P-007 パンドラへの参入者
村を出て10日も過ぎるとだいぶ旅慣れて来たようだ。
街道を歩きながらでも薬草を採取できるようになったし、夕食を素早く作れるようにもなってきた。
そろそろ海辺の村に着くんじゃないかと思いながら、何時ものように街道脇にある小さな広場で野宿の準備をしていると、2人連れの旅人が広場に入ってきた。
2人で薪を集め終えると、1人が俺達の所にやってきた。
「すみません、火を切らしてます。火を分けてくれませんか?」
「あぁ、良いとも。だが、これも何かの縁。一緒に食事にしないか?」
「ありがとうございます」
そう言って、もう1人を呼びに言った。
若い男のようだ。俺とさほど歳が違わないような気がするな。
薪をもってやってきた2人は焚火を挟んで反対側に腰を下ろす。
「鍋は小さいんだが無理をすれば一緒に食べられるだろう。携帯食料は持ってるのか?」
「お恥ずかしい話ですが、昨夜が最後になってしまって、後は途中で仕留めた肉で飢えを凌いでます」
そう言って、薪を削ってバックから取り出した肉を刺して焚火で焼き始めた。
2本作っているが、到底足りそうもない。
それを見たシグちゃんが俺に目で訴えてる。
「後、1日も歩けば村に出る。俺達はそこで仕事をするつもりなんだ。幸い、携帯食料は十分あるから、その串1本を譲ってくれないか?代わりに夕食を提供する」
「ありがとうございます。ですがそこまでしていただくのは……」
「何、困った時はお互い様だ。ハンターなんだろ。ならば尚更だ」
鍋はそれなりの大きさだ。4人分は分けなく作れる。
一応聞いてみたのだが、やはり俺の勘は正しかったな。かなり疲れてるようだし……。
シグちゃんが夕食を作っている間に、ポットが湧いたのでお茶を勧めた。
カップも持っていないかと思っていたが、食器はちゃんと持っていた。
「この先の村ですか。俺達も村では暮らしたいのですが……」
男はそう言うと深く被った頭巾を下ろした。
ピョコンっと猫耳が出る。そして焚火に照らされた男の頬にはピンと張った数本の髭があった。
ネコ人間?
ちょっと驚いてシグちゃんを見る。
「差別ですか……。でも、ハンターなら」
「少しは減りますが、それなりにあるんです。
村を盗賊に襲われて妹を連れてやっと逃げたんですが、帰ってみたら村には生きた人間は誰もいませんでした。俺達の両親も殺されました。
何とか近くの村に行ってハンターとして薬草を採っていたんですが、誰も俺達を相手にしてくれません。何とか2人で2年は頑張ったんですが……」
たぶん俺達と似通ったいじめにあったのだろう。兄1人なら何とかなるかも知れ無いが妹がかわいそうだな。
「俺達も似たようなものだ。イネガルはけしかけられるし、俺達の仕事まで取り上げる始末だ。少し離れた場所で仕事をしようとこっちに来たんだ」
「そうでしたか。似たような境遇ですね」
「どうだ。俺達とパーティを組まないか? 2人でやってきたが、やはり2人では力不足だ。お前達も兄妹では大きな狩りは出来ないと思うが……」
「良いんですか? 宿にも泊まれなくなるかも知れませんよ?」
「その時は、野宿で構わないさ。幸い食料や武器は気兼ねなく買えることは確かだ」
「それなら、此方からお願いします。俺の名はレイナス。そして妹の名はファリスと言います。ようやく赤の7つです」
「俺がリョウで、こっちはシグリアだ。俺が赤の4つで、シグちゃんが赤の5つだ。まだ駆け出しだよ」
「それは構いません。ファリス、お前も挨拶したらどうだ」
「ファリスにゃ。ファーで良いにゃ、よろしくお願いするにゃ」
なるほどネコだな。
でも頭巾を取ったら結構美人だぞ。シグちゃん程では無いけどね。
食事が出来たところで、シグちゃんがスープとビスケットのようなパンを2人に分けてあげる。
レイナスはシグちゃんに肉の焼き串を1本渡してくれた。
ラビーという小さな獣の肉らしい。
それを俺と2人で分けて頂く。
塩だけの味付けだけどしばらく食べてなかったからな。ご馳走に思えてしまう。
2人はネコ人間ではなくて、れっきとしたネコ族と言う人種に当るらしい。
人間と違って素早い身のこなしと、勘の良さで知られているといっていた。その反面、力は人間よりやや劣り、魔力も高くは無いらしい。
「ですが、ファーには【メル】と【サフロ】だけは覚えさせました。何があるか分りませんからね。そして俺は片手剣を使います」
「似たようなものだ。俺が片手剣で、シグちゃんが魔法を使う。やはり、魔法は攻撃が少し遅れるから途中の村で弓矢を手に入れた」
「なら、私が教えるにゃ。私も弓を使うにゃ。さっきのラビーは私が獲ったにゃ」
「お願いするよ。正直、俺ではちょっとな」
「片手剣が2つに、魔法攻撃が可能な弓使いが2人なら狩りもかなり楽になるでしょう」
「そうだな。それから俺達は歳も同じ位だから、言葉遣いは普通で良いぞ」
「それは、助かる。意外と口調に苦労してるんだ。だが、村や町で他の者に話す時はそうもいかないんだ」
「なら、交渉は俺達に任せろ。必要なものをあらかじめ伝えてくれればいい。それと、報酬の分配なんだが、半分はパーティの費用だ。宿代や食事代はこれで払う。残りを均等割りという事で良いか?」
「確かにパーティならばそうなるだろう。俺達はそれで良いぞ」
俺とレイナスは互いに手を握る。シグちゃんとファリスも手を握ってた。
まぁ、似た者同志で仲良くやろう。パーティを解散する時にはパーティの費用を2つに分ければ良いだろうし。
「ところで、俺達は村に着いて1泊する位の貯えは持っている。レイナス達もそれ位はあるんだろう?」
「大丈夫だ。と言うことは一泊した次の日から仕事を始めるんだな」
レイナスの言葉に俺は頷く。
ゆっくり休んでからなんてことは出来ない。
俺がパイプにタバコを詰めると、レイナスもパイプを取出した。
そして、ファーちゃんがシグちゃんと一緒に席を立つ。
「行って来るにゃ!」
「あぁ、気を付けるんだぞ」
「分ってるにゃ!」
そう言って2人で広場から荒地へと出掛けて行った。大きな月が出ているから月明かりでこの場所を見失う事は無いだろうがどこに行ったんだろう?
「夜になると荒地にラビーが出るんだ。ファーはそれを狩りに行ったのさ」
「シグちゃんは、その見学って訳か……。狩りが上手く行くと良いな」
2時間程経ってシグちゃん達が帰って来た。ファーちゃんの手には1匹の野兎のように見える獣がぶら下がっている。たぶん、あれがラビーなんだろうな。
「どれ、血抜きをしてくる。近くでやると野犬が寄って来るからな」
そう言って妹から獲物を受取ると、広場を出て行った。
「凄いんだよ。100D(30m)程離れたラビーを1矢で仕留めたんだもの」
「それなら、シグちゃんも習いがいがあるな。直ぐには上手くならないかも知れないけど、頑張ればそれだけ当るようになるからね」
うんうんと頷いている。
早く弓を射たいのだろうが、それは俺達が定住してからになるかな。
焚火の晩は俺とレイナスが1人ずつ、そしてシグちゃん達は2人で行なう。
少し、寝る時間が増えたとレイナスが喜んでいた。それは俺にも言えることだ。
最初は俺が番をして、夜半にレイナスと交替する。
朝まで6時間は眠れるな。ありがたい話だ。
朝日で目が覚めると、とっくにレイナスは起きているようだ。
焚火の所に行くと、俺に気が付いてお茶のカップを渡してくれた。
「早いな、何時もこうなのか?」
「2人で旅をしていた癖だろう。シグちゃんだったか、あの子は中々みこみがありそうだぞ」
そう言って、少し離れた場所を指差すと、ファーちゃんに教えられて弓を引くシグちゃんの姿があった。
頬まで弓を引くとパシ!っと弦を放つ。少し離れた雑木の幹にシュタ!っと矢が突き立つ。
「さすが、エルフの血を引くだけのことはあるな。だが、まだまだ先は長いぞ」
「ハーフエルフか……。」
レイナスの言葉には同情の響きがあった。
やはり差別される場面を見てきたのだろうか?
そんな俺達の所に2人が戻って来た。
「リュウさん、起きたんですか? 直ぐに朝食を作りますからね」
「ありがとう。でもゆっくりで良いよ。今日中には村に着くだろうからね。それと、中々弓が上手だったよ」
見てたんですか!なんて言いながら恥ずかしがってるぞ。だが、結構当ってたよな。あれなら小さいのは無理でも、野犬位ならなんとかなるんじゃないか?
「やはり、エルフの血を継ぐだけのことはある。弓は天性だな」
「なら、少しは楽になるはずだ。ところで、俺達はパンドラというパーティ登録をしている。レイナス達は?」
「いや、登録はしていない。出来れば俺達もパンドラで登録したいが、構わないか?」
「良いぞ。これで4人のパーティだ。そうなるとパーティの一番上のレベルがてきようされるから、少しはマシな依頼がこなせる」
「そう言うことか。だが俺の方もありがたい話だ。俺とファーだけだったからな。群れだと手出し出来なかったんだ」
コイツも苦労してきたようだ。
確かに差別されてたとしたら、仲間と狩りをすることもかなわなかった筈だ。
これからは4人だから少しはマシな狩りが出来るということになるな。
朝食を終えて、俺達は街道に出て南を目指す。
今日中には着く筈だが、歩き出さないことには着かないからな。
途中で適当に休憩を取りながら歩いて行くと、昼過ぎに海が見えた。
「凄く大きいです! 初めて見ました。湖なんて問題じゃないですね」
「私も初めてにゃ。盛り上がって見えるにゃ。こっちに水が押し寄せてこないかにゃ?」
女の子2人は驚いてそんなことを言ってるけど、初めて何ら仕方ないかもな。
それに村までそれ程遠くは無さそうだ。
ともすれば足が早くなるのを押さえつけて、俺達はゆっくりと歩みを進める。
そして、まだ夕暮れには間がある時間に、もりの影に隠れた村を取り巻く丸太の塀を見つけることができた。
「今日は!」
「おぉ、ハンターか。この村にはハンターが余りいないんだ。長くいてくれるとありがたいんだがな。ギルドはこの道を真直ぐ、の左側だ」
老人の部類にもうすぐ入りそうな門番さんが俺達に教えてくれた。
門を潜って、伝えられたとおりに道を進んでいく。
たぶんメインストリートなんだろう。街道から石畳は村の中に続いている。
「これだな!」
「入ってみようぜ」
これから此処で暮らそうと言うんだからな。先ずは入って状況を見ないと……。
「今日は!」
そう言いながら半ば開いている入口からギルドのホールに俺達は入った。素早く中を眺めると、何処も変わりがないギルドのホールだな。
早速、此方を見ているカウンターのお姉さんの所に歩いて行く。