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リュウイのハンター・ライフ  作者: paiちゃん
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P-077 ガトルの群れ


 3つの焚き火と、頭上の光球4つに照らされて広場に群がるガトルの数がどんどん増えているのに気付いて少し心配になってきた。

 なるほど、この数ではいくらローエルさんが黒レベルのハンターでも太刀打ちできないだろう。一斉に飛び掛かってきたら引き倒されておしまいだ。


 だが、その状況が好転したかと言えばそうでもないだろう。後ろはある程度雑木とロープで柵が出来ているが、前方は開いている。人数は倍になっているがガトルの数は100を越えそうだ。

シグちゃん達がボルトを撃ち尽くしたら、メイスで掛からねばならないな。野犬には絶大な効果があったが、ガトルにだって打ちつければそれなりに使えるだろう。それに2人とも【メル】を使えるからな。

レビトさんは【メルト】を使えるし、シグちゃん達と同じメイスを持っているのも心強い。隣のネコ族の青年はヌンチャクを手にしている。レイナスと一緒に後衛を守ってくれるだろう。


「変わった武器だな?」

 「3節棍という武器です。杖並みに攻撃範囲が広いですから、左は任せてください」

 「そういう訳か。なら俺が右手に移動する。後ろはネコ族が2人だ。嬢ちゃん達の安全は何とかなりそうだぞ」


 「お願いします!」と答えて、前方のガトルの群れを睨みつける。

 後ろから火炎弾が俺の頭越しに飛んでいき、ガトルの群れの中で大きく弾けた。【メルト】だな。


 その一撃が、かろうじて睨み合っていた俺達とガトルの均衡を破ったようだ。

 一斉に俺達に向かって駆けて来る。


 3節棍を小脇に抱えるようにして、俺に飛び掛かて来たガトルの頭を横から殴りつけた。そのまま振り回して更に2頭の横腹に一撃を与える。

 クルクルと回して左右に動きながら次々と刈り込んでいく。

 ギャン!っと鳴き声があちこちで聞こえるから、レイナスやローエルさん達も頑張っているに違いない。

 少し遠巻きにしているガトル達が間をおいてボルトの餌食になっている。

 それも直ぐに終わると今度は【メル】や【メルト】がガトルに襲い掛かる。

 かいくぐってきたガトルには俺の3節棍が唸りを上げる。

 

 吹き出す汗を払う暇もない。相手を切るのではなく叩くだけだから血糊で棍を持つ手が滑ることはないが、さすがに長丁場になってくると手の汗が気になってきたな。

 片手ずつ素早く革服で汗を拭いとりながらも修羅場は潜り抜けなければ……。


 左右から飛び掛かってくるガトルを腰だめにした3節棍を左右に振ると、それだけで打ち据えられる。最小の動きで最大の攻撃が、この棍の特徴だ。

 ヌンチャクが片手剣なら、これはフレイルを両手に持った感じなんだろうな。

 

 前から飛び掛かってきたガトルを橋を持って3節棍を振り下ろすと、頭と背骨の両方を打ち付けたようだ。ガトルは声を上げるまでもなく地面から動かない。

 

 次を探して、荒い息を上げながら周囲に目を見張る。あれほどいたガトルは姿を消していた。残ったのはおびただしい数のガトルの亡き骸だけだった。


 「終わったな!」

 「ああ、終わった。リュウイ、とりあえず、一息入れるんだ。気疲れしては野犬でさえ後れを取るぞ!」


 ローエルさんの声で、ジッと森の奥を睨んでいることに気が付いた。

 3節棍をぐっと握っていたんだろう。指先が白くなっている。確かにこれでは、問題だな。

 振り返って、焚き火の傍に行くとへたり込むように座った。シグちゃんが心配そうにお茶のカップを出してくれたのだが、3節棍を握った手が開かない。


 「シグちゃん。悪いんだけど、力づくで俺の指を開いてくれないか」

 「何だ? リュウイでもそんな事があるんだな。どれどれ……」


 俺の言葉に驚いて立ちつくしているシグちゃんに代わって、サドミスさんが俺の左手の指を1本ずつ伸ばしてくれた。

 外れた俺の左手をニギニギと動かし、今度は右手の指を自分で開いていく。

 ようやく外れた両手をひとしきり動かして、シグちゃんの持つカップを受け取った。


 「ホントにびっくりしました。心配させないでくださいね!」

 「ごめん、ごめん。どうやら、最後の方できつく握ってしまったらしい」

 

 すっかり冷めてしまったお茶を飲むと、シグちゃんが受け取って新しいお茶を入れてくれた。


 「たまにそんな話を聞くことがあるが、本当なんだな。剣を持ったまま手が離れないとは聞いたことがあるが、棒を持っても同じなんだな」

 

 ローエルさんが感心したように話している。苦笑いしながらパイプにタバコを積めて焚き火で火を点けた。


 「だが、あのヌンチャクに似た得物は、使い方が難しそうだな。威力は、横目で見ていて唸ったんだが……」

 「お前はレイナスにヌンチャクを習ったんだろう? 今更他の武器を欲しがるとは思えないが」


 ネコ族の青年にサドミスさんが笑いかける。


「両手にヌンチャクはまだ出来ないが、たぶんそれよりもあの打撃は上になるだろうな。杖と同じと思っていたんだが、破壊力は遥かに上だ。まあ、それだけ振り回すのに力もいるのだろう。リュウイの手が固まったのは何となく俺には頷けるのだ」


 確かに、手の握りの緩急が半端じゃなかった。遠心力で棍を持つ手が滑らないようにしてたからだろうな。

 

 「だが、おかげで俺達が助かった。少し休んだら毛皮を剥ぎ取るぞ。これだけガトルがいるからには野犬も近づかぬだろう。だが、穴は必要だ。リュウイ達に掘ってもらおう」

 てきぱきとローエルさんが俺達の役目を決めていく。こういう事が簡単に出来るんだからやはり筆頭ハンターだけの事はあるよな。


 一服を終えると、俺とレイナスで浅くて広い穴を何カ所か掘った。掘る傍から、ローエルさん達が丸裸になったガトルの亡き骸を放り込む。シグちゃん達はガトルの牙を集め終えたのか、焚き火でスープ作りを始めたようだ。


 「いったい、いくつ倒したんだろうな? 掘る傍からガトルが投げ込まれてるぞ」

 「50は行ってるんじゃないか? この穴で6個目だからな」


 そんなボヤキにも似た言葉を交わしながらレイナスと2人での穴掘りは続いて行く。

 

 「ほれ! これで最後だ。ご苦労さん」

 サドミスさんが投げ込んだガトルが最後のようだ。ほっと一息ついて、土を被せておく。その内、死肉を漁る獣や鳥が突っつきだすんだろうが、当座はこれでいいだろう。

 既に東の空が白みかけている。もうすぐ朝になるから、早めに朝食を終えて、村に引き上げるのが得策だな。


 「リュウイよ。山分けで良いな。牙が72頭分、毛皮が55枚になる。かなりの報酬が得られる。これから朝食を終えたらすぐにここを離れるぞ」

 ローエルさんの言葉に皆が頷き、直ぐに出発の準備が始まる。

 これだけの獣の死肉が埋まっているんだ。次に何が出て来るか想像すらできない。


 シグちゃん達までもがガトルの毛皮を担いで、夜の森を光球の明かりを頼りに西に向かう。

 何度か休憩を取ってどうにか森を抜けた時には、東の空が白み始めた。

 後、2時間ほどで町に帰れるだろう。北門をくぐれば一安心できる。

 

 途中で2度ほど短い休憩を入れて昼前にギルドにたどり着いた。ローエルさんに分けて貰ったガトルの報酬は1人203L、半端はパーティにと3Lが追加された。それとは別にヤクー狩りの依頼を達成しているから1人40Lの分け前になる。これは全額パーティの維持費に使っても問題なさそうだ。

 ローエルさんに頭を下げると、食堂でお弁当を2つ買い込んで番屋へと向かう。

 昼食を取って、直ぐに眠りに着く。夕べはろくに眠っていなかったし、夕食も「お弁当だから問題はないだろう。

 

 一眠りのつもりが、すっかり寝込んでしまったらしい。起きた時には既に夜だった。

 暖炉に火をおこすと、シグちゃんが汲んできた水をポットに入れて掛けておく。その内、レイナス達も起き出してくるだろう。

 パイプにタバコを詰めて、暖炉で火を点けた。


 「危なかったですね。あれだけのガトルはイリスさんと出掛けて以来です」

 「そうだな。だけど、何であんなに出てきたんだろう? ローエルさんが調べてみると言ってたけどね」

 

 俺達だけではどうしようもなかったろう。上手い具合にローエルさんが俺達の方に逃げてくれなかったらと思うとゾッとするな。


 「早いな。もう起きてたのか?」

 扉が開いて眠そうな目をしたレイナスが起き出してきた。ファーちゃんも一緒だという事は、レイナスを起こすのに時間が掛かったんだな。


 「お茶が沸いてるぞ。だいぶ遅い時間だから、夜食を食べて直ぐに寝よう。もう少し早ければ風呂に行けたんだけどな」

 「ちょっと、残念だな。まあ、【クリーネ】で諦めよう。明日は早く出掛けようぜ」

 パイプを取り出して、レイナスがいつもの場所に腰を下ろしたところで、シグちゃんがお茶を配ってくれた。ファーちゃんはお弁当の黒パンを暖炉で温めている。

 

 「森の狩りは少しお預けになりそうだな」

 「ああ、少なくとも原因が分からないんでは、俺達には危険すぎる。少なくとも10日は狩りをしなくてもいいだろう。明日から、機織りの準備を始めたいが……」

 「ああ、構わないぞ。俺に出来ることは、何でも言ってくれ」


 俺達の話を聞いているシグちゃん達も、特に問題はないようだな。うんうんと頷いている。

 とはいえ、ほとんど出来ていると言っても過言ではない。問題は、経糸をどうやってセットするかということだ。これは経験のある人物のご指導を受けざるを得ないだろうな。

 思い当たる人物は、サルマンさんの奥さんになるな。明日訪ねてみるか。

                  ・

                  ・

                  ・


 「それで、私を訪ねてきたの?」

 サルマンさんの奥さんを訪ねて訳を話すと、笑い顔で答えてくれた。

 

 「で、お前に出来るのか?」

 「出来るも何も、昔はずっとやってましたよ。貴方が酔っぱらって帰って来るのを待ちながらね」


 サルマンさんの問いに、キっと睨んで、昔のサルマンさんの悪事をバラシている。たぶん、心細かったんだろうな。それを機織りで紛らわしていたんだろう。

 

 「だいじょうぶですよ。はたがあって、糸があるなら布は織れるはずです。たぶん、経糸をどうやって織機に用いれば良いのかが分からないんでしょう? おさに通すのが面倒だけど、何日か掛ければ出来るはずだわ。確か、昔の番屋に住んでいるんでしょう。娘に家の仕事を教えときますから、明日の朝にお邪魔しますね」


 ありがたい申し出に、俺は頭を下げるだけだった。

 「まあ、妻がそう言うなら、だいじょうぶだろう。話が終わったなら、飲んでも良いんじゃないか?」


 そう言いながら、既に俺のカップに酒を注ぎ終わっているんだよな。ここはありがたく飲むべきだろう。


 「頂きます!」

 「おお、飲め、飲め。だいぶガトルを片付けたそうじゃねえか。良いハンターは良く飲めるハンターだぞ」

 

 とんでもない、持論の持主だ。たぶんそんなことで漁師のおじさん連中が昼間から酒を飲んでるのかも知れない。だけど、それをハンターにまで拡大しないでほしいな。


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