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リュウイのハンター・ライフ  作者: paiちゃん
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P-057 夜の森を逃げるもの


 「今頃は仲間と飲んでるのかな?」

 

 季節は冬だ。夕食が終ってのんびりと蜂蜜酒のお湯割を皆で飲んでいる。

 小屋の中で天幕を張るのはどうかと思うが、これで隙間風を防げるから、風邪をひくことないだろう。

 フェイズ草の球根は3個手に入れているから、万が一、誰かが熱を出しても安心だ。

 冬の罠猟を明日から始めようという事で、今夜はのんびりとしているのだが、そんな時にレイナスが先程の言葉をふと漏らした。

 

 「そうだな。あれから10日は経つから、仲間と合流して辺境の村に出かけたんじゃないか。もしかしたら既に次ぎの村に着いて、俺達を思い出しながら飲んでるかもしれないな」


 パイプを取り出して囲炉裏で火を点ける。

 そんな俺達を見ながら、シグちゃん達が微笑んでいる。たまにカップの酒をチビチビと飲みながら編み物をしてるんだから器用なものだ。

 たぶん、俺達と同じように仲間と酒を酌み交わす姿を想像してるに違いないな。

 だが、黒レベルのパーティを動かすガリナムさんにも興味が尽きない。

 最初は、頼りになるハンターだと思っていたが、毒矢の時は薬剤ギルドの連中を連れてきた。そして、突然のイリスさん達の派遣……。ひょっとして、王国内のハンターが偏らないように調整しているのか? だとしたら、この村の筆頭ハンターであるローエルさんとも交流があるのも頷ける。


 「どうした?」

 「ああ、イリスさんの親父さんの事を考えてたんだ。ひょっとして、ハンターの偏りを調整する仕事をしてるのかもしれないな」

 

 「まあ、俺達にはあまり関わりが無さそうだ。ようやく白の連中を使う事は無いだろうからな。この間のガドラー騒ぎも、結局はイリスさんを頼りにしてたんだと思うぞ」


 レイナスも考えてはいたようだ。

 それに、確かに彼の言うとおり、俺達は白の低位だからな。ガドラーを単独で狩るような依頼は受けることすら不可能だ。

 今年の冬も、罠猟をしながら野犬やガトルを狩ればいい。カゴを担いでいけば、焚き木も取ってこれる。冬はそれなりに寒いからな。風呂や囲炉裏に結構使いそうだ。

                 ・

                 ・

                 ・


 レイナスが新ためて作りなおした罠は20個だ。

 それを2人でカゴに入れると、4人で森へと急ぐ。俺達の狩場は第2広場の周りだから、他の罠猟をするハンターと競合することもない。俺達よりレベルの高い連中は、罠を仕掛けに第3、第4広場へと出掛ける。

 森の奥のほうなら獲物が豊富だろうが、それだけ危険な獣がいる事も確かなのだ。俺達はそんな危険を犯すような事はしないつもりだ。

 何と言っても、住む家がある。宿代が掛からないから、薬草採取だけでも暮らしていけるような気がするな。


 綿の上下に、シグちゃんが編んでくれたセーターを着込む。その上に革の上下を着てマントを羽織る。マントは布が裏打ちされた革製のものだ。

 ブーツを履いて、頭にはひさしの付いた皮製の帽子を被る。耳カバーまで付いてる優れものだ。俺とレイナスはマントの下に剣を背負い。シグちゃん達はマントの背中にクロスボウを背負っている。メイスはベルトに挟んでるんだろうな。

 

 「さて、出掛けるぞ。罠を仕掛けて広場で今夜は野宿だな」

 

 レイナスの言葉を合図に俺達は家を出て通りに進む。

 槍を杖代わりに持ってカゴを担ぐ俺とレイナスはあまりハンターには見えないだろうな。後を2人でおしゃべりしながら付いてくるシグちゃん達の方がはるかにハンターらしく見えるぞ。

 

 「お前達が最後だぞ。ハンターなら早起きじゃろうが?」

 「今日は第1広場で罠を仕掛けるだけだからな。明日には帰ってくるよ」

 

 広場の番人の爺さんとレイナスが話をしてる。

 気さくな爺さんだからな。元はハンターだったらしいけど、どれ位のレベルまでいったんだろうか? 今度ミーメさんに聞いてみようかな?


 街道へ抜ける道の両側に荒地が広がってきたところで進路を東に取る。

 ここから歩けば午後には森に着けるな。

 結構着込んでるから、汗をかかないように気をつけながらのんびりと歩く。

 

 第1広場に着いたのは、昼を大きく過ぎていた。

 運んで来た罠を全てレイナスのカゴに入れて、広場を周りながらレイナスが罠を仕掛ける。俺達は空いたカゴに焚き木を集める。


 罠を仕掛け終わる頃には、カゴ一杯の焚き木が集まった。

 焚き火を作ると、槍を組み合わせて三脚を作る。鍋を吊ると、お茶のポットを焚き火の近くに置いておく。


 「獲れるかな?」

 「それは運だな。冬の気晴らしで良いんじゃないか? 上手く行けば野犬やギルドのオマケが付くしな」

 

 レイナスも、あまり期待はしていないみたいだな。互いにパイプを咥えながら夕食の出来上がるのを待つ。

 ファーちゃんがオタマで鍋をクルクルとかき混ぜてるのを、食器を重ねてファーちゃんが見ている。

 良い匂いがするから食事はもうすぐだな。


 俺達の後ろには数本の木が立っているから、それをロープで結んである。野犬に後ろから襲われる事は無さそうだ。

 

 料理ができたところで、三脚を外すと焚き火に焚き木を投げ込む。周囲が少し明るくなったが、これでは遠くまで俺には見えないな。だが、レイナス達には十分に周囲を見る事ができる。

 ひょんなことから一緒にパーティを組んで同じ番屋で暮らすようになったが、全く、ネコ族こそ生まれながらのハンターだと思うな。

 レイナスと俺、シグちゃんとファーちゃんが交替で焚き火の番をするから、安心して休む事ができる。

 

 手作りのハムサンドに肉の少ない野菜スープ。まあ、俺達の野宿の定番だな。

 そんな食事をしている時、レイナスの耳がピクリと動いた。


 「来たのか?」

 「ああ、だが、どうやらハンターだな。走ってくるぞ!」


 穏やかじゃないな。急いで食事を終えると、焚き火のポットに水を追加しておく。

 鍋を火から下ろすと、2つのカゴに槍を通して簡単な柵を作る。シグちゃん達はカゴの後ろにクロスボウを下ろしていた。

 俺とレイナスが広場を横に見るように坐る位置を変える。シグちゃん達は焚き火の奥に移動した。

 レイナスガヌンチャクを手元に引き寄せる。武器には見えないからな。やってくるのがハンターとは限らない。俺も、三節棍を膝の上においてパイプに火を点ける。


 「まだ見えないぞ?」

 「森の中をこっちに向かってる。もうそろそろリュウイにも見えるだろう。あっちの方向から来るぞ」


 レイナスの指差した方向をジッと見ていると、森の中に小さな光が動いているのが分かった。まだ、300m以上は離れているぞ。ネコ族の耳の良さはかなりなものだ。

 

 「レイナスの言う通りだ。こっちに向かってる」

 「相変わらず走ってるな。何かに追われてると見たほうが良さそうだぞ」


 確かに、【シャイン】で作った光球を2個使って前を照らしながら進んでいる。だが、追っているのは何なんだ?


 「ガトル?」

 「いや、ガトルなら彼らで何とかなるんじゃないか? たぶん罠専門のハンターだ。この先の広場なら青近くじゃないかと思うんだけど」


 俺達は白3つだからな。ガトルなら10頭程度は行けると思うけど、レイナスは違うと言ってる。

 だが、この辺りで俺達の敵となるのは野犬にガトルぐらいなものだぞ!


 レイナスが広場に出たハンター達に焚き火から燃えた焚き木を引き抜いて大きく振って彼らに合図している。

 彼らはその明かりを見て、こちらに進路を変えた。

 どうやら5人のパーティみたいだ。息も絶え絶えだがどうにか俺達のところに走り寄ってきた。

 シグちゃん達が彼らにお茶を渡すと、礼もそこそこにゴクゴクと喉を鳴らして飲んでいる。


 「すまねえ、一息付けたぞ。俺達を追っているのはバナビーだ。20匹ほどだが、俺達だけではやられるだけだ。お前達手伝ってくれ!」

 「白3つでだいじょうぶですか?」


 「奴等はすばやい。その上、針には毒がある」

 

 ローエルさんよりも遥かに年上だ。40歳近いんじゃないか。そんな男を筆頭に男女4人が小さく頷いている。


 「バナビーは蜂の一種です。野犬ぐらいの大きさで短剣のような針をお尻に持ってます」

 

 シグちゃんが教えてくれた。

 蜂か。なら、得物はこれで良いな。パイプをベルトに差して、膝の三節棍をm追って立ち上がる。


 「シグちゃん達は後ろでクロスボウだ。俺達に、早いところ【デルトン】を掛けてくれないか」

 「魔法がつかえるのか? それなら俺達の2人が【メル】を使える。後ろで嬢ちゃん達と援護してくれれば、焚き火の前で俺達は何とか戦える筈だ」


 そんな事を壮年の男が言っている間に、シグちゃんとファーちゃんが手分けして【デルトン】と【アクセル】を掛けてくれた。


 「来たぞ。だいぶ数が多いな」

 「俺達が中央を守る。左右を頼むぞ」


 レムナスが俺に頷くと右手に走る。俺は左手に回った。

 レムナスと俺が鎖で繋がれた棒を持っているだけなのを見て驚いている。


 「それで、叩くのか? 奴等はすばやいぞ!」

 「結構使える武器なんですよ。ガトル程度と考えていれば良いですか?」


 「ああ、ガトル並みで考えれば十分だ。来るぞ!」


 ブゥーンという羽音を立てて黒い塊が飛んできた。

 三節棍をすばやく振り回して、その塊に棍をぶつけると、ガツンという音を立てて足元に何かが落ちた。棍を振り回しながらチラリと見ると、確かに野犬ほどの大きさの蜂だ。お尻に太い針が伸び縮みしている。


 急に周囲が明るくなった。後ろの誰かが光球を作ってくれたようだ。

 それでも、飛んでいる蜂の姿をはっきりと見るのは難しい。【アクセル】を使った状態での動体視力は普段よりも上がる筈なんだが、未だに羽音を立てて飛んでくる黒い物体にしか見えないぞ。


 ガツン! 次々とバナビーを叩き落す。

 途中でガクンと落ちるのはシグちゃん達の放つボルトを受けたようだ。【メル】の炎弾が何度か放たれているのだが、それに当たるバナビーはいない。

 すばやさが特徴だったな。今までで一番すばやいんじゃないか?


 そんな中、「ぎゃぁぁ!」と叫び声をあげて俺の隣にいた男が崩れ落ちた。

 針に刺されたんだろうか?

 とりあえず、襲ったバナビーの胴体に棍を叩きつけた。


 そんな戦いは長くは続かない。突然襲ってくるバナビーがいなくなった。たぶん10分ほどだったんだろうけど、イヤに長く感じたぞ。

 

 「おい、だいじょうぶか!」

 

 倒れた男に仲間達が群がっている。

 チラリと男を見たが、腹を刺されていた。【サフロ】や傷薬で内臓の損傷まで治るのだろうか?

 助かるかどうかは……、たぶん、運次第なんだろうな。

 

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