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リュウイのハンター・ライフ  作者: paiちゃん
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P-067 案山子を作ろう

 酔っ払って俺達の番屋に帰り着いた時には、既にシグちゃん達は寝ているようだ。シグちゃん達もあの場にいた筈なんだけど、早々に引きあげたようだな。

 暖炉のポットで渋いお茶を飲みながらレイナスとパイプを楽しむ。まだ、目が冴えているから、少し2人で話し合おう。


 「やはり、漁師の人達の暮らしも大変みたいだな」

 「ああ、ファー達に内職の話を持って来てくれたぐらいだ。俺達は何とか暮しているが、やはり漁師村の冬は厳しいんだろうな」

 

 シグちゃんも頑張って靴下を編んでいたな。ガタイの良い漁師さんも編んでいると聞いたぞ。冬の漁はそれほど獲れないのかも知れないな。


 「サンガの糸があれば、少しは漁獲が増えるかも知れないけどな。やはり、サンガの糸で布が作れれば村の暮らしはだいぶ変わるんじゃないか?」

 「だが、かなり難しい事は確かだな。明日は縦糸を作ってみるか? それに、糸が細いから木綿を織る織機を改造する必要があるんだよな」

 

 そんな改造は必ずしも上手く行くとは限らない。サルマンさんは金銭的な支援は俺がすると言ってはくれたが、やはり俺達でやろう。俺達を受け入れて、仲間として扱ってくれるんだ。せめてもの恩返しとしたいな。


 「サルマンさんはあんな事を言ってたけど、俺達で何とかならないか?」

 渋いお茶に体をブルっと震わせながらレイナスが呟いた。

 彼も俺と同じ思いか……。なら、何とかしないとな。


 「ああ、俺だってそのつもりだ。レイナスには糸繰り機を作って貰おうかな。縦糸を作るんだが、一体いくつ作れば良いか分からないから、出来るだけたくさんになるな。2カゴ背負ってきたんだから、十分な糸が取れると思うんだけどな」

 「まあ、やってみないとな。俺は良いぞ。糸繰り機の仕組みを教えてくれ」


 十字に枠を組んで、枠を閉じられるようにしておく。その枠をクルクル回るような軸を別に作れば良いと教えてあげる。

 「こんな感じだな……」

 「この取っ手で回るんだな。枠が閉じるのは糸を取り出せるようにしているからだろう。何とか作れそうだ」


 「俺は武器屋に注文だ。たぶん一番面倒な加工だけど、王都のドワーフなら何とかなりそうだ」

 「何を作るんだ?」

 「糸を上下にあげる仕組みと、横糸を押さえる道具だ。綿織物用はあるんだろうけど、それよりも目が細かくなるからな」


 そんな話をして俺達は何時の間にかリビングで寝てしまったようだ。

 次の朝に、シグちゃんとファーちゃんに散々小言をいわれたけど、まあ、酔っ払っていたと誤魔化しておいた。


 「そうだ! シグちゃん、金貨を1枚貸してくれないかな?」

 「たぶん、糸作りの道具を買うんでしょう。貸すのではなく、使ってください!」

 「俺達も賛成だ。たぶん面倒な物を作るんだろう。金貨1枚で足りるのか?」


 シグちゃんが取り出した金貨の上に、レイナスが金貨を1枚乗せた。

 どれだけ費用が掛かるかは分からないんだよな。少なくともおさはそれだけで財産だと聞いた事があるぞ。後は糸を上下させる機構だが、細い針金で加工できるだろう。問題はどれだけ縦糸が必要かってことだよな。

 

 前に購入した反物の切れ端を取り出して縦糸を数えてみる。

 20本毎に縦糸を結んでおけば、もう1度数え直すときに役立つだろう。そんな工夫をして数えた本数は800もあったぞ。長さは約45cmほどだから、1cmに17本の縦糸が使われている勘定になる。

 サンガの糸はカイコ並みだからな。1.5倍にはなりそうだな。45cmで1200本。それ位は必要だろう。一旦織ってみて最終的な本数を決めればいいか。


 「織機はそれ程作るのが難しいとは思わない。縦糸を上下させる機構が難しいけどね。それは木綿用の織機で何とかなるはずだが、横糸を走らせて、それを縦糸に打ち付ける道具が面倒なんだ」

 「知ってるにゃ! バタン、バタンって手前に叩くくしみたいな道具にゃ」

 「それを作るのが大変なんだ。この布を織るための櫛目の数は800個以上だ。これと同じ横幅で、繭から採った糸を織るには1200個以上必要になる。このお金で王都の職人に注文してみるが、不可能な場合は諦める事になるな」


 数の多さに3人とも驚いているようだ。しばらくは声も無い。

 「ここまでやったんだ。やはり最後までやってみようぜ」

 レイナスの言葉にシグちゃん達が慌てて頷いてくれた。


 雑貨屋に行って、織機のおさについて、特注が可能かを聞いてみた。

 「結構、色々と注文があるみたいですね。王都には専門の職人さんがいるみたいですよ」

 「俺が作りたいのは、普通の大きさで、目の数が1200なんだけど……」

 お店の娘さんが、思わず口に手を当てる。ハゥって小さな声が漏れてるぞ。相当

驚いてるな。

 「先ずは確認を取らせてください。果たして引き受けられる職人がいるかどうか?」

 「ああ、俺もそれを心配してたんだ。予算は金貨2枚なんだけど、それ以下で引き受けてくれればありがたいな」

 「木綿用なら、銀貨30枚と聞いた事があります。特注しても金貨1枚は必要ないとは思いますけど、それも確認してみますね」


 10日程で返事が聞けるそうだ。

 それまでは、本来の仕事をしようか? しばらく狩りもしてないからな。


 ギルドに寄って、依頼書を確認する。

 夏が近付いているから、畑の害獣退治が多いようだ。

 そんな中で、ヤクー狩りの依頼書があった。前にもやったことがある、小型の鹿のような獣だ。あれは森の中だったけど、これは畑の中みたいだぞ。

 数はいくらでもという事だから、畑から追い払うのが目的のようだ。50Lの報奨金がヤクー3匹以上で確約されている。肉は肉屋に売れるから、これは美味しい依頼なんじゃないか?


 依頼書を剥がして、ミーメさんのところに持って行った。

 「あら、リュウイ君達が受けてくれるの? 2日前にこの依頼を受けたハンター達ががいたんだけど、ようやく1頭だったのよ。畑を荒らされて、農家の人はカンカンだったわ。でも、リュウイ君達ならだいじょうぶかもね」

 そんな事を言ってドン! と確認印を押してくれた。

 それ程難しい狩りには思えなかったんだけどな。


 番屋に戻ってみると、レイナスが糸を繰る道具作りをしていた。たぶん似たものを昔、村で見たことがあるんだろう。そんなレイナスを後ろからファーちゃんが懐かしそうな顔をして見ている。


 「おう、帰ってきたな。どうだった?」

 「先ずは王都に確認するそうだ。やはり専業の職人がいるみたいだな。彼らに可能か否かを確認してくれるそうだ。……そうだ。帰りにギルドに寄ってきたぞ。ヤクー狩りの依頼書があったんで受けてきたんだが」


 そう言って、バッグから依頼書をとりだして広げると、レイナスが作業を中断して、ジッと眺めている。この依頼書は拙かったのか?


 「リュウイは、ヤクーをあまり知らないようだな。この依頼書は、1度ハンターが受けて失敗しているようだ。確認印が2つ押してあるからな。だが、受けた以上は頑張らないと」


 そう言って、作り掛けの糸繰り機を片付けて、パイプを取り出した。

 シグちゃん達が部屋の隅にあったテーブルを運んで、皆にお茶のカップを出してくれた。俺もパイプを取り出して、何故この依頼が難しいかをジッとレイナスの言葉に耳を傾ける。


 ぽつりぽつりと話すレイナスの言葉を繋げると、どうやらヤクーは周囲の遮蔽物の量によって臆病の度合いを増すらしい。

 森の中では30m位までは容易に近付けたが、開けた場所では200D(60m)も近付けば逃げてしまうとの事だ。


 「そうなると、前みたく近付いてクロスボウで一撃ってわけには行かないんだな」

 「ああ、それがこの依頼の難しいところだ」

 

 「でも、どこに逃げるかは分かってますよ。森の方向に向かって逃げるんです」

 シグちゃんが美味しそうにお茶を飲みながら教えてくれた。

 「そうなるな。だけど、どこで待伏せすれば良いか分からない。森と言っても東は全て森だからな」


 う~ん……。そこまで分かっていながら待ち伏せが出来ないって事は、東の範囲が広過ぎるんだな。逃げ道を限定させれば待伏せも有効って事になりそうだ。


 「人影に脅えるってことだよな」

 「ああ、そうだ。……何か良い考えがあるのか?」


 テーブルに紙を広げると、簡単な地図を書いた。畑の場所と、森の縁を簡単に描いていく。

 畑の一角に『×』を付ける。これがヤクーの群れになる。


 「俺達が四方から囲んでも、その隙間を森に逃げるってことだろう。なら、あらかじめ、こことここに人影があれば、ヤクー達はこの方向に逃げる事になる。ここでシグちゃん達が待伏せすれば、少なくともボルトを2本撃つ事ができるぞ!」

 

 そう言って皆の顔を見渡しながら微笑んだ。

 「待ってください。この作戦の有効性は理解できます。でも、この人達をどうやって集めるんですか!」

 シグちゃんの抗議にレイナス達も頷いている。


 「人を雇うとなると、立ってるだけでも1日20Lは必要だぞ。数人となると、銀貨が必要だ」

 「別に人を雇わずにも済むと思うな。さっきの話では人影を見るだけで逃げ出すんだろう? なら案山子かかしで十分だ」

 

 俺の言葉の意味が理解できないんだろうな。3人で俺を見ている。

 「そういえば、この辺りで見た事が無いな。木の棒でこんな形を作って、俺達の服を着せれば遠目では人に見えるだろう? これが案山子というものなんだ」

 

 さっきの紙に簡単な案山子の絵を描いて見せる。

 その絵を複雑な表情で3人が眺めているぞ。


 「確かに服を着せれば遠くからでは人に見えるかも知れないな」

 「おもしろそうにゃ!」

 「やってみましょうよ。古着があれば十分なんでしょう?」


 シグちゃん達が部屋に戻って古着を見繕っている。俺達はパイプを片手に、作り方をもう1度レイナスと確認し始めた。


 「囮ってのは聞いた事がある。だが、これは囮では無いよな。どちらかと言うと、使い方が逆だ。相手を追い払うのに使うのか」

 「俺の国では畑に立ってたよ。害獣避けになるらしい」

 

 パイプを咥えながらレイナスが案山子の設置場所を検討している。

 「出来れば5体作りたいな。逃げる方向をこっちに誘導したところで、最後にファー達の射点に向かわせたい」


 そうなると、俺達の古着も提供しなければなるまい。2人で目を合わせると頷き合って、それそれの部屋に古着を探しに向かった。

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