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リュウイのハンター・ライフ  作者: paiちゃん
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P-096 ガイエンさん達がやってきた

 サルマンさんの要求を形にすれば大きなロクロと言う事になる。

 場合によっては誘導滑車を使って倍力を考えれば良いだろうから、簡単な歯車とロクロを組み合わせた絵を描いてみた。


「こんな感じに作って、この部分に付けた棒を皆で回すことになります。これが原型になるんですが、これで船を引き上げられない時には、この部分に滑車を入れます。ロクロを回す回数は倍になりますが、引き上げる力も倍になりますよ」

「それでもだめなら、これになるんだな? おもしろそうな仕掛けだ。だが、これなら地引網にも使えそうだな?」

「たぶん使えるだろう。だが、地引網なら今までで十分だ。網を引くのを楽しみにしてる村人も多いからな。誰も手伝いに来なくなったら、これを使えば良い」


 漁師の言葉にサルマンさんが諭すように話してるけど、俺も賛成できるな。地引網は村の連帯を高めるには丁度良いし、手伝うと分け前にあずかれるというのも良いものだ。


「先ずは作ってみよう。これで2艘同時に引き揚げてみれば良い。大きく作ると言っても今までの船2艘分にはならないだろうからな」

 横木の長さがテコと同じ原理になるはずだから、十分に引き上げられるんじゃないかな。俺としては、浜から海に押し出す方が問題だと思うんだけど、サルマンさん達はまだ気が付かないらしい。

 これは出来てからの楽しみになりそうな気がするぞ。

 少しでも漁果を上げようと考えてるんだから、その時の対策を今の内から考えておこう。


 数日が過ぎたところで、最初のロクロが出来上がったようだ。今までの船の引き上げが格段に楽になったと話してくれた。

 それに気を良くして大型の船の制作を大工さんに頼んだらしい。あの大工さんは船大工までこなせるようだ。


「へぇ~、船を大きくするんだ。そうなると、地引網はしばらくやらないのかな?」

「地引網は春から夏らしいぞ。春になれば声を掛けてくれるさ。あれは俺も楽しみなんだ」

「だよなぁ、皆で引くから楽しくなるんだよな。結構疲れるけど、お土産があの通りだ」


 最初に貰った時は、思わずため息が出たからな。だけど今では開いて干した魚が手に入るからありがたく頂いている。来春にはローエルさん達も加わるかも知れないぞ。


 シグちゃん達は機織り場に行っているから、冬は俺とレイナスで罠猟をやる手はずだ。クロスボウを借りて行けば獲物にあぶれることは無い。

 2人で暖炉近くに布を広げて、矢とボルトの補修や剣を研ぐ日々が続いている。

 それでも気心の知れた仲間とパイプを咥えながらの仕事は、何となく平和で幸せを感じることも確かだ。

 機織り場があるから、冬の狩りにシグちゃん達を連れて行かずに済むからな。


「冬の狩りはファーが震えてるのを見るのが辛かったんだが、今では暖かい仕事場で冬を越せるんだからな。あの時、リュウイに火を借りに行かなかったらと思うとゾッとするな」

「俺こそ、狩りの知恵はレイナスから貰ったようなものだぞ。シグちゃんだって小さかったし、俺達に狩れる獲物は少なかったからな」


 運が良かったんだろうな。たまたま似通った境遇のハンターが一緒になったに過ぎないが、互いに相手を思いやることができたからここまで来たんだと思う。


「ほれ、これで最後だ。油を塗ってあるから来春の狩り前に再度研ぐだけで良いだろう。サビが出ている武器なんかを他のハンターに見られたら笑い者になりそうだ」

「ああ、ギルドが俺達を評価している以上、模範となりたいものだ」


 俺の言葉に笑い声を上げて、レイナスが席を立った。

 秋を過ぎてからの依頼は俺達の技量を越えたものが多いけれど、おもしろそうな依頼があればやってみたいと思うのは何時もの事だ。

 外に出て、ベンチに座るとパイプを取り出して一服を楽しむ。

 どんな依頼を持ってやってくるかが楽しみでもある。


 パイプのタバコが灰になったころに、レイナスが帰ってきた。俺の隣に腰を下ろしてパイプを取り出している。


「どうだった?」

「荒地の野犬位だな。イネガルやリスティンもあるんだが、俺達2人では手に余るし、ギルドに見知ったハンターもいなかった」

「まぁ、気楽にやろうぜ。荒地の野犬は間引きしないと直ぐに増えるだろうし、上手く行けばラビーだって狩れそうだ」


 俺の言葉に頷くものの、もう少し上級者向けを狙ってたのかもしれないな。だけど2人だけの狩りだから無理はできないぞ。

 それに、野犬狩りの依頼書を持って来なかったところをみると、若いハンター達の狩りの対象を残して来たんだろう。期限切れ間近の依頼があれば、それを持ってきたはずだからね。

 そんな、人情味があるのがレイナスの良いところだ。


「何を2人で海を眺めてるんだ?」

 聞き覚えのある声に、声の主を見ると、ガリウスさんと数人のハンターが立っていた。

「まぁ、たまには良いものですよ。心が落ち着きます。生憎と俺達2人なので、あまり歓待はできませんがどうぞ中に入ってください」

 

 扉を開けて中にガイエンさん達を招き入れると、レイナスは織り場の方に走って行った。シグちゃん達を呼んで来るんだろうな。

 板の間に上がって貰い、囲炉裏の周りに腰を下ろして貰う。今夜は鍋だとシグちゃん達が言っていたから、囲炉裏に火が入っていて良かった。


 ガイエンさんの外に5人の男女がいる。3人はガイエンさんと同じ年代のようだけど、2人のトラ族の男女は俺より2つ3つ年上に思えるな。


「これを作ったのはリュウイだろう?」

 そう言ってガリウスさんが袋の木箱から取り出したのは絹で作った赤と白の折り鶴だ。

「そうです。子供時代に散々作ったんでしょう。昔の記憶は定かではありませんが手が覚えていました」

「全く……。妻が絶賛していたぞ。王都の舞踏会で評判になっているようだ。やはり、王都に来るつもりは無いのか?」

「残念ですが……。人込みでは頭が痛くなりますし、俺自体が社交性のある人物でもないと思っています。ここは寒村ですが、人情味に溢れています。俺にはここが一番です」


 俺の言葉を聞いて、微笑みながら仲間に頷いている。言った通りだろうという感じだな。

 そこにバタバタと3人が帰ってきた。ファーちゃんと手分けしてお茶の準備を始めてくれた。


「これで、俺達パンドラが揃いました。本来の御用件をお伺いしたいんですが」

「ローエルを通して話を伝えているはずだ。この2人をしばらく預かってくれぬか? ワシの甥と姪にあたる。ロクスとサリーだ。名前は長いから愛称で呼んでやってくれ」


 改めて2人を見る。精悍なトラ族に相応しい体格をしているな。やはりイリスさんと同じように長剣を使うんだろうか?


「俺達は前衛の俺に中衛のレイナス、後衛にシグとファーのパーティです。前衛が3人となると、かなり無理ができそうですね」

「残念ながら、サリーは中衛だ。槍を使うからな。サリーの槍は王国軍の槍術だ。狩りに適しているとは思えん。ロクスは長剣を使うが、昔のイリスと同じに思える。その辺りも任せたいところだな」


「ガイエン殿。お言葉ですが、私達をこの者達に預けると?」

「そうだ。トラ族の難点をこの者達は矯正できる。あのイリスを見ろ。3か月ほどリュウイ達と過ごすだけで、あれだけの人物になってくれた。辺境の守りを十分に果たしているぞ」

「でも、レベルが合わないのではありませんか!」

 結構食い下がっているぞ。ひょっとして俺達の事をあまり話さずにここに連れて北って事かも知れないな。


「リュウイはどこまでレベルを上げたんだ?」

「レイナスが白の9つ、残りの俺達が白の8つになりました」


 俺の返事に頷くと、ガイエンさんは再び2人の若者に顔を向けた。


「イリスの時には白の3つか4つだったはずだ。だが、イリスは彼等に青の依頼を課している。彼等のレベルに惑わされるな。彼等は知恵でレベルを5つ以上簡単に上げられるのだ。ギルドも彼等に青の低レベルの依頼を許可している。彼等の技量はお前達と同じと思っても良いだろう。彼等に足らないのは経験だけだ」


 シグちゃん達が恐る恐るガイエンさん達にお茶を配っている。

 若いトラ族の2人はじっと俺を見つめていた。

「そこまでガイエン殿がこの者達を評価するのであれば俺達に問題はありません。しばらく彼等と狩りをしてみます」

「色々とおもしろいものが見られるだろう。イリスがとてもハンターとは思えないと言っていたぐらいだ。だが、ワシからも1つ忠告するとすれば、この者達の考え方、武器の使い方、工夫……。全て盗んで来い。お前達が王都で新たなパーティを作る時に役に立つはずだ。そう言う事でリュウイよ、この2人を頼む。一通りのハンターの道具は持っている。毛布も2枚持っているはずだから、イリス同様にこの番屋で寝泊まりさせてやってくれ」


 そこまで言うと、お茶を飲み始めた。

 ガイエンさんに遠慮していたのか、一緒に来たハンター達もお茶を飲み始めたぞ。


「ガイエン殿!」

「そうだったな。リュウイよ。ワシのパーティのネコ族の男なのだが、イリスのパーティのネコ族の若者が使う武器が気になってしょうがないらしい。一度見せてやってくれぬか? 本当の使い方をな」


 イリスさんは3日でどうにか使い方を覚えたんだけど、それをどれだけパーティのネコ族の仲間に伝えられたかは疑問なところでもある。

 ガイエンさんは、一目でその使い方が本来と異なると見抜いたようだ。

 自分の仲間に覚えさせる上でも、一度本来の使い方を見せておきたいと思ったのかも知れない。


「良いですよ。レイナスもかなり使えるようになってきました。これはネコ族なら容易なのかもしれません」

 ガイエンさんが頷いたところで俺達は席を立って番屋を出た。


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