大な舌を伸ばす。
「ちょ、やめぬか!今着替えたばかりなのに、服が汚れ…!!」
淳は一旦舐めるのを止めると、いそいでアメリアの服を脱がせようとする。
だが興奮して指先が震え、なかなか脱がせられない。
アメリアはヤレヤレと諦めた顔をすると、自分でボタンを外して服を脱いでゆく。
エマは空気を読んでそっと部屋を出て行った。ロサナはまだ寝ている。ちなみにソニアは淳の兄の部屋で同棲しているのでここにはいない。
アメリアが最後の一枚を脱ぐと、淳が横からかじりつくようにその体を口に含めて舐めまわす。
「こ、こら、そんな激し……や、そこは、ぁ…」
「はぁはぁ、美味しいよ、アメリア!最高だよ!!」
淳はたっぷり20分ほどアメリアの体を隅々まで舐め回し、しゃぶり、吸い、味わった。
まるで骨付きカルビのように。
「うぅ……ヨダレ臭いよぅ……ベトベトして気持ち悪いよぅ……」
淳の接吻から解放された時には、アメリアの身体は全身ヨダレでべとべとになっていた。
淳の口臭が身体に染み付いて臭い。
「ご、ごめんアメリア…。つい興奮しちゃって……その、アメリアが食べちゃいたいくらい可愛くてさ。」
「本気で食われるかと思ったわ!!!シャレにならんわ!!」
アメリアが半泣きで怒る。
今日の淳はいつにも増してテンションが高く、奇行が目立つ。
「ささ、アメリア様。お風呂の用意ができましたので、着替えの前に汚物にまみれた体を洗い流しましょう。」
エマは小人用にカットされたタオルの切れ端をアメリアにかけ、洗面器に張った湯へと連れて行った。
(…いかん。舞い上がって少しやり過ぎちゃったかなぁ……)
部屋に取り残された淳は少し冷静さを取り戻した。
ふと物陰に目をやると、いつの間にか起きていたロサナが紅潮した顔でこちらをガン見していた。
「丸呑みプレイ……アリですね!!」
淳はそっとロサナをつまみ出した。
「バレンタイン?何じゃそりゃ?」
「こっちの世界の風習らしいわよ。2月14日は、女の子が好きな男の子にチョコレートを送って愛を告白する日なんだってさ。」
アメリアの質問にソニアが答える。
もう女王と宰相の関係ではなくなったソニアは、アメリアに対し平気でタメ口を聞いている。
部屋の主である淳が学校に行っている間、淳の寝室では小人の世界からやって来た少女達によって女子会が開かれていた。
各々、淳が買ってあげた1/10スケールのドール用の茶器を用い、ティータイムを楽しんでいる。
「ふむ。つまり妾達の世界のラバプーみたいなもんかえ?」
ラバプーとは、小人達の世界にある、女の子が腋に挟んで臭いと腋汁を染み込ませたリンゴを、意中の男性にあげると恋が叶うという風習である。
考案者は間違いなく腋フェチであると考えられている。
ちなみに余談だが、16~17世紀頃のイギリスでも、ラブアップルと呼ばれる同じ風習が実際に行われていた。イギリス人怖い。
「まぁだいたいそんな感じね。それを、2月14日にやるんだってさ。」
「なるほどのぅ。それで淳の奴、今朝は妙にハイテンションでいつも以上に気持ち悪かったんじゃな。」
「ああ、そりゃ滅茶苦茶期待してるわね。…どうするの?チョコあげるの?」
「そりゃまぁ、あんなに期待されちゃ、妻として作るしかあるまい。手伝ってくれるな?エマ、ソニア。」
「「はい。もちろんでございます。」」
「ソニアはどうするんじゃ?淳の兄上殿にチョコをあげるのか?」
「勿論よ。男が飛びっきり喜ぶチョコをプレゼントしてあげるわ。ていうかもう用意してあるの。」
「ほう。どんなのじゃ?参考までに見せてくれんかのう?」
「ふふ。何を言ってるの?目の前にあるじゃない。」
「?」
ソニアの意味不明な発言に首をかしげるアメリア。
だがロサナとエマは気付いた。
「こ、これは!!!」
「よく見たらソニアさんがいつも着ている全身タイツじゃない!!チョコだこれ!!!」
そう、ソニアは自分の身体にチョコを塗りたくっていたのだ。
「フフフ、そうよ、これこそが男の夢、女体チョコよ!!私がチョコよ、私を食べて、ってね!これで克彦さんもイチコロよ♪」
ソニアが得意げに語る。ちなみに克彦とは淳の三つ上の兄の名前である。
「うげぇ…おぞましい……」
エマがゲロを吐いた。
「何かスカトロプレイみたいですね。」
ロサナがさらに酷い事を言う。
「し、失礼ね!世の中にはうんこを喜んで食べる人だっているんだからね!!」
ソニアがわけのわからない反論をする中、アメリアは何か思いついたようだ。
「ソニアよ、ありがとう。お主のお陰で妾と淳の絆を深める、素晴らしいアイデアを思いついたぞ。」
アメリア達はさっそく吹田家の台所に向かった。
吹田家にはあちこちに小人用の小さな通路や階段や梯子や扉が備え付けられている。
全て淳がアメリア達の為に作った物だ。
淳は特別器用というわけではなかったが、フィギュアオタクかつガンプラモデラーの端くれとして、簡単な物ならある程度作れる。
これによって人間の手やソニアの魔法を借りなくても、アメリア達だけである程度家の中を自由に動き回れるようになっている。
ただ、小人にとっては結構な移動距離なので、普段肉体労働に慣れている騎士のロサナやメイドのエマはともかく、アメリアには少々キツイ。
お陰でこちらの世界に来てからアメリアは少し体が引き締まった。
一方で、移動を転移魔法に頼りきりのソニアは元々だらしなかった身体がさらにだらしなくなった。
克彦は肉付きの良い体が好みな事もあって、ソニアは別に太った事を気にしていなかったが、このままマシュマロ化を続ければいずれダイエットをするハメになるだろう。
台所に着くと、淳の母親がいた。
アメリア達がチョコを作るので台所を貸して欲しいと頼むと、喜んで協力してくれる事になった。
「あらあら、まーまー!あの子の為にチョコを?!いいわよ、どうぞどうぞ!!良ければコレ使って!」
淳の母親が材料となるチョコを持ってきてくれた。
事前に用意していたらしい。
「お義母様、随分嬉しそうじゃったのう。」
「この家、私たちが来るまでは男所帯だったみたいですし、娘ができたみたいで嬉しいんじゃないですか?」
「そういうもんかの。」
「よーし、それでは作るぞ!!」
アメリア達は流し台の上に登ると、気合をいれてエプロンを装着した。
淳が買ってきてくれた、1/10サイズのドール用のエプロンである。
小人の世界の布に比べて布地は厚いが、実用性は問題無い。
汚れても良いよう、エプロンの下の服も着替えてある。
アメリアはドール用のスク水、ロサナはドール用のブルマ、エマは普段通りのメイド服である。
「えーと、ソニアさんの用意してくれたメモによると、チョコを砕いて溶かして型に入れて冷やせば良いみたいですね。」
「女体チョコを作る場合は火傷に注意だそうです。」
「砕く…?これを……?」
アメリアは自分の身体よりも大きな板を見てしんどそうな顔をした。
結局、小人の体でチョコを砕くのは重労働なので、淳の母親に頼む事にした。
淳の母は手際よくチョコを砕くと、ボウルに入れ、それとは別に水を入れた鍋を用意して火を点つけた。
しばらくして湯の温度を測ると、チョコの入ったボウルを鍋に入れ、様子を見ながらかき混ぜた。
随分と手馴れているな、とアメリア達は思った。
「私もねぇ、淳が小さい頃は毎年こうやって淳と克彦と夫の分を作っていたのよ~。ここ数年は店売りので済ませてるけど。フフ、何だか昔を思い出して楽しいわ♪」
アメリア達のチョコ作りは、淳の母親が積極的に手伝ってくれたお陰で順調に進んだ。
「さて、あとは型にいれて冷やせば出来…」
突然何かを思い出したかのように、淳の母親の手が止まった。
「…?どうかしましたか?」
「…いえ……そうね。私が手伝ってあげられるのはここまでだわ。」
「え…?でもまだ……」
「いーい?これは、あなた達が淳の為に作るから意味があるの。わかった?」
「は、はぁ……」
(どうしたんじゃろ…?)
アメリアはささやかな疑問を胸に、台所を出て行く淳の母の背中を見送った。
とはいえ、後は型に入れて冷やすだけだ。彼女の手を借りなくても問題無い。
だがこの時は誰も思いもしなかった。
これが原因であんな事になるなんて……




