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リュウイのハンター・ライフ  作者: paiちゃん
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P-094 皆で狩りをしよう


 一月ほど過ぎて、絹が1反織り上がった。

 とっくに機織り場は出来ているのだが、これでどうにか俺達の家から移動出来そうだ。

 王都からはすでにおさが届けられているらしい。

 漁師達総動員で、俺達の家の所の織機を皮切りに村の中から織機を運び出す。


 機織り場の織機は都合5台になっのだが、もう1台を将来は追加できそうだな。その辺りの判断はメルさんに任せておけば良いだろう。

 織り上げた絹と端切れを使った装身具を持って、ローエルさん達が王都に出掛けた。

 俺達が適任だろうと渋っていたが、サルマンさんに言いくるめられたらしい。


「王都なんて行ったら帰って来られなくなりそうだ」

「そんなに凄いところなのか?」

「近くの町でさえ、依頼書は奪い合いだぞ。ここが一番だな」


 久しぶりに家のリビングでレイナスと酒を飲み、パイプを楽しむ。シグちゃん達は機織り場の隣の紡ぎ場で繭から糸を紡ぐ方法を教えているから、今日は俺とレイナスでのんびり過ごすことになる。


「蓄えがあるからどうにか暮らしてるけど、そろそろ俺達も本格的に狩りを始めねばな」

「そうだな。ファー達もそろそろ飽きてくるんじゃないかな。作業は意外と単調なんだよな」


 俺達ならとっくに飽きてるのだが、シグちゃん達は辛抱強いと言う事だろう。

 メルさんも頑張っているけど、家の方はだいじょうぶなんだろうか? メルさんがここにいる時は、サルマンさんも近くをうろついていたから心配なんだろうけど。


「紡ぎだけなら3日もあれば十分だ。俺達だって形にしたのはそれ位だからな」

「織機に糸を通すのはメルさんのおかげだったからな。もう少しって事なんだろうな」


 俺達の本来の仕事にそろそろ戻れそうな気もする。もっとも、今は冬だから春になってからでも良いのだろうが、そうなると俺とレイナスだけでは狩る獲物が制限されてしまいそうだ。

 半々ぐらいに絹織物と狩りをしていきたいな。それも冬季限定でね。


 繭から糸を紡ぐのは、当初3日を予定していたのだが10日も掛かってしまった。それだけ糸を紡ごうというおばさん達が多かったと言う事になる。

 糸が紡げなければ次に繋がらないから多い分には問題もないだろう。サルマンさんが更に織機を増やそうなんて考えていたからな。


 漁師達の番屋の裏手にある機織り場からは、トントンカラリと軽快な音が聞こえてくる。来春には、6台の織機が動き出すことになるから、メルさん達は日々真剣に指導しているようだ。


 それでも、新しい年になるとシグちゃん達が一旦機織りを中断して、俺達のパーティに加わってくれた。

 冬場だからあまり依頼は無いのだが、ミーメさんの話では畑に野犬が増えて来たらしい。


「ラビーと野犬を一緒に狩ることになりそうだな」

「野犬が増えたのは、やはりラビーに原因があると俺も思うぞ。ファー、クロスボウの腕は鈍ってないよな?」

「だいじょうぶにゃ。たまにシグちゃんと練習してたにゃ」

 

 生態系を維持するのは中々難しいところがある。野犬を狩りすぎると、今度はラビーが増えて農作物を食い荒らすし、増えたラビーを狙ってどこからともなく野犬がやって来るんだよな。

 畑の野犬を一定数に保てれば良いのだが、野犬はたまに農夫を襲うから、農家の嫌われ者でもあるのだ。

 

「ラビー、野犬共に20匹なんだが、しばらく狩りをしてなかったのも確かだ。食料は多めに用意しといてくれ」

「1日で終わりそうにゃ!」


 ファーちゃんがレイナスに抗議してるけど、シグちゃん達はしばらく狩りから離れてたからな。レイナスが口をとがらせているファーちゃんの頭をガシガシと撫でてる。仲の良い兄妹だと思うな。シグちゃんが羨ましそうに見てるけど、これだけは仕方がない事だ。


 夕食が終わったところで、狩りの準備を行う。

 シグちゃん達のクロスボウを俺が点検すると、レイナスはボルトのヤジリを研ぎ直す。

 持主のシグちゃん達は狩りに持って行く平たいパンをチラ鍋の底を利用して焼き始めた。

 リビングに良い匂いが漂い始めたから、仕事が終われば1枚は食べられるんじゃないかな?

 

 翌日、早めに朝食を終えてメルさん達を待った。やって来たところで、後をお願いして俺達は狩りに出掛ける。

 まだ冬の最中だから、少し厚着をしてマントを羽織っているのだが、シグちゃん達は久しぶりの狩りに目が輝いている。無理をしなければ良いんだけどね。


「狙いは西の畑を過ぎた荒地だ。今頃いるのはラビーと野犬位のもんだろう」

「そうだな。だけどラビーはこの季節に狩れるのか?」


 狩れなければ依頼書は出ないだろうけど、ウサギの親戚みたいな獣だ。冬は冬眠をしないのだろうか?


「秋に撒く小麦の芽が出てるだろう? あれを食い荒らすらしいぞ」

 レイナスの言葉に納得がいった。餌があるなら冬眠はしないな。畑にやって来ると。見渡す限り麦が出ている。まだ芽が出たばかりで茎をのばすのは春になってからなんだろうな。うねを作って種を撒くのではなく。ばら撒いた感じに見える。畑と言えば真っ直ぐに伸びるうねが付きものなんだが、この世界ではそんな農業にはなっていないようだ。


 畑を抜けたところで、数本の灌木が茂った場所を見付けて昼食を取る。

 慣れた手つきでシグちゃん達が乾燥野菜と干し肉のスープを作ってくれた。


「畑の麦が齧られてました」

「そうだな。あんな感じで齧られたら収穫に影響が出るだろう。依頼書のラビーの数が多いのはそう言う訳なんだろう」


 普段なら数匹なんだけど、今回は20匹だからね。普段の3倍以上になる。だけど、ラビーがそれだけ多いと言う事は、野犬も多いと言う事になる。


「あそこでこちらを見てるぞ。あっちにもいるから、ラビーはかなりの数だな」

「問題は野犬だな。やはり夜になりそうだ。何匹かは餌にしなければなるまい」


 食事が済んでお茶を頂いたところで狩りの始まりだ。レイナス達と俺達が別々にラビーを狩ることになる。


「あれから狙います!」

 シグちゃんの言葉に、背負いカゴを担いだ俺は中腰になって周囲を警戒する。シグちゃんはラビーに全神経を集中しているはずだ。周りに対して無防備になるから俺が周囲を警戒しなければならない。何かあれば、杖代わりの手槍とカゴに入れた3節棍で対処することになる。


「先ずは1匹目です!」

 辺りを見ていた俺にシグちゃんが報告してくれた。背中のカゴにラビーを入れると、次の獲物を探す。


 夕暮れ前に、昼食を取った灌木を目印に今夜の野営地に向かう。

 すでにレイナス達は焚き火を作って俺達を待っていた。担いでいたカゴを受け取ると、自分達の獲物を一緒にして焚き火を後にする。

 獲物を裁いて内臓を荒地に撒いて来るんだろう。いまだに俺は獲物を裁くのができないんだよな。レイナスがいてくれて助かったとつくづく思う。

 シグちゃん達が狩りの獲物の数を互いに披露している。合計で13匹らしい。明日も頑張らないといけないみたいだ。


 ラビーならシチューだけど、今夜はスープになる。それでも干し肉よりは遥かに美味しいスープができる。

レイナスが戻ったところで夕食が始まった。まだ夕暮れ前だけど、今夜は野犬狩りをしなければならないから、早めに食事を済ませなければならない。


「13匹だから、明日でラビーは何とかなる。問題は今夜だな」

「レイナスはヌンチャクだろう? 俺はこれだ」

 カゴから取り出して置いた3節棍を見せる。

 シグちゃん達は、クロスボウにメイスを使うんだろう。すでに俺達の周囲には低いロープを張ってあるから、2つの背負いカゴに隠れて俺達を援護してくれるだろう。


「待つ事にはなりそうだな」

 お茶を飲みながら、レイナスが頷いた。

 野犬ならば俺達のリハビリにも丁度良いだろう。それなりに素早く動く割には攻撃力は低い方だ。下にヨロイを着こまずとも、革の上着でどうにか止まる。冬だから厚着してるのも都合が良い。

 俺とレイナスで風下でパイプを楽しみ始めると、シグちゃん達は魔法の袋から毛糸玉の入ったカゴを取り出した。

 ファーちゃんとおしゃべりしながら編み物をするんだから器用なものだな。


「リュウイ、やって来たぞ!」

 レイナスの言葉に焚き火の反対側で編み物をしていた2人が素早く仕事を片付けて、クロスボウを手に持った。

 俺も得物を持って周囲を伺うが、暗闇で何も見えない。


「慌てなくて良いぞ。まだ2M(300m)は離れてる。とはいえ、ファー達はカゴの後ろに移動してたほうが良いな。毛布を被れば寒くはないだろう」

ゆっくりとした動作で2人がカゴの後ろに移動する。直ぐに毛布を被ったから寒いのかもしれないな。


 レイナスは、まだパイプを咥えたままだ。俺はとっくに灰を落して3節棍を握っているのだが、夜目が利くと利かないとでは、これほど余裕に違いが出るんだな。


「1Mほどに近付いている。そろそろ準備しなくちゃな」

レイナスがカゴに向かって、指先だけでファーちゃんに獲物の近付いて来る方向と距離を伝えている。

 シグちゃんにはファーちゃんが教えてくれるのだろう。ごそごそと毛布が動いているから、中でクロスボウの準備をしているに違いない。


「200D(60m)だ。そろそろ俺達も動くぞ」

 ポンとパイプを叩いて灰を落すと、腰のベルトに挟み込んで両手にヌンチャクを手に立ち上がった。

 俺も、後に続くとレイナスの睨む方向を見たが、暗闇で何も見えない。


「光球を西に上げてくれ!」

 怒鳴るようなレイナスの言葉に、光球が西に飛んでいく。20m程西に向かった上空で止まったのだが、その下に大きな群れを作った野犬が見えた。

 仲間達とケンカをしながら食べているのはラビーの内臓に違いない。


 野犬達は光球に驚いたのか少し後ずさりしたが、俺達が立ち上がったのを見て狙いを定めたようだ。ゆっくりと俺達に向かって近付いて来る。


「少し多いんじゃないか? 30はいるぞ」

「それ以上かもな。だが、俺達なら狩れる範囲だ。左を頼んだぞ!」

「任せろ。レイナスの方こそ、シグちゃん達を頼むからな」


 俺が数歩前に出ると、レイナスは数歩後ろに下がる。

 前衛と中衛の差だが、こうなるともう1人前衛が欲しくなるのは贅沢なんだろうな。


 一声大きく遠吠えを放つと、一斉に野犬が押し寄せてくる。3節棍の真ん中の棒を両手で持って野犬の突撃を待った。

 数mに迫ったところで、足を踏み出しながら3節棍を先頭の野犬に叩きこむ。後は、飛び掛かって来ようとする野犬を避けながら1匹ずつ確実に倒して行く。


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