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リュウイのハンター・ライフ  作者: paiちゃん
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P-049 高レベルハンターに必要なもの

 「どうやら、マゲリタと勘違いしていたらしいな」

 「だけど、全く違う獣ですよ」


 そんな話をしながら、村の西に広がる荒地に向かう。

 俺がモグラと勘違いしたモグロンドを小さくしたような地中で暮らす獣がいるらしい。イリスさんとレイナスの話を聞く限りでは、それがマゲリタというらしいな。


 だけど、あの絵を見る限りどう見てもモグラにしか俺には見えんぞ。

 モグラが進化したのかな? 祖先の習性で今でも暗がりと狭い場所を好むのかも知れない。

 改めてシグちゃんが図鑑でモグロンドとマゲリタを見せてくれたが、なるほど大きさが違っていた。それでもマゲリタだって子犬ぐらいの大きさがあるんだよな。


 「だが、藪の中のモグロンドの頭を射抜けるのか? 外れればもっと深く潜ってしまうし、体に当たるのであれば藪から追い出して仕留める方がたやすいぞ」

 「2、3回試してみましょう。ダメ元ですし、上手くいけば背中に傷のない毛皮が手に入ります」


 イリスさんは半信半疑だな。だけど、10m程の距離ならクロスボウの必中距離だぞ。シグちゃん達は日頃から練習してるからな。俺は上手く行くんじゃないかと思ってる。


 「あれから調べるか!」


 レイナスが茨の茂みを指差して俺を振り向いた。

 

 「おお、良いぞ。だが、どうやって調べるんだ?」

 「棒で突付けば分かるぞ。まあ、見てなよ」


 たぶんレイナスは何度かやった事があるんだろう。槍の穂先のケースを外れないように革紐でしっかり縛ると、藪を穂先で突付き始めた。

 直径3m程の茨の藪は棘のある小枝が絡みついて天然の防壁だな。

 こんな場所にいるのか?

 そんな事を考えながらレイナスを動きをみてると、突然茨が小刻みに揺れだした。


 「奥にいるぞ。さて、これからだな」

 

 茨の周囲を廻りながら茂みの奥を覗くと、黒い物がうずくまっている。どうやらあれがモグロンドらしい。


 「出来るか?」

 「シグちゃん達が無理だと判断したら、槍で藪から追い出しましょう。先ずは2人の腕前に期待しましょうよ」


 後ろから俺に重なるようにしてイリスさんが藪を覗きこんで聞いて来た。

 出来ればもう少し離れて欲しいぞ。年頃の娘さんだから、ドキドキしてしまった。

 藪から離れると、一服を始めたレイナスの傍に行って俺もパイプを手にする。

 

 「やる気だぞ!」


 顎で教えてくれた方を見るとシグちゃんとファーちゃんが相談しながら狙撃場所を決めているようだ。

 そんな2人を眺めながら俺達3人は焚き火を作ってお茶の準備をする。ダメ元だから、上手く行かなければお茶を飲んで一休みして藪から突付きだせばいい。


 坐って一服してると、シュタ!っと弦が鳴った。

 

 「リュウイさん。ファーちゃんが仕留めました!」


 シグちゃんの声に、俺達は思わず顔を見合わせた。直ぐに立ち上がって現場を見に行く。

 

 「ほう……、一撃だな。あれなら全く背中に傷はない筈だ。さて、どうやって曳きずり出すんだ?」


 茂みを覗き込んでいたイリスさんが俺達に振り返って呟いた。


 「これを使います。俺達の槍は短剣を先に付けてます。だから、ツバがあるのでそれに引っ掛けて引きずりだしますよ」


 そう言って、槍を使ってツバを獲物に引っ掛ける。少し削ってはいるが、引っ掛ける事は出来るし刃物ではないから毛皮を傷める事もない。レイナスと協力してどうにか曳きずり出す事ができた。

 出てくればこっちのものだ。イリスさんが素早く仰向けにすると喉に短剣を突き刺して腹を割っていく。

 後を任せて俺達はお茶の準備だ。そろそろお湯も沸いたころだろう。


 「さすがはファーちゃんだ。次ぎはシグちゃんの番だぞ!」

 「私も撃ちたかったんですが、茨の枝が邪魔をして狙いが付けられなかったんです。でも次ぎは頑張ります!」


 シグちゃんは嬉しそうだな。ファーちゃんもレイナスに頭を撫でられてるぞ。

 そんな所にイリスさんが帰ってきた。手には毛皮を持っている。その毛皮をレイナスが担いできた籠に入れると、焚火の傍に座り込む。


 「初めて背中に傷のないモグロンドの毛皮を見たぞ。どれだけ値が付くか楽しみだ。だが、あの狩りは誰にも出来る狩りでは無いな。お前達のように正確に矢を射る道具が無ければ無理だろうな」


 そんな話をしながらシグちゃんからお茶のカップを受け取っている。


 「確かに、弓では難しいでしょうね。でも出来なくは無いでしょう。ある程度弓に自信があるならやってみる価値はあると思います」

 「お前がよく口にする、『ダメ元』というやつか? 確かにやってみなければわからない。ダメで元々、怪我をするわけでもないという奴だな」


 俺に向かってニヤリと顔をほころばせる。

 最初は固い人だと思ってたけど、このごろは付き合い易くなってきた感じがするな。

 

 同じように狩りを続け、夕方には4枚の毛皮を手にする事が出来た。

 イリスさんと2人でギルドに届け、レイナス達は早々と番屋に帰る。風呂を沸かすと言っていたから楽しみではある。


 イリスさんが4枚の毛皮をカウンターに並べると、ミーメさんの目が丸くなった。

 かなり驚いているようだ。口も丸く開いている。


 「……どうしたんですか? いえ、どうやったら狩れるんですか? 全く背中に傷がありませんよ!」

 「まぁ、ちょっとした工夫だな。うちの嬢ちゃん達の弓の腕が名人級ってことが良く分かったよ」


 残念ながら報奨金ではなく、報酬未払いの印鑑を押された依頼書を渡された。

 王都のセリの結果が支払われるらしい。1割はギルドに入るらしいが、セリの手続きや運搬を考えるとギルドの取分が安く感じるな。


 そんな俺達を呼ぶ声がする。声の方向にいたのはローエルさん達のパーティだ。

 イリスさんとローエルさんのテーブルに行くと近くのテーブルからイスを持ってきてテーブルの片隅に坐った。


 「どうやらおもしろい狩りをしてきたらしいな」

 「モグロンドだ。こいつ等には丁度良い狩りだと思っていたんだが……。結果は予想外だった」


 「モグロンドは中級に片足を入れたぐらいには丁度良い。あの狩りは誰もがけいけんするものだ。如何に毛皮の傷を小さくするか。それを工夫する狩りでもある。それは、他の獣にも応用が利くからな」


 テーブルにレビトさんがお茶を運んできた。俺達の前にもカップを置いてくれる。

 ありがたく頭を下げてカップのお茶を飲むと、俺達を見て微笑んでいる。他の人達もそうだ。

 どうやら俺達が中級に足を踏み込んだと見てくれているようだ。


 「だが、リュウイ達の狩りは私の予想を超えていた。全く背中に傷の無いモグロンドの毛皮が4枚だ。いったい王都でどんな値が付くか想像も出来ん……」

 「何だと!」


 1人がカウンターに走って俺達の納めた毛皮を見に行った。

 ローエルさん達のパーティの人達が全員俺を見つめている。だけど、直ぐに思いつくと思うんだけどなぁ。


 「本当だ。腹以外に傷がねえ。その腹だって毛皮を取る為に裂いた傷だ。その外に全く傷がねえんだ!」


 怒鳴る様に話す男を片手でなだめるようにポンポンとちいさく叩いて、放心状態の男を席に着かせる。


 「俺も今まで、そんな毛皮は見たことがない。今回はどうやったんだ?」

 「実は……」


 俺達のクロスボウの命中率の高さを考慮して、藪の外から頭を狙撃。その後に槍のツバをで引っ掛けて引きずり出す……。簡単に話せばこうなるな。


 「あのカラクリ仕掛けの弓だな。それ程狙ったところに命中するのか……」

 「でも、弓に自信があるならダメ元で狙ってみるのも手だと思います。ダメなら、突付き出せば良いわけですし」


 そう言うと俺の顔を見て微笑む。「全くだな」小さく呟いたのを確かに聞いたぞ。

 

 「親父にも知らせておこうと思ってる。直ぐに王都で評判が沸くだろうから親父も真相を知りたいだろう」

 「確かにそうだな。だが、そうなってくるとリュウイ達に変わった獣を狩らせたくなるな。次はどんな方法を思いつくか楽しみだ。この前のリゴノス狩りの話はサルマン殿から聞いたのだが、おもしろい方法ではあるな。だがリゴノスを安全に狩るには良い方法だと俺達で話していたのだ。網なら貸してやるとも言ってたからな。今度狩る時は俺達もその方法を使うつもりだ」


 「だが、少しもハンターらしくないぞ。依頼を受けて剣に任せるハンターではない事は確かだ。いつも皆で相談から始まるからな」


 そんな事を言いながら少し温くなったお茶を飲み始める。俺はパイプにタバコを詰めて火を点けた。


 「そんなハンターが多い事は確かだ。だがな、イリス。俺はリュウイのやり方が本来のハンターだと思う。初めて狩る獣はどんな攻撃をしてくるか予想も付かない。皆で話し合えば、その攻撃だってある程度は考えが付くだろう。誰も分からなければ誰かに聞けば良い。図鑑で調べると言う手もある。それから、一番簡単で確実に狩れる方法を考える事が大切だ。そうすればパーティに怪我人も減るだろうし、出さぬ工夫もできる」


 「それは私も近頃考え始めたことだ。王都ではそんな事が無かったが、リュウイ達と狩りをするとな……、いかに準備が大事か思い知らされる」


 そんなイリスさんの言葉をレビトさんが笑顔で聞いている。ひょっとして、俺達にイリスさんを預けたのはそんな意図があったのか?


 「それが親父殿がこの村にイリスを越させた理由だ。あのままでは黒の中位で頭打ち、場合によっては大怪我では済まないだろうと心配していたぞ。だが、それが分かれば直ぐにでも王都に帰れるぞ」

 

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