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リュウイのハンター・ライフ  作者: paiちゃん
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P-056 イリスさんとの別れ


 海辺の村に戻って3日程のんびり過ごす。

 ガトル退治の報酬は高額だったし、緊急依頼の報酬が別に1人銀貨2枚ずつ出たのだ。冬を前にこの収入はありがたい。

 去年に懲りて、天幕を買い込んでいるから、今年の冬は暖かく暮らせるだろう。

 皆で渚を散歩しながら流木を集める。焚き木があれば安心できるからな。風呂おあるから結構焚き木を消費する事も確かなんだよな。


 さて明日は森に出掛けるかという事で、イリスさんがギルドに向かって依頼を受けてくる事になったのだが、ガリナムさんとローエルさんを連れて戻ってきた。

 どうやら、北の村の顛末が気になったようだ。


 ガリナムさん達を囲炉裏に坐らせると、木製のカップに葡萄酒を入れて振舞う。

 美味そうに飲んでいるのは、ちょっと贅沢して値段の高い物を買い込んだせいだろう。俺も1口飲んでみたが、さっぱりした味だ。

 

 「それにしても、ちゃんと依頼を完遂したのは恐れ入る。場合によっては俺達も参じるつもりで王都を発ったのだが、入れ違いになってしまったな。それに俺達は少し遅かったようだ。重ねて礼を言うぞ」

 「本来なら黒レベルの依頼だからな。ガドラー4頭は俺でも引いてしまう」


 「イリスよ。どうだ、もう少しここで暮らすか?」

 「狩りの仕方を教える筈が、逆に教えられる始末……。レベルは黒になったが、まだたりぬ」

 

 「それが分かれば十分だ。パンドラ王国は結構広い。辺境には沢山の集落がある。ギルドさえ無いような村もあるのだぞ。仲間を率いて辺境へ向かえ」

 「こいつ等はどうするんだ?」


 「十分にやっていけるだろう。この町のハンターになり町を良くするのも彼らの仕事に違いない」

 「もったいない話だな。リュウイ達なら十分に銀を狙えるんだが……」


 どうやら、イリスさんを引き取りに来たようだ。頼りになる姉さんだったんだけどな。

 俺達は黙って3人の会話に耳を傾けた。


 「しかし、誰も信じなかったぞ。ガドラーの首ごと長剣を斬り取るとはな。だが、確かに折られたのでなく斬られたことは長剣の切断面を見れば分かるのだが……」

 「魔法が使えない分、身体能力が高いのかも知れんな。フレイヤ様の加護もあるのだ。その上で【アクセル】を掛けて貰えば出来るという事なんだろう。この村で終らせるにはもったいないのは理解するが、ハンターは色々だ」


 ローエルさんがしみじみ話すのは俺のことだと思うが、あまり実感は無いんだよな。

 夢中で振り下ろした時に、ガツンと腕に伝わった感触は覚えているけど、イリスさんの長剣を切断したと知ったときは俺の方が驚いた。


 「という事で、これが代わりの長剣だ。王都で一番のドワーフが鍛えた業物だ。両断された長剣を渡したら、これを譲ってくれたぞ」


 ガリナムさんがバッグの魔法の袋から一振りの長剣を取り出すと、イリスさんに手渡している。

 直ぐに引き抜いたイリスさんは、その刀身をジッと眺めていた。

 両刃の長剣の刃渡りは約1m。前の長剣と違って蒼く見えるのはそれだけ錬成された長剣なんだろうな。


 「王都で仲間が待ってる。北西の国境近くにある村に向かってくれ」

 「親父の頼みではそうせざるおえんか……。だが、出発は3日先にしたい。仲間に伝えたい技を見よう見まねでも覚えたい」


 「それは?」

 「ヌンチャクだ。リュウイ、貸してくれ」


 部屋の角のカゴの中からヌンチャクを取り出してイリスさんに渡した。

 受けてると、それを両手で伸ばして見ていたが、ガリナムさんに手渡して話を続ける。


 「ガトル相手なら片手剣以上に役に立つ。大型獣では問題あるだろうが、群れを作る奴等なら十分に使える。レイナスがリュウイ並みに使えるところを見ると、ネコ族なら適正が高いという事だろう。ネリーに覚えさせたいんだ」

 「俺も、これの手作り品は見たことがある。これが完成品なのだな? 確かに片手剣を越えるものがある。ネリーなら十分使いこなせるだろう。そして、これは譲って貰うべきだろうな。かなり手が込んでいる。作るにしても数日で出来るとは思えん」


 「色々お世話になりましたし、俺達もだいぶレベルを上げることができました。それで良ければ持っていってください。実は別の武器を作ろうと考えていたんです」

 「別の武器だと?」


 ガリナムさん達が興味を持って俺を見つめる。

 そんな視線を笑顔で流して、お茶を飲んだ。

 

 「それは、2つの棒を鎖で繋いでいます。それに、もう1本を加えた物を作ろうと思っています。3節棍と言う名前なんですが……、フレイルと杖の機能を合わせ持っています。さすがに俺もそんな武器があるとだけ知っているだけですから教える事はできあせん」


 「ガリナム、聞いた事があるか?」

 「いや、だがフレイルという名は聞いた事がある。前にメイスの話はしたな。あれに似てるが、棒の先に鎖に繋がれた鉄球が付いてるのだ。打撃力は戦闘用の斧を凌ぐぞ」


 それ程なのかなぁ……。杖並みに扱えれば俺には十分な気がする。

 

 「ローエルも安心出来るな」

 「ようやく、一人前ってとこだな。それでもガドラーを狩れるハンターが増えたのは心強いことに変りはない」


 俺の肩を軽くたたく。

 期待されるのは嬉しいが、俺としてはのんびり過ごしたい事も確かなんだよな。


 「仲間には少し遅れると伝えておく」

 「王都のギルドで待つように伝えてくれ」


 イリスさんに頷くと、ガリナムさんはローエルさんと連れ立って番屋を出て行った。


 「返っちゃうにゃ?」

 「ああ、仲間がいるからな。それに、晩秋には山奥から大型獣が降りてくるのだ。海際には危険な獣はそれ程多くは無いが、山麓は色々とあるんだ」


 ファーちゃんに、言い聞かせてるけど、少しは分かるみたいだ。レイナス達も山麓の村を、回った事があるのだろう。


 「そんな分けだ。もうしばらく一緒に過ごしたかったが、3日後に出掛ける。世話になったな」

  

 俺達の顔を順番に見つめながら言葉をつなぐ。

 早い別れは、ちょっと悲しいけど、イリスさん達を待っている人がいる事が何となく嬉しく思えるし、そんなイリスさんと一緒に狩りをした俺達は、それなりに力を付ける事が出来た。

 少し背伸びをした依頼を持って来てたのは少しでも早く俺達のレベルを上げることを考えてくれてたんだろう。


 俺達は静かに夕食を食べる。

 ちょっとしんみりした気分を和らげるには、酒が一番ってことでレイナスが蜂蜜酒を食後に配る。

 パイプ片手に飲む酒は何時もと違って、少し苦味があるように思える。


 「イリスさんの仲間って、どんな人なんですか?」

 「私の仲間か……。私に、ネコ族の男の子、それに人間の男は槍を使う。最後の1人はエルフ族の女性で魔道師だ」


 典型的な4人パーティだな。たぶんネコ族の男の子は片手剣を使ってるのだろう。片手剣を自在に操れるなら基礎はできている。ヌンチャクがあれば縦横無尽に暴れられるわけだ。……そうだ! それなら、メイスを1本お土産に持たせてやろう。

 ヌンチャク1本では、ちょっと餞別には足りないよな。

                 ・

                 ・

                 ・


 次ぎの朝、俺がイリスさんにヌンチャクの型を教えている間に、シグちゃんが俺の考えをレイナス達に話している筈だ。

 1時間ほど過ぎたところで軽く休憩を取っていると、レイナス達が村の通りに向かって歩いて行く。

 俺に軽く頷いていたから、俺の考えに賛同してくれたようだ。


 海際の柵に背中を預けてパイプを楽しんだ後で、今度はイリスさんの型を確認する。

 やはり、剣を振るっていただけあって、動きに無駄がない。イリスさんが使っても自然に見えるな。


 「やはり、高レベルとなると、俺の動きをみただけでそこまで動けますか……」

 「そうでもないぞ。普段使わぬ筋肉を動かしているようだ。程ほどにしないと明日は筋肉痛になる」


 大柄なイリスさんがヌンチャクを振るうと、攻撃半径が俺の3割増しほどになる。

 ヌンチャクの風を切る音だって半端じゃない。長剣無しでもいけるんじゃないか?


 レイナス達が帰ってきたところで、昼食を取る。

 皆が番屋に入っていく中、レイナスと俺はパイプを片手に番屋脇にベンチに座った。


 「何とかなりそうか?」

 「ああ、明後日の夕方には出来ると言ってたぞ。リュウイの武器も一緒だ。だが、良く気がついたな。そして俺達に相談してくれてありがとう。やはり、世話になったしな。何か持たせねば俺達の気が済まなかった」


 「イリスさんでは無いところが、ちょっと問題だけど、魔道師がいるなら是非とも必要になるだろう。魔道師の攻撃が魔法以外にもあれば、イリスさんだって安心して戦える筈だしな」

 「そうだな。それを考えると俺達のパーティではリュウイがイリスさんの代わりになるのかな。中衛が1人足りないが、なぁ~に、ファーとシグちゃんが十分互いを守れるさ」


 なれるだろうか? さらに力を付けねばなるまい。いずれは、ローエルさん達のパーティと肩を並べるようにならなくてはイリスさんに申し訳ない。

 

 「さて、昼飯にしようぜ。午後も教えるんだろう?」

 「ああ、だが、3日ではな……。レイナスだって、ずっと練習してるんだろう?」


 そう言ってベンチから腰を上げる。


 「そうさ。あれは扱いが意外と難しい。果たしてイリスさんの所のネコ族の男が俺を越えられるか……。だが、俺は負けないぞ。俺の方が先にならってるんだからな!」


 レイナスって負けず嫌いなのか?

 意外なレイナスの性格の一部が見えたな。


 夜はシグちゃん達が沸かしてくれたお風呂に浸かる。

 イリスさんも喜んでたな。やはり風呂は疲れが取れる。


 そんな風に、3日が過ぎる。

 明日は、イリスさんの旅立ちだ。ささやかな宴が番屋で始まった。

 料理は、あの大鍋で作った海鮮鍋。酒は、ちょっと奮発して上等のワインだ。


 狩りの想い出を話し合いながら飲む酒は美味い。料理も酒に良く合うな。

 そんな中で、ファーちゃんがメイスをイリスさんに渡した。


 「これを、私に?」

 「私達との思いでにゃ。イリスさんにはあまり意味が無いかもしれないにゃ。でも、魔道師には十分にゃ」


 「そうだな。確かに必要はないだろう。だが、魔道師には十分過ぎる。自分の身を守れる魔道師は少ないんだ。ありがたく頂くぞ」


 次ぎの日、早朝にイリスさんは旅立っていった。

 シグちゃんがお弁当を2つ渡していたから、今日は焚き火を作ればお茶を作るだけで良いはずだ。王都には7日ほど掛かるそうだが、途中の町で泊まっていくのだろう。


 「お元気で!」

 「お前達もな。別れの挨拶はやめよう。また直ぐにでも会えるかもしれん」


 「そうですね。その時はただいまと言ってくれれば、いつでも歓迎しますよ」


 そんな話をしながら互いに握手をして分かれる。

 俺達は遠ざかるイリスさんの姿が見えなくなるまで村の門の外で見送った。

 


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