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リュウイのハンター・ライフ  作者: paiちゃん
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P-069 奥さんの嫁入り道具


 10日程は簡単な野犬狩りを引き受けてのんびりと過ごす。

 そんなある日、雑貨屋にタバコを買いに行くと、前に頼んでいたおさの話をしてくれた。


 「何とか作って貰えるようです。でも、値段が金貨1枚と言っていました」

 「それなら、頼んでくれないかな? 前金は必要なのかい?」

 「ハンターですから、ギルドが人物保証をしてくれます。筬が出来たら持ってきてくれると言っていましたから、その時にお支払いください」


 何に使うのか知りたいってことじゃないかな。普通の綿織物の1.5倍の緻密さだから職人さんも興味を持ったに違いない。


 タバコを2個買い取ると、さっさと番屋に戻り次の準備を始めることにした。

 レイナスが暖炉近くで糸繰用の枠を作っている。

 そんな彼にタバコを1つ差し出すと、紙袋から革のタバコ入れに中身を移している。パイプを取り出して、早速タバコを詰めると暖炉で火を点けた。


 「どうだった?」

 「ああ、返事が届いたようだ。やはり王都だけあって請け負ってくれる職人がいたみたいだ」

 「そうなると、いよいよ布を織ることになるんだな」

 

 感慨深くレイナスが呟いてるが、まだまだ道のりは長く険しいぞ。

 経糸は何とかなるかも知れないが、問題は織機にある。綿織用の織機はあるようだが、絹用ではないからな。基本は同じだと思うが結構高そうだぞ。

 出来れば作ったほうが良いのかもしれない。お婆さんの家にあった織機はそれ程大きくなくて、お婆さんが織っていたのを見たことがあるからな。

 確か枠組みは柱のような木製だったぞ。レイナスは結構器用だから、見れば作れそうな気がするな。


 「ちょっと出掛けてくるよ。ギルドのミーメさんに相談してくる」

 「明日は狩りは休む日だからな。ついでに依頼書は持ってくるなよ」

 いつの間にか、互いにタメ口を言えるような仲になってきたな。

 「分かってる!」と微笑みながら答えると、彼もにこりと顔をほころばせる。


 ギルドの扉を開けると、ミーメさんだけがカウンターで編み物をしている。昼近くだから、ハンター達は獲物を追い掛けているころだろう。


 「あら? 今日は狩りをしないの」

 「2日程体を休めることにしました。今のところ、問題はないんでしょう?」

 「そうね。森も第1広場や第2広場辺りでは、ガトルはおろか野犬も見えないみたいよ。第3になると、そうでもないらしいけどね」


 なら、初心者ハンターには安全ってことだな。第3広場の奥に向かうようなハンターなら少なくとも青や黒が同行しているはずだ。

 そんな話をしながら、織機について聞いてみた。

 

 「織機なら、お爺ちゃんの家にあるわよ。お婆ちゃんが私が小さい頃使ってたのを見たことがあるわ。見たいなら、リュウイ君だったら、喜んで見せてくれるわよ」

 

 これは良いことを聞いたぞ。

 ミーメさんに礼を言って、直ぐにサルマンさんの家に向かう。

 手土産は無いけど、そんなことに目くじらを立てる人じゃないからな。


 トントンと扉を叩くと、直ぐに扉が開かれた。

 「あのう……、どなたでしょうか?」

 

 扉を開けてくれたのは40歳過ぎのご婦人だった。思わず、家を間違えたのかと思って、一歩引いて周囲の家を確認する。間違ってはなさそうだ。


 「リュウイと言います。こちらのサルマンさんの奥方に会わせて頂きたいのですが」

 舌を噛みそうな言葉を言っていると、奥からドシドシと音を立ててサルマンさんが歩いてきた。


 「どんな客かと思ったら、リュウイじゃねえか。さあ、入れ入れ!」

 サルマンさんの知り合いだと納得してくれたようで、ご婦人は不審がる様子もなく俺を中に入れてくれた。


 リビングのテーブルに案内されて、サルマンさんの向かいの席に着いた。

 「あの糸は気に入った。確か秋にも採れるはずだから、また作ってくれ。次はちゃんと支払いをするからな。あの釣り針を見せたら、鍛冶屋がやる気を出してたぞ。「俺達に作れないのが何でハンターに作れるんだ」とな。この村の漁師暮らしも数年前から比べればだいぶ良くなってきた」


 サルマンさんの話を聞いていると、奥からサルマンさんの妻と先ほどのご婦人が現れた。

 「あらあら、お茶もお出ししませんで。リエル、直ぐにお茶を……」

 そう言ってサルマンさんの隣に腰を下ろす。ふくよかな感じの良いお婆ちゃんだ。


 「糸は何とか工面したいですが、ちょっとお願いがあってやってきました。サルマンさんじゃなくて奥さんの方にです」

 「あら、何かしら?」

 「実は……」


 何とか布を織る為の筬について見通しが立ったので、こちらにある織機を見せてもらいたい。それを元に1台試作したいことを話した。

 話が終わるころに、皆の前にはお茶のカップが並んでいる。リエルと呼ばれたご婦人もサルマンさんの奥さんの脇で俺の話を聞いていた。


 「確かに私の家には織機があります。ミーメが良く覚えていたものだわ。もう15年以上あれを使ったことがないもの」

 「リエルは使えるのか?」

 「いいえ、そんな暇は無いし、服なら買ったほうが楽よ」


 そんな言葉にサルマンさんの奥さんが溜息をつく。

 「あなた……」

 「そうだな。リエルが使わなければ、単なる邪魔物でしかない。ミーメもちゃんとした職に就いてるから、あの織機を使うことはなかろう。……リュウイよ。織機はお前達に譲ろう。お前達なら、あの織機を役立ててくれるに違いない。上手くいけばそれなりに村の利益に繋がるからな」


 サルマンさんの言葉に奥さんが頷いてるけど、隣のご婦人は納得していないようだぞ。

 「お父さん、あれはお母さんの嫁入り道具なんでしょう? この少年に譲っていいようなものじゃないと思うけど?」

 「お前が金銭的な事を考えているなら、この少年は十分に俺達の苦労を助けてくれた。それは、……良いか。金貨10枚では足りないくらいの恩恵だ。お前も昨晩村の共同浴場に出掛けただろう。あれを作ったのは、この少年達だ。それに、今年はジラフィンを2頭も手に入れている。それもこの少年達が工夫してくれた仕掛けによるものだ。本来なら、織機など新たに購入してこいつ等に渡したいぐらいだが、受け取らんだろう。こいつらも金では苦労したに違いない。なるべく自分達で工面しようとしてるぐらいだからな」


 そんなサルマンさんの言葉に、改めて俺を見ている。何かを思い出しているようだ。


 「王都でリュウイという名を何度か私達の店で聞いたことがあるわ。ガリナム様と確かイリスさんもその名を口にしていたわ。気鋭のハンターだと思ってたんだけど、少年だったのね」

 「ガリナムがリュウイ達を王都に行かせたがっていたが、こいつ等は断ったようだ。ワシもこいつ等が村にいてくれると色々と助かることも確かだ。単なる、ハンターでも漁師でもない」


 そう言って笑ってるけど、いつの間にかお茶のカップがお酒のカップに変わってるぞ。


 「一つ分からないわ。なぜ、ハンターが織機を欲しがるのかしら?」

 「夕べ、釣り糸を見せてやったな。これで、布が作れたらとお前は言ってたはずだ。リュウイがしようとするのは、そういうことだ」


 今度はご婦人の顔が驚きに変わった。ぽかんと口を開けて俺を見ている。

 「まあ、物は試しって言葉があるぐらいだ。織機は明日にでも届けてやろう。頑張れよ!」

 サルマンさんの言葉に、改めて俺は頭を下げた。


 番屋に帰ると、既に食事の用意が出来ていた。

 魚の切り身が入ったスープに、柔らかな黒パンはちょっと贅沢に思えるな。

 

 「どうだったんだ?」

 「織機はサルマンさんの奥さんが俺達に譲ってくれるそうだ。ちゃんと作れないと申し訳が立たなくなってきたぞ」

 「だが、貰えるなら助かることも確かだぞ。少し改造するだけで済みそうだ」

 

 いよいよ後がなくなってきた感じだな。

 だが、その前に糸繰の作業をしなければならない。

 それは、昼食が終わってから始めよう。だいぶレイナスが枠を作ってくれたからな。


 昼食を終えたところで、テーブルを片付けると、部屋の真ん中の炉に炭を入れて火をおこす。

 大きな土鍋は昔の番屋にあったものだが、たっぷりと水を入れてゆっくりと温度を上げる。

 温くなったところで繭を20個ほど入れてさらに温度を上げる。

 糸繰り機を炉の近くに据えると、枠を取り付けて繭の糸が解れてくるのを待った。


 しばらく待っていると、繭の周囲に糸が解けてきた。かなり解けたところで数本の棒を束ねたもので鍋の中をかき混ぜるようにして糸を取る。


 「良い感じだ。これを糸繰り機で巻き取るんだ」

 「分かったにゃ。私とシグちゃんで頑張るにゃ!」


 クルクルと糸繰り機の枠に糸が巻き取られていく。最初の糸作りから比べると、撚りがあまり掛かっていない気がするが、最初だから仕方がない。先ずは色々とやってみて改良して行けばいいだろう。


 「繭が透き通ってきたら、新しく繭を入れてくれ、糸が細いと思ったら、ちょっと作業を中断して改めて、これで掬い取ってくれれば良い」

 「結構、面倒なんだな」


 レイナスはファーちゃんが楽しそうにクルクルと回している糸繰り機を見ながら呟いた。

 そんなレイナスを連れて釣竿を担ぐと岩場に釣りに出掛ける。

 また、グチヌが釣れれば良いな。

 俺達が岩場に着くと沖合に船が2隻、潮の流れに乗って釣りをしている。

 200mほど沖合だから、ここで釣っても迷惑にはならないだろう。

 、レイナスと一緒に岩場の貝を採って、少し残して叩いて海に投げ込む。残った貝の身を釣り針に付けて仕掛けを投げ込む。

 今夜も、魚のスープになりそうだな。

 

 夕暮れまでに釣れたのは5匹。まあ、4人暮らしだから焼き魚とスープに出来そうだ。

 帰ると、レイナスが魚を外の炉の近くでさばき始める。俺は、番屋に戻って2人の様子を見ることにした。

 

 「だいぶ出来たじゃないか!」

 「ああ、リュウイさん。戻ったんですね。まだ半分ぐらいですけど、全部やっても今夜中には終わりますよ」


 すでに10個程の糸を捻った束がファーちゃんの後ろに束ねてある。

 「少し、横糸も作っといたほうが良いかもな。ザル1個分ぐらいは残しといて欲しい」

 「分かりました。今から取り分けときます。それと、この蛹は(さなぎ)はどうしましょうか?」


 ザルに山盛りだな。

 「捨てずに、置いといてくれないかな。干して、粉にすると別な使い道があるんだ」

 

 サナギ粉は集魚力に優れてるって聞いたことがある。

 呼び餌として使えるかも知れないぞ。



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