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リュウイのハンター・ライフ  作者: paiちゃん
51/128

P-051 ピグレム狩り

 翌日の晩に届けられ物は、串に刺した魚5匹と、小さな壷が2つだった。

 ファーちゃんが受け取って、魚は囲炉裏に差してあるけど、この壷が問題だな。


 「リュウイ、分かるか?」

 「さっぱりだ。何かの油みたいだけど、結構良い匂いなんだよな」


 俺達は、壷の1つの蓋を開けるとクンクンと中の匂いを嗅いでいるんだが、全く正体が判らなかった。

 今度はシグちゃん達が嗅いでいるぞ。


 「分からないか? それはジラフィンの油だ。その壷1つで銀貨2枚というところだろうな。王都に持っていけば銀貨5枚ぐらいになるものもある。その匂いが特徴なんだ。部屋の明かりに使うのだが、ほのかに香を焚いたような匂いが長く続く」


 イリスさんが俺達を見て笑いながら教えてくれたけど、そんなに高価なら貰うわけにはいかないんじゃないかな?


 「ジラフィンを確実に捉える方法を教えたようなものだ。1頭のジラフィンから200個分の油が取れるだろうから、その内の1個がリュウイ達の取分になるわけだな」

 「それは貰いすぎです。バリスタの報酬は頂いてます」


 「それはそれだな。200個取れれば100個は売りに出す。残り100個を昨日の仕事量に分けて分配すると聞いた事がある。サルマン殿はお前達を漁師仲間と同等に考えてるんだろう。それに、漁師達もその分配に異議を持っていないはずだ。ありがたく貰っておくんだな。……そうだ、出来れば1個売ってくれないか?母様に届けてやりたい。この油は母様のお気に入りなんだ」


 なら、ということで2個をイリスさんに進呈した。

 俺達はこの世界で1人だし、シグちゃんやレイナス達の母さんはすでにいない。イリスさんの母親へのプレゼントなら何となく親孝行している気分にもなれる気がするからね。レイナス達にも依存はないようだ。


 次ぎの日、ギルドを通してイリスさんが王都に2つの壷を送った。

 何となく俺達まで嬉しくなるのは何故だろうな。


 「さて、ちょっと色々あったが、明日はピグレムを狩るぞ。準備を始めないとな!」


 番屋に戻ったイリスさんの言葉に俺達は気を引き締める。

 と言っても、準備は殆ど終ってる。漁師さん達のジラフィン狩りを見ていて出掛けるのが遅れてるだけなんだよな。

 それでもシグちゃん達は、らい麦の粉で薄く焼いたパンを作っている。パンがあればスープを作るだけだから森の中では手間が掛からない。俺達だって、固いビスケットよりはありがたいしね。


 あくる朝早く、俺達は森に向かって歩いている。

 ピグレムの目撃例は3番広場付近に集中している。縄張りを作る獣らしいから、簡単に探せそうだ。


 1番広場を過ぎたところで朝食を取る。

 周囲には獣の気配はするけど襲ってくるような連中はいないようだ。

 野菜スープに薄いパンをクルクルと丸めて浸しながら食べると、結構美味しいぞ。シグちゃん達は千切ってスープと別々に食べているから、俺の食べ方は邪道なんだろうか? 途中からレイナスが俺の真似をして美味しそうに食べ始めたのを見て、ファーちゃんがきつい目で睨んでるからな。

 

 そんな食事が終ったところで、シグちゃんが入れてくれたお茶を飲みながら、狩りの作戦を皆に伝える。


 「ピグレムは1頭だから、俺達はイリスさんを頂点にして俺とレイナスがイリスさんの後ろで左右に並ぶ。その更に後ろがシグちゃん達だ。シグちゃん達は150D(45m)でクロスボウを使ってくれ、直ぐに次ぎの準備をすれば至近距離でもう1度ボルトが撃てる。俺とレイナスは50D(15m)でウーメラで投槍を放つ」


 「後は、私がとどめを刺そう。まだ元気であればピグレムの突撃をかわして次を待つ」

 「その時は、クロスボウにウーメラでもう1度攻撃する!」


 俺の言葉に全員が頷く。これで手順はだいじょうぶだな。

 シグちゃんが全員に【アクセル】を掛けてくれた。

 焚き火を消して森の奥へと進む。

 いつピグレムが飛び出してくるか分からないから、慎重に周囲を確認しながら歩いていく。

 

 1時間ほど歩いていると急に、イリスさんが歩みを止めて姿勢を低くする。俺達も素早く歩み寄って腰を落とした。


 「あれだ。見えるか?」


 イリスさんが指先で方向を教えてくれた。森の奥に白っぽい毛皮を持った獣が地面を掘り返している。

 

 「大きいぞ。200G(グル:400kg)近くありそうだ」

 「ここでやりますか?」

 

 俺の言葉にイリスさんが頷いた。

 周囲を見渡して太い立木を探す。意外と手頃なのが無いものだ。1番太いのでも40cmほどでしかない。折れることは無いだろうがかなりの衝撃を受けるだろうな。枝に乗っていたら確実に落ちてしまう。

 

 「あの木にしよう。シグちゃん達はハーネスを付けてくれ」

 

 イリスさんとレイナスが立木の枝にロープを引っ掛けてもらい、俺はシグちゃん達がハーネスを付ける手伝いをしてあげる。

 

 「変わったベルトですね。体全体がピチっとします」

 「普通にベルトにロープを通せば落ちても死にはしない。でも、かなりの衝撃がベルトに掛かるから痛い事になるんだ。だけど、ハーネスならば衝撃が分散されるからかなり楽になるはずだ」


 「落ちても戦えるってことにゃ?」

 「そうだよ。色んな場所で使えるから1度使って感触を掴んだ方がいいと思う。今回は丁度いい狩りになる」


 そんな2人をレイナス達の所に連れて行く。

 枝に通したロープをハーネスに結ぶと、3人でロープを引いて、シグちゃん達を枝の上まで持ち上げる。


 「枝に腰を降ろした状態でロープを張っていれば安心だ。どんなに枝が揺れても直ぐに枝に腰を下ろせる」

 「私はこの木の前で良いな。リュウイとレイナスは、あれとあれでいいだろう」

 

 カゴから投槍とウーメラを取り出してイリスさんの指定した立木に歩き出した。


 「準備は良いな! 誘き寄せるぞ!!」


 俺とレイナスは投槍を掲げて応える。シグちゃん達も枝の上で手を振っていた。

 イリスさんが俺達に向かってしっかりと頷くと、自分の投槍を持ってガサガサと音を立てながらピグレムの方向に近付いていく。


 立木の傍にもう1本の投槍を突き刺しているのだが、これを使うようではダメなんだと思う。やはり、最初の投槍で致命傷を与えたいものだ。


 「来るぞ!」


 イリスさんが所定の場所で槍を構える。

 ある意味、囮なんだけどだいじょうぶだよな?

 ウーメラに槍をセットして振りかぶって前方を見据えた。


 ヤブも茂みも関係なしに突っ込んでくるぞ。腕ぐらいの木が音を立てて折られていく。

 なるほど、突進力は凄いものだ。イネガルより上なんじゃないか?


 自動車ほどの巨体の全体が見えた時、その体に2本のボルトが突き刺さる。

 あまり血が出ないぞ。かなり脂肪が厚いのか?


 ウーメラを構えてレイナスと顔を見合わせて頷く、ジッと待って力一杯、左腕を振りきった。


 ドン! と分厚い肉に食込む投槍の音がした。

 背中に2本の投槍を突き刺したまま、ピグレムはイリスさんに向かって突撃する。


 イリスさんはピグレムの突進を紙一重でかわしたが攻撃は出来なかった。そのまま後ろの大木にぶつかる。


 「「キャー!」」

 

 枝からシグちゃん達が投出されたようだ。ハーネスを付けているから安心だ。俺とレイナスは次の投槍をウーメラにセットすると、走りこみながらピグザムに放つ。


 「ピギィー!!」


 俺達の投げた槍は首の下に食込んでいる。さっきと違って今度は血が溢れているぞ。

 だが、3本目の投槍はない。ウーメラを放り投げて背中の剣を抜いた。これで突き刺せば何とかなるだろう。


 こちらを睨みながら、頭を低くして突進体制を整えてる。俺達も剣を掴んで奴の突進を待つ。

 その時、奴の頭にボルトが2本角のように突き立った。

 奴の黒目が白目に変わる。

 

 「今だ!」


 イリスさんが突進してそのまま槍をピグレムに突き立てた。

 俺とレイナスが奴の頭に剣を叩き付ける。

 

 ドシン! 地響きを立ててピグレムが倒れる。


 「やったのか?」

 「ああ、どうにかだな。ピグレムの皮下脂肪はかなり厚いな。最初のウーメラで投げた槍があまり効いていなかった」


 通常槍だからな。前に使った穂先の長い槍を持ってくるんだった。

 

 「あのう……。下ろしてくれませんか!」

 「そうだった。直ぐ下ろしてあげるよ!」


 レイナスはイリスさんとピグレムの始末をしているようだ。俺1人だけど、下ろすだけだからな。慎重にロープを解いて2人を下ろしてあげた。

 

 「このハーネスって凄いですね。枝から振り落とされてもそのままの姿勢でクロスボウが撃てました」

 

 シグちゃんが嬉しそうに話してくれた。

 ハーネスで宙吊りになりながらクロスボウ撃ったんだからたいしたものだ。至近距離から放たれたボルトはピグレムの頭骨を貫通したんだろう。

 俺達が剣を叩き込まずとも、あの2本のボルトでピグレムは死んだと思うな。


 「リュウイ! 血抜きは私達でやる。ソリを作るのに適した木を切り取ってきてくれ!」

 

 イリスさんの指示に片手を上げて応える。獲物が大きいからな、丈夫なソリにしなければならない。

 

 蔦の束を肩に乗せながら、切り取った2本の幹を引き摺ってイリスさんの所に向かう。

 イリスさんとレイナスで素早く2本の幹を組み合わせてソリを作る。蔦でしっかりと獲物を縛れば、後は運ぶだけだ。


 「そろそろ血の匂いで野犬が集まってくるぞ!」

 

 イリスさんの言葉に俺達はソリに取り付いて引き始めた。

 頭と内臓を落としているから重さは200kgぐらいに減っただろうけど、結構重いな。

 ズルズルと大広場まで引いてきて遅い昼食を取る。

 30分ほどの間隔で短い休みを取りながら進んでいるから、村に着いたのは夕暮れが終ってからだった。

 肉屋にピグレムを卸して報酬を頂く。280Lはかなりの高値だ。5人分配だけど食費があるからな……。

 

 「成功報酬を受け取りながら次を探してくる」

 「じゃあ、先に戻ってますよ!」


 イリスさんはギルドに向かい、俺達は番屋へと急ぐ。

 番屋に入ると、ポットを受け取って裏の井戸に向かう。

 お茶ぐらいは飲みたいからな。直ぐ後ろからレイナスが鍋を持ってやってきた。

 今夜はあり合わせの保存食でスープを作るみたいだな。


 

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