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リュウイのハンター・ライフ  作者: paiちゃん
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P-079 サルマンさんの奥さん


 一夜明けると、あれほど酷い酔いもすっかりさめた。やはり酒はほどほどにしとかないといけないな。

 今日はいよいよ機織りの準備が始まる。細かな作業だからキチンと目を覚ましとかないとね。

 冷たい水で顔を洗って、皆で朝食を食べたところでシグちゃん達はリビングの掃除を始める。あまり汚いと笑われるなんてファーちゃんが言ってたけど、俺には綺麗に片付いているとしか思えないんだよな。

 レイナスと連れだって外のベンチでシグちゃん達が気が済むまで掃除するのを待っている。


 外の焚き火でお茶を沸かしながら2人で一服していると、俺達に手を振りながらやって来る2人連れを目にした。

 俺達も手を振ってそれにこたえると、どうやらミーメさんとサルマンさんの奥さんだ。ミーメさんが大きな手カゴを持っているけど、何を持ってきたんだろう?


「おはようございます。今掃除をしてるんで、ちょっとお待ち願えませんか?」

「オホホ……。やはり、年頃の娘さんですね。良いですよ」

 焚き火の傍に、ベンチを運んで2人を座らせると、お茶をとりあえず出しておく。その隙に、レイナスが番屋の様子を見に行ってくれた。


「今日はギルドを休んでるのよ。この番屋に来るのも久しぶりだけど、すっかり新しくなったわね」

「何とか建て替えました。前の番屋暮らしが気に入ったんで、広間をそのままリビングにしてます」


 番屋の扉からそっと顔を出したレイナスが、俺にもう大丈夫だと手を振っている。

 お茶を飲み終えたところで、2人を番屋に案内した。


「あらら、殆んど変わりが無いのね。気に入ってくれてよかったわ」

 そんな事を言いながら、靴を脱いで板敷きに上がると、テーブルに案内する。

 奥の寝室から、シグちゃん達が織機に使おうとして紡いだ経糸と横糸を持ってきた。

 テーブルにそれを乗せると、奥さんがしげしげと眺めている。ミーメさんは初めて見たんだろうな、目を大きく見開いて眺めていた。


「主人が、もしも織ることが出来れば、漁師の冬越しは楽になると言ってましたが、さすがにこの糸を織るのはハンターの方々には無理でしょうね」

「それ程なの?」

「この糸が細いからです。専用のおさを作らせたと聞きましたが?」


 テーブルから離れると、織機から筬と枠それに糸通しを持ってきた。

「王都に頼んだら、作れる職人がおらず王国ご用達の職人が作ったそうです」

「やはりね。普通の2倍も糸が必要って事なんでしょうね」

「本当に、この糸で布が織れるの、お婆ちゃん?」


「織れますよ。糸と筬があるなら可能です。リュウイさんがここまでやったんですもの。私達も頑張らないといけないわ」

「俺達もお婆ちゃん達が機を織っているのをおぼろげな記憶では覚えてるんですが、どうやったら機に糸を付けることが出来るかが皆目見当付かないんです。経糸を交互に枠で上下させ、その間に横糸を滑らせて、おさで叩く。トントンカラリと言う感じですかね」

「そうそう、確かにトントンカラリよね。どこの村もそんな感じで機織りをしてたのかしら?」


 ミーメさんの言葉に、奥さんが顔をほころばせる。

「そうですね。この村も昔は何台か織機がありました。自分の服は自分で織っていたんですが、今では安い布が手に入ってきますからね。

 それで、この村で不思議な糸を使って布が織れれば一躍注目を浴びるでしょう。すでに、パラメントが出されているとローエルさんが教えてくれましたよ。先ずは私達で織ってみて、どうしてもダメなときは織物職人の手を借りても良いでしょう」


 奥さんがミーメさんの運んできた手カゴの布を外すと、そこから木綿の反物を取り出した。


「これが、布の基本になります。横幅は1Dと10分の3(36cm)。長さは40D(12m)が、取引単位の1TLテルになるんです」

「この長さを織らなくてはならないんですか?」

「そうしないと、服職人が服を作れなくなります。彼らはこの単位の布を余すことなく使う事を基本にしてますからね」


 なるほどね。服を1つ作るのに必要な布の量が取引単位という事になってるんだ。痩せた人や、太った人もいるんだからそれなりに長さは変わるんだろうけど、それは特注になるんだろうな。


「という事は、経糸の長さを40Dで切らなくちゃならないぞ」

 もったいないという顔をしてレイナスがパイプを取り出したから、ファーちゃんが慌てて糸を片付けてるぞ。


「いや、たぶん60D(18m)位にして切らないと、織機に上手く取り付けられないだろう。無駄と言うか、どうしても布として使わない部分が出て来るんだ」

「そうです。横糸ならば無駄は殆どありませんが、経糸についてはリュウイさんの言う通りになります。先ずは経糸の切断とそれを織機の奥にある巻き筒に取り付けることから始めないといけませんね」


 紙と粗末な鉛筆を取り出して、経糸を無駄なく簡単に切る方法を描く。60Dの距離をおいて杭を2本打つ。そのの横にもう1本杭を打って竹竿を横に取り付ける。

 後は、経糸を巻いた枠を2本の竹竿の間に交互に行き来すれば簡単に出来そうだ。

杭は家を建てた時の残材で出来そうだし、竹竿も釣竿用に何本か手に入れてるからな。


「レイナス、こんな感じで作れるか?」

「意外と簡単だな。だが、60Dを測るのが面倒だぞ」

「隣の番屋から水深を測るロープを借りれば良いのよ。あれって、1D間隔で小さな玉が付いてたわ」


 確かに使えるな。その後で、再度杖で測っても良いだろう。雑貨屋で物差しもこの際だから購入しても良いんじゃないかな。


「少しは手伝ってくれよ。とりあえず番屋に行ってくる!」

 レイナスが番屋を出たところで、俺も出掛けることにした。細かな話はシグちゃん達がちゃんと聞いてくれるだろう。

 先ずは、雑貨屋だな。


 4Dの竹製の物差しとハサミを購入して番屋に戻ってくると、レイナスが杭の端を手斧で研いでいた。

「物差しを買ってきた。荷物を置いてから手伝うからな」

「おう、その間にこれだけでも仕上げとくよ。ロープと木槌を借りてきたぞ」


 荷物を置いて、レイナスと一緒に杭を作る。竹の取り付けは釘で打っておけば良いか。上手く布が織れるようなら、ちゃんとしたものを作れば良いだろうからね。


 番屋の西に杭を打って、水深を測るロープを使って60D(18m)の距離を隔てて杭を打つ。

 作業そのものは意外と簡単だ。購入してきた物差しで、再度杭の間隔を測ったが、1Dも違いが無い。ちょっと長いようだが誤差としては許容範囲って事になるな。


 作業が終わったところで一服を楽しんでいると、ファーちゃんが昼食を知らせに来てくれた。

 中々織るまでに時間が掛かりそうだけど、一歩ずつまだ見ぬ布に近付いていると思うと自然に顔がほころんでくる。レイナスの肩を叩いて、番屋に向かって歩き出した。


 番屋に入ると、テーブルの上に簡単な黒パンサンドが並んでる。俺達がやってきたのを見たミーメさんが、暖炉に掛けられた鍋からスープを木製の深皿に分け始めた。

 シグちゃん達がテーブルに並べてくれたスープは海鮮スープだ。

 次の作業の話をしながらの食事は楽しいものだ。

 そんな時、玄関の扉が叩かれた。急いでシグちゃんが玄関に向かうと、びっくりしてるぞ。何かカゴを受け取って招きいれた人物はサルマンさんだった。


「悪いな。家にいても詰まらんし、漁師達も昼時で帰っちまった」

「こちらにいらっしゃいな。ちゃんと昼食は用意してありますよ」


 頭を掻きながら、奥さんの隣に座ったサルマンさんにファーちゃんがスープを暖炉から持ってきた。

「お母さんがいるでしょう?」

「いや、そうなんだが……。そうだ、様子を見に来たんだ。まだ始めねえのか?」


 もしゃもしゃと食事を取りながら言い訳してるけど、かなり苦しい言い訳だな。

 気にしてるんなら、そう言えば良いんだけど、奥さんが近くにいないと家ではダメだって事なんだろう。海の男として、村では有力者なんだけどね。


「まだまだ掛かりますよ。しばらくは番屋に通う事になるでしょう。漁期はそろそろ終わりでしょうけど、あなたはやることが無いんですか?」

 中々サルマンさんにはきつい奥さんだな。

「それもあって、リュウイを借りようとしたんだが……」

 そんな事を言うから、全員に睨まれてるぞ。

「今は無理ですね。夕食後ならだいじょうぶだと思いますよ。番屋で良いですね」

「ああ、それで良い。ところで、釣竿を貸してくれねえか? お前達で釣れるんだ。今夜の集まり用に少し釣ってみたいんだ」


 釣れるかな? 漁師が必ずしも釣りの名人とは限らないしな。船で釣るならまだしも、岩礁での釣りはまた別の技量がいるんじゃないだろうか?

 まあ、家でジッとしてられない人であることは確かだ。ここはサルマンさんの技量を見てみよう。


 昼食が終わると、サルマンさんに釣竿とカゴに餌を渡して見送った後、いよいよ経糸を伸ばして既定の長さに切ることになった。


「これを交互に竿の間に回せば良いんだな」

「ああ、レイナスは手前からやってくれ。俺は奥から始める」

 一度に2人でやれば仕事が捗るだろう。直ぐに始めたが、良く考えるとこれを千回以上やるんだよな。2人で半分になるとはいえ、良い運動になりそうだ。


 20回程竹竿の間を行き来したところで休憩を取る。下が砂地だから結構疲れるな。

 1往復ごとに紙に印を付けているから1巻きの糸からどれだけ経糸が取れるか後で計算できるけど、とんでもない仕事を始めたのが実感できる。

 1巻きの経糸をどうにか張り終えたところで、紙の印を確認すると150回を超えている。2人で300本の経糸を作った勘定だな。

 掛かった時間は3時間程だから、少なくとも後4回はこの作業が続く事になる。

 レイナスと互いに顔を見合わせて、明日の作業を思い浮かべてしまった。


「まあ、ここまでやったんだ。最後まで頑張ろうぜ」

「そうだな。レイナスが仲間で良かったよ」

 2人で肩を叩き合い友情の再確認をしてしまった。

 これから、この糸を切って、小さな糸巻に巻かなければならない。ますます作業が細かくなってきたぞ。


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