勇者の帰還
シリアス回は今回までです。
「ククク…上手くいったようだな…」
魔王はほくそ笑んだ。
「魔獣軍の残党部隊を使い、パリトット王都への補給路を寸断、及び食糧生産拠点を潰し、兵糧攻めを行う。」
「元々パリトットとは戦争状態でしたからね。新たに兵を送り込む必要もありませんでした。」
「パリトットは小国じゃ。それに無計画なあの女の事じゃから、食料の備蓄も殆ど考えておらぬハズ。そこへ急にあの巨人が現れれば、すぐに食糧難になる。」
「そして勇者が単独で包囲網突破するのを阻止する為、パリトット王都へは常に魔鳥軍が攻撃をしかける態勢を整えておく。勇者が王都を離れれば、すぐさま攻撃できるように。」
「こうなれば、勇者はイチかバチかで直接キュスブレフの魔王城に攻め入るしか手が無くなる。」
「そこで、我々魔蟲軍の出番です。」
魔蟲将ジゴックローチがニヤリと笑う。
「魔蟲軍の魔蟲、ダークアリジゴクと人食いミミズによって魔王城周辺に巨大な落とし穴を掘っておく。そしてその穴の中には、我々魔蟲軍の大部隊が待ち構えている。…魔王城に攻め入ろうとした勇者が穴に落ち、身動きを取れなくなった所を、下は我々魔蟲軍が」
「上は我々魔鳥軍が」
「「上と下からの挟み撃ちで襲いかかり、その命を奪う!!!」」
「ククク…完璧な作戦ですな。さすが魔王様」
「なに。そこの老人の入れ知恵もあるがな。…しかし妙な奴だ。人間のくせに魔族の味方をするとは。」
「それを言うなら、当のパリトットもつい最近までは魔族の属国として、魔族に味方していたではありませぬか。」
「ハハ、確かにな。」
魔族幹部達の勝利を確信した笑い声が、魔族会議室に響き渡る。
そんな中、とりあえず何の役目も与えてもらえなかった魔魚将ヘルイアサンだけが何かすっごい手持ち無沙汰だった。
魚だからね。仕方ないね。
そこへ、一人の魔兵士が入ってくる。
「魔王様!報告です!!」
「どうした?ついに勇者がこちらへと動き出したか?」
「違います!し、白旗です!!」
「何?!」
パリトット王城では勇者が自分の着ていたシャツを脱ぎ、それを白旗代わりに振っていた。
こちらの世界でも白旗は降伏の合図を意味している。
シャツには、勇者の異世界への逆召喚を条件に、パリトット国民の生命の安全の保障を要求する旨がソニアによる魔法文字で書かれていた。
「降参、か……まぁこれも想定内じゃろ。奴らの無計画っぷりから考えるに、どうせ戦う覚悟も無い、異世界のその辺の一般人を召喚したんじゃろうしの。」
「所詮、図体がデカイだけの、骨の無い奴だったというわけか。恐れるまでもなかったな。」
「どうします?」
「勇者さえいなくなるなら、パリトットごとき小国に構う必要などない。降伏を受け入れよ。」
「ああ、魔王よ、その前にちょいと良いかのう?」
「何だ?」
「勇者を召喚した魔道士をこちらに引き渡す事も条件に出してくれんか?」
「…いいだろう。貴様、ひょっとしてそれが本当の狙いか?」
「まあの。」
魔族軍はパリトット降伏を受け入れた。
使いには、アメリアの元婚約者の魔王子コゾーマと、魔族に協力していた謎の魔法使いの老人が向かった。
「やぁ、アメリアたん!!パリトットが反乱を起こした時はどうなる事かと思ったけど、再び僕の婚約者に戻ってくれて嬉しいよ!!」
魔王子コゾーマはその魚ともコウモリともつかない奇妙な顔でアメリアを包容し、ベロベロと舐めまわした。
アメリアは死ぬほど嫌そうな顔をしていた。
その隣で、あの魔法使いの老人と魔導士ソニアが対面した。
「久しぶりじゃの。ソニアよ。」
「ゲ……師匠……」
魔族からの使いが来ると、すぐさま魔族立会いのもと、勇者逆召喚の儀式が行われた。
「…心変わりする気はないのね?」
「うん。頼むよ。」
「まったく、こんなヘタレ勇者を召喚してしまったのが、私の運のツキだわ!!」
「淳…」
アメリアはその間、ずっと泣き続けていた。
勇者こと吹田淳は、この世界を去り、元の世界へ帰っていった。
その後、パリトットの包囲網は解かれ、魔族軍はパリトットから撤退した。
女王アメリアと魔導士ソニアはキュスブレフの魔王城へと連れて行かれた。
「さあ、アメリアたん!今度こそパリトットの未来永劫のキュスブレフへの服従を誓って、僕と結婚式を上げよう!!」
女王アメリアの絶望した顔を、魔王子コゾーマはベロベロと舐め回し続けた。
アメリアの顔はベトベトになった。
その目は虚ろだった。
「まったく。まさかお前が異世界召喚の禁呪を盗み出すとは。しかもとんでもない奴を召喚しおってからに。」
魔導士ソニアは師の説教を受けていた。
「わかっておるのか?我々は“調整者”じゃぞ?その為の魔法を、こんな、私利私欲の為に使うなど!!」
「私は!こんな、魔王や魔族に支配された世の中なんてまっぴらなのよ!!」
「魔王も魔族も、増えすぎた人間の数を調整する為の自然現象じゃ。わしらが関わるべき問題ではない。ましてや、異世界の人間など!」
「私は、私の好きに生きたいだけ!自然とか、調整とか、そんなものに興味無い!私は、美味しい物を食べて、キレイな服を着て、イイ男を侍らせて、皆からチヤホヤされて、世界を自分の意のままに従わせたいだけ!!」
「いや、それもう“だけ”ってレベル超えとるじゃろ!!」
パリトット王都では、ロサナやエマら、残された人々が片付けと復興に追われていた。
とりあえず食糧問題は解決した。
パリトットが再び魔族の支配下に戻った事で、魔族側へと寝返っていた将軍や大臣や貴族たちも戻ってきていた。
今後は、彼らがこの国を支配することになる。
また魔族の属国としての日々が始まるのだ。
「…ロサナ様、これは?」
「ああ、そこは片付けなくて良い。ソニア様からのご言いつけだ。ここは、そのままにしておくようにと。」
魔鳥将ブラニックスは不満だった。
結局、魔獣将デスベロスのカタキを取ることができなかった。
白旗?降伏?だから何だ?
このままおめおめと引き下がって、それでデスベロスのおっかさんにどのツラ下げて会いにいく?できるかよ、そんなの。
せめて、あの勇者を呼び出しやがった、パリトットだけでも潰しておかなきゃ、気が済まねぇ!!
「……―全軍、進撃。目標、パリトット。」
「ええ?!ブラニックス様、それは?!」
「め、命令違反ではありませぬか?!魔王様は、パリトットごとき小国など、わざわざ攻め滅ぼすほどの価値は無いと!」
「そうだ。確かにそう仰られた。だがそれは、逆に言えば、パリトットを攻め滅ぼしてしまっても、特に問題は無いということだ!!」
「なるほど!!言われてみればそうだ!!!」
「全軍、突撃!!!!」
パリトットの暫定首相となったアントニオは驚愕した。
せっかくあの小娘と目障りな魔導士がいなくなって、この国の実権を掌握する事ができたというのに。
突如として魔鳥軍が進撃してきたのだ。
「そそそ、そんな…パリトットは魔族の属国になったハズじゃあ……こんなの、話が違うぞ!!!」
魔鳥軍の猛攻撃にさらされるパリトット。
今度は以前逃げ出した兵や将軍たちも戻ってきていたので少しは持ちこたえたが、それでも四大魔軍の一つが相手では、陥落は時間の問題である。
「きゃあああ!!」
エマの元に危機が迫る。
「くそ!!せっかくアメリア様や勇者様が守ったこの国を、滅ぼさせてなるものかぁああ!!」
ロサナもいくつもの傷を負いながら、必死で戦う。
「勇者様…」
ロサナが、エマが、パリトットの人々が、皆が勇者の再来を願ったその時。
ドゴォオオオオ!!
大きな地響きと共に、何かが落ちてきた。
それは、勇者が召喚された時とは比べ物にならないほど大きな衝撃と音だった。
「な…何だあれは……」
魔鳥将ブラニックスは己の目で見たものが信じられなかった。
「や、山……?箱……?巨大な…何だ?何なんだ、あれはああああ!!!」
「あ、あれは…」
「まさか…」
突如現れたその山のように巨大な箱は、ガチャリという音と共にその一角が開いた。
そして中から巨大な人影が現れた。
「ただいま。悪かったな。色々と準備する必要があったんだ。でも、もう大丈夫だ。今度は魔族を……本気でぶっ潰す!!!」
「勇者様…!!」
10倍サイズの人間による、大きさと道具と科学力にモノを言わせた、割と本気で容赦のない無双が、今、始まる――…




