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リュウイのハンター・ライフ  作者: paiちゃん
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P-080 経糸を通す方法


 ひたすら経糸用に巻き取った糸を竹竿に通して寸法を決めて切っていく。

 ハサミで一気に切ろうとしたら、奥さんが20本程度の糸を纏めて小さな糸巻に巻き取っていく。

 織機にセットするための一工夫らしいが、どうセットするかは見てみないと分からないな。

 1日掛かって半分程の経糸を作った勘定だ。もう1日、この作業を続けねばならない。かなり面倒だけど、ここまで来た以上後には引けないからな。


 夕食を皆で食べて、明日は二手に分かれて作業することを奥さんから告げられた。

「リュウイさん達は、今日の続きをお願いします。私はシグちゃん達と織機に経糸を入れていきますから」

「だいぶ目が細かいですから、目は大丈夫ですか?」


 俺の言葉に、上品な笑い声を上げている。


「おほほ……、大丈夫ですよ。ほら、これを使うんです」

 懐から取り出したハンカチ包みを開くと、中から、小さなルーペが出てきた。

「魔道具というわけではありませんが、物が大きく見えるんです。これで、おさや上下の木枠に付いた針金の穴を通すんですよ。筬に付いていた糸通しを使えば、面倒ではありますが、キチンと経糸を通すことができますよ」


 ルーペがあったとは驚きだ。粗雑なガラスがあったから、それを磨いて作ったんだろうけど、そんな職人も王都にはいるようだ。

 意外と精密加工技術がこの世界にはあるんじゃないか?

 

「値段はそれなりですけど、王都の老人が使ってるようですね。息子が土産にくれたんですけど意外なところで役に立ちそうです」

 シグちゃん達が、ルーペを見て驚いてるぞ。まあ、初めて見るならそうなるだろうな。物が大きく見えるんだからね。でも、これで細い糸を筬に通すことが出来そうだ。


 次の日。経糸を作り終わったところで、糸をシグちゃん達に渡したのだが、シグちゃん達は返事もそこそこに織機に経糸をセットしている。


 サルマンさんの奥さんとシグちゃん達が細かい作業を始めたようだ。俺とレイナスには手伝えそうもないから、久しぶりにギルドに出掛けることにした。


 カウンターのミーメさんに片手を上げると、俺達に小さく片手を上げてくれる。ちょっとした挨拶だが、何となくベテランハンターになった気分だな。

 依頼掲示板に張り出された依頼書を2人で眺めていると、後ろからポンと肩を叩かれた。


「何やら始めたようだが、狩りも出来るのか?」

 振り返った俺達に、ローエルさんが笑顔で話し掛けてきた。

「まあ、細かなところは俺達には向きませんから、俺とレイナスはちょっと暇になってます」

 俺の答えに、ローエルさんは仲間が座っているテーブルを指差した。ちょっと手伝えって事らしい。

 椅子が足りないから、俺達は隣のテーブルから椅子を運んで座ると、レビトさん達が俺達を見て微笑んでいる。


「実は、王都で貴族の婚礼があるらしい。まあ、俺達にはあまり関係はないんだが、祝宴の料理にラビーのシチューを出すそうだ。大量の依頼があったのだが……」

「村にいるハンターの罠猟では不足するって事でしょうか? となると、前に使った仕掛けを使う事になりますが、シグちゃん達がサルマンさんの奥さんと一緒にとんでもなく細かな作業をしてますから、参加するのは俺とレイナスになりますけど」


 パイプにタバコを詰めこんでマッチモドキで火を点ける。レイナスは、戴いたお茶を飲みながらすでに火を点けていた。

「数は30匹。お前達を加えるなら何とかなるかと思っていたのだが……」


 問題は、正確に矢を放てる弓使いが何人いるかだな。俺とレイナスで組めばシグちゃん達のクロスボウを使えるが、シグちゃん達のように上手に使えるわけではない。精々10匹が良いところだろう。それに、シグちゃん達を加えたとしても30匹は難しい。他の方法を考えなくちゃならないぞ。


「2つ考えなくちゃなりません。1つは正確に矢を放てる弓使いを数人集める事。もう1つは、例の鳥に似せた仕掛けではない方法で、ラビーを警戒させる方法です」

「俺達もその2つが大事なことは分かっている。最初の弓使いだが、3人集めた。お前達のどちらかが入れば4人になる。1人で30匹はそもそも論外だが、お前達が使った方法なら1人8匹で十分だ」


 となると、問題は後者になるんだが、あの仕掛けを飛ばすのは面倒なんだよな。それに、1組だけしか使えないのも問題だ。

 原点に返って考えるか? あの狩りのやり方は、本来ワラで編んだ輪を飛ばして行っていたはずだ。何種類か輪を作って投げてみれば様子が分かるかも知れないな。


「前にも話したかと思いますが、俺の知っている狩りの仕方はあのような鳥の姿をしたものは使わないんです。これ位のワラで編んだ輪を飛ばすんですが、何回か見たことはあるんですがどのように輪を作れば良いのかを知りませんでした。何種類か輪を作って試してみれば良いんじゃないかと思うんですが」

「確かに、あの方法はハンター向きではないな。輪を作って同じ効果があるなら、ハンター向きと言えるだろう。あの鳥を作ろうとした連中もいたのだが、案の定途中で断念したようだ」

「ワラなら、俺が貰ってくるぞ。暖炉の前で作れば良い。縄を編むぐらいならハンターなら出来る事だ」

 サドミスさんが席を立ってギルドを駆けだして行った。


「今日中に何とか使える輪を作れば、明日には狩りに行けそうだな」

「獲物は大丈夫なんですか?」

「森の手前でピョンピョン跳ねてるわ。今の内に間引いておかないと、来春に農家人達が苦労しそうよ」


 それなら、何とかなるんじゃないかな。

 レイナスが番屋に状況を知らせに行った。ファーちゃん達に俺達が遊んでいるわけじゃない事を知らせに行くと言ってたけど、ファーちゃんだって、兄貴が怠けてるとは思っていないんじゃないかな。


 レイナスはワラをたくさん背負いカゴに入れたサドミスさんと一緒にギルドに戻ってきた。

 早速、暖炉の前のベンチを脇に動かして、皆でワラを打ち始める。ワラの茎を潰して加工しやすくするのだ。終わったところで、片手で持てる位のワラ束を細い紐でグルグル巻きにして輪を作る。少し平たく作ればフリスビーのように投げられるだろう。

 輪の直径や断面の潰し方を変えた輪を10個程作ったところで、ギルドにいたハンター達とレイナスが輪の効果を確かめにギルドを出て行った。


「全く呆れる連中だな。だが、上手く狩れるなら罠猟をする奴がいなくなるんじゃないか?」

「そうでもありません。最終的には弓の腕が無いとダメですからね」

 俺の言葉に、ローエルさんが笑いながら頷いた。

「全くだ。それをあいつらは分かってるのか微妙なところだな」

「でも、それが分かれば弓の練習をするでしょうね。冬場の狩りが罠猟以上に稼ぐことが出来るならば弓の使い手を育てる事でしょう」


 冬だけではなく、他の季節にも十分に助けになるだろう。シグちゃん達2人いるだけで俺達の狩りの対象は格段に増えてるからな。


「まあ、その辺りは奴らが考える話だ。全てを教えて貰うハンターもいるが、自分達で工夫が出来るようにしなければならん。とはいえ、リュウイ達のようなハンターは少ないがな」

 そんな話をしながら暖炉の前片付ける。早速出掛けるのは良いが、後を始末するぐらいはやった方が良いと思うな。

 そんな彼らの事を、何も言わずに片付けているローエルさんには頭が下がる。

 

「それで、サルマンさんの話は何とかなったのか?」

「まあ、教えることは出来たんですが、形にするのを悩んでたみたいです」


 サルマンさんが番屋に来て相談したいと言ったその夜、隣の番屋で漁師のおじさん連中と一緒に話したのは、獣のように群れをおびき寄せる方法についてだ。

 ひょっとして、そのしょっぱなの話はローエルさんが1枚噛んでいるのかも知れないな。


 話を聞いてみると、呼び餌のような簡単な話では無さそうだ。冬にも夏のように網を流して魚を獲るらしいのだが、やはり夏のようにはいかないようだ。

 刺し網と呼ばれる漁法だが、魚の回遊を上手くとらえることが出来るか否かで、漁獲高が違ってしまうからな。

 そんなわけで、手堅い手釣りを行う事になるのだが、あのごつい胴付仕掛けではあまり魚を釣る事ができないらしい。ハリスを絹糸に替えたら少しは釣果が上がったらしいが、そもそも根魚だからそれ程いないんじゃないかな。


「サルマンさんは網本ですから網はたくさん持っています。ですが、それだけ漁法があるという事で余分な網は少ないんです。俺が教えた漁法はかなり網を使う事になるんで、サルマンさんもその場では返事をしませんでした」


 教えたのは定置網だ。沖に仕掛けるものでなく、岸辺に近い場所に仕掛ける方法だが、やはりかなりの大きさになる。それだけ網を使うって事になるんだよな。


「やり方があれば、サルマン殿ならやるんじゃないかな。息子が王都から戻ってきたようだから、彼の実績としたいはずだ。一度村を離れていると、それだけ漁師達からの信用は失われる。サルマン殿もそれを気にしているようだった」


 引退を前に、息子の仕事を認めさせたいって事になるんだろうか?

 まだまだ現役でいられそうだけど、少しずつ息子の仕事を増やしてるんだろうな。

 そんな話をしながらお茶を飲んでいると、バタンと乱暴にギルドの扉が開かれる。何だろうとローエルさんと一緒に入口をみると、レイナス達が帰って来たようだ。

 ドカドカと暖炉の前を占領すると、直ぐにカゴからワラを取り出して輪を作り始めた。


「大丈夫だ。あれなら狩れる。この時間で5匹を狩ってきたぞ。飛ばすのも簡単だ。半時も練習すれば十分だ。さっき出掛けた連中なら、直ぐに狩りが出来るぞ」

 サドミスさんがテーブルにワラで作った輪を置いて話を始めた。

 直径は40cmってところだな。かなり平たい断面だが、これが丁度良いって事なんだろう。


「明日、朝食後にギルドに集合だ。狩りは何とかなりそうだが、弓の腕が試されるぞ!」

 ローエルさんの言葉に暖炉の前の連中が頷いている。

 レイナスも彼らに混じって輪を作っているから、俺はクロスボウを担当することになりそうだな。


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