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リュウイのハンター・ライフ  作者: paiちゃん
78/128

P-078 飲み過ぎたその後で

 ふらふらとギルドまでどうにかたどり着くと、ホールのテーブルに突っ伏した。番屋までは持ちそうも無かったからな。とりあえずここで酔いを覚まさないと……。

 俺の様子を見に来たミーメさんが俺が酒臭いのを感じて呆れてたけど、濃いお茶を持ってきてくれた。


 「どこで飲んだか知らないけど、自分の適量を考えなさい!」

 そんな事を言ってるけど、ここまで俺に飲ませたのはミーメさんの御祖父さんだぞ。

 渋いお茶を飲みながら2時間程テーブルに座っていると、グルグル回っていた世界がどうにかジッとしているようになってきたぞ。

 まったく、どれ位2人で飲んだんだろう? 2ビンは間違いないな。それにあれだけ飲んでもサルマンさんは潰れないんだから凄いものだ。

 さすがに、この村にサルマン有りと言われるゆえんなんだろうな。


 「どう? 少しは良くなったの」

 「ありがとうございます。何とか、少し良くなりました。もう少ししたら帰りますから、もうちょっとここに置いてください」

 「リュウイ君が酒場に行くとは思えないけど……。どこで飲んで来たの?」

 

 そんな事を聞かれた以上、正直に答えなくちゃなるまい。

 サルマンさんと答えた途端に、ミーメさんが片手で自分の額を押さえたぞ。

 

 「まったく、お祖父ちゃんたら、いつもそうなんだから……。前の犠牲者はローエルさんだったけど、あれから数年も経ってるのよね。今度はリュウイ君が犠牲になったってことね。後で言い聞かせとくから、次は大丈夫よ」

 

 ローエルさんも被害者だったのか。まあ、悪意はないんだよな。相手も自分並みに飲めると錯覚してるだけなんだろうけどね。

 

 「今日は、たまたまです。明日はサルマンさんの奥さんに手伝って貰えるんですから、これ位は……」

 「災難だと思って諦めて頂戴ね。自分と同じで相手も飲める者と思ってるのよ。でも、お婆ちゃんがリュウイ君のところに行くって事は、……いよいよ初めるのね?」


 小さく頷くことでミーメさんに答えた。

 だいぶ世界が固定してきたけど、今度は頭が痛くなってきたぞ。もう少しこの場にいた方が良さそうだな。

 そんな俺を回収してくれたのは、ギルドの依頼書を偵察に来たレイナスだった。


「サルマンさんのところで飲まされたのか?

「そんなところだ。だが、目的は果たしたぞ。明日の朝、奥さんが番屋に来てくれる」


 レイナスの肩を借りながら、ズキズキと痛む頭を片手で押さえる。

 それでもどうにか番屋へ着くと、暖炉近くでごろりと横になった。


「お酒臭いですね。飲み過ぎですよ」

「飲み過ぎると頭が痛くなるって聞いたにゃ。ちょっと待つにゃ!」


 暖炉に小さな鍋を乗せると何やら作り始めたぞ。

 しばらくして俺の前に、ファーちゃんが持ってきたカップには、まるで抹茶のように緑色の飲み物だった。

 この世界のお茶は、俺のいた世界のお茶と違ってハーブティーのような薄い赤みのあるお茶なんだよな。どう見ても、これはお茶ではないぞ。


「昔教えて貰ったにゃ。お兄ちゃんが酔ってもだいじょうぶなように、今でも持ってたにゃ」


 押し付けるように俺に渡してくれたところをみると、これは薬って事になるのか? 俺のいた世界のお茶も、かつては薬として持ち込まれたらしい。案外、この世界にもお茶があるのかもしれないな。

 まあ、飲んでみれば分かることだ。意を決して一口飲んだ。

 苦い……、その上渋い。

 だが、この味は……、やはりお茶だぞ。粉茶の分量を必要以上に入れた感じだな。これも、産業として広められたら良いんだが。


「ありがとう。だいぶ楽になったよ。これは初めて飲むけど、ギザギザの葉をすり潰した奴かい?」

「よく知ってるにゃ。南の方に生えてるにゃ。悪酔いに効く薬になるにゃ」


 やはり薬として使われてたか。それでもお茶の葉があるなら好都合だ。何とか手に入れたいな。こっちのお茶も良いけれど、やはり慣れ親しんだお茶も捨てがたい。

 

「どうした? そんなにカップを眺めて」

「ああ、この飲み物なんだが、昔、いつも飲んでた飲み物にそっくりだったんだ。それでどうしたら手に入るかとな」


「第2広場の南の森に生えてたぞ。ファーが作ったのもそこで手にいれた葉から作った物だ」

「ファーちゃんが鉄の鍋で、集めた葉を遠火で乾燥させてましたね。あれが、その飲み物だったんですか?」

「そうだ。俺達の村で作ってたんだ。旅の商人達が買ってくれるから村の貴重な財源だったんだ。もっとも、それほど高くは無かったな」


 確かに、それほど売れる代物でも無かったんだろうな。使い方も、結構荒っぽいからな。しかし、お茶の葉が採れるなら、来春にでも挑戦してみるか。この世界の人達には人気が出なくても、俺にとっては帰ることが出来ない故郷の思い出になる。


「また何か考え付いたのか?」

「ああ、俺の暮らしていた故郷のお茶が飲めそうだとな。だが、作るのは来春だ。昼夜が同じ長さになった時から43日目に収穫するんだ」


 どうして、43日目なんだ、40日目や50日目ではダメなのか? とかいろいろ3人から質問が飛んできたけど、俺のいた村の風習なんだと言って誤魔化した。俺だって何でそうなったか分からないけど、歌にだってあるくらいだからな。やはり春分から88日目じゃないとね。43日では1日程度ずれるかもしれないけど、その頃に雨でも降らないと良いんだけれど。


「まあ、それは来年の楽しみに取っといて、明日はサルマンさんの奥さんが来てくれる。かなり面倒な作業だから、お茶とお菓子は準備しといてくれないかな? それと、だいぶ楽になったよ。ファーちゃん、ありがとう」


 時間経過が効いたのか、ファーちゃん手作りのお茶が効いたのかははっきりしないけど、だいぶ楽になったことは確かだ。あれほどズキズキしていた頭の痛みもすでに遠ざかっている。


「やはり効いたにゃ。悪酔いには一番にゃ!」

 そんな事を言いながら、シグちゃんと出掛ける準備をしているのは、これから雑貨屋にお菓子を買いに行くに違いない。

 俺とレイナスにお茶を入れてくれたところで、2人が番屋を出て行った。


 暖炉際に2人で座り込むと、パイプを取り出す。

 一服しながら明日の作業の段取りを考え始めたが、やはり奥さんがいないと、どんな風に進めて行ったら良いのか分からないことに気が付いた。


「リュウイにも分からないって事があるんだな?」

「そりゃそうだよ。俺だって見たことがあるだけだからな。それも織っているところだけだ。その前後の作業は皆目見当がつかない」


「だが、俺よりは遥かに物知りだ。それで助かった狩りもある」

「秋のヤク―狩りの依頼書を持ってきてもか?」


 俺の言葉に2人で笑いあう。

 レイナスからすれば物知りって事になるんだろうが、肝心の一般常識が無いって事になる。突拍子もない答えを出せるが、普段はダメなやつって事になるんだろうな。


「だから俺達はパーティを組んでるんだろう? 互いに助け合えば俺達なら十分に黒を目指せるさ。イリスさん達は銀を目指せるとまで言ってくれるが、そこまで高望みはしない方が良いし、無理をすることにもなりそうだ」

「ああ、シグちゃんやファーちゃんがいるからな。だが、イリスさん達が俺達を必要とすることになれば、やはり出掛ける事になるだろうな」


 レイナスが頷くことで賛意を示してくれた。

 恩には答えなくちゃならない。ハンター達の義理の世界だ。だが、それは極めて確率が低いだろう。

 俺達がいるから、村の外に出られるとまでローエルさんが言ってくれてるからな。

 ある意味、俺達をローエルさん達が庇ってくれているようなものだ。そんな関係でいる以上、ローエルさん達の指示にはきちんと従っているけど、これも義理の世界になるんだろうな。


「そういえば、ローエルさん達をしばらく見てないな。村を出ているのか?」

 レイナスも同じような事を考えてたみたいだな。

「ミーメさんは何も言ってなかったぞ。だけど、前にしばらく見なかったときは村を出てたんだよな。俺達のランク4つ上までの依頼というのがそれ程重要なんだろうか?」


 俺の顔をチラリと見て、レイナスはパイプにタバコを詰めだした。何も分かってないな、と言う感じにみえるな。


「俺が白の8でお前が白の7つ。ファー達は白の5つにまで上っている。この状態で4つ上となれば、パーティでは俺のレベルが適用されるから青2つの依頼が可能だ。依頼書は白まではレベルの適正が細かく書かれているが、青以上はある程度大まかになる。

 おおよそ3段階だな。青の低、中、高と言う具合になる。だから、俺達の狩りの上限は青の低が対象になる。青の5つぐらいならばミーメさんは許可してくれるだろう」


 かなり高いレベルの狩りまで俺達の範疇って事か? イリスさんがいれば何とかなりそうだけど、青の依頼はかなり危険なものが多かったような気がするぞ。

 

「ローエルさんは俺達に村を託したと言ってたことがあるな」

「ああ、だからこそ、ローエルさん達は村を離れて自由に狩りをすることが出来るんだ。リュウイも覚悟しとけよ。筆頭ハンターではないが、ローエルさんが一目置くとなれば

次席の筆頭だって、難しい狩りには俺達のところに話を付けに来るぞ」


 季節的には晩秋の終わりだから獣が活発に動くことは無い。 

 レイナスの危惧は、春を過ぎてローエルさん達がこの村に滞在していないときになるだろうな。ローエルさん達だって、俺達にはまだ難しい狩りがあることを知っているはずだ。

 ある意味、取り越し苦労のような気もしないではないが、そんな事態も想定されると考えておこう。

 

「ただいま!」と玄関から声がしてシグちゃん達が帰ってきた。

「こんなお菓子がありましたよ」と言いながら、袋から出してザルに並べ始めた。今食べても良いのかな?

 改めてファーちゃんが入れてくれたお茶を飲みながら4人で頂いたのは、ちょっと甘味のある焼き菓子だった。

 いつも食べてるせんべいのような塩気ではないのが新鮮だな。やはり砂糖はあるようだ。


「いつもより上品だね。これなら奥さんに出しても問題ないと思うよ。今度行ったら、3つ確認してくれないかな。甘味を作る材料と白いパンを作る粉。それに食用の油だ」

「それなら、すでに見つけてあります。でも私達の暮らしには必要ありませんでしたから」

「なら、たまには良いだろう。俺が出資するよ。その3つを買ってきたくれないかな」


 俺の顔を見て、レイナスがにやにやしている。また何か考えてるな? って顔だな。

 シグちゃん達も悩んでいるようだな。確かに俺達の暮らしに直接必要はないものだ。だけど、甘いドーナッツ位はたまに食べても良いんじゃないか?

 


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