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リュウイのハンター・ライフ  作者: paiちゃん
82/128

P-082 付いた値段


「ガリナムの妻の、メイルーと言います。お噂は主人から色々と聞かされております。また、イリスについても御苦労をお掛けしました。あの気性は治らんと主人が諦めておりましたが、今では何処に派遣しても問題はないと主人も安心しております」


 俺達の前にいる夫人は、イリスさんのお母さんのようだ。丁寧な言葉使いに教養が滲んでるな。俺達にちゃんと相手が出来るか問題だぞ。


「初めてお目に掛かります。あいにく武骨者ですから、言葉使いが出来ていないことを最初にお詫びします。俺がリュウイ、隣がレイナス。レイナスの隣がファーで、俺の右隣がシグと言います。シグ達に晴れ着を贈って頂き、ありがとうございました」


 とりあえず挨拶を済ませると、シグちゃんにサルマンさんの奥さんを呼んでもらう。たぶん絹織物の話になるはずだ。奥さんにも同席してもらった方が良いだろう。


「あれは鯨油の御礼です。それでも足りないくらいでしたが、今回の品についてはかなり問題です。私から王妃に献上いたしましたが、その布で作られた衣装は王宮に衝撃を与えました。貴族達が連日のように私の屋敷にやってきましたよ」

 その光景を思い出したのか、おほほほ……と口元に手を当てて上品に笑いをこぼしている。


「入手経路は誰にも話しておりません。イリスから、パラメントが申請されていると聞いて、ようやく安心した次第です。献上した品ですから礼金は普通では受け取る事がありません。ですが、今回は職人にとお言葉を添えて金貨10枚を賜りました。これは、リュウイさん達にお渡しします」

 女性のハンターが腰の袋から、小さな小箱を取り出して俺の前に置いた。

 綺麗に縛られた飾り紐を解いて蓋をあけると、金貨が入っている。10枚あるようだぞ。全て貰っていいのだろうか?

 ちらりと奥さんを見ると笑顔で頷いてくれた。蓋を閉じて、ファーちゃんに預けておく。


「主人が感心しておりましたわ。銀レベルのハンターでも王都の女性の心を狩るのは不可能だと申しておりました。王都のサロンはどこも王妃のドレスの話を聞かぬことがありません……。私が此処に来た目的は、2つ。一つは王妃の礼をリュウイさんにお渡しすること。もう一つは、あの布の生産を継続し、その販路の一部を王妃のサロンとして頂きたいのです」


 やはり、王都で評判になったか。だけど、俺の目的の上を行ってる感じだな。

 年間の生産数は1台の織機で反物3反というところだろう。サルマンさんと織物小屋を造ろうなんて話をしてたけど、そこに置ける織機は多くて5台だろうな。

 年間の生産量は反物で15反となる。……だけど、もう一つの問題もあるのだ。原材料の繭は自然発生したものだから、採取できる量が今一つ推定できない。

 この村の東の森でどれだけの繭を採取できるんだろうか? あまり採りすぎると資源が枯渇しかねないぞ。


 そんな事を考えているときに、玄関の扉が開きシグちゃんとサルマンさんの奥さんが入ってきた。

「たぶん、絹織物についてのお話だと思い、俺達に織機の使い方を教えていただいた網本の奥さんにも来ていただきました。先ほどのお話ですが、販売することには問題がありません。ただ問題が1つありまして、糸を紡ぐのは……、『ファーちゃん。繭を見せてあげてくれないかな』。この繭からになるんです。繭自体は、ある程度は森から得ることが出来ますが、大量に採取すると次の年に採取できるかどうか……」


 メイルーさんが、ファーちゃんがテーブルの上に置いた繭を手にとって興味深く眺めている。


「その繭は近衛兵の持つ盾の装飾品のように見えるのだが……」

「その通りです。今までの用途は限られていますし、自然界での数も限られたものになると思っています。繭を背負いカゴに2つほど集めて、ようやく1反を織れました」

「ようは、この村で考えることに問題があるのだ。他の村に依頼を出せば良い。資源の枯渇を考えるなら期間限定で依頼書を出すことで対応は可能だろう。この村で背負いカゴに30は問題だろうが、王国内で30ならば問題は無いのでは?」


 後ろに控えた男性が問い掛けてきた。かなり話の分るハンターだな。ひょっとして王国のギルド組織に深く関わった人物なのかも知れないぞ。

 

「現時点で、絹を織れる織機は後ろにある織機1台です。最大の課題はおさでした。何とか王室御用達の職人に制作して頂いた経緯があります。出来れば頂きました金貨5枚で5つの筬を作って頂きたい。先ほどお連れのハンターが言われましたやり方で繭を集められるなら年間15反を作る事が出来るでしょう」

 俺の言葉に満足そうな顔をして頷いている。答えとしては十分だと言うことだろうか?


「となれば、値段の交渉を始めた方がよろしいでしょうね。いったい、おいくらで私達にお売りくださいますか?」

「1反を作るための日数が目安になると思います。繭から糸を紡ぎ、それを織機用にするために4人で10日。織機に糸を通すのに3人で5日。織機をひたすら動かしたのが100日ですが、3人で交代して行いましたから実質は150日としましょう。合わせて、約200人日分の仕事になります。1人の賃金を20Lとすれば……銀貨40枚になります。これには繭の採取費用は入っておりません」


「金貨1枚に満たぬと……」

 目の前の3人が驚いている。俺の計算で合ってるよな。ちょっと心配になってきたぞ。

「だが、それには儲けが含まれていないぞ。困るのはお前達になるだろうが?」

 先ほどの男がたずねてきた。


「儲けようという気は持っていないのが本当のところです。俺達はハンターですから、ギルドに行けば仕事が受けられます。とは言え、レベルが低いので冬越しは辛いところがあります。機を織って賃金が出るのなら、それで十分ですし、同じ境遇の村人にも仕事を分けてあげられます」

「そう言う事ですか……。漁村の収入が無くなる時期の収入源ということですね。とは言え、あの絹をサロン持ち込んだ時の騒ぎは大変なものでした。金貨20枚を軽く超えた値段で欲しがった夫人も多かったのです。王都での取引価格は今回の王妃からの礼金が最低価格となるでしょうね」

 

 約20倍の価格になるのか……。だが、機織りに1日銀貨4枚は多すぎるぞ。精々王都並みの人件費というところだろう。それだって村での収入としては破格になるに違いない。不均衡な収入は村社会の混乱どころか破壊に結び付く可能性だってある。

 冬場の漁師達の妻や娘に、少し良い収入をと言うのが俺やサルマンさんの目的だからな。

「かなり問題ですね。今すぐに返事は出来かねますが、サロンへの提供価格はいくら多くても金貨1枚で十分です。それ以上では村社会が崩壊しかねます。その後の値段については、サロンにお任せしますが村の冬越しは厳しいものがあります。そんな村にある教会に援助して頂く事で対価が釣り合うのではと考えます」


「パラメントは絶対です。この布を作れるのはリュウイさんだけですから、もっと値を上げる事さえ出来ますのに……」

 そんな呟きを漏らす奥さんは、にこやかな顔で俺を見つめていた。


「私もリュウイさんに賛成ですよ。出来れば、村の娘達にも着せたい位ですからね。値を上げすぎて庶民に手が届かないということが無いようにしなければなりません。サロンには村での消費を1本引いた残りとして下さればとお願いします」

「婚礼衣装用ですか……。了解です」

 サルマンさんの奥さんは、サルマンさんと同じように村人を考えてるな。


「そうなりますと、年間の生産は13反と1つあるかないか……と言うところですか。私達の発言力も強まりますから願っても無い事ですが、それで本当によろしいのですか?」

「十分です。別に王都で暮らすわけではありません。華美な暮らしはハンターには似合いません」


 俺の言葉に後ろを振り返って、2人のハンターに何事か相談しているようだ。

 メイルーさんの言葉に丁寧な言葉で答えているのが気になるな。ひょっとしてハンターではないのだろうか?


「ここに簡単な契約書を用意しました。原料の調達は、メイルーが責任を持ちます。数は、この村の標準的な背負いカゴで30個分。それによって作られる反物は15反。内、13反はメイルーに引き渡される。引き渡し価格は、1反につき金貨1枚。13反以上が引き渡された場合は、増加分についても金貨1枚とする。……これでよろしいでしょうか?」


 あらかじめ契約書の準備をしてきたようだ。数と金額だけが記載されていなかったんだな。


「十分です。俺のサインがいりますか?」

「ここにお願いします」


 インクとペンを後ろのハンターが取り出して俺の前に置いてくれた。

 さらさらと書いたのだが、思わず漢字で本名を書いてしまったぞ。改めて、下にこの国の文字で名前を書いた。


「私達の読める文字はかなり苦労して書いてますね。それに引き換え、この文字を簡単に書いたという事は……、こちらの文字を長く使っていたという事ですか?」

「手が覚えていたようです。生憎と昔の記憶がありません」

「サロンには書士を家業としている娘も参加しております。案外分かるかも知れませんよ」


 それはどうかな? 漢字だしね。そんな本があれば俺も読みたいぐらいだ。

 その後は、世間話をしばらく続けて、メイルーさん達は俺達の番屋を去って行った。


「残った金貨はどうするんだ?」

「サルマンさんが小屋を作って織機を置くと言ってたろう。それに使うんだ」


 レイナスの言葉に俺が答えると、サルマンさんの奥さんが首を振った。

「それは、別です。それに頂いた礼金の半額を筬作りに手渡しましたから、それで十分なはずです。村の為に無償で働いたとなると、サルマンの矜持を疑われますからね。貴方達で分けなさい」


 今度は俺達が考える番だ。う~んと悩み始めたが、そういう事ならと貰っておくことにした。色々と作らなくちゃならないし、長く使えるように職人さんに頼めばやはり費用が掛かるからな。でも……。


「となれば、皆で分けましょう。これは奥さんの分です。奥さんに織機を譲って貰えなければ、経糸の設置の仕方を教えて貰えなければ、それに織り方まで教えて頂いたのですから、やはり無償というわけにはいきません」


 遠慮する奥さんに何とか手渡したところで、改めてシグちゃんが皆にお茶を入れてくれた。

 パイプを取り出し、暖炉で火を点けて、改めて契約を確認する。

 1反で金貨1枚なんだから、かなり余分になるよな。残金の使い方はサルマンさんと相談しよう。


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