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リュウイのハンター・ライフ  作者: paiちゃん
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P-076 自分達に見合った獲物を狩ろう

 イリスさんが届けてくれたおさを取り出すと、その後ろに細い木枠が3枚入っていた。よく見ると、極細の針金がYの字にたくさん取り付けられている。さすがは王宮の職人だけあって、俺の意図を正確に読んでいる。


 「レイナス、作業が1つ減ったぞ。これで織機が完成したようなもんだ」

 「本当か? 組み立ては今日やるとして、いつから織るんだ?」


 それが、問題だよな。まだ秋の最中だから、ハンターの仕事はたっぷりとある筈だ。それに糸を織機に取り付ける方法が、いまいち理解できていないんだよな。


 「始める前にサルマンさんの奥さんに協力して貰おう。それは、狩りの季節が終わってからでも良いんじゃないかな。それに、森に行けば繭が手に入るだろうしね」

 「それなら焚き木だって必要だ。この番屋の裏にたっぷり蓄えないとな」


 その日は、木綿用の織機に新たな筬や、経糸を上下させる木枠を取り付ける作業で1日を過ごす。

 夕食後に狩りの準備を整えれば、次の狩りに心が躍る。レイナスとパイプを咥え、暖炉際でどんな獲物を選ぶかを話し合う。


 「やはり、少し大型を狩りたいな。俺が白8つでリュウイが7つ。ファー達も白6つになってるぞ!」

 「そうだな。とは言え、まだまだ上がある。イリスさんは黒2つと聞いたぞ。俺達も早く青になりたいよ」

 「まったくだ」そう言って、パイプの灰を暖炉に落とす。そろそろ寝ることにするか。明日は早いからな。


 翌朝、ギルドに出掛けレイナスと依頼掲示板を眺める。さすが秋だけあって、選り取りみどりってやつだ。

 「これなんかどうだ?」

 レイナスが依頼書を指さして俺に聞いてきた。


 「ヤク―狩りか! そうだな。1頭40Lで数を問わないというのが良いな。秋なら森にいるんだろう?」


 前のヤク―狩りで懲りたからな。獣が季節で住処を変えるという事と、獣の修正をよく理解しないととんでもないと言うのが良く理解できたから、俺にとっては良い思い出だ。

 そんな俺の顔を見て、微笑んでるところをみると、レイナスも前の狩りを思い出しているんだろう。


 「まあ、そんなに心配はいらないぞ。風呂で聞いた話では第3広場付近にいるらしい。だが、今年は早くに山からガトルが下りてきてるとも言ってたな」

 「これでいいんじゃないか? ガトルが多ければ早めに狩りを終えれば良い。それに俺達は森の奥には行かないからな」


 俺の話に頷くと、レイナスは掲示板から依頼書を外してカウンターに向かった。後ろで聞いていたシグちゃん達が、ギルドを出て行く。たぶんお弁当を買い込んでくるんだろう。テーブルでカウンターから帰ってきたレイナスと一緒にパイプを楽しみながら待つことにした。


 ギルドの扉が開いて、数人のハンターが入ってくる。その姿を見ると、ローエルさん達だ。

 ローエルさんはカウンターのミーメさんと何やら話し込んでいる。

 残りの連中が俺達の座ったテーブルにやってきた。

 

 「今度は何を狩るの?」

 「手堅いところで、ヤクーにしました。第3広場周辺の森が狙い目と聞いてます」

 俺の答えに3人が頷いている。手堅いというところが気に入ったのかな?

 「確かに、けっこう見掛けたわ。あなた達なら数頭はいけそうね」

 「運べるまでにします。無駄に狩ってはタダの殺戮ですからね」

 

 ヒルダさんにそう答えたところで、頭をぐりぐりと撫でられた。思わず顔を上げると、ローエルさんが面白そうな顔をして俺の頭に手を置いていた。


 「まったくだ。それを知らんで運べないほどに狩る輩もいる。俺達はハンターなんだからな。無駄な殺生はせぬように心掛けることが大事だぞ」

 「そうありたいと、思っています。ローエルさん達も狩りですか?」


 「ああ、俺達はガトル狩りになる。第3広場のずっと先だから、そろそろ出発だ。リュウイ達の狩場には見掛けないが、一応気を付けてくれ。……それじゃあ、出掛けるぞ!」

 ローエルさんの呼び掛けで、3人が席を立つ。俺達に片手を振って、ギルドを出て行った。


 「やはり、森の奥にはいるみたいだな」

 「ああ、一応いつ来ても良いように準備はしておいた方が良いかも知れないな」

 そんな相談をしていると、シグちゃん達が帰ってきた。俺達も席を立って、連れだってギルドを後にする。


 村の北の門を抜けて、東に向かって歩く。森まで2時間ほど掛かるから、森の入り口で小さな焚き火を作ってお茶を飲む。

 第1広場を過ぎたところで昼食を取れば、第3広場に出たところで、野宿場所を探すことになるのだが、この頃は広場の西で野宿することが多くなってきた。

 周囲の森で焚き木を取りながら、前に野宿した場所を見つけると、背負いカゴを下ろして、背後の雑木にロープを張った。カゴを左右に置いて壁を作ると、その前に焚き火を焚く。シグちゃん達が簡単なスープを作っているから、日暮れには夕食を取れるだろう。


 夕食が終わったところで、少し焚き火を大きくすると俺とレイナスはカゴから毛布を取り出して横になる。深夜にシグちゃん達と交代することになるが、2時間ほどは寝られるだろう。明日はシグちゃん達が起き出したら、再度横になればいい。

                  ・

                  ・

                  ・


 翌日は朝からヤクーを探して森を東に進む。第3広場周辺ならばこの辺りになるはずだ。秋の繭が見つかると、手元の袋に枝から摘み取った。秋の繭はそのまま年を越すから、たくさん集めても羽化することはない。

 ヤクーの群れを見つけると、後はシグちゃん達の出番だ。

 俺達が周囲を警戒する中、見事にクロスボウでし止めたぞ。そんな狩りを2回すればヤクーが4頭になる。この辺りで引き上げるのが得策だろうな。


 俺が頑張って掘った穴に、レイナスがヤクーの臓物を抜いて埋める。ガトルの話があるからキチンと埋めておかねば、俺達に襲い掛からないとも限らない。そうは言っても、レイナスと俺の担いだカゴにはヤクーが2頭ずつ入っているから、血の匂いを嗅ぎつけて来るかも知れないけどね。


 「とりあえず、昨夜の野宿場所で今晩も過ごそう」

 「そうだな。俺もそう思って、ロープは張ったままにしてあるんだ。焚き木を集めながら戻ろうや!」


 今回はそれ程難しい狩りではない。家が無ければもう少し狩ることになりそうだが、無理をしないのが俺達の暗黙の了解だからな。

 獲物を持っているときには、焚き火を増やせるように大目に焚き木を取っておく。使わなければ番屋に運べばいいわけだし、野犬に襲われたときには丁度良い障害になる。何度も経験したから、その辺りのコツは分かってきたな。

 

 そんな準備が整ったところで、焚き火でお茶を沸かす。狩りが上手く運んだから、シグちゃん達も機嫌がいい。

  

 「ギルドの依頼書の割には、ハンターが集まっていないのか? 今日1日森を歩いて、気配すらないぞ」

 「秋ならたくさんハンターがやってくるんだけどな。どっか他の場所で良い条件でもあったんだろうか?」


 俺の話に、レイナスも首をかしげる。高レベルのハンターならこの季節は山麓の村に出掛けるようだ。だが、青や白レベルのハンターは大きな森に近い村や町に集まってくる。平地にはそれ程危険な獣がいないし、それなりに狩りの獲物となる獣の種類がいるからな。

 ローエルさん達もこの季節には。あっちこっちの村々に出掛けているのだが、ガトルの話を聞いて、まだこの村に留まっているようだ。

 群れが大きいのだろうか? そうなると、ガドラーを考えないといけないんじゃないか? 考えると、余計に心配になるな。

 

 夕食を早めに済ませて、シグちゃん達を先に休ませる。明日の朝、空が白み始めたら起こしてあげよう。明日は帰るだけだからな。俺達は仮眠で十分だ。


 森の夜は意外とにぎやかだ。虫の音や夜行性の獣の鳴き声が聞こえてくる。そんな中俺達が焚き火を囲んで、パイプを咥えながらとりとめのない話をしていると、急にレイナスの耳がピクリと動いた。

 レイナスが広場の東に首を向けたので、俺も急いでレイナスの見つめる先を見た。何か白い光が2つフワフワと浮かんでいる。


 「光球だな。近づいてきてるぞ!」

 「急いでファー達を起こそう。何かから逃げてるみたいだ」


 俺より目の良いレイナスの言葉だ。直ぐにシグちゃん達を起こして、装備を整えさせる。

 どうやら、俺達の焚き火に気付いたらしい。真っ直ぐにこちらに向かってくる。

 なんだか分からないけど、槍を背負いカゴに立て掛け。カゴから3節棍を取り出した。レイナスもヌンチャクを手に持っている。背中に片手剣を俺と同じように背負っているから、相手が良く分からないけど、迎撃は何とかできるだろう。適わぬ相手なら、その隙にシグちゃん達を逃がせばいい。


 東から広場に数人のハンターが飛びだしてきたのが、彼らの上に浮かんだ光球で確認できた。俺達が手を振って「こっちだ!」と叫び声を上げる。そんな彼らの後ろからたくさんの獣が森から姿を現す。


 「ガトルだな。数十は入るぞ!」

 「ヌンチャクでだいじょううか?」

 「ああ、だが、ガドラーが出て来ると厄介だぞ。今回は投槍を持ってきてないからな」


 投槍とウーメラがあれば、そこそこ何とかなるのだが、今回は杖代わりの槍だからな。

 やがて、俺の目にも走ってきたハンターの顔が分かるようになった。どうやら。ローエルさん達のようだ。

 シグちゃん達が後ろで何かしてるようだ。食器の音がしてるから、お茶を入れてるのかな? あれだけ走ってくれば喉もカラカラだろうな。

 

 「リュウイ達か! ありがたい。ガトルの大群だぞ。ガドラーはいないようだが、一応気を付けてくれ!」

 「分かりました。それにしても凄い数ですね」


 広場に次々とガトル達が集まってくる。これだけいればガドラーを疑いたくなるんだが……。

 ガトル達は、俺達から数十m離れて半円をえがいている。焚き火を恐れているのだろうか? そうだとすれば、後2つ作れるようにしてあるから、少しは安心できるかな。


 「済まない。喉が渇いてたから助かるよ」

 そんな声が後ろから聞こえてくる。直ぐにローエルさんと、サドミスさんが俺達の左右にやってきた。

 

 「まったく、20匹ほどだと思ってたんだが……。どこかで山狩りでもしたんじゃないか?」

 「原因は後だ。とにかくこの群れを何とかしなくちゃなるまい。俺と、サドミスが真ん中だ。左右をリュウイ達で固めてくれ。ヒルダ達は嬢ちゃんの近くで良いだろう」


 ローエルさんの指示で俺達の配置を変更する。焚き木を焚き火に放り込んで、左右に積み上げた焚き木にも火を点けておく。

 後から、俺とレイナスに【アクセル】が掛けられた。呪文の声はレビトさんのようだな。


 「俺とレイナスは少し前に行きますよ。武器の間合いが広いんで、同志打ちになりかねません!」

 「ヌンチャクだったか。野犬には有効だと聞いたがガトルも使えるのか?」

 「一応、山間の村では有効でした。槍はカゴの近くに置いてります。それに背中の剣は飾りではありません」


 そんな話をしてるけど、俺達の目は取り囲んでいるガトルを見つめたままだ。3節棍の真ん中を持ちながら、俺はその時を待った。


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