ゲロ回
今回から数話ほどシリアス&欝展開が続きます。貯め回だと思ってご容赦ください。
長い長い夜が明けた。
結局、淳は寒くて一睡もできなかった。
何度か意識を失いそうになったが、結局は寒さで意識を引き戻されてしまった。
お陰で頭がガンガンするし、目もしぱしぱして眠いし、フラフラする。
一日風呂に入ってないから体中あちこち痒いし、昨日の夕食も少なめだったので腹が減ってしょうがない。
とりあえず、ここでぼーっとしてても仕方ない。
昼になったら暖かい太陽の下でぐっすり眠る予定だから、今のうちに何かできることがあればやっておこう。
淳はまだ眠っているアメリアを起こさぬよう、ベッドごと持ち運んでそーっと彼女の寝室に戻すと、ソニアかエマの姿を探してお城の中を覗いた。
「あ、いたいた。」
食堂前の廊下にエマを見つけた。
さすがメイド。朝が早い。まだあたりは薄暗いというのに。
エマは他の使用人と何やら話をしていた。その表情はどうも深刻そうだった。
「おはよう、エマ。どうかしたの?」
淳はお城の人を起こさぬよう、小声で話かけた。
「あ、おはようございます、勇者様。それが、その…」
エマの話によると、予定ではもう届いているハズの今日の分の食料が、未だ届いていないという話だった。
アメリアは昨夜の内に王都の外の農耕地帯にまで使いを出し、淳の分も含めた大量の食糧を買い付けに行かせたそうなのだが、それらは未だに全く運び込まれていないらしい。
それだけではない。
どうも城下町の方の市場でも、食料を売りにくる商人達が全く来ていないらしく、食料の仕入れができないらしい。
昨日は魔族の侵攻があったばかりだから、それも関係しているのかもしれないが……。
「そういう事ならとりあえず、食糧運搬路を見回りに行ってみることにするよ。…案内、頼めるかな?」
淳はエマをポケットに入れて城を出た。
が、エマが速攻気分悪くなってしまったのですぐに引き返す事になった。
「す、すいません…めっさ上下してすんごい気持ち悪…オエーッ!」
「い、いや、こちらこそゴメン。そうだよね、酔うよね……」
淳はうっかりしていた。
淳が一歩歩くごとに、淳のポケットに入っている人は彼女らにとっての何十センチ分も上下に動く事になるのだ。酔わないわけがない。
「あれ?でも昨日用を足しに西の山に向かった時は、一緒に行ったロサナは何とも無かったんだけど…」
「そ…それはきっと…ゥプ、ソニア様が何か魔法を…ェプ……つ…使ったんだとオボォ!!」
ああ、そう言えばロサナを連れて行く前、ソニアが何か魔法を使っていたような気がする。
乗り物酔い止め魔法まであるのか。何て便利なんだ。
ソニアが宰相として無能なのに、未だに追放されない理由が何となくわかった。
何だかんだで彼女の魔法に助けられてる部分はとても大きいのだ。
この世界の人達との会話にしたって、ソニアが言語イメージを繋げる魔法を使ってくれていなければ、意思の疎通すらできない。
そう思うと、淳はふと薄ら寒いものを感じた。
もしソニアがいなくなったり、魔法を使ってくれなくなったりしたら、淳はこの1/10の世界で、言葉も何も解らぬまま、たった一人取り残される事になるのだ。
とりあえず、事態が事態なだけに、ソニアを叩き起こして事情を説明し、エマに酔い止め魔法をかけてもらって再出発する事にした。
事情を聞いている時のソニアが妙に青ざめた表情をしていたのが何やら気になるが…
まずは王城北側の方を見回りに行ってみる事にした。
城下町の広がる南側は昨日の戦闘の跡が生々しく、ぶっちゃけ死体とかがあちこちに転がっているので出来るだけ視界に入れたくなかったのだ。
ある程度歩いたところで荷馬車の残骸が見つかった。
周囲には争った形跡もある。
荷物と馬は奪われたようで、見当たらない。
ただ、荷馬車に乗っていたと思われる小人の残骸があった。
人間の死体、という感覚は無かった。
淳にとってそれは、1/10スケールのフィギュアの手足や胴や頭を千切って、赤い塗料を塗りたくっただけの、悪趣味な現代アートのように見えたからだ。
だから最初はそれを気持ち悪いとは思わなかった。
そのせいで、うっかり、じっくり観察してしまった。
それがいけなかった。
それはフィギュアなどではなく、紛れもなくこの世界の人間の、生き物の死体なのだ。
そう認識した瞬間、以前自分が踏み潰したカエルの死体がフラッシュバックする。
そして同時に、昨日自分が踏み潰したり蹴り殺した多数の魔物達の死体やその感触も頭をよぎる。
魔物達と戦ってる時にチラっと視界に映った、城下町の人々の死体も。
淳は吐き気がして、そこから目を背けるように座り込んだ。
昨日の夜、あまり食事を取れなかった事、今朝の朝食がまだだった事が幸いし、胃液が出ただけで済んだ。
「大丈夫ですか?勇者様…」
エマが心配そうな表情を向ける。
「大丈夫。ごめんね。僕、グロ耐性無いんだよ……。ところで、これってやっぱり…」
「はい。魔物に襲われたのだと思います。」
昨日の内に魔族軍は撤退したと思っていたが、考えが甘かったようだ。
奴らは王都から撤退しただけで、まだ周辺に潜んでいて人々を襲っているのかもしれない。
淳は嫌な予感がした。
確か、兵法でこういう作戦があったような…
淳は急ぎ、他の食糧運搬経路も見回りに行った。
やはりどこも皆、魔物に襲われた形跡と小人の死体が転がっていた。
食料は全て奪われていた。
ご丁寧に、馬の死体まで持って行かれていた。
「ああ…やっぱりか……。何て言ったっけ、こういうの。確か、兵糧攻め……」




