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リュウイのハンター・ライフ  作者: paiちゃん
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P-086 いよいよ始めるぞ


 翌日は遅めの朝食を取って、森の中でサンガの繭を採取しながら帰る事になった。

 繭を手にしても、その後の措置を教えておかねばなるまい。

 4人で森を歩いていると、けっこうな数が集まる。袋に一杯取ったところで、村へと歩き出した。夕暮れ前には着くだろうから、途中で昼食は取らずに帰る。

 やはり、家に帰ってシグちゃん達の手料理を安心して食べたいからね。


 ギルドに寄って、カウンターに獲物を渡して報酬を受け取る。1匹多いからその分が割り増しされて150Lになった。シグちゃん達に報酬を渡していると、奥のテーブルでローエルさんが俺達に手を振っている。

 たぶんどんな狩りをしたのか興味があるんだろう。

 4人でテーブルに行くとすでに椅子とお茶が用意されてあった。


「どうやら成功したらしいな。他にも聞きたい奴が残っている」

「はあ、とりあえずお茶を頂きます。ずっと歩いて来たんで……」

 なるほど、暖炉の周りや他のテーブルにもハンター達がこっちを見ているぞ。

 ここは正直に話しておくか。


「バジルを6匹、狩ってきました……」

 そんな言葉を俺が言ったとたん、ハンター達からため息が聞こえて来た。それ程難しくは無かったんだけどな。


 俺達の狩りの方法を一通り話したところで、皆の視線がレイナスが担いでいたカゴに向かう。


「そのカモフラージュネットと言う物を見せてくれないか?」

 ローエルさんに言われなくとも、見せないと帰れない雰囲気ではあるんだよな。

 レイナスと一緒に網を広げて、その中にうつぶせで身を潜ませる。


「こんな感じでシグちゃん達が130D(39m)ほど離れたところでクロスボウを構えて待っていたんです」

「バジルがお前達に気付いて立ち止ったところを狙ったのか……。なるほど考えたな」


「ローエルよう。こんなボロキレを結んだ網で隠れることができるのか?」

 不思議そうに網の布を掴んでいた壮年のハンターがローエルさんに聞いている。

「出来たんだろうな……。ここから見ると、不思議な色に見える。何と言ったらいいか、幻惑される感じなんだ。そんな網を被って忍んでいれば森では誰も気が付かないのかも知れない」


「それにしても不思議な色ね。何色と聞かれたら緑と答えるけど、何とも形容がし難いわ」

「それが幻惑を生んでいるのだ。あれを被って茂みに忍べば、目の前をリスティンでさえ気にしないで通り過ぎるだろう。簡単に裏の裏をかくことができたわけだ。

 嬢ちゃん達の弓の腕は良く知っている。130Dなら外す事も無いだろう。リュウイに気が付いて一瞬動きを止めた時がバジルの最後だったわけだな」


 ローエルさんのパーティの一員でああるネコ族の青年の話を、集まったハンターが頷きながら聞いている。


「それにしてもおもしろそうな網だな。俺達も作ってみるか」

「上手く作らんと、かえって目立つぞ!」

 そんな言葉に皆が笑い声を上げるのも、小さな村に集まるハンターならではの事だろう。

 

 そんなハンター仲間に別れを告げて、家に帰ることにした。

 通りに出たところで、寄り道を告げる。

「悪いな。ちょっと寄り道して来る」

「サルマンさんの奥さんのところだな。たっぷりサンガの繭を取って来たからな。お前の事だ練習って事だろう」


 長い付き合いだから、俺の考えなんかお見通しってことなのか?

 その通りだから、頷いて一人通りを横に入って行った。


「すみません!」

 扉を軽く叩いて声を掛けると、中年のおばさんが出て来た。

 サルマンさんの義理の娘さんで、ミーメさんのお母さんに当たるんだよな。


「夕暮れ時に訪れて申し訳ありません。サルマンさんの奥さんはご在宅でしょうか?」

「いるわよ。確か、リュウイさんね。こちらでお待ちください。直ぐに呼んで来ます」


 俺をリビングのテーブルに無理やり越し掛けさせると、奥にパタパタとスリッパを鳴らして走って行った。

 直ぐにやってきた奥さんがテーブル越しに腰を下ろすと、娘さんがお茶を持ってきてくれた。


「突然で、申し訳ありません。先ほど狩りから戻ってきました。袋1つにサンガの繭を集めてきましたので、大量に集まって来る前に糸を取り出す練習を始めたいと思って、伺いました」

「まあ! それでは明日にでも始めないといけないでしょうね。リュウイさんのお宅にお伺いできるのは昼過ぎで良いでしょうか?」

「だいじょうぶです」


 そんな話をしていると、サルマンさんが帰って来た。

 俺達の話を聞いて、直ぐに酒のビンを持ち出してきたぞ。


「いよいよか? 俺の方も土台作りは出来たぞ。場所は新番小屋の後ろ側だ。あの辺りならほこりは舞う事がねえ。砂は、まあ仕方がないが、ほこりよりは掃除がし易いだろうよ」

「そうなると、出来た糸はしばらくリュウイさん達に預かって貰わねばなりませんね」

「リュウイの家は出入り自由で村外れだ。泥棒の前に金貨を置くようなものだぞ。ミーメに話してギルドで預かって貰うのが一番だ」


 確かに、ギルドに泥棒に入るような者はいないだろう。 

 布に織れたら金貨10枚だからな。狙う奴も出て来ないとも限らないぞ。


「糸と布は別に保管しといた方が良いだろうな。そうすれば、織り場に変な奴らも来ないだろう。ギルド長には俺から頼んでおくぞ。お前らが糸作りをしている間は猟師仲間に古い番小屋を見張らせておくから心配ねえ」

 奥さんに向かって、さも、当然のようにそんな事を言うから笑われているぞ。

 少しでも俺達の計画に参加したいんだろうな。それがサルマンさんの矜持に係わると本人は思っているようだ。

俺達からすれば、織り場の建設と織機の購入で十分にサルマンさんに恩義があるんだけどな。


 明日はよろしくと言って、早めに引き上げる。

 そのままいると、いくらでも酒を飲まされそうだからな。

 

 家に戻ってくると、すっかり夕食の準備ができていた。

 夕食を取りながら、皆にサルマンさんの家での話をする。


「明日の昼からですね。少し早めに昼食にしますからだいじょうぶです」

 シグちゃんがファーちゃんと顔を見合せながら了承してくれた。

「俺も、問題ないぞ。外に焚き火を作っておけば良いだろう」

「レイナスには、大鍋を買い込んできて貰いたいな。その内、背負いカゴ30個分の繭が届くんだ。早めに同じことをしないと間に合わない」


 場合によっては作って貰う事も考えないといけないかも知れない。とりあえずは、雑貨屋で売っている一番大きな鍋で良いだろう。

 

 いよいよこの村に3つ目の産業が生まれるのだ。

 農業や漁業に係れず村を出て行く者達がいることは確かだ。何とかしたいとはサルマンさん達も考えていたんだろうな。

 絹の織り手としてなら、かなりの高給で迎えられるだろう。織機の修理や掃除、警備といった働き口も作れるんじゃないか?

 売り値が、あれほど高いとは思わなかったからな。色々と新しい働き口をサルマンさん達が考えてくれるだろう。


 翌日、昼過ぎにサルマンさんの奥さんが、数人の女性を伴って俺達の家を訪れた。

「私と一緒に全体を仕切ってくれる、ミリアとネーデルです。端にいるのは織り手になってくれるサフィとマリーネですよ」


 リビングのテーブルに座って、俺達に奥さんが紹介してくれた。中年のおばさん2人にシグちゃんより少し年下の娘さんだ。いずれも、最初の絹を織っている時に見学に来て、自分達でも少し織ってみた人達のようだ。


「いよいよ始まりますよ。サルマンさんが織り場と紡ぎ場を作っている最中ですから、しばらくはこの小屋で作業をしなければなりません。面倒ですが、よろしくお願いします。ところで、サルマンさんの奥さんは何というお名前なんですか?」

「あら。そう言えば教えていませんでしたか。メルフィンと言います。皆はメルと呼んでいますよ」


 俺達の紹介もしたところで、さっそく糸作りの手順を説明する。ちょっと待って下さいと、メルさんが言いだして小さな手カゴからメモ用紙と筆記具を取り出した。きちんと記録しておく考えだな。


 最初は繭のゴミを取り除く作業だ。細い糸にするからゴミは無い方が良い。

 テーブルに布を広げて採取してきたサンガの繭を取り出し、皆でゴミを取り除く。

 終わった繭は竹カゴに入れる。これは次の作業の準備にもなる。


 次に、外の焚き火でレイナスが買ってきた大鍋を沸かして軽く漬け込んだ。


「これで、繭の中のさなぎを殺す事ができます。あまり長く漬け込んではダメですよ。漬けて20も数えれば十分です」

 長くお湯の中に入れておくと糸が解れてしまうからな。頃合いが難しいんだ。


「ここから2つの作業に分れます。織機に使う糸を取り出す方法と、縫い糸を取り出す方法が違ってくるんです」

 その内、大量に繭が届けられるから最初は縫い糸作りで良いだろう。少し太く紡げば釣り糸にも使えるからな。サルマンさんもそれを待っているはずだ。


 改めてお湯を沸かし、オケに入れると水を入れて温度を調節する。風呂より少し熱めと覚えておけば良い。


「このお湯の中に入れると繭が解れるんです。繭には必ず薄い場所がありますから、そこに指を入れてひっくり返すようにして広げてください。さなぎは邪魔ですから脇に退けておきます」

 先ずはやって見せて、次にやって貰う。

 何度かやっていると要領が飲み込めるはずだ。練習用の繭はたくさんあるからな。


 広げられた繭は、軒下に陰干しをする。2、3日は掛かるだろう。

 その間に、もう一つの糸の紡ぎ方を教えなければならない。

 

 番屋に入って、お茶を飲みながら一休みを取る。

 今までの作業で質問が無いかを確認したが、今のところは無いみたいだ。あればその都度聞いてくれと伝えておく。


「今度は布の方に使う糸になります。経糸と横糸の関係ですが、経糸の方を少し細めに作ります。横糸は少し太めに作りますが、それほどの差はありません」

一休みが終えたところで、テーブルを片付け、下にある板を外して囲炉裏に火をおこす。

五徳を炭火に置いて、少し深めの鍋を乗せた。

皆が興味深くそれを見つめている。繭から糸が引き出せるのは初めて見ることになるんだろうな。


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