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リュウイのハンター・ライフ  作者: paiちゃん
65/128

P-065 糸作り

 夕食後に、買い込んできた糸車を持ち出してじっくりと眺める。

 少し形は変わってるけど、お祖母ちゃんが使ってた糸車と同じように使えるな。

 糸巻をセットして、大きな車を手で回すと、革紐で連結された糸巻が勢い良く回りだす。


 「やった事があるんですか?」

 「いや、見てただけだよ。だけど、せっかく手に入れたんだからね。レイナスも手伝ってくれるか?」


 「ああ、良いぞ。上手く行ったらおもしろそうだ。ファーは少しやった事があるんじゃないか?」

 「やり方は教えて貰ったにゃ。でも、綿がないにゃ」

 「これさ。これから糸を作るんだ。明日やってみようよ」


 ザルに載せられた繭を見て、3人が疑いの目で俺を見てるけど、俺だって上手く行くとは思ってないんだよな。まあ、何事も経験だからね。


 次の日。食事を終えると、早速準備を始める。

 番屋の外に作った炉に火を焚いて、布袋に入れた繭を浸して茹で上げる。

 袋が浮かないように袋の上に小枝を乗せて石を乗せておいた。

 本当なら、繭を取ってきて直ぐにやるべきなんだろうが、俺達はそれ程余裕がないからな。

 1時間ほどしっかり茹でたところで、袋ごと水で何度も濯ぐ。

 

 「これはどれ位やるんだ?」

 「繭の汚れが取れるまでだ。最初と比べてだいぶ綺麗になったから、そろそろ終わりで良いぞ」


 次ぎは、繭の中の蛹を取り出して繭を広げるんだが、これもちょっとした工夫が必要だ。

 「少し面倒なんだが、繭の上の方は糸が薄いんだ。そこを指で広げるようにすると……、ほら、繭が開いたろ! そしたら、大きく開いて中の蛹を取り出すんだ。そして、もっと広げる……。そしたら、俺に渡してくれ」


 お湯を入れた桶を2つ並べて、レイナスがお湯の中で繭を開いて、その開いた繭を俺が同じようにお湯の中で数枚重ねるようにしてハンカチ程の大きさに広げていく。

 広げ終わった繭を棒に並べてシグちゃん達が陰干しをしてくれる。

 かなり原始的だが、これで繭の糸を紡ぐ準備が出来た。


 10枚程並んで軒下に干された繭を見ながら、レイナスと一服を始めた。シグちゃん達は桶や土鍋を井戸で洗っているようだ。


 「俺の住んでいた村では、綿を織っていたが……。だいぶやり方が違うな」

 「そうでもないさ。繭を解して重ねた塊が乾けば、綿と同じようになるはずだ。その後の作業は綿と同じだと思うな。少し、違うのは繊維の太さが繭の方が細いだけだ」

 「なら、なんとかなりそうだ。明日の狩りではたくさん繭を取って来ようぜ」


 レイナスは辛い冬の狩りをしないで済むようにファーちゃん達の仕事を作ってやりたいようだ。上手く行けば良いんだけどね。

 

 次の日、ギルドに行くと掲示板で森の狩りを探す。

 レイナスに任せて俺達はテーブルの方に移動すると、荒地で会った6人組みがテーブルでお茶を飲んでいた。ローエルさん達と一緒にどうやら狩りの仕方を教えて貰っているらしい。

 

 「良いところに、やってきたな。リュウイ達は白だが、お前達の時分から工夫でいろんな狩りをやってきた。レベルが低くても工夫次第でかなりレベルの上の狩りが出来る事を証明しているような連中だ。ギルドもそんな彼らに4つ上のレベルまでの狩りを許可している」


 そんな話をするから、俺達を尊敬の目で6人が見ているぞ。


 「だが、彼らの狩りを真似る事は赤では無理だ。青クラスなら喜んで真似るに違いない。それ位特殊な技能がいるぞ。

 それでも、野犬なら彼らのやり方が参考に出来る。リュウイ、野犬20匹をお前達ならどうやって相手にする?」


 ここに座れ、と手で合図しながらローエルさんが話を終えた。隣のレビトさんが微笑みながら俺を見ている。


 「そうですね。俺達は4人ですから、シグちゃん達の安全を先ずは確保します。後ろを茂みや潅木にロープ張れば奴等の足止めが出来ますからね。その前にレイナスを置けば十分彼女達を守って貰えます。前面に俺が立ち、向かってくる野犬を棒で叩き、ファーちゃん達がボルトを放てば、20匹なら問題はありません。野犬は小さな獣を切り裂いてばら撒けば寄って来ますから、迎撃が有効です。ガトル狩りも基本的には同じです」


 「と言う事だ。リュウイ達は3段に構えて野犬狩りをしている。考えすぎのような気もしていたのだが、将来のガトル狩りを考えれば連携の練習になるだろう。それに、リュウイ達の狩りは怪我人が殆ど出ない」

 

 俺の言葉に続いて、ローエルさんが話を続ける。

 「要は、工夫だ。それが出来ないハンターは黒には昇れないぞ。依頼を受けて直ぐに出発するのは慣れた獲物であればそれで良いだろう。だが、初めての狩りならばレベルの上のハンターに聞くのが一番だ。聞かれたハンターは自分達の狩りの仕方を教えてくれるだろうが、それと同じ狩りが出来るかを先ずは考えてみる事だな」

 

 村の筆頭ハンターともなれば、後進のハンターを指導するのも仕事の一つになるんだろう。筆頭というステータスに伴うボランティアのようなものなんだろうが、大変だな。

 そんな俺の後ろにレイナスが立っていた。依頼を受けたんだろうか?


 「仲間がやってきたという事は、依頼を受けたんだな? 何を受けたんだ」

 「サフロン草を50個です。森には別の用があるんで、簡単なものを受けました」

 

 レイナスの答えに、ローエルさんがおもしろそうに俺を見た。

 「また、何か企んでするな? まったく、ガリナムが気に入るわけだ。邪魔をしたな。頑張れよ!」


 「それでは」と返事をして俺達はギルドを出る。

 どうやら、6人組みは野犬狩りをするらしい。少し大きな群れらしいからローエルさんに相談したんだろう。王都からやってきた割には、謙虚な連中だから村人とも上手くやっていけるんじゃないかな?


 森に着くと、先ずは依頼の薬草採取だ。採取しながら見つけた繭を用意した袋に集める。その夜は森に野宿して、2日目は本格的に繭集めを行ない、8個用意した袋にたっぷりと集めたところで、村に帰ってきた。


 番屋に帰ると、直ぐに袋ごと沸騰した鍋に入れて良く茹でる。

 細かな作業は明日にしても、蛹を殺して汚れを取るまではやっておく事にした。


 「レイナス、次の作業に必要な物を作るから、繭の陰干しまでやっておいてくれないか?袋2つ分頼みたいんだが?」

 「ああ、良いぞ。やり方は分かったし、リュウイがやってた事も良く見ていたからだいじょうぶだ」


 明くる日、朝食を終えるとレイナス達が外の炉で作業を始めた。俺は、村の雑貨屋に出掛ける。


 「あのう……。こんな道具ってありますか?」

 簡単な絵を描いて説明したんだが、どうやら見たことは無いようだ。綿織物があるなら糸繰り機ぐらいあると思ったんだが、これは作るしか無さそうだな。

 大工の棟梁の家に出掛けて、同じ絵を見せて説明すると使い方は理解出来なくとも、作る事は出来ると言ってくれた。銀貨3枚を渡して、明日取りに来ることで交渉が成立したところで番屋に戻る。

 番屋を新築した時に余った板と柱で糸紡ぎに必要な繭を押さえる道具を作る。繭を広げて乾かした物を引っ掛けておくだけだから、作るのは比較的簡単だ。

 

 昼過ぎになって、レイナスの作業が終わったようだ。俺達の投槍の柄を使って軒下に干したようだ。

 リビングに帰って来たレイナス達が俺の作っている道具をおもしろそうに見ている。

 

 「中々道具が必要なんだな」

 「面倒だから、誰もやらなかったんじゃないか? もし、布になったら値段が付けられないと思うぞ」

 「それ程のものか?」

 「ああ、あの繭の光沢を持つ布が出来るんだ。最初の布はガリナムさんに贈ってみたい。おもしろい反応が帰って来ると思うな」


 たぶんガリナムさんは奥さんに見せるだろう。男にはその布の価値は分らないが、奥さんには分かるだろう。香油のお返しにシグちゃん達に綺麗な服を届けてくれた位だからな。

 

 夕食を終えて、いよいよ糸作りに挑む。

 最初に作った陰干しの繭は十数個だけど、練習にはこれで十分だろう。

 糸車を部屋の隅から運び、俺の作った陰干し繭の固定台を並べる。そんな光景を、レイナス達が興味深々眺めている。


 台の柱に陰干しした繭を巻きつけて、その端を指で摘んで引き伸ばす。ス~と伸びたところで指先で撚りを掛けると糸になる。


 「繭が糸になったにゃ!」

 驚いたファーちゃんが俺のところに寄ってきてその糸をジッと見る。

 「後は、綿から糸を作るのと同じだよ」


 そう言って糸巻機のボビンに引き伸ばした糸を巻きつけた。

 引き伸ばしては巻き取る。この繰り返しは大変な作業だな。糸の太さが一定にならないのも問題だが、途中から変わってくれたファーちゃんは、慣れた手つきで糸を作り出していく。

 俺と、どこに違いがあるのだろう?

 そんな思いでファーちゃんの作業をパイプを咥えながら眺めていると、ポン! とレイナスが俺の肩を叩く。


 「ファーは村の手伝いをしてたんだ。やはり経験は大事なんだな」

 「凄いです! 私にも出来るでしょうか?」

 「教えてもらえば良いよ。俺は不器用だからな。あんなに綺麗に糸が出来ないみたいだ」

 

 シグちゃんがファーちゃんと交代して糸を紡いでいるんだが、俺の立場がないんだよな。ファーちゃんより腕は落ちるけど一定の太さで糸が巻き取られていく。

 

 「レイナス。釣り糸が出来たぞ。竿はあるんだろうか?」

 「だいじょうぶだ。ザルの細工用に何処からか運ばれて来ているタケを使う。長さは20D位だが細くて細工に使えないようなのも紛れているらしい」


 竹があるのか? 確かに魚の開きを広げたザルは竹細工だったな。細工用に長期間乾燥されているなら理想的ではある。

 もう少し経てば、レイナスと一緒に、魚釣りが出来そうだ。

 足りないものは、釣針か……。針金で作ってみるか。

 簡単な形を作って暖炉の火で焼入れをすると、ヤスリで形を整える。ちょっと大きいけど釣針なんて売ってないからな。数本作って準備完了だ。重りは小石で良いし、浮きは棒で十分だろう。

 そんな俺の作業を見ながらレイナスがお茶を入れてくれた。


 「リュウイと一緒だと、退屈は無いな。それで釣れるのか?」

 「針が問題だけど、1日2匹も釣れれば十分だ。俺達はハンターであって漁師じゃないからな。自分達で食べる分を釣るならサルマンさんだって大目に見てくれるさ」


 互いの領分を超える事は相手の了承を得ることが必要だろう。海は漁師さん達の狩場だ。俺達の趣味でやる釣りならば一応サルマンさんに話しておけば問題ないだろう。


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